第一章・2
予定外の出費って怖いよね。あれ、どんな恐怖映像を見るよりも背筋がゾッとするよね。財布から予想以上に数字が減っていくあの現象、どうにかできないものですか総理。
ファミレスに入ったオレ達は各々好きなメニューを頼んで食べることにしたのだが。
オレはなるべく安くと、ワンコインで食えるお得日替わりメニューセットを。そして美聖は少し高級なステーキセットを注文。
まぁ、オレの頼んだメニューよりは割高だが、こちらのミスで飯を食いそびれたんだからそれはしょうがないと全然許容範囲。しかし、問題は二人が注文したメニューを食べ終えた後だった。
「んー、じゃあラーメンを一つと……フルーツパフェ二つ!」
「かしこまりました」
店員、かしこまらないで。妹よ、財布の中身も考えろ。
そんなオレの心中など知らずに愚妹はそのあともチキンの炙り焼きセット、ミートスパゲッティ、コンソメスープと頼んでいき、他にも色々注文した後、トドメに特大チョコレートパフェを召し上がったところでその勢いを止めた。
美聖の胃袋にも驚愕だが、それを上回るはレジに表示された数字の桁。ファミレス二人で五桁は滅多に見ない。てか見たくない。
「お前食いすぎだろ……オレの財布が……」
「だいじょーぶ! 私の胃袋はまだ行ける!」
「オレの財産を道連れにすんのはやめてくんない?」
何を言っても聞いてくれないだろうけど。
諦めの気持ちを心で呟きながら、オレは店員に金を支払い外へ出た。
見上げると、入る前は夕闇だった空はすっかり闇に包まれ、星が万遍なく散らばる。久しぶりに見た綺麗な夜空だ。……景気づけに何か良いこと起こしてくれないかね、神様。
隣に立つ美聖も空を見上げ、その綺麗な光景に目を奪われているようだった。
「腹も一杯になったし、そろそろ帰ろうぜ。お前のお腹も満足そうにしてるしな」
へそ出しファッションのせいで見えている美聖のお腹に視線を向けてそう言うと、美聖は顔を真っ赤に染め、お腹を隠すように抱えて、
「み、見ないでっ! 今の私のお腹を!!」
なんで怒ってんの? 別に気にすることなんて――ってああ。なんだかんだで食べまくった事を気にしてるのか。じゃああれだけ食べなきゃいいのに。
「分かった分かった。じゃあ美聖、帰る――」
言いかけた瞬間。オレの視線はある一点へと釘付けになった。言葉の途中で切ったためか、美聖が訝しげな顔をしながらこちらの顔を覗き込む。
しかし、そんなことも気にならないくらいに、オレの興味は車道を挟んだ向こう側のとある団体へと向いていた。
金髪のオールバック、暗くても赤く光るタバコの火。着ている白ジャケットの背中部分にはいかにもな感じに虎と竜が描かれ、上と同じ色のズボンの裾はダルダル。ポケットに手を突っ込みながら肩で風を切る姿はまさに絵に描いた不良。
そんな似たり寄ったりした格好の不良が総勢二〇人ほどの塊でゾロゾロと道を歩いていたのだ。どこかでレッツパーリィーしてきたんですか? とか聞きたくなるけど、怖いから聞かない。
すると一人の男の携帯が鳴ったようで、そいつはポケットから携帯を取出し電話に出る。
何を喋っているのかは分からないが、なんだかイライラしているようだ。何か問題でも起きたのか。
「兄貴ー? 不良ばっかり見てどうしたの? お気に入りでも見つかった?」
お気に入りとはどういう意味か是非ともお聞かせいただきたい。
「いや、何でもない。帰るか」
そう言って、注意を帰路へと向けようとした時、ある怒声がオレの耳を貫いた。
『ハァ!? 女ァ!?』
車の走行音にも勝る声で不良の一人が電話に向かってそう怒鳴っていた。隣でも美聖がビクッ、と体を震わせる。
後の会話はまた車の音に消されてしまったが、不良たちの様子が明らかに変化。慌てた様子で電話を切った後、またどこかへと電話し、数秒の会話の後にどこかへ群れで走っていく。
完全に誰かからの『ボコボコにされたから助けてーコール』だったよなアレ。
状況と少しの会話から察するに、電話相手の不良が劣勢で、しかも相手は女。女に負けているのが癇に障り、あの不良たちはその喧嘩が繰り広げられている場所へと向かった……そんなところだろう。
……それって結構ヤバくない?
「あ、兄貴? もしかしてまた悪い癖が――」
「美聖、後二〇〇〇円やる。ファミレスで好きなの食ってこいっ!」
「ちょ、兄貴!?」
額に汗浮かべる美聖の手に野口さんを二枚握らせ、オレは走り去る不良の後を車道越しに追いかけるのだった。