プロローグ~特別配信
新作です。
今日はいつもと違う客層に対して、配信をする日だ。
常連達が「人間達の反応がどうなるのか見てみたい」というので……。
正直言って、気は進まない。
俺の痴態を全世界へと、公開するようなものだからな……。
……いや、今更か。
●:なにここ?
●:適当に動画を漁っていたら辿り着いたんだけど……
●:投稿者のアカウント情報が分からんな 名前すらも
●:なんか視聴とチャット以外のことは何もできないっぽいぞ
●:あとは画面のサイズ変更くらいだな
●:どういうこと?
●:なんかウィルスとか仕込まれているとか?
●:退散した方がいいかな?
あ~……リスナーも集まってきたな。
そしてこの配信の胡散臭さからか、このままだとリスナーが逃げる。
はあ……そろそろ覚悟を決めて始めようか。
「こんにゃにゃー!
ようこそボクの攻略配信へ!」
●:お、始まった
●:は? めっちゃ可愛い子なんだが?
●:ニーハイソックス良き
●:ってか、猫耳!?
●レナ:かわヨ
●:猫型獣人か
●:猫さんですねぇ!?
●:猫型獣人って身体が小さいから小中学生に見えるけど、もう成人しているのかな?
●:獣人の人って機械に弱いから、配信している人はほとんどいないって聞いたけど
●:格好も魔法少女って感じだだよな
●:獣人って魔法適正が低いよな?
例外はいるけど
違和感を口にする者がいるけど、俺は元々獣人じゃないから人並みに機械も魔法も使える。
異世界から来た獣人達とは違い、生まれも育ちも本当は地球だもん。
だが、そんな事情はここでは話せないけどな。
●:なんてお名前?
あっ……しまった。
「普段は本名でやっているから、考えて無かったにゃ」
●:本名!?
●:特定されたらプライベートがヤバくない?
「普段は特殊な配信だから大丈夫にゃん」
むしろ常連にはプライベートが駄々洩れな気がする……。
●:特殊って何……?
それを答える訳にはいかないなぁ。
「名前は好きなように呼んでにゃ。
それよりもボクの冒険を見てほしいにゃん。
これから魔物と戦うよー!」
俺がいつもやっているのは、主に魔物との戦いの様子を見せることだ。
なんでそんなことをしてるかって?
それは当然メリットがあるからだ。
そう、リスナーを喜ばせると、色々な用途に使えるポイントを貰える。
ただしこのポイントは、普通のネット配信とは無関係で、現実社会では使えないものだけどな。
それでもこのポイントは、俺の平凡な人生を取り戻す上では、絶対に不可欠なものだった。
●:ん……? でも冒険って、今映っているのは屋外じゃね?
●:ダンジョンじゃないよね?
●:魔物って、ダンジョンの中にしかいないはずじゃ……
●:屋外のように見えるフィールドなんてあったか?
●:いや……もしかして異世界?
●:異世界ってダンジョンの向こう側にあるという!?
●:まだ異世界からの生配信って、成功してなかったんじゃ!?
●:確かに異世界なら普通に魔物はいるって聞くけど、まさか……
おお、リスナーがざわついているな。
確かにここは異世界だ。
15年ほど前、世界中に出現したダンジョンを通じて地球と繋がったんだよな。
原因は不明だとされているけど、たぶん常連どもの中の誰かが、悪ふざけをした結果なのだろう。
あいつらはそういうことをする。
で、異世界側から地球への移住者は多少現れたが、地球側から異世界に行った者はあまりいないらしい。
各国の政府が送り込んだ関係者くらい?
何故ならばダンジョン内で生息する魔物が強く、しかも何故かダンジョン内では地球の近代兵器など文明の利器があまり使えないもんだから、異世界人の護衛がいないと向こう側まではなかなか到達できないって話だった。
だから異世界の方では地球の技術は殆ど普及していないし、通信設備も無いから配信も地球へは本来は届かない。
最近になって国家や大企業が新しい技術を確立し、異世界に拠点やら設備やらを構築し始めたけど、それらは一般人が利用できるものではない。
だからわざわざ異世界まで行って、配信しているような一般人はいない……というかできないのだ。
俺以外は。
●:って、ソロで魔物と戦う気?
●:ダンジョンって、奥へ行くほど魔物が強くなるじゃん
●:つまりダンジョンの奥にある異世界の魔物は、かなり強いんじゃ……
「大丈夫にゃん。
異世界でも地域によっては、ゴブリンとか弱い奴しかいないから」
●:じゃあ大丈夫か……
●:大丈夫か? 本当に? あんな小さな子だぞ?
●:そもそもマジで異世界って前提で話が進んでいるんだけど……本当に異世界なのか?
●:分からん……というか画面の奥の方に見えてるのはドラゴンじゃね?
●:は?
●:へ?
●:それってレイドボス級モンスターでは?
●:数十人単位のパーティーで相手しなきゃいけない奴だよな?
●:こっちに向かってくる……
●:でっか!?
●:逃げて猫ちゃん!!
●:あ、ブレスを吐こうとしてる!?
●:死ぬ! 死ぬって!!
リスナー達が騒いでいる間に、ドラゴンが俺目掛けて炎を吐きかけてきた。
いや、炎というかビームだな。
まともに直撃したら、人間どころか小さなビルでも消滅するくらいの威力はあるだろう。
だが、俺には通用しない。
「これくらいなら大丈夫にゃ!」
俺は持っていた杖(ちょっと女児向け魔法少女アニメのそれっぽい仕様)で、ビームを野球ボールのごとく打ち返した。
うん、上手くドラゴンに直撃したな。
●:うん?
●:へほ?
●:ほぉーむらん?
●:反射だと……!?
●:なんぞこれ?
困惑するリスナー達だが、バトルはまだ続くぞ。
ストックが尽きるまで、なるべく毎日更新します。




