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おしまいじゃなかった!?

 は……!?

 なんで俺が女の子に……!?

 鏡に映る顔は、可愛らしい女の子そのものだった。


 それに短髪だった黒髪も、明るい茶髪に変わって肩まで伸びている。

 しかも頭に猫耳が生えていて、更に可愛らしさを強調していた。


 お……女の子だよな?

 小中学生みたいな身長だから、男の可能性もあるが……。

 胸は……ちょっと膨らんでいるような気がする。


 じゃあ……まさか……。

 俺は緊張しながら、股間の有無を確認しようとすると……。


「ある……だと!?」


 以前と比べるとポークビッツみたいに縮んでいるが、そこには確かに見慣れた物体がついていた。

 でも、ちょっと皮が……いや、なんでもない。

 あと、なんか太いのがぶら下がってると思ったら、尻尾じゃん……。

 余計な物までついている!?


「普通、ここは変えるもんじゃないのかっ!?」


 別に期待していた訳ではないが、昔読んだweb小説では、女の子になっているのがお約束だった。

 実際、わざわざ外見を女の子っぽくしたのに、なんで男のままなんだよ!?

 というか、ちょっと膨らんでいる胸はなんなんだ?

 思春期のホルモンの影響で、男でも膨らむってあれか!?


「それは、性別まで変えてしまうと、生活が大変だと思ったからです。

 ただ、姿は可愛い方が有利だとと思い、そうしました」


 はっ、あの女神の声が聞こえる!?

 まだ近くにいたのか!?


「あの……有利とは?

 この姿の俺に、何をさせたいんです?

 この姿では、会社にも行けないのですが」


「あ、会社の方は、すでに退職したことになっていて、退職金も出ている状態にしておきました。

 戸籍とかもすでに改竄してあるので、名義人こそ変わっていますが、銀行口座とかも今まで通り使えます」


 なんだって!?

 会社を退職……は、ブラック企業だったから渡りに船なのかもしれないが、これからの収入はどうなるんだ?

 とりあえず俺は、ずり落ちたズボンに入っていた財布からキャッシュカードを取り出し、名前を確認した。


神無月(かんなづき)ナオ……?」


 神無月那央杜(なおと)という俺の名前が、別のものに変わっていた。


「異世界からきて、神無月家の養子になったという設定になっていますよ」


 なんでそんなことを……?


「え~と、それはですね……。

 今、神々は暇を持て余しているので、あなたには娯楽を提供してほしいのです。

 そちらの世界では、ダンジョン配信が流行っているとのことなので、同じことを神々に対してやってもらおうかと。

 おじさんよりも、可愛い子がやる方が受けがいいでしょ?」


 ダンジョン配信?

 確かに15年ほど前に突然出現したダンジョンの探索を、インターネットを介して配信している者は存在するし、最近は世間でも話題になっている。

 元々ダンジョン内では、何故か機械類があまり動作しないらしいのだが、最近になって魔法と組み合わせて配信できる技術が確立されたので、配信が流行する手助けにもなっていた。

 というかダンジョンの中では、この世界では手に入らない貴重な物が色々と手に入るし、謎もまだまだ多いので、その探索と配信を国は推奨しているのだ。


 ただ、ダンジョン内は魔物も生息しているので危険だ。

 まあ、だからこそ魔物が増えすぎないように間引きは必要で、魔物と戦うこともある探索者は今や社会的な需要も大きな職業ではあるし、収入も大きいらしい。

 中にはアイドルのような活躍をしている者もいる。


 だけど(みもり)の生活を守らなければならない俺としては、自身の身に何か起こって、収入が断たれることだけは避けたかった。


「そこは配慮して、便利なスキルをその身体(からだ)に付与したので大丈夫ですよ。

 それに万が一のことがあっても、再び復活することは可能ですし。

 まあ……代償は必要ですが」


 む、もしかして俺の心を読んだ!?

 口にも出していないことに対して返答してくる女神に、俺は戦慄する。

 だが、突っ込むと藪蛇になりそうなので、別のことについて質問することにした。


「代償……ですか?」


「神々を楽しませれば、投げ銭というか、ポイントが付与されます。

 そのポイントは色々な用途に使えて、日本円に換金することもできますし、スキルや装備と交換することもできます。

 あるいは怪我等の治療や死亡からの復活、そしてあなたの姿を元に戻すことも可能でしょうね」


 元の姿に戻れるのか!?


「ただ、願いに応じて必要なポイントは異なりますし、特に死亡からの復活は莫大ですよ?

 あなたは今回生き返ったことで、そのポイントを前借してマイナスになっている状態です。

 まあ、それを返還するのはこれからの働きで、ポイントが貯まってからでもいいですし、配信活動などに優先すべきことがあるのなら、そちらにポイントを使って後回しでも構いません。

 返済期限は、寿命がくるまで──しかも無利子なので」


 つまりその借金を返さないと、元の姿に戻っても配信活動でポイントを稼ぐことはやめられないのだな……。

 もしも返済できなかったらどうなるんだ?


「……」


 今度は何も答えない女神。

 意味深な沈黙はやめろおっ!!


「ちなみに……その生き返りに必要なポイントは、どれくらいで?」


「そうですねぇ……。

 妹さんと2人分で、日本円換算にして8億円ってところでしょうか」


 たっ……か!?

 いや、命の値段だと思えば、安いのか……?


「しかし……俺は配信の仕方とか、よく分からない。

 そんなに高額を稼ぐことができるほど、上手くできるのだろうか……」


「その辺は、妹さんにも協力してもらおうと思います。

 配信に関係する能力や、チュートリアル的な情報は彼女に与えておきましたので、詳しいことは彼女に聞いてください」


「水杜は……もう生き返っているのか!?」


「はい、リビングの方にいますよ。

 兄妹の再開に水を差すのも悪いので、私はこの辺で。

 ご活躍を期待していますね~」


 それを最後に、女神レナの声は聞こえなくなってしまった。

 静寂の中に取り残された俺は、慌ててリビングへと向かう。

 水杜の死に際の姿を思い出して、本当に生き返っているのか不安になった。

 もしかしたら俺が騙されているだけで、そこには水杜の死体しか残っていないなんていう、悪い想像も浮かんだ。


 だけど意を決してリビングへと踏み込むと──、


「あっ、お兄ちゃん。

 随分と可愛い姿になったねぇ」


 以前と変わらない水杜の姿が、そこにはあった。

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