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ダンジョン侍―白椿 紅に染まりて ついぞ散りなむ―  作者: ポンコツロボ太


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第7話 アカツナ対スクザ

 とある畑の横を歩いていると、前から年のころとうにも満たない、二人の男児が棒っ切れを持ってチャンバラごっこに勤しんでいるのが目に入る。


 一人の男児が棒を見よう見まねで正眼に構え、元気いっぱいに名乗りを上げた。


「俺はヤギュウ・ジュウベイ・アカツナだ!」


「あー、ずるいぞ!! 昨日も、お前ジュウベイ様したじゃないかよぉ! 今日は俺の番だ!!」


「いいじゃねえかよ。お前は、あの人にすればいいじゃないかよ。ごよーしょけいやくの浅田甚右衛門アサダ・ジンエモン


「んん……。ジンエモンかぁ……。まぁ、それなら良っかぁ。よぉし、我こそ首切りジンエモン。その首、ちょーだいっ!! やーっ!!」


 ソウケンとタマは男児が戯れる様子をいつもの事だと足を止めることなく目端でとらえていた。


 特に気にすることのない日常の風景。

 しかし、リッカは違っていた。


「ねぇ、子供が言っていたジュウベイはアカツナのこと? もう一人のジンエモンは誰?」


「それは……」


 ソウケンがアサダ・ジンエモンなる人物について説明をしようとしたのだが、なぜか興奮した様子のタマが話に割り込んできた。


「流石リッカさん、お目が高い。アサダ・ジンエモンてのは、お上に仕えた御用処刑御用役ごようしょけいやくを代々努めてきた一族の名でね……」


「処刑人?」


「そっ。お上に盾着く奴の首を……」


 そう言ってタマは自分の腕で首を刎ねる身振りをしてみせた。


「おっと。誤解しちゃいけやせんぜ? その当主となって名を受け継ぐ人は皆、刀の腕前も超一流。紫電一トウ流ってね、すごい剣術を使うんだな、これが! しかも当代のジンエモンなんて、断首された首が切られた事に気づかずに一刻ほど話し続けたなんて噂もあるほどなんですぜ」


「へえ、それはすごい」


 リッカの表情は寸分たがわず同じなのだが、声色は少しだけ賞賛の色を帯びていた。


 それに増してタマの興奮である。鼻息荒くジンエモンについて話すのだが、それを聞いていたソウケンはたまらずその話を鼻で笑い飛ばした。


「ははは。刎ねた首が一刻も話すなどあるわけあるまいて。与太話よたばなしゆえ、話半分に聞く方が良い」


「そうね。でも、アカツナの実力は本物」


「見た事あるんで?」


 タマの問いに、リッカは頷いて答える。


「ええ、ここへ来た時に少しだけ……」


 リッカは帆船でヤマトの中心、潮戸しおどの地からこの衣笠藩きぬがさはんへ来た時のことを思い出した。


 ◇◇◇


  衣笠城にて冒険者の実力を図るための御前試合が開かれたのは、リッカたちが衣笠藩に到着してすぐのことだった。


 冒険者の代表として藩主の前に立つのは、ギルドマスターであるスクザ。胸を貸すは衣笠藩剣術指南役きぬがさはんけんじゅつしなんやくヤギュウ・ジュウベイ・アカツナであった。


 大きな赤松が生え白玉の砂利が敷き詰められた庭園は緊迫した空気が張り詰めていた。


 二人は見合う。


 スクザが手にするのは、自分の身長の二倍はあろうかというウォーハンマー。対してアカツナが持つは、細工なしの木刀であった。


 スクザの持つ超重量のウォーハンマーならば、木刀を破壊するのは容易いだろう。しかし相手のジュウベイは腕をだらりと下げ、木刀を握っているだけなのだが、それでも彼は踏み込めずにいた。


