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やっぱりおしまいかもしれない

 リビングには、以前と変わらない姿の妹がいた。

 まるであの事故が嘘であるかのようだ。


「み、水杜(みもり)っ!!」


 俺は妹の姿を確認した瞬間、思わず抱きしめようとした。

 が──、


「へう!?」


 しかし俺の腕は空を切り、バランスを崩した俺は、床へと倒れ込みそうになってしまう。

 辛うじて手をついて、そうなることは避けられたが……。


「お兄ちゃん、お尻が丸見えで、可愛い尻尾が見えてるよ?」


「うわああああああ!?」


 サイズが大きすぎるが故に下半身を隠していたシャツだが、俺が倒れそうになったことでめくれあがってしまったようだ。

 これ、下手をしたら、尻尾以外にも色々と見えてしまったのでは……。


 ……って、そんなことを気にしている場合じゃない。

 今、水杜の身体(からだ)をすり抜けたぞ?


「み……水杜……?」


 俺はシャツを直しながら、水杜の姿を見上げた。

 しかしその姿は、透明になっていく。

 な、なんだ、これ……?

 まさか幽霊……!?


「ごめん、お兄ちゃんる

 私も元の姿のままじゃないんだ……」


 半透明だった水杜の姿が完全に消え、代わりに現れたのは30cmほどの小さな水杜で、背中にはトンボのような羽を生やして空中に浮いていた。

 それはまさに妖精の姿だ。


 これは……猫型獣人にされてしまった俺と同様に、生き返りこそしたけど別の種族にかえられてしまったってこと?

 となると元の姿に戻す為には、配信でポイントを稼がなければならないってことだよな……!?

 蘇生のポイント返還もあるし、こりゃいよいよ一筋縄ではいかなくなったぞ……。

 くそっ、なんだか詐欺に引っかかっているかのような気分だ!!


「私達の無事だった部分の肉体を使って復活させたから、こうなったんだって……」


 ……確かに俺が死ぬ直前に見た水杜の身体の損傷は、かなり酷かった。

 そして俺の身体が小さくなっているのも、そういうことなのかもしれない……。


「でも、前よりも身体が軽いくらいだから、別に困らないよ。

 女神さまから貰った『幻術』のスキルで、元の姿も再現できるしね」


 ……と水杜は、部屋の中を楽し気に飛び回っておどける。

 実際には、俺に気を使っている部分もあるんだろうけどな……。

 身体が別物になって……そもそも死んで蘇ったなんて事実に、ショックを受けないはずが無いし。


 それに身体が小さくなって、生活に不便が生じないはずがない。

 俺ですら着られる服が無くなっているぐらいだし、水杜くらいの身体のサイズでは、トイレの便器にすら座れないだろう。

 今後の生活に対しては、確実に不安を感じているはずだ。


 それでも──、


「まあ……実際、物理的に軽くはなっているが……。

 以前よりも健康体になっているのなら、悪くはないのか……?」


「うん、ここ数年で、1番元気だよ!」


 ……それだけが救いか。

 それにいずれはポイントで、元に戻せるだろうし……。

 ただその為には、俺の身体のことは後回しにしなければならなくなるが……。


「それよりもお兄ちゃんは、まず自分の心配をする方が先だと思うよ。

 その身体じゃ、着られる服が無いでしょ?」


 確かに服は無いが……。


「それはお前も同じだろ……?」

 

「私は『幻術』で隠せるから問題ないよ。

 それよりもお兄ちゃんの服だけど、丁度、前の私と同じような背格好だから、私の服や下着を使いなよ」


 ……は?

 妹の服や下着を!?


「お兄ちゃん、背景に宇宙を背負った猫みたいな顔になってるよ?」


「はあぁ!? いいよ、通販で買えばいいんだし!」


「それまで裸同然の恰好で、いるつもりなの?

 ノーパンのまま部屋をうろつくのは、変態っぽいと思うんだけど?」


「兄が妹の服を着る方が、よっぽど変態っぽいだろぉ!?

 ましてや下着とか……!!

 水杜は嫌じゃないのかよ……?」


「下着なんて私が入院している時は、いつもお兄ちゃんが洗ってくれていたし、今更気にしないよ」


 洗うのと穿くのは全然違うと思うが……!?


「どちらにしても、尻尾があるお兄ちゃんには、人間用のパンツだと履き心地が悪いと思うんだよね。

 それに私の服も無いんだよ。

 私は幻術で服を着ているように見せられるけど、実質的には裸だからさぁ……。

 だから亜人向け用品の専門店まで行って、一緒に服を買おうよ。


 で、お兄ちゃんはノーパンで外出したい?

 尻尾の所為でスカートしか穿けないだろうから、最悪の場合は他人に見られるよ?

 今日は風が強そうだし」


「くっ……!」


 そうだ……。

 水杜は身体が小さくなってしまったから、一人では買い物をすることも難しいんだった。

 それにいつまでも、妹に全裸を強いる訳にもいかん……!

 今すぐ、買いに行く必要がある。


「分かった……服とかを貸してくれ……」


 背に腹は代えられないが、兄として大切な物を失うような気がした。

 あと水杜も、見えなくてもいいから、ハンカチくらいは身体に巻いてくれ……!

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