回る寿司(回らない)
夕食の為に、某回転寿司チェーン店へと訪れた。
席に着いた俺は、回転寿司のシステムについて説明を始める。
「元々はレーンの上に運ばれてくるお寿司を、自由にとって食べるスタイルでした。
お会計は、寿司を載せていた皿の種類と枚数で決まっていましたね。
しかし現在では、感染症の流行や流れてくるお寿司にいたずらをする者が現れた為、このタッチパネルで注文し、直接運ばれてくるようになったのです。
それでは、さっそく注文してみましょう」
で、何種類か注文して、すぐにそれが届く。
●:美味しそう
●レナ:私達も食べたいです
●:お供えしてくれ
「え、お供え……?」
●レナ:アイテムボックスの中に簡易供物台を送っておいたので、それに供えてくだされば、供えられた物の情報が神界のリスナーの所へ送られて再現されます
●:頼む 5000P
●:我も 3000P
●アイ:稲荷寿司と茶碗蒸しを所望する 10000P
●ウルティマ:デザート全般をお願い 20000P
●ナウーリャ:じゃあ私は、ウニとカニみそとラーメンと唐揚げを 30000P
うぉ……大量のポイントが振り込まれた。
というか、なんで神がサイドメニューまで把握しているんだよ……。
仕方がないなぁ……。
アイテムボックスの中って言ってたな……。
お、これか。
取り出してみると、30cmくらいの正方形をした布が出てきた。
表面にはなにやら魔法陣のようなものが書かれているが、これが簡易供物台?
あまり供物台っぽくないな。
●レナ:それの上に、お供え物を置いて、「転送」って念じてください
終わったら、供えたものは食べていいので
「はい……じゃあ、転送。
これでいいですか?」
●レナ:はい、届きましたよ~
「情報を送ったら再現されるって、3Dプリンターみたい……」
●レナ:そんな感じですねー
マジかよ。
というか、3Dプリンターが分かるのかよ。
……じゃあ、俺達も食べようか……。
まあ、その前に持参したキッチンバサミで、寿司ネタを小さく切る。
こうしないと、身体が小さくなった水杜には、大きすぎて食べられないからな。
今の水杜は、幻術によって普通に席へと座っているように見えているけど、実際にはテーブルの上に座っている状態だ。
そして水杜にとって、自分の頭よりも大きな寿司を食べるの無理があるだろう。
だから小さく切ったネタに数粒のシャリで、水杜にとっての一貫分を作った。
「ほら、水杜」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「では、いただきます」
「うん、いただきます」
●:うん、そこそこ美味いな
●:ちょっと庶民の味って感じだけどねー
……神々は、先に食べて勝手なことを言っている。
まあ神様なら、もっと高級なものを食べているか。
ここは回らない高級店じゃないからなぁ……。
さて、俺も……。
「うまっ!?」
あれっ、寿司ってこんなに美味しかったっけ?
俺が戸惑っていると、水杜が、
「今のお兄ちゃんは猫型だから、魚が好みに合うんじゃないの?」
そうかな……そうかも。
「って、猫って醤油とかワサビとか、玉ねぎとか大丈夫だっけ?」
ネタの中には、それらが使われているんだが……。
●アイ:猫型獣人には駄目だねぇ 確かそのお茶も駄目だよ
元人間族だから大丈夫かと思っていたけど、どうなん、レナ?
●レナ:あ~、駄目なんじゃないですかねぇ
緑茶も!?
もう飲んじゃったけど。
「どうしよう……」
●レナ:「毒無効」のスキルを取れば、問題無くなると思いますよ。
80000Pで交換できますよ
それは高いのか安いのか……。
でも、借金を返さなければならない俺としては、あまり無駄遣いはしたくないな……。
ちょっと食生活に気を付ければいいんだし……。
そんな俺の葛藤を見透かしたのか、水杜が口を開く。
「お兄ちゃん、無理をしない方がいいよ。
私、入院中に好きな物を食べられなかったのは、結構辛かったし、お兄ちゃんに同じ思いはしてほしくない……。
それにこれから、キャットフードばっかり食べるつもりなの?」
「う……」
それは嫌だな……。
というか──、
「あ、水杜にも、食べちゃ駄目な物があるのか!?」
●:ある
●:妖精もあるねー 特定の植物の葉とか実とか
●:鉄分、駄目じゃね?
じゃあ、絶対必要じゃん……。
2人で160000Pは大きいが、仕方がないか……。
「えーと、スキルの交換はどうすれば……?」
「『ポイント管理』って念じれば、頭の中に管理画面が浮かぶと思うよ」
「ありがとう、水杜」
どれどれ……。
お、交換できる物の一覧があるな。
現金やアイテムと交換もできるし、借金返済の項目もある。
借金は、後で少しでもいいから振り込んでおこう。
それよりもまずは、「毒無効」スキルだな。
うわ、数えきれないほどスキルがある……!
どれだ……?
お、念じたら勝手に検索された。
これか……。
あとは選択して決定すれば、交換できると思うが……。
「水杜の方はどうやってとるんだ?」
「選択すれば、誰に付与するかの項目が出ると思うから、2人とも選んでね」
おお、そうか。
じゃあ……これで良し、と。
「うん、私もスキルを手に入れたよ」
「他に必要なのはある?」
「『筋力強化』が欲しいかな。
小さな身体だと、ドアの開け閉めもできないし、物も持ち上げられないからね」
ああ、そういう不便もあるのか。
げ、40000Pか……。
今日貰った投げ銭をほとんど使い切ってしまうが、背に腹は代えられない。
「よし、これでどうだ?」
「わぁ、すご~い!」
水杜が寿司の皿や、お茶の入った湯呑みを持ち上げてはしゃいでいる。
確かに筋力が強化されているようだ。
俺も身体が小さく非力になったし、いずれは必要になるスキルかもなぁ。
だけど今は、折角だから食事を楽しもう。
しかしその後、神々のリクエストを聞いていたら、50皿以上注文する羽目になった。
こんなに食べきれねぇよ!!
まあその分、ポイントは付与してくれたからいいけど、 積みあがった皿については、周りからの目が少し痛かったな……。
食べきれなかった分は、アイテムボックスに収納して持ち帰ることにしよう……。