 ジリッ……


 わずかにジュウベイがスリ足で前に進むと、それに合わせるかのようにスクザが後方に大きく飛び跳ねた。


 まだまだアカツナの間合いの外。しかし元居た場所より倍以上の距離を取ってしまっていた事実にスクザ本人が一番驚愕していた。


「……スクザ」


 そこに冒険者組として観戦していたリッカの声が静かに響く。

 それはただ、スクザの名を読んだだけ。


 しかし、スクザには何か意味があったようで、一瞬で緊張の糸がほぐれたように大きく笑った。


「ガハハハ! すまなかった、先生。こんなのワシらしくないわな!! さあ、ジュウベイ殿、行くぞ!!!」


 そう掛け声を掛けるやいなや、ウォーハンマーを地面を抉るように振るった。

 その衝撃で玉砂利は弾け、無数の弾丸となったつぶてがアカツナを襲う。


「おお!!」


 観戦している城内家臣じょうないかしん達が驚きの声をあげ、その攻撃に城主も目を見開く。


 およそ人なら一つ二つなら躱すことが出来るやもしれない。しかしそれは、何十、何百に及ぶ飛礫ひれきである。アカツナがこれを回避するのは不可能に思えた。


 しかし、アカツナは、流麗な動きで向かい来る飛礫ひれきを一つ残らず木刀で払い叩き落とす。


「やりおる、やりおる」


 つぶての弾幕が引くと同時、アカツナに出来た一瞬の間。それを見越したようにスクザが猛牛のように突進した。


 その速度に加え、ドワーフの膂力りょりょく、ハンマーの重量が破壊の塊となってアカツナを襲う。


 それは木刀はおろかアカツナ自身さえも押しつぶさんとする小細工なしの力技であった。


 アカツナはと言えば依然として、慌てるそぶりもなく、迫りくるハンマーに合わせるように軽く木刀をあてがい軌道をそらして見せた。


 渾身の一撃を受け流されたスクザの隙は大きい。

 アカツナがそれを見逃すはずもなく、がら空きの首に木刀を走らせた。


 スクザの方も、いなされると分かるや、すぐさまハンマーから手を離し徒手空拳としゅくうけんでアカツナを狙う。


 交錯する二人の攻撃……


「そこまでっ!」


 衣笠藩筆頭家老きぬがさはんひっとうかろうである冴木の声がかかると、二人は時間が止まったかのようにピタリと静止した。


 わずかにアカツナの木刀の方が早くスクザの首に届いており、勝負の軍配はアカツナに上がる。


「勝者ヤギュウ・ジュウベイ・アカツナ!!」


 アカツナは木刀を静かに下げるとスクザに頭を下げた。


「流石は、大陸屈指の使い手。御見それしました。もう寸分、状況がたがえば私が地に伏していたと思います」


 一瞬だがスクザの顔に悔しさが滲み出るが、すぐにそれをかき消す。


「いやいや、ワシの攻撃を難なく避けられるとは……戦場ならば危うく首を取られるとこでしたわい。さすがさすが……」


 両者がお互いの実力を称え合うと、試合を見ていた者達から拍手が巻き起こる。

 アカツナは、姿勢をピンと伸ばしたまま城主衣笠時実(キヌガサ・トキザネ)に向き合い頭を下げる。


「殿、この者の実力、只今ご覧いただいた通り。間違いなく私にも引けを取らぬ武芸者と見ます」


「うむ、さすが大陸の冒険者だ」


 当藩随一(ずいいち)を誇るアカツナのお墨付きにトキザネは満足げに頷いた。


「では、その方らの活躍を期待しておるぞ。なるべく早くにあの迷宮を閉じるのだ」

 

 そうスクザ達に告げるとトキザネは家臣を連れて奥の間へと消えていった。


 その一団がいなくなるのを見送り、観戦していたリッカの元へと帰るとスクザはポツリと小言を漏らした。

  

「魔力さえ使えていれば……」


「条件は向こうも同じ」


 スクザをぴしゃりとスクザの弱音をいさめるのだった。


 ◇◇◇


 リッカが一瞬、アカツナとスクザの立ち合いを思い出していると、先ほどまでチャンバラごっこをしていた子供たちがこちらをじぃっとこちらを覗いて、こそこそと何やら話をしていた。


「見てみろよ、あれ異国の人間だぞ?」


「本当だ。耳、尖ってる。それに見たことない服着てる。変なの」


 どこにいても子どもは、良くも悪くも素直であった。


 リッカに向けられた視線が奇異きいのモノを見る目から嘲笑ちょうしょうの笑いに変わるのに時間はかからなかった。


 子供たちは、口々に「変なの、変なの」と悪びれることなく笑いながら言い放つ。


「…………」


 感情の薄いリッカには、特に気にする様子もないが、ソウケンは違った。


「これっ。人の外見を笑うやつがおるか!」


「わっ!! セキワン様が怒った」


 子供たちが肩をびくりと震わせた。


「当たり前だ。人と見た目が違うと笑ってはならんぞ」


 ソウケンにそこまで本気で怒っている様子はなく、わざとらしく眉を吊り上げているのが見て取れる。


「はぁい。ごめんなさい」


 しかし、ソウケンに叱られた子どもたちはリッカに向かって素直に頭を下げた。

 それに合わせ、ソウケンも相好あいこうを崩し言葉を続けた。


「どれ、リッカ殿。なにぶん、子供の言うことだ。許してやってくれぬか? 私からも彼らの非礼ひれいびよう」


 どうやらソウケンには表情の変わらぬリッカが怒っているのだと勘違いしたようである。表情がほとんど変わらないリッカにはたびたびこういうことが起こった。


 リッカは鈍いソウケンにも伝わるよう、子供と目線を合わせるようにしゃがんで、ポンと優しく子供の頭に手を置いてやる。


「気にしなくていい。それより、なんで皆ソウケンのことをセキワンと呼ぶ?」


 許しと同時にふと疑問に思ったことを尋ねてみた。


「……だって、みんな、そう呼んでるし……なぁ?」


「うん」


 先ほどソウケンに見てくれをバカにするなと叱られた手前、子どもたちは言いにくそうに口ごもる。それに助け舟を出すのも、やはりソウケンであった。


「この腕のことよな?」


 失われた右腕を示す。


「……うん」


 村の者達は文字通り彼の片腕を揶揄やゆして隻腕せきわんと呼んでいたのだ。子供ながらにそれが良いことではないと感じていたようで子供らは顔を伏せるが、その頭をソウケンがグリグリと片腕で撫でる。


「なあに構わん構わん。私は皆がセキワンと呼んでくれているのを気に入っておるのだ。わははは。これからも、そう呼ぶと良い」


「うん、わかった。セキワン様」


 子供たちの顔に笑顔が戻ると、遊びたそうにうずうずとしているのが見て取れる。

 それを察してソウケンは、子どもの背を押してやった。


「そら、もう遊んできなさい」


 未だ耕す途中の畑を子供たちは跳び跳ねるように駆けて行く。

 その背を見つめながら、タマがソウケンの隣に並んだ。


「さっすがソウさん。器がデカい」


「いや、そうではない。この血で汚れた腕に違う意味を持たせてもらっておることがまことに嬉しいのだ。……さて、まだ道中は長い。こんなところで油を売っておっては日が暮れてしまう」


 町へ続く道を歩き出したソウケンの背をリッカはしばらく見つめていた。


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