2. 図書館
引き寄せられるように図書館の中へ入っていった私は、
手芸雑誌・本の置いてあるところで立ち止まった。
『手芸~羊毛フェルト~』
可愛く羊毛フェルトで作られた動物たち。
となりの本も。またとなりの本も。
専用の針で、チクチクとさしていって少しずつ形を作りながら
表紙のようなかわいい動物たちを作るようだった。
「かわいい・・・」
これは“一目惚れ”というものだろう。
手芸の経験はあるような。ないような。
普段のボタンぬいくらいならできる。
本を手に取る。
「できる・・・かな。」
なかなか簡単そうに見えて大変そうなものだった。
そして・・・・高い。
「いいお値段。」
一番気になった本を手に持ち、歩く。
図書室の中は思ったよりも広く、子供たちも多かった。
それだけ大人もいるのである。
「あれ?」
子供達が1ヶ所に集まっていく。
「みんな~絵本読むよ~」
「はーい!」
気がつくとそこにはもう20人近くの子供たちが集まっていた。
ざわざわ。ざわざわ。
「今日のお話は・・・」
そう言い始めた男の人は、その一言で子供たちを静かにしてしまった。
子供たちの顔は真剣だった。
視線は本のなか。物語に吸い込まれるかのように。
いつの間にか私までもが見入ってしまっていた。
“男の人が読み聞かせをしている。”
それが私にとっては新鮮だったのかもしれない。
「おわり。」
そう言い終えたとき、私は我に返った。
あとから読み聞かせの絵本の内容を思い出そうとしてもダメだった。
ただ出てくるのは、あの男の人。
あの人の声。顔。
ただ、名前がわからない。
「なんで、なんで。」
わからなかった。なんで、さっき聞いたばかりの絵本の名前も
内容でさえも、わからなかった。
子供たちがそれぞれにちっていく。
男の人は立ち上がり、職員の部屋に戻っていく。
「・・・やさしそうなひと。」
自分のつぶやいたその一言に自身が驚く。
また歩き回る。
頭の中にはあの男の人のことが気になって、
ただ、歩いていただけだった。
「本借りてこよ。」
カウンターまで行き本を借りる。
そして外へ出たとき。
私の気分は、入る時とは違ってモヤモヤとしていた。
次は、手芸屋さんに行った。
もちろん。『羊毛フェルト』に関してである。
針・マット・羊毛フェルト・・・ふむふむ。
「これで全部かな。」
一応、店員さんにも聞いた。
「そうですね。針。マット・・・あ。」
いきなり思い出したようで、店員さんが言葉を止めた。
「そういえば、たしかここら辺に・・・」
店員さんから見せられたのは、初心者用のキットだった。
「これと、羊毛を買っていただくだけで出来ます!」
計算をしてみると、キットで買ったほうが安かった。
「じゃあこれと、この羊毛を。」
「はい。ありがとうございます~」
新しく何かを買うというのは
気分がいいはずななのに、今日は違った。
「よしっ!切り替え切り替え!さて、家に買ったらまず
これを開けて、球を作ってみようかな。」
家に帰るとすぐに袋を開けた。
「本、本。」
図書館で借りた本を持ってくる。
まずは、芯を作って・・・
チクチク。チクチク。チクチク。
何度も何度も、丸めながら球の形にしていく。
途中から音が変わっていた
ザクザク。ザクザク。ザクザク。
硬さも、強くなって来た。
よし。
できたのは少し歪んだ球。
「難しい~。もう一個作ってから、何か作ってみよ!」
もう一つ、球を作る。
うん。なんとなく大丈夫。
本の中からまだ作りやすそうなものを選びだしてつくってみた。
少しずつ、少しずつ。
形を作っていく。
まずは、小鳥。
チクチク。ザクザク。
チクチク。ザクザク。
少しの時間でも、チクチクしていた。
「よし。完成!!やった~」
小鳥に、見えることに感動しながら
その小鳥をストラップにして、ケータイにつけてみた。
「 可愛すぎる。」
手作りのストラップは、達成感がとてもあり。
でも、集中力を使い切ったみたいで
当分のあいだはやらないだろうとおもって、
収納に入れてしまった。
この収納。
友人が付けてくれた名前は、
『封印行きの収納。』
名前から察してくれるだろうか。
皆様も経験したことがあるだろう。
例えば、何かゲームを買ったとする。
はじめは、いっぱいやる。
しかし、いつからか収納の中や引き出しの中に収められる。
そして、その収納や引き出しを整頓しようとした時に
思い出すのだ。「あぁ、こんなのもあったなぁ~」
そしてまたやってしまう。
そして、また収納の中へ。
そんな話に友人となった時に、付けてくれたのだ。
ということで、羊毛フェルトのキットを見るのは
最低でも、3ヶ月はあとになると私は思った。
「今日は、図書館に本返さなきゃ。」
図書館へ行く足取りは軽い。
「今日は、読み聞かせやっているのかな。」
そんなことを、自らつぶやいていた。
その日も、読み聞かせをやっていた。
そしてまた私は、立ち止まっていた。
その日もまた。また。また!
全然内容が頭になかった。
なんで!
{皆様はここで、
「それは、おまえがその男の人のことが好きだからさ!」
と、突っ込みたくなるだろう。
ただ、この25の女。恋愛経験がないのである。}
私は、本を返却したあと少しの間ブラブラと本を見回っていた。
「あのっ!すみません。」
呼ばれて振り返るとそこには、さっきまで読み聞かせをしていた
あの、男の人。
「読み聞かせ。前も聞いていただいていたな、と思って・・・
僕の、読み聞かせ。どうでしたか?」
いきなりで驚いた。
頭の中は、ぐるぐると回る。
「すごく・・・すごく良かったです!」
私が見入ってしまったくらいに。
そんなことは、ちょっとはずかしかったのでいわなかった。
「ありがとうございます!あの、明日も読み聞かせをやるんですけれど
来てもらえませんか?それで・・・できれば、感想も聞かせてもらえると嬉しいです。」
「感想なんて、そんな具体的なこと言えませんよ!
よかった!とか、すごいとかそんなことしか・・・・」
「それでもいいんです!」
あ、すみません。
男の人は、少し深呼吸をしてから、
「お願いします。」
といった。
「あ・・・・はい。私でよろしければ。」
男の人の顔が笑顔になる。
「あ、名前。僕は、仁崎透夜っていいます。」
「私は、羽前美代っていいます。」
「美代さんって呼んでもいいですか?」
「あ、はい。」
ちょっと硬い会話。
でも、私にとっては最近の中でも一番気分が良かった。
「では、まだ仕事中なんで、このへんで。
呼び止めてしまってすみませんでした。」
「いえ、大丈夫です。」
「では、またあした。」
「はい。」
仁崎透夜さんが立ち去っていく。
その後ろ姿をじっと見ながら、私は自分が少し残念がっていることに
なんとなく。ほんとになんとなく気づいていた。
少し恋愛方向へ行っているおはなし。
もしかしたら、このまんま恋愛方向へ!?
頑張って、飽き性な25の羽前美代を
描いていこうと思います。
今回の、挑戦。羊毛フェルト。なかなか大変なものです。
でも、達成感はある!
ただ、指にだけは気を付けないと・・・刺さってしまうので、
ご注意!