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ダンジョン侍―白椿 紅に染まりて ついぞ散りなむ―  作者: ポンコツロボ太


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第3話 リッカロッカとの再開

 戸の外に広がる漆黒の闇。


 しかし、そこに月の光でも落ちてきたのかと錯覚するほど美しい白銀の髪が揺れ、雪のような肌を持つ女性がゆっくりと現れる。


 それが見知った顔だとソウケンは驚いた。


「あ、貴女あなたは、昼間の?」


「ん」


 驚きを隠せないソウケンに比べ、リッカロッカの反応は非常に薄い。


 二人の様子を見てアカツナは組んでいる足の太ももを景気よくバシッと叩いた。


「なんだ、二人は知り合いだったのか? そいつは話が早い」


 一人納得の表情を浮かべるアカツナにソウケンはどういうことかと問いかければ、アカツナは土間に立つ女性の紹介を始めた。


「この御仁ごじん、名をリッカロッカ殿と言って、見ても分かる通り大陸から来られた冒険者という生業なりわいをしている方なのだがな……」


「おお!! 拙者、大陸の方を初めて見もうした。はあ……そう言われて見れば服装も全く違う」


 彼女の来ている服は、至ってシンプルなシャツに黒のズボン。革のブーツに白銀の胸当てであった。


 和装しか見たことのないソウケンには、それですら非常に珍しく映ったようであった。


 ポカンと呆けたつらでリッカロッカを見るソウケンにアカツナは一つの疑問が浮かんだ。


「ソウケン……もしやとは思うがリッカロッカ殿が今大陸の者だと気づいたのか?」


「ええ。……はあ。一度だけ舶来はくらいの人形を見たことがありますが、それよりも遥かに美しい。……しかし、あれ、大陸の方は、あの、その……」


 リッカロッカをまじまじと見つめる視線がある一点で止まった。


「何?」


 リッカロッカは無表情でソウケンの言葉を待つ。


「お気にされているようだったら、申し訳ないのだが……耳の形がだな……えっと、我らと違って尖っているのだなぁ、と思ってだな」


「あはははは! ソウケン。それは違う。大陸でも人は人だ。この御仁はエルフと言って、そういう種族なのだ」


「へえぇ。話には聞いたことはありましたが、彼女が『えるふ』……」


「最近この辺りに《《だんじょん》》なるものが現れてな。そこから物の怪の類が溢れておるのだ」


 昼間見たモノがアカツナの言う物の怪だと鈍いソウケンにも気が付いた。


「我らも力を尽くしているのだが、人相手ならばなんとかなるのだが、いかんせん相手は化け物。中には妖術、奇術の類……」


「魔法」


 間髪いれずリッカロッカの訂正が入った。


「んん。そうであったな。魔法なるものを使う化け物もおってな。被害が出るばかり。そこで、寛大でおられる上様がゴンドワート大陸ならば、この事態を治めることの出来る者がおるやもしれぬと救援の触れを出して下さり、名乗りを上げたのが冒険者という者たちというわけでな。このリッカロッカ殿もその一人なのだ」


「そうでしたか。どおりで昼間の技も見事でござった。なるほど、なるほど。そう言うことならあの腕前にも得心がいきました」


 昼間の太刀筋を思い出し、一人うんうんと頷くソウケン。


「で、なのだが。要件とは彼女をしばらくこの屋敷で預かってほしいのだ。おそらく化け物どもは、この野干ヶやかんがもりのどこかから湧いているのだ。な、そうであるよな?」


「ええ」


 リッカロッカも、泊まることには不満がないのか顔色を変えることもない。


 しかし、この要望に目を見開いて驚いたのはソウケンであった。


 それもそのはず、ヤマトでは男女七歳にして席を同じゅうせずの言葉があるように彼らはしっかりとした倫理観を持って暮らしているのだ。


「うえっ!! 無理です無理です!」


「そこをどうか頼む!」


 位の高いアカツナがソウケンを拝むように頭を下げた。それにほとほと困り果てたソウケンの眉は八の字を書くように垂れ下がった。


「な、なぜですか? 町の方にはいくらでも宿があるでしょうに……」


「うむぅ……」


 ソコツナは何かを確かめるように一度リッカロッカを見るが、彼女の表情は来た時から一つも変わっていない。それでも、一応形だけではあるがリッカロッカに聞こえないよう声をひそめる。


「どこの宿も大陸の者を怖がって宿を貸してくれんのだ」


「では、町の侍屋敷にでも……」


 言い終わる前にアカツナが首を振る。


「駄目だ駄目だ。どいつもこいつも嫁がだの、母がだの、しまいには飼っている猫が怖がるだのと、いちいち言い訳をして断るのだ。ああ、なんとなげかわしい。あれで本当に侍なのか!!」


「じゃ、じゃあ、アカツナ様の所は? お屋敷も十分広いようですし……」


 ソウケンが言葉を言い終わるより早くアカツナが首を振る。


「私の所にはすでに一人、泊まっておるのだ。《《どわーふ》》なる種族の御仁でな。名をスクザというのだが……これがもう大飯喰らいの大酒飲み。さらには大鼾おおいびきで屋敷が傾くかと心配になるほどでなぁ。嫁のサエが、もう大陸の人間を泊めてくれるな! と小言を毎日毎日飽きもせず言うのだ。なっ!? 私を助けると思ってどうか、どうか頼む!!」


「うーむ……」


 ソウケンは腕を胸の前で組み、渋い顔を作って思案する。

 そこへソウケンの耳にだけ届くようにアカツナが問うた。


「アレは今、眠りについておるんだろ?」


「それは、そうなのですが……」


 アカツナの問いとは別にソウケンは毎朝、家を訪ねてくる五月蠅うるさい顔を思い出していた。


 もし、リッカロッカを家に泊めた場合、その説明もせねばならないと思うと、どうにも気が進まないでいた。

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