探索者協会
翌朝、ニュースをチェックしながら、いつもよりも遅い朝食をとる。
「う~ん……バス事故のニュースは無いな……」
「私達も生き返っているし、無かったことになっているんじゃないの?」
と、妹の水杜。
そうかもしれないが、腑に落ちない。
それにあのバスには他にも乗客がいたから、確実に俺達兄妹と同じ境遇になった者達がいるはずだ。
全員生き返ったのか?
そして彼らも、配信することになったのだろうか……?
……機会があったら、女神レナに聞いてみよう。
それはさておき、久しぶりのゆっくりとした朝だ。
昨日あんなことがあったばかりだけど、ブラックな会社へ通勤しなくてもよくなったことだけは、心底ホッとしている。
お金が必要だからやっていただけで、何も楽しいことは無い仕事だった。
むしろ苦痛しか無かった。
だから人間関係も酷いもので、俺が急にいなくなっても心配する人間はいないだろう。
もし押しかけてこられても、この姿では会えないから、そういう意味では助かる……。
でも、俺がいないことで空いた仕事の穴を、どうやって埋めているのか、それはちょっと気になるところだ。
それでも会社から呼び出しの鬼電は無いし、女神レナが上手いこと縁を切ってくれたのだろう。
どうやったのか、具体的なことは分からないが。
さて、今日は昼から探索者協会へ行くことにする。
ダンジョンへ入る為には、協会に登録して資格を得なければならないからな。
運転免許と同じ国家資格だ。
そんな訳で、最寄りの探索者協会支部へと向かう。
なお、服装については、また女装だ。
一応、男物の服は昨日の店で買ったのだが、尻尾を隠そうとすると、どうしてもスカートとかに限られてしまう。
これが冬なら、男物の服の上にコートやワンピースを着て、人目が無くなったら脱ぐ……ということもできるのだが、今はまだ暑いし……。
あと、水杜の幻術は、まだ自分自身にかけるだけで精一杯らしい。
もうちょっと使いこなせるようになったら、俺の耳と尻尾も幻術で隠せるようになるのかもしれないが、妹に甘える訳にもいかんな……。
仕方がないので、パンツだけ男物にして、あとは女装だ。
中途半端に胸があるからブラもしているが、やっぱりいけないことをしている気分になってしまい、ちょっと挙動不審になってしまう。
……で、目的地に着いたので、配信を始めることにする。
「こんにちわ、ナオです。
今ボクは、探索者協会の前にいます。
ここで探索者の資格を得ますよ。
一応国家資格だけど、案外簡単に取れるそうです」
●レナ:来たー
●:始まった
●:今日も可愛いね 2000P
●ウルティマ:昨日はごちそうさまでした~!
初手から可愛いとか言うのは、恥ずかしいからやめてほしい……。
というか、前回よりも反応がいいな。
「おお?
いきなり昨日よりも、リスナーが多い感じですか?」
「500柱くらい来ているよ、お兄ちゃん」
と、水杜。
彼女の目を通して配信が行われるという仕様なので、閲覧者の人数とかも分かるらしい。
「500も!?
神様ってそんなにいるんだ!?」
●:まあ、八百万の神って言うし
●アイ:なんなら同一存在の分霊もいるし?
自作自演もし放題よね
●ナウーリャ:……せやな
ああ、あらゆるものに神様が宿っているって考え方だっけ。
なんならその辺の石ころにも。
ん~……だからこのリスナー達は、神様っていうほど高位の存在である印象が無く、なんとなく俗物的なところがあるのか。
どちらかというと、妖怪や精霊に近いような存在もいるんだろうな。
って……。
「え……?
つまり最終的にはリスナーが、数百万になる可能性もあるってこと……!?」
●:あり得るね
うわ……そう考えると、ちょっと緊張してくるなぁ……。
「それでは、手続きをしてきます。
状況によっては喋ることができません。
その辺はごめんなさい」
●:妹ちゃんは手続きしないの?
「水杜は後でですね。
どんなトラブルがあるのか分からないので、まずはボクが無事に手続きできるのか確認してからです。
あと、水杜も手続きしちゃうと、ボクの方を撮影できないので」
そんな訳で、水杜は幻術で姿を消しながら、俺の後ろについてくる。
まあ、この能力があれば、そもそも資格が無くてもダンジョンに入ることは可能だろうから、急いで手続きをする必要は無いのかもしれない。
ただ、資格が何かしら役に立つかもしれないので、後々取得させるだけはさせるが……。
で、探索者協会に入り──って、このまま行っていいのか?
「ところで今更なんだけど、撮影許可って必要なんですかね?
一応、国の機関なんだけど……」
●:人間のネットには流れない情報だし、問題ないと思う
●:基本的に人間には視聴できないし、撮影されていると認識することもできないしね
肖像権? 個人情報? 知らない子ですね……
……まあ、配信に映り込んだ情報を、人間に悪用される可能性は無いのだろうな。
ただ、神々が悪用するということが、無いとはいいきれない。
しかしそもそも神様ならば、俺の配信とか関係なく得られる情報だろうし、気にしても仕方が無いか……。
「そういうことなら……。
それじゃあ、まずはマイナンバーカードで受付けをするよ」
これでいちいち個人情報を受付け用紙に書いて、提出する必要は無くなる。
「ただしこの後、本人確認をする為に、係員との面談があるそうです」
●ナウーリャ:昭和や平成と比べて便利になったのかと思いきや、まだまだ旧態依然とした部分が残っているのですねぇ
「まあ、説明会も兼ねているらしいですし。
でも、審査が無事に通ったら、このマイナンバーカードがそのまま資格証になるらしいので、昔から比べたら手続きは簡単になったそうですよ」
●ナウーリャ:ああ、運転免許証とか、毎回顔写真を撮影しなければならなかったものねぇ
●アイ:ああ、確かに
なんだその、免許の更新経験があるんのような感想は?
どこからそういう情報を仕入れているんだろうな、マジで……。
それから受付けで手数料を払い、待合室で少し待つ。
そして名前を呼ばれたら、面接がある個室へと案内された。
「よろしくお願いします」
「神無月ナオさんですね。
席にお座りください」
面接担当は、OL風の綺麗なお姉さんだった。
眼鏡が知的な雰囲気を醸し出している。
まあお姉さんとは言っても、俺よりも年下だと思うが。
こんな美人と2人きりとか、ちょっと緊張するね。
いや、実際には、幻術で姿を消している水杜もついてきているから、2人きりじゃないんだけどさ……。
それどころか神々が盗み見ているのだから、よく考えたら凄い状況だな……。
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あと、目が不調……。




