初めての配信
「わぁ……お兄ちゃん、似合っているよ!
すっっっごく、似合ってよ……!!」
「ぐっ……」
なにやら異常にテンションが高くなっている妹の水杜からの賛辞は、今の俺には辛い。
今俺が着ている服は、女物のそれだからだ。
結局、服を買いに行く為の服が無い為、水杜から借りて着るしかなかった。
しかも猫型獣人は、この世界ではまだ珍しいので、目立たないようにしなければならない。
猫耳を隠す為の帽子はともかく、尻尾を隠す為のロングスカートは、当然ながら初めて穿くので、違和感が凄すぎる……。
その上、下着まで妹のものだ……。
身長は大幅に縮んだが、性別は男のままなので、本当なら女性用のパンツを使う必要は無いのだが、今はサイズ的に水杜のものしか合うのが無い。
しかも、男なのに中途半端に胸が膨らんでいるので、ブラまでつけることになった。
スポーツブラとはいえ、羞恥の極みだよ……。
なお、猫耳を隠す為に被った帽子の所為で、ちょっと音が聞こえにくいな……。
まあ、素の聴力は良くなっていたようなので、まったく聞こえないということはないけど。
「え~と、初めまして、ナオです。
ちょっと死んで生き返りました。
これからこの新しい身体で、買い物に出かけたいと思います」
で、これから服を買いに行く訳だが、折角だから……と、初めての配信を試してみることになった。
ただし、配信に必要な機材は無い。
どうやら水杜には、女神から配信用のスキルが与えられているらしく、自身で見聞きしたことを、そのまま神々へと配信することができるらしい。
今回は生配信だが、録画編集も可能なのだとか。
正直言うと、俺はこの着慣れない服で映るのは嫌なんだけど、早く元の身体に戻る為にも、ポイントとやらを稼がないとな……。
ともかくだ。
俺達にとってはただの買い物だが、神々にとってはこの日本の風景も珍しいかもしれないと思い、配信を始めた訳だが……。
●レナ:始まりましたね~
今のところ視聴者は、例の女神しかいないようだ。
なお、コメントをされると、その内容が直接俺や水杜の頭の中へと伝わるようになっていて、なんだか不思議な感覚である。
「その節はどうも……。
他の神様はいないんですか?」
●レナ:その内来るんじゃないですかねぇ
まあ、少ないところから増やしていくのも、醍醐味かと
ちなみに視聴者数が増えても、ポイントは加算されますよ
ああ、それは頑張らないといけないな……。
「え~と、最近では異世界からの移住者も多少は増えたので、大都市だと亜人専門店というものがあります。
今回はそこで猫型獣人になってしまった俺と、妖精になってしまった妹の服などを買い揃えることにします」
特に水杜は身体がかなり小さくなってしまったので、専用の食器など、生活用品も必要だからなぁ。
●:事情は聴いている 頑張ってくれ
「あ、ありがとうございます
俺にどれだけのことができるのか分かりませんが……」
いつの間にか視聴者が増えている。
●レナ:その外見で一人称が「俺」だと違和感があります
●:もっと可愛く媚びを売るようにしてくれ!
「ええぇ……。
じゃあボクで……」
●:ボクっ娘いい! 1000Pあげる
女子のように「私」とか言うのも抵抗があるので、そうする。
というか、これが本当に神様のコメントなのか?
なんだか思っていたよりも下世話だ……。
でもポイントを貰えたようだから、感謝はしておくか。
「ありがとうございます。
でも、ボクは男の子だけどいいんですか?」
●:5000P
●:男の娘と聞いて 3000P
●ナウーリャ:なんだ男か 今後に期待100P
「増えた!?」
●:可愛さの前には、性別など些細なこと
それでいいのか、神々……?
●レナ:ちなみに1P=1円で換金もできますよ
ふむ……あっという間に、最低賃金で1日働いたくらいの金額になったな。
そう思うと悪くないが、俺には億単位の借金があると考えると、途方もないポイントを稼がなければならない……。
「そ、それで当然ながら、まだまだこの国での亜人向け需要は小さく、それ故に珍しい品々なので、値段設定は高めとなっているそうです。
ちょっと予算に不安があるので、まずは銀行で貯金をおろしますね……」
そんな訳でまずは、近所にある銀行のATMコーナーに来た。
「水杜、さすがに暗証番号の入力場面とかは見えないようにね」
「分かっているよ、お兄ちゃん」
さて、ちゃんと預金は下せるかな?
女神レナによって戸籍や口座の名義などは改竄されたが、本当に以前と同様に使えるかどうか……。
あ、キャッシュカードに記されている名義人も、「神無月ナオ」って変わっているな。
それにも関わらず、暗証番号はそのまま使えるようだ。
残高は……。
「んんっ!?」
「どうしたの、お兄ちゃん!?」
「なんか預金が500万円ほど増えてる……。
退職金も出ているとは聞いていたけど、多くないですか?」
●レナ:ああ、これから始まる新しい生活の為の、準備金込みですよー
この企画をした神々の自腹なので、感謝してください
●:我も出したぞー
●アイ:私も
「そ、そうなんですか?
ありがとうございます……」
いやでも、なんか使うの怖ぇな、これ!?
とりあえず、この増えた金額は、暫くの間手を付けないでおこう……。
で、引き出すのは、20万円くらいでいいかな?
足りなきゃクレジットカードか電子マネーで……。
そちらも問題なく使えるのか、テストしないとならないしな。
そんな感じで準備もできたので、次にいよいよ亜人専門店へ行くぞ。




