不法投棄
わたしがキャンプ場に別れを告げる少し前のことである。
「後片付けも終わったし、後はゆっくり過ごすか。」
...ボチャン。
湖に向けて投げ込んだそれは、あっさりと暗い水底に沈んでいった。こういう時に一抹の寂しさを覚えるのは、大人も子供も変わらない。わたしは気を取り直し、次は少し平たい石を投げてみる。先ほどと違って、軽快に水面をはねていくそれは、中ほどまで進み、ゆっくりと沈んでいった。路肩に止めた軽トラに戻って煙草を吹かす。
どうやらストレスは感じていたらしい。疲れ切った脳みそと肺に煙と快楽を送り込む。
「この箱どうしよう。」
荷台には、クーラーボックスが載っていた。この間釣れた大物を運ぶのに使った箱だ。今はおろし金とか出刃包丁とかが乱雑に入っている。今日のために買ってはみたが、日常遣いに向かない品々だ。わたしはふと近くのゴミ山に目をやる。このまま捨ててしまおうか。そんな思考がよぎった。いけない、ここに捨てたらせっかくの私の旅行が台無しになる。
「心労がたまってるらしいな。」
溜息を吐きながら、わたしは再び煙草に火をつけた。
あたりが次第に暗くなってきた。そろそろ頃合いかもしれない。
名残惜しいが、自然に囲まれたこの場所から帰る時間になった。
私は予定に厳しい。
ポチャ
近くの水たまりに吸殻を投げ火の始末をする。マッチ一本火事の元、タバコだって山火事を起こせるのだ。車のエンジンをかけて、もと来た獣道を戻る。そうだ、クーラーボックスは誰かにくれてやろう。もういらないおろし金とか出刃包丁とかいくつか付けたらきっと喜んでもらえる。雑木林を抜け、ハンドルを右に切る。土の柔らかい感触はやがて人工的な硬さに代わっていき、見晴らしは広く無機質になっている。
急がなければ。わたしは一刻でも早く安らぎを得たかった。
急がなければ。私は明日、友人たちに素敵なプレゼントを配ることになったから。
わたしは私の予定を紡がなければいけない。
些細な行き違いで全てボチャンになってはいけない。
「わたし」と「私」本当の自分はどちらでしょうか。




