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挑戦日記。  作者: min
6/6

6. 裏切りと思い出。


「なんでっ!」

ぐちゃぐちゃになった顔を見せる彼女は僕にしがみついて

絶対にはなさないという感じだった。

「それは、美海が一番知ってるし、わかってるはずだよね。」

彼女。つまり美海はヒックヒックと泣くのを我慢しながら

上目遣いで僕を見た。二人ともたっていて、しかも僕の方が身長が高いのだから

それは当たり前なのだろう。

「ねぇ、透夜。ごめん。ほんとに、ごめん。だから・・・」

その先を言わせてしまうと自分が保てなくて

美海を抱き寄せてしまいそうだった。

「ダメだ。もう別れよう。僕こそごめん。許していつもどおりになれたらいいんだけれど、

僕にはそんな自信がない。許せないんだよ。」

また、美海は頬に涙を滑らせる。

「なんで、じゃないね。ごめんね。ごめんね。

こんなに分からずやで、バカな私でごめんね。」

美海は、そのまま自分のカバンを手に取り、僕の部屋から出て行こうとした。

「美海。」

ただ立ち止まり、振り向かず。声も出さず。ただ、止まった。

「美海。ありがとう。」

「・・・・・・うん。私こそ、ありがと。透夜。さようなら。」

「・・・・・・」

それ以上、お互いに何も言わず

そして、美海はドアを開けて静かに帰った。

「・・・ふぅ~。」

ごめん。そう言った美海の顔。まっすぐに僕を見て、涙をぬぐいもせず。

頬は赤い。

何も言わずに、ありがとう といった時の美海の顔は?

いっぱい、いっぱい涙を流していたのだろうか。

それとももう涙は止まっていて、笑ってただろうか。

「もう、終わりだ。考えても意味がない。」

彼女は僕の自慢だった。可愛くて、明るくて、

僕だけに見せてくれる笑顔や、不安や、泣き顔。

そんなコロコロ変わる特別な表情すべてが僕のものだと思っていた。

でも、彼女は僕を裏切った。

本の数週間前から気になっていた。

彼女の行動や、僕に見せてくれる笑顔に。

彼女の行動は、少しそっけなくよくメールをしていて、

休みの日も一緒に入れない日ばかりだった。

「仕事だよ。バイト始めたの。」

僕の家。静かにその声が聞こえた。

「バイト?」

「うん。ちょったお金を貯めようと思って、自分のためにも。」

「そうなんだ・・・。」

「うん、だからちょっと土日は最近バイトしてたの。

「ごめんね。黙ってて」

「うん。いいよ。今日はどうする?」

「今日は一緒に家にいたいな。」

「・・・うん。」

「でも、今日もバイトだったの忘れてたっ!」

「何時くらいから?」

「えっと・・・午後からで・・・七時くらいから。」

「僕、迎えに行くし今日は送ってくよ。一緒に行こう。」

そういった時の彼女は少し嫌な顔をしていた。

「美海。」

「えっ、あぁ・・・ありがと。でもいいよ。迷惑かけちゃうし。」

「そんなことない!僕は行きたいんだよ。一緒にいたい。」

「うん。でもごめん。」

その日は諦めて、また今度またアタックすることにした。


はじめは本当にバイトだと思っていた。

でも、何度聞いてもどこで、何をしていて、楽しいとかそんなことさえも

教えてくれなかった。


そして三日前。

彼女はほかの男と歩いていた。

俺には気づいていなかったが、美海はその男と一緒に笑ってた。

そして今日。美海に、その事を聞いた。

「なぁ、美海。一昨日誰といた。」

美海の顔が少し青ざめる。

「バイト・・・してたよ。」

「もっと細かく聞くけど。一昨日の8時頃、男といなかった?」

「・・・・・・・」

彼女は涙をポツポツと流し始めていた。

「美海。」

少しきつめだったかもしれない。でも、その時は冷静にはなれなかった。

「別れよう。美海」


そして今である。

静かになった部屋を見回し

彼女との思い出が嫌というほど溢れてきた。

「うぅっ・・・」

気がつくと涙が流れていた。

美海。美海。

大好きだったよ。美海。




そんな話は、今となっては過去である。

それから8年。26歳のになっていた。

長かったようで短かった時間。

今、僕は図書館で働いている。

あの出来事以来、彼女もできず、あの部屋には男友達以外は誰も来ていなかった。

もう、美海との思い出は、遠い過去となって

思い出しても涙なんて出ない。


いつものように、読み聞かせのために絵本を持って子供達の前に出た。

いつもは子供しか聴いていなかったり、保護者の方が少し聞いていたりなのだが、

今日は違った。

ぼんやりとこちらを見ながら、じっと立っている女性。

あまり図書館には来ていない人だと思った。

大体のよく来てくれる人は顔を少しでも知っている。

5回も一週間で来る人ならなおさらである。

その女性はまた読み聞かせの時に来た。

『話してみたい。何かきっかけは・・・』

あるじゃないかっ!幸いその女性は今日も来ていた。

そしてまた、ぼんやりとこちらを眺めていた。

『読み聞かせのことを聞いてみようか。』

読み聞かせが終わってから、その女性を追いかけた。

『まだいてくれ・・・帰ってないよな・・・』

そう考えながら、歩く と 走る の間くらいで図書室の中を

見回しながら歩いた。

『いたっ!』

その女性は本を見ながら歩いていた。

「あのっ!すみません。」

勇気を出して一言を発すると、思ったよりも続きが出てきて

いつの間にか名前を聞いていて約束をしていた。

名前は羽前美代というらしい。

僕は‘美代さん’と呼ぶことにした。


あとからいろんなことを考えた。

中でも一番考えたのはまた、裏切られないかということ。

もうすでに自覚はしていた。

美代さんが好きであること。多分それは一目惚れだっただろうことも。

心の奥から、溢れ出しそうな思いがあった。

夜になると、ギュッと抱き寄せたくなって。

ご飯の時のひとりの時間がなぜか無性に寂しかった。

「一緒にいたい。」

そう感じているのだと自分で実感していた。

告白をしたい。でも、美代さんは・・・

とりあえず、少しずつ美代さんに近づいていこう。

そう思った。


 





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