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お兄ちゃんはおしまい?

 こんな姿になる前の俺は、もうすぐおじさんと呼ばれそうな年齢の社会人だった。


 元々俺が学生の頃に母親が病気で亡くなっていたんだが、更に数年前にも父親が事故で亡くなっていた。

 その為に俺は、10歳下の妹──水杜(みもり)の親代わりになっていたんだよな。

 当時の妹は病気がちで、何度も入院とかしていて大変だった。

 仕事をしながらの介護も、必要な時があったからなぁ。


 そんな水杜がようやく元気になり、お祝いに水族館へ遊びに行くことになった。


「お兄ちゃん、水族館楽しみだね」


「ああ、そうだな。

 だけどまだ先だから、今からはしゃぐと疲れるぞ」


 峠道を走るバスの車窓からは、まだ木々しか見えない。

 それでも水杜は、その風景を楽しそうに見ていた。


 本当は遠方への旅行や遊園地の方が良かったのかもしれないが、水杜の体調を考えると負担が少ないであろう水族館を選択した。

 たぶん今の水杜の身体(からだ)だと、長時間の移動やジェットコースターとか刺激の強い乗り物には耐えられないかもしれないし……。


 水杜本人も不満かもしれないが、それを顔に出さない健気な子だ。

 病気の所為で成長が遅く、もう高校生なのに見た目が小学生に見えるくらい小さいので、尚更不憫に感じる。

 

 それだけに今日は楽しんでほしい……そう思っていたんだけどな……。


 ところが、俺達が乗っていたバスに何か巨大な物体が突っ込んできて──そのことに気づきはしたが、シートベルトで身動きが取れない俺には、一瞬のこと過ぎて何も対処することはできなかった。


 そして隣の……窓際の席に座っていた水杜が押し潰される光景を最後に、俺の意識は途切れた。




「おお那央杜(なおと)! 死んでしまうとは何事だ!」


「なっ……!?」


 俺の意識が再び戻った時、周囲は闇に包まれていた。

 しかも身体は動かない。

 というか、今「死」とか言ったか?


「俺は……どうなったんだ……?」


「残念ながら、あなたは死んでしまいました」


 姿は見えないが、綺麗な女性の声が聞こえてくる。


 俺が死んだ!?

 じゃ、じゃあ……。


「水杜はどうなったんだ!?」


「妹さんも一緒に……」


「そ……そんな……!」


 信じたくなかったが、俺はその瞬間を見ている……!!

 俺は愕然とした。

 ああ……どうか神様、水杜を助けてくれ……っ!!


 そんな風に苦悶する俺に対して、声は軽い調子で語りかけてくる。


「助けてもいいですよ?」


「……は?

 本当か!?」


「私はあなた達が言うところの神──女神レナです。

 助けることについては、可能と言えば可能ですよ。

 ただし、無条件に……とは言いませんが」


 神!?

 そんなものが実在するのか?

 実在したとして、なんか胡散臭いが……。

 しかし今は、この声を頼るしかない。


「そ、それなら水杜を助けてくれ!

 その為なら、俺は何でもする!!」


「ん? 今なんでもって言いました?」


「あ……ああ。

 ただ、生き返らせるだけでは、身よりもなくて生活できないし、施設に入れられたら、体の弱い水杜では無事に生きて行けるか分からない。

 その後も不自由なく生きて行けるようにしてほしい」


 最悪、家族を全員失った絶望から、自ら死を選ぶなんてこともありえるからな……。

 ただ生き返るだけでは駄目なんだ。


「それはあなたが面倒を見てあげれば良いでしょう。

 あなたも生き返らせるので」


「俺も!?」


「はい、あなたにはやってもらいたいことがあります。

 生き返らせるのは、その前払い報酬となります」


 俺に何かをさせる為に生き返らせる……!?

 それは一体……!?


「まず、早速生き返ってもらいましょう。

 魂だけの状態では不便でしょうし」


 次の瞬間、暗闇の空間から光に満ちた空間に俺は投げ出された。

 って、ここは──、


「俺の部屋……!?」


 そこは確かに俺の部屋だった。

 しかし違和感がある。

 視点が低い……?


 周囲を見渡そうとした瞬間、足に何かが絡みついて、俺はバランスを崩した。


「うわ……!?」


 ん? なんだ今の声!?

 俺の声にしては、甲高かったぞ!?

 でも、確かに俺の口から出た声だ。


 それに俺の足に絡みついたのは……パンツごと下が脱げてる!?

 サイズが合わなくなった!?

 確かに見えている手などは小さくなっているようだし、着ていたシャツもブカブカで、股の辺りまで隠してしまっている。


 俺はどうなってしまったんだ!?


「鏡、鏡!!」


 机の上にあった鏡で、自分の姿を確認すると、そこには──、


「女の子……?」


 見慣れない美少女の顔があった。

 俺、小さな女の子になっている!?

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