地下の住人
転移の罠に引っかかってから3日目に入った。
あの岩棚を中心にマップを埋めてはいるが、迷宮は広大だ。
未だにダンジョンから脱出する為の、手掛かりすら掴めていない。
なお、この周辺に出没する魔物は、オークと狼だ。
それ以外の魔物は、今のところ見たことが無い。
ところであの狼の死体を回収する時によく見たら、目が無かった。
目があるべきところが毛皮で塞がっており、わずかに窪んでいるだけなのだ。
その代わり、嗅覚に特化しているのだと思われる。
暗いダンジョンに適応する為に退化、あるいは進化した結果なのかもしれない。
そしてこの狼は、たまにオークと一緒に出没することがあった。
その背にオークを乗せていることすらある。
もしかすると、オークに飼いならされているのかもしれないな……。
実際、戦闘時のコンビネーションが良く、2体同時に相手をするのは厳しい。
あっという間に挟み込まれそうになったもの。
だから遠距離から魔法攻撃で倒しきれない時は、即逃げることにしている。
俺は「HP・MP超回復」を持ってはいるが、即死したら回復も意味は無いからな……。
今の俺では、攻撃の直撃を1回受けただけでもヤバイ。
それだけあのオークと狼は、強いと思う。
まあ、真正面からガチでやりあったことは無いので、未知数なところもあるけど……。
そしていずれは、正面から接近戦をしなければいけない状況もあるだろう。
……その時に備えて、今から「見切り」のスキルも取っておこうかな。
これがあれば、敵の攻撃を回避することに役立つはずだ。
……で、「見切り」に頼らなければならない状況は、意外とすぐ訪れた。
「お……この先に気配が4つ」
T字路のようになっている洞窟を左折した先に、何かがいるようだ。
幸いにもそれらの気配は、そのまま離れていく。
「4体が相手じゃ、ちょっと勝ち目が無いから、引き返すか……」
と、踵を返そうとしたその時──。
「ん……?」
なんか気配の動きがおかしいな……?
3体が……後ろの1体に追われている……?
3体の気配は小さいし、今まで経験したことの無い種類の気配だ。
一方で、追っていると思われる1体は、よく知るオークの物だと思う。
俺がまだ見たことが無い魔物がいるのか……?
そういやオーク達が何を食べているのか、その辺は謎だった。
ダンジョン内で植物なんてまだ見たことが無いし、たぶん餌となる魔物がいるはずだ。
オークと狼には少し飽きていた俺は、その存在に興味を引かれた。
もしかしたらまだ見ぬ魔物が、俺を新たな場所へと導いてくれるかもしれない。
ダンジョンの探索に大きな進展が無かった俺は、新たな可能性に懸けてみることにした。
そうと決まれば、慎重に気配を消して追跡だ。
とはいえ、オークに追われる者達が、そのまま食べられてしまっては意味が無い。
利用価値がある魔物なら、まず生かさないとな。
そんな訳で追跡すると、すぐにオーク達が見えてきた。
やはりオークは何かを追っているようだ。
そして追われている者達は、木の棒に鋭い石を括り付けた原始的な槍で、オークを牽制しながら逃げているけど、体格差が一目瞭然だった。
身長は1m程度で、しかも動きもどんくさいという、いかにも弱者。
たぶんゴブリンよりも弱いんじゃないかな?
それはシーズー犬が立ち上がって粗末な服を着たような姿をしていて、魔物というか……あれはぬいぐるみでは……?
うん、スター○ォーズにあんなのいたような気がする。
もしかして噂のコボルトって奴かな?
おいおい、反則だろ、あの可愛さは……!
状況によっては見捨てようと思っていたが、その選択肢は無くなったな……。
あ、オークがコボルトに追いつきそうだ。
急いで助けに入るか。
ただ、魔法だとコボルトを巻き込む可能性があるので、ここは直接攻撃だ。
「しっ!」
「ブモッ!?」
俺は背後からナイフでオークを斬りつける。
するとオークが振り返り、俺を睨みつけた。
……改めて相対すると、やっぱりでかいな……。
下手をすると、俺の倍近い背丈がある。
そんなオークは、手にしていた棍棒を、俺へと目掛けて振り下ろそうとしている。
よし、「見切り」のスキルがあるから、オークの動きは見えている。
あとは回避すればいいだけだ。
……あれ?
身体の動きが鈍い……?
もしかして、オークの迫力にすくんでいる……?
思えば、正面から戦うのは始めただぞ。
ちょっと緊張しすぎた!?
やばい……っ!
しかし焦れば焦るほど、動きが鈍くなっているように感じる。
このままでは、回避しきれない……っ!!
直後、俺は探索者になってから、最も大きなダメージを受けることとなった。
寒くて灯油の消費量が上がる……。




