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RPGの世界が実在していました。  作者: 寿ヒカル
第一章「ゲームをすると時間が経つのが早いよな」
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第一章・4

 あれからどれだけ走ったのだろう。

 肺はすでに悲鳴を上げ、息を吸う吐くするだけで『ゼヒュー』という壊れかけのロボットのような音がするくらいにボロボロだった。

「ハァ……ハァ……あー疲れた……。でも、ここまで来たら追っかけてこないよな……?」

 今、オレがいる場所は先ほど美聖と訪れたファミレスの近く。ファミレスから二〇〇メートルくらいか。

 ここら辺からはもう不良都市地域から抜け出しており、不良達がそう表立って探すことはできない。夜中という事もあり、人通りこそほとんどないが近くには交番もある。他にも四車線の車道や口の字の横断歩道が存在しているため、不良たちにとって行動の自由は意外と利かないのだ。よって追いかけられる心配は目に見えて減っていたりする。

 しかし。

「にしても、途中から全然追いかけてこなくなったな……」

 確かに途中までは暑苦しい野太い声が大勢追いかけてきてたはずなのだが、三〇分ほどしたとき、突如としてピタリと声が止んだのだ。本来ならまだ追いかけられていてもおかしくはないのだが……。

「やーっと見つけた!」

 突然、聞こえてくる女性の声。

 と同時に足が払われ、バランスを崩したところを押し倒され、誰かがオレの背中に馬乗りになる。

「い、いきなり何だ!?」

 自分に起きている状況が掴めない。とりあえず乗っているのは誰か確かめようと無理矢理上半身を捻ると、かろうじて視界の端に人影が映る。しかし辺りが暗くて誰なのかは分からないまま。

 するとオレの心を読んだかのように、雲に隠れていた月が出現し、その光が馬乗りになっている人物の姿を少しずつ照らしだす。

「さっきはどうも、村人さん?」

 聞き覚えのある女性の声。同時に照らし出されたキラキラと煌めく青い髪。

「あ、アンタさっきの……」

 いきなりオレを押し倒したのは、先ほど不良に絡まれていたあの蒼髪の女性だったのだ。

「逃げ足だけは素早いのね、アンタ」

 褒められてるのか、貶されてるのか。……個人的に貶されている方に一票。

 と、どうでもいいことを考えていると、あろうことか彼女はオレの背中の上で足を組んで言葉を続ける。

「それにしても余計な事をしてくれたわね。せっかくあの男達から色々この 土地の事とか教えてもらおうと思ってたのに、見失ったじゃない!」

「いやいや、あんな一触即発の空気で話し合いなんかできるわけないだろうが! 首脳会議なら一言で戦争起きるレベルだぞ!」

「シュノウカイギ? 良く分からないけど、アイツらをボコボコにした上で話し合うのよ! 何もあの空気で話し合いをしようとはさすがに思ってないもの」

「それを世間一般では『恐喝』と呼ぶ」

 最近の女性ってこんなにも好戦的なの? それともこの人が特殊なの? あまり家族以外の女の人と話したことがないから分からないですハイ。ってかあの人数の不良、一人で倒せちゃうんだ。……この人本当に女性か怪しくなってきたな。

「勇者の私が『恐喝』なんてことする訳ないじゃない。ペガサスに会ったこともあるくらい清らかなのよ?」

「勇者? ペガサス?」

 何を言ってらっしゃるのかさっぱり理解できないんですけど。あ、あれか不思議ちゃん系的な事か。○○星からやってきたお姫様、みたいな。……そのキャラは今の芸能界じゃ生き残れない気がする。

「てか、そろそろオレの上から退いてくれませんかね?」

「嫌よ。今度はアンタから情報を聞き出すんだから」

 この人、言外に『今から暴力振るいますよー』って宣言したんですけど。

どうやら美少女に出会うという、オレが憧れていたラノベ主人公から、新聞に載りそうな暴行事件の被害者にクラスチェンジさせられるらしいです。……こんなマイナス要素しかないクラスチェンジ聞いたことねーよ。

「じゃあ、今から情報を絞り出すわね」

「絞り出すの使い方間違ってるんだけど! でもこの場合正解――」

 殺される! 走馬灯が脳内を駆け巡ろうとした時、救いの神がそっとオレに微笑んだ。

「……兄貴?」

 天使を思わせるような声に振り向くと、そこにはへそが見える短さの白トップスに、脚のラインをクッキリと見せる紺のジーパンを穿いたポニーテールの美少女の姿があったのだ。

「み、美聖?」

 あの可愛さは間違いない、神聖なる我が妹だ。でも美聖はファミレスにいるように言ったはず。何故、ここにいるのだろうか?

 だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。命の危機がそこまで迫っているのだ。ここは美聖に警察を呼んできてもらうしか――

「……あ、兄貴が女の人に襲われてる……」

「そうなんだ! だから警察を――」

「お金はいくら払ったの!?」

 ……へ?

「み、美聖、お前は何を言って――」

「友達が言ってたよ! 世の中にはお金を払ったら、そういうサービスをしてくれる女の人がいるって!」

「美聖、その友達呼んで来い! 五時間ほど説教してやる!」

 純真無垢な美聖になんてことを教えるんだ! アイツ、オレ以外には大人っぽいところを見せようとしてるけど、本当は何も理解してないんだぞ! そっち方面の知識なんて皆無なんだからな! てか、その友達の性別次第では説教の中身を変えなくちゃならないんだが!

 そんなオレの心の葛藤など露知らず、美聖はズカズカとこちらへ向かってくると、オレに跨っている女性の腕を掴み、引き離そうとする。

 しかし不良に囲まれている時にオレも試したから知っているが、この人は岩のようにその場から動かない。そのためオレより力のない美聖がいくら引っ張っても動くはずはないのだ。……と、思っていたのだが。

「か、可愛い……!」

 呟きが聞こえたかと思うと、スッとオレの体が軽くなり、圧迫感が途端に無くなった。

 何故か分からず、上半身を捻って振り向いてみると、立ち上がった青髪の女性が自分の腕を掴む美聖をキラキラした瞳で見つめているのだ。

 自分が見られている事に気付いた美聖は思わず顔を背ける。心なしか、少し頬が赤く染まっている気がするが、気のせいだろう。そんな百合空間、オレが認めない。

「……あ、ごめんね。別に怖がらせるつもりはなかったのよ」

 美聖の態度を怖がっていると判断したのか、謝る女性。

「オレの時と全然態度が違うんですが」

「…………(ギロッ)」

 オレも思わず顔を背ける。頬どころか顔を真っ青にして。

 視線だけで殺意の証明をする人って実在するんですね。今日初めて知りました。てか、初対面の人になんでこんなに嫌われてんのオレ。

「だ、大丈夫ですよ! 怖がってたわけじゃありませんからっ! ただ綺麗な人だなーって見惚れちゃっただけで」

「綺麗な人だなんて……貴女に比べれば私なんてまだまだよ。えーと、名前は何て言うのかしら?」

「村雨美聖です。中学三年生です」

「美聖、か。私の名前はラタ。一応勇者をやらせてもらってるわ」

「……ゆ、勇者?」

 ラタ、と名乗る女性の言葉に困惑する美聖。さっき、勇者とかペガサスとか言ってたのは聞き間違えじゃなかったのか。……そういう設定の中二病なのかも知れん。

「勇者って、あのゲームとかに出てくる人の事ですか?」

「その『げーむ』ってものは知らないんだけど、古文書辺りには出てくるかしら。聖剣を携え、打倒魔王を掲げる者の事よ。今はその聖剣を持ってないんだけれど」

 さっぱり分からない。どこかの変人物理学者の言葉が思わず出てしまう程、ラタの語る言葉の意味が理解できなかった。中二病もここまで来ると、ラノベの一つや二つは書けそうと思うのはなぜだろう。かくゆうオレも昔は中二病だったが、今は完全に脱している。思い当たる証拠もすべて抹殺済み。

「とりあえず話の続きはどこか違う場所でやらねぇか? ここじゃ落ち着いて話もごめんなさい」

 喋ってる途中で『私たちの空間を邪魔しないでくれる?』という殺気を受信。思わず謝罪の言葉を述べるほど、オレの頭は緊急事態だと判断したようだ。

「は、話の続きはどこかのお店でしませんか? あ、すぐ近くにファミレスがあるんですよ。そこに行きません?」

「ふぁみれす? どんな店か分からないけど、美聖が言うなら信用できそうね。早速そこへ向かいましょ!」

 ……人は話の輪からはじき出されると、ここまで傷つくんだな。また一歩、大人の階段を上ったオレは、楽しげに歩く二人から数歩引いた場所をトボトボと歩く。

 ……しかし、同じ内容の言葉でここまで態度が変わるのは何故なんだろうか。

 その疑問を解決する答えをオレはまだ知らない。

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