トラック運転手は悪くない
どなたかの作品で、モブのトラック運転手が「異世界転生のためにトラックにひかれるの、勘弁してほしい」とおっしゃっていました。そりゃ、そうだよなーというところから書き始めました。
(交通事故の描写があるため、R15とします)
「うおおおおお!? おい、バカやめろ止まれえええええええ!!」
悲鳴とともにブレーキが鳴き、タイヤの焦げた匂いがして、トラックは横滑りした。
なんとか飛び出してきた少女を避けられたと思った瞬間――
ガッシャァァアアアン!!
鉄とガラスの凄まじい音。それから、意識は闇に沈んだ。
「……気がついた?」
頭に冷たい感触。なぜか大理石のような、平らに研磨された石の上にいる。
アスファルトじゃなく、トラックの中でもない。病院でもない。
……いや、いやいや待て待て、どこだここ!?
「お、おい、俺は……人をひきかけて……うわ!?」
顔をのぞきこんできたのは、黒髪黒目の女子高生。
「大丈夫そうね。よかったわ。……で?」
「……で?」
「なんであんたが来てんのよ!? おかしいでしょ!? 転生するのは私だったのよ! なんであんたみたいなおっさんが召喚に巻き込まれてんのよ!」
「おっ、おっさん!? トラックの運転手に年齢制限はねぇよ! というか……お前、信号も見ずに飛び出しただろ!! あれじゃ避けきれねぇって!」
「そ、それは……だって、トラックにひかれたら異世界転生するって、そういうルールだって聞いたもん!」
「誰だそんなルール教えたのは!? バラエティじゃねぇんだぞ!」
「え、でもそれで逆ハーレム作ってチート能力手に入れて……そういう流れじゃん……」
泣きそうな顔で、彼女はつぶやいた。ああ、いる。こういう「自分を主人公だと思ってる系ヒロイン」。
結論から言やぁ、飛び出してきた相手に過失があって、こっちが法定速度守ってたから――俺に刑事罰はつかねぇかもしれない。
けどな、それでも事情聴取は受けるし、トラックぶっ壊してりゃ会社の損失だ。場合によっちゃクビだし、業界に名前回ったら再就職も苦労する。
「悪くない」って判定されても、仕事中の事故はな、心にも財布にも傷が残るんだよ。
「……で、何? 召喚のためにお前をひきそうになって、俺まで召喚されちまったってことか?」
「そうよ! 神様が『あなたの命を守った者に譲りなさい』って! そんなの聞いてない!」
「ああ!? お前が勝手に飛び出してきたんだろ!?」
「私の異世界人生がああああ!!」
彼女は地面に突っ伏して泣き出した。なんという理不尽。むしろこっちが泣きたい。
「で……俺は? 今からどうすりゃいいんだ?」
召喚陣らしき円の上に転がっていた俺の体を、ひとりの神官っぽい男が見下ろした。
「どうやら、勇者召喚の枠はこの方に移ったようです」
「待って!? 勇者って言った!? 無理だって、俺トラックの運転しかできないから!」
「荷物を運ぶ勇者、というのも新しいかもしれませんね」
「フォローになってねぇよ!」
ちなみに、一度死んだ俺は緑の髪の青年に転生して召喚され、生きていた少女はそのままの容姿で召喚されている。
鏡を見て、マジびっくりしたわ。
召喚から三日。
俺はこの国の王様と謁見し、ステータスを測られ、「筋力S・耐久S・幸運E」という謎の診断を受け、なぜか馬車ではなく荷車を支給された。
「・・・なぜ荷車・・・」
「それでも私よりマシじゃない!」
例の少女――名は桜と言うらしい――は、俺の後ろで未練たっぷりに叫んだ。
「私、魔力F・魅力D・存在価値『召喚の媒介』って出たのよ!? どうしてこんな仕打ちなの!?」
「そりゃ、自分の命をゲームみたいに使おうとした罰じゃねぇの?」
「ぐ……正論だけど、むかつく……」
くそ、次のボーナスでデコトラに手が届きそうだったのに。
今は燃料代も高けりゃ、運送業もギリギリで走ってる。デコトラに金かける余裕なんて、なかなかない。
それに、派手なのは「社用車ではNG」って会社も増えてるから、調べまくって田舎の「社用車OK」の会社を探したんだ。
じいちゃんみたいにド派手なのは無理だけど、ちょこっとペイントするくらいの金は貯まりつつあったんだ。
こっちにペンキとか塗料とかあんのかな。
・・・で、神絵師はいらっしゃるのか?
この荷車を相棒に認定し、デコるのを目標にしようとしたときに、この問題に直面した。
やがて、俺は「運搬勇者」として街道を走り、荷物を届ける任務につくようになった。
意外とやりがいはある。
モンスターもスコップでしばけば何とかなるし、何より「ありがとう」と言われるのは気分がいい。
そして、行く先々で絵の上手な人の情報を集めていこうと、心に決めた。
そんな噂を聞きつけて、神殿の壁画を描いているという青年が名乗りを上げる。
神様の絵を描こうとするから全力でお断りした。
こんな目に遭わされて、信仰する気なんか起きないわ。
……そして今日も。
「桜! 荷台に乗ってんじゃねぇ! 重いんだよ!」
「いーじゃん、元は私の異世界人生だったんだから!」
「神様に譲れって言われたんだろうが? なに寝ぼけたこと言ってんだ、こら!」
こうして、「トラックにひかれかけた少女と、代わりに異世界に来てしまったおっさん勇者」の奇妙な二人旅は続くのだった。
トラックの描写など、生成AIを利用して書いた部分があります。
運転手さんの現状と違うなどの情報がありましたら、柔らかめの言葉で教えていただけると嬉しいです。
メンタル弱めなので(汗)