面接と説明
「まず本人確認をするので、帽子を脱いでください」
「はい」
面接担当のお姉さんに促されて、俺は帽子を脱ぐ。
するとお姉さんは、帽子に隠されていた俺のネコミミを確認し、手にした書類と見比べた。
どうやら受付時に登録したマイナンバーカードの情報が、コピーされているらしい。
実際、カードと同じ俺の顔写真も、その書類には印刷されていた。
「はい、確かに。
国内の猫型獣人はまだ少ないので、その耳を見せれば本人確認はスムーズでしょうね」
だからこそ逆に目立ちすぎるのが、困るんだよなぁ……。
その後もお姉さんは、俺の情報を確認していく。
「それと……年齢は26…歳……。
間違いないですね?」
●:一瞬言葉に詰まったw
●:子供のような見た目なのに成人しているんだから、そりゃあ驚くよ
まあ、種族的にはあり得なくも無いし、顔に出さないのはさすがプロだけど
うん、今の俺の姿から、成人だと分かる人は殆どいないだろうな。
本当なら探索者の資格が取れるギリギリの15歳くらいに設定した方が、違和感は持たれないのかもしれない。
ただ、成人の方が都合がいい……と、女神レナは実年齢のままにしてくれたようだ。
実際、未成年だと色々と制限が付くし、今の神無月家には、俺の他には水杜の保護者ができる者っていないから、この方がありがたい。
「次に性別は……男性!?」
●:こっちはさすがに、顔どころか声にも出たかw
●:驚愕していて草
●:初見でナオ君の女装は、見抜けないわなwwww
「あ……失礼しました。
今は多様性の時代ですものね」
いや、好きでやっている訳じゃねぇっス。
「いえ、趣味じゃなくて、尻尾を隠そうとすると、どうしてもこういう服装になるだけです……」
胸がなぜかあるので、ブラは必要に迫られて付けているが……。
「あ……そういうことですか。
でも誤解を生みますので、トイレの際は多目的トイレを御使用ください」
「……そうします」
まあ、この格好で、男子トイレに入るのはな……。
そもそもトイレは、あまり行きたくない。
スカートだと、まだ手こずるのだ……。
●:面接官の人、顔がちょっと赤くなっていない?
●:こんな可愛い男の娘なら、飼いたい……とか思っているのかもしれん。
●:おねショタの匂いがする!
いや、たぶん俺の方が年上だが!?
それに、勝手に人の心を想像するのはやめなよ……。
いや、神々なら普通に心を読めるかもしれないが。
「はい、本人確認は問題なさそうですね。
稀にカードを偽装したり、成りすましをしようとする者もいるんですよ」
「今のやり取りだけで、見抜けるんですか?」
「このマイナンバーカードは、登録者本人が触れると所有しているスキルが自動的に登録されるようになっているんです。
そして私は、人のステータスを見破るスキルを持っています。
神無月さんは、異世界からの移住ということで、既にスキルを持っているから分かりやすいですよ。
普通はダンジョンに入ったことが無い人だと、スキルを持っていませんので。
稀に最初から持っている人もいますが、そういう人はプロ野球選手になるくらい稀有な才能を持つ天才がほとんどです」
なんと!?
もしかして「鑑定」というやつかな……?
たぶんスキルだけではなく、名前とかもカードと齟齬が無いか確認しているんだろうな……。
……あれ?
だとしたら、水杜はこの面接を受けるのはマズイかな?
ダンジョンに入ったことが無いはずなのに、多くのスキルを持っているし、戸籍はそのまんまなのに実際の種族は妖精になっているから、そういうのもばれてしまうかもしれない。
まあ、女神レナにまた戸籍を改竄してもらうという手もあるが、俺と妹の2人ともが異世界からの移住者……ということになったら、政府から監視されるような気がする。
確か異世界からの移住者ってだけでも、年に何回も収入などに関する書類を提出する義務があったはず……。
まあ、今の俺は神無月家の養子で国籍も日本という設定だから、もうちょっと扱いは緩くなると思うが、妹と2人とも──しかも違う種族が同居で、保護者と言える両親もすでに死去している……となると、話は違ってくるかもしれない。
何か犯罪的な目的で、他人同士が偽装家族として潜伏していると、勘繰られかねないもんなぁ。
●レナ:「能力隠蔽」という、ステータスを偽装するスキルもありますよ
たぶんカードに記録されたのもいけます
またポイントを使わせる気かよ!?
でも、これは仕方が無いか……?
たとえ探索者としてカードを使わなかったとしても、病院で使う保険証とか、別の場面で種族バレする可能性が出てくるからな……。
まあ、それは後で考えるとして……。
「カードが無いと、ダンジョンへ入る許可は下りないので、スキルの登録を回避するのは難しいですよ。
だからもし、ダンジョン外でスキルを悪用したら、すぐに特定されると思ってください」
と、お姉さん。
犯罪にどんなスキルが使用されたのか特定された場合、スキルを持つ登録者からリストアップされて容疑者になってしまうということか。
「だけどスキルの使用自体は、禁止されていないのですね?」
「ええ、自動車はかなり強力な凶器にもなりますが、自動車の運転しているだけでは罪にならないのと同じですね。
重大な事故を起こしたり、わざと人を傷つける目的で使って、初めて罪になります。
だけど自ら犯罪者になりたいという人は。決して多くはありません……。
ましてや、スキルを用いての犯罪に対する罰は、非常に重くなりますから。
からこそ、成り立っているようなものです」
なるほど……。
でも、海外で銃の所持が合法ではあるけど、たまに乱射事件が起こるのと同程度の危険性はあるのだろうな。
実際、スキルを悪用した事件のニュースはたまに見かける。
「それにスキルが無いと、生活に支障がある人もいますから」
それなぁ……。
特に水杜は、スキルが無いと生活がかなり不便になる。
ともかくそんな感じで、お姉さんから探索者についての決まり事の説明を色々と受けた。
「そんな訳で、基本的にはダンジョン内でのことは自己責任ですが、万が一に備えて生命保険に加入することを、強くオススメします。
ですが万が一が起こらないように、最低限の準備は怠らないようにした方がいいですね。
それでこの後、戦闘や魔法の講習が有料でありますが、受けられますか?」
「はい、魔法の方を受ける予定です」
俺、剣かとか使ったことが無いもん。
武器を持って魔物と戦うとか、ちょっと遠慮したい。
そもそもスカートをはいているから、あまり激しい動きはできないし。
ならば、遠距離から魔法で戦う……という方向で行きたい。
昨晩の地震に被災された方へ、お見舞い申し上げます。
私の方は、フィギュアがいくつか倒れた程度で済みましたが、311以来の長い揺れで怖かった……。




