唯一の手掛かり
「いった……っ!!」
オークの攻撃が肩にかすった。
それだけで俺は吹き飛ばされて、ダンジョンの壁に衝突する。
その結果、HPが22も持っていかれた。
危なっ、初期の俺なら、即死している数値だ。
というか、防具を装備していなければ、今頃は瀕死になっていた可能性が高いぞ。
かすっただけでこれなのだから、直撃を受けたらマジで死ぬっ!!
今後は一撃も受けちゃ駄目だ……!
集中しろ!!
そうすれば──ちゃんと身体が動きさえすれば、「見切り」のスキルが働いているから、相手の攻撃は回避はできるはずだ。
まずは崩れた体勢を立て直して──いる間に、オークの攻撃が来たっ!!
「くっ!」
ギリギリだが回避成功!
そしてすかさず、魔法での反撃を試みる。
威力は小さくてもいい。
「ボアッ!?」
オークの顔に炎を浴びせかけた。
これが致命傷になることはなく、あくまで目くらましだ。
そして隙だらけになったオークの喉へ、ナイフを突き立てて引き裂く。
身長差を考えると腹への攻撃の方が楽なんだけど、内臓が出てきたらグロいからな……。
しかし首の動脈を斬っただけでは、オークが出血多量で動けなくなるまでには1分ほどの時間がかかる。
油断していたら思わぬ反撃を受けかねないので、距離をとってから騒がれないようにオークの顔を水で覆っておいた。
……追い打ちで、電流も流しておくか。
ほどなくしてオークが沈黙したので、死体は「アイテムボックス」に収納し、周囲に残った血痕などの痕跡を「浄化」で消しておこう。
さて、オークよりも重要なのは、コボルトの方だ。
俺のことを新たに現れた敵だと、認識してなければいいのだが……。
……って。
「おいおい、どうしたどうした!?」
3匹のコボルト達は、床に平伏して「きゅ~ん、きゅ~ん」と鳴いていた。
俺のことを怖がっているにしては、あまりにも無防備だし、これは完全に降伏しているよな……?
「え~と、君達?」
「きゅうぅ~ん」
再び声をかけても、コボルト達の態度は変わらない。
う~ん、これでは文字通り話にならないな。
よし、スキルを取るか。
え~と、「相互自動翻訳」のスキル……これだな。
どうやらお互いに違う言語で喋っていても、意味が伝わるスキルのようだ。
ただ、これを取ってしまうと、残りのポイントが心許なくなるが、それは仕方がない……。
「君達は何をしているのかな……?」
「わ、わうん!?(こ、言葉が!?)」
お、声が二重になって聞こえるような感覚がある。
このスキルで正解か。
一方のコボルト達は、言葉がいきなり通じるようになって、困惑しているようだ。
「わうん!(言葉分かる)」
「わふぅ!?(やっぱり神様!?)」
「神っ!?
俺が!?」
コボルト達の言葉は分かるようになったが、言っていることが意味不明だ。
一体何を言っているんだ、こいつら……?
「俺が神……?
どうしてそう思った?」
「わう、わううう(神様の像と似てる)」
こいつらが信仰している神像と俺が……?
ということはその像って、人間みたいな姿に獣の耳と尻尾があるって感じかな?
だとすれば、俺と神像には特徴が一致する部分もあるけど、実際にその神像を見たら、おそらく似ていないと俺は感じると思う。
たぶん耳と尻尾の形が犬型など、俺のとは明確な差異があるはずだ。
そもそも性別すら違う可能性もある。
しかしコボルト達は、人間やその他の動物をまともに見たことが無いとかで、結果として細かい区別がついていないのかもしれない。
「君達は、人間を見たことがある?」
「わう?(人間?)」
「きゅう~ん?(なにそれ?)」
コボルト達は揃って首を傾げる。
いちいち可愛いな、こいつら……。
「俺と似たような姿をした者達だけど」
「わんわん(見たこと無いよ)」
「……洞窟の出口は知ってる?」
「わうん(知らない)」
つまりここの近くに、人間が出入りしている場所は──ダンジョンの出口は無いってことか……。
肝心な情報は得られなかった……。
だけど待てよ……?
神様……神様か……。
もしかしたらその神像を介して、神様達と連絡を取ることができるなんてことはないか?
それができれば、水杜を通して、探索者協会に救援を要請することも可能になるかも……。
少なくとも、現在地を特定する為のヒントにはなるはずだ。
「神様の像って、何処にあるの?」
「きゅ~ん(それは……)」
「きゅうぅ~ん……(オーク達に取られちゃった……)」
「は?」
……これは面倒なことになったぞ……。
早朝の自動車は、中が-13度とかで冷凍庫のようです。こういう時は運転したくない……。




