第8話:屈辱...
数日後:
「きゃあああ――――――!!!助けて――――――――――!!!」
「グロオオ―――――――――――――!!!」
森の中で、一人の濃い褐色肌を持っている少女が虎のような2本の角が頭の頂点についてる魔物に追われてるー!
それを直ぐに!
「『総炎斬』!」
ブワアア――――――――――!!!
激烈な炎が蛇のようにしなってる尾が纏われてる大剣によって、両断された後はあっという間に跡形もなく燃やし尽くされたー!
......................
「えへへ、やっぱりお兄ちゃんは強いね~」
「『焔術師(アラル=パィダー・イナ)』だからなぁ、俺は......。これぐらいへっちゃらだぞ?」
10代後半らしき少女の前には、一人の少年が立っていた!
先ほど燃えていた大剣も持っているが、既に後ろの巨大な鞘の中に納まっていて、炎も出なくなった。
そして、少女よりも黒い肌を持っている彼は、小さなアフロヘアを頭に生えている様子だ!
「オバシ兄ちゃんは、将来は軍に所属して『焔術使い部隊』の『焔術師長(アラル=パィダー・イナ・オロリエグベ)』になるつもりー?」
「うん。俺達の母なる大地、アシェンダル王国のために、皆を護るんだ!守護者として!」
「ふふふ、やっぱりお兄ちゃんは皆の頼りになってくれる存在ね~?でも......」
「...でも?」
少女の顔が急に曇ってる表情になると、つられて少年も心配するように暗くなり、原因を聞こうとするとー
「......いつか、青白き神々によって、『全てが滅ぼされる』...」
(—!?)
「はああああ―――――――――――――!!?」
まるで深い眠りに叩き起こされたように、俺は急な異変を少女のその謎の言葉から感じ取り、ついに夢から目が覚めた――――!
「はぁあーはぁあ...、はぁあーはぁあ...」
...またあの夢だー!
この『ヴィンテルガルデ王国』に捕虜として連れてこられる前に、祖国では軍の『諜報部隊』に勤めていた小隊長の一人だったが、魔法はからっきしだった。......確かに、今の俺は34歳だが、2年前から以前の自身に関する思いでも情報も何も持ってなくて、『記憶喪失』を患ってることは疑いようにない事実だ......
でも、あんな夢を何十回も見てきた以上、やっぱり、......少年時代の俺は、紛れもなく、...焔術使いだった!
どういうことか、その素質も能力も今の俺には綺麗さっぱりといえる程になくなり、記憶喪失に関わる重大な何かを過去に経験していた俺だったはずが、なんでか同僚に訪ねたりして記録書を漁っていた時も昔の俺に関する情報は皆無だ!
でも......
「......過去のことを考えていても仕方ないかぁー」
今の俺は、どうにかしてこんな歪んだ主従関係の中から脱出して、檻の中の鳥であるこの絶望的な状況から抜け出す必要があるー!
「過去の俺について調べるにしても、このヴィンテルガルデ王国に対しての『反逆罪』で問われている俺の身の潔白さを証明するためにも、......まずはシルヴィアーヌを打ち倒せる程に強くなって、彼女と対等な戦士になってからが明白だ......」
実際に、俺はただ、祖国を裏切った軍の内通者がヴィンテルガルデと結託するか、調べるために総督の屋敷に侵入し、書物を漁っていただけで、別に占領軍として『ヴィンテルガルデ領アシェンダル』に駐屯してきた王国軍の総司令官、総督のマティアス卿を暗殺しにきたり、打倒するために押し入った訳じゃなかった。
「まあ、過ぎたことを考えていても仕方ないな。早く起きないと、日も昇らない内にいつか呼び出しを喰らわないとも限らないしなぁ......」
あの狂女のことだ!
突拍子もない理由で御前5:00時になる前にたたき起こされる可能性もないとは言い切れない!
俺がどうやって焔術使いの力を失ったか、あの女を倒してからじゃないと、いつまで経っても突き止める術を持たないままだー!
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...............
朝日が地平線に顔を出すか出さないかという頃、またも呼び出された!
「......畜生ー!まだ御前6時55分なのに一体何だったんだ、くそ!」
懲罰室のような冷たい石の部屋。高い天井に囲まれたその空間の中央に、シルヴィアーヌ・フォン・ファルケンハインが椅子に腰掛けていた。まるで罪人を裁く女王のように。
「......」
最初、あいつは俺を見ようともしなかった。
俺は黙って立った。背筋を伸ばしながらも、内心では身構えてた。
「訓練中、私の命令に背いたわね」
ようやく視線が刺さってきたー!
「許可を出す前に動いた。考えた。予測した。...先日の試合で、私の身体に一度だけ剣筋が届くからって、それ以降の毎日の訓練は生意気な態度が出るようになってきているけれど、それで私に勝ったつもりー?」
「そんなつもりじゃ――」
「黙りなさい!」
ずいー
足を組み替える音。黒いレザーブーツのヒールが、稽古場の土埃をまとってもなお光ってた。
「ぎりーっ!」
俺の奥歯がきしむ。前回の稽古以来、張り詰めてた空気は今や刃物のように鋭いー!
「...跪きなさい」
「......」
俺は動かなかった。
「跪け、と言ってるのよー!」
声が冷鉄に変わった!
「......(このクソ女がー!いつか目にものを見せてやらぁー!)」
……仕方なく、跪いた。
舌の奥に溜まった言葉を噛み殺しながら...
三十代にもなって、ガキの前で膝をつくとかー!
皮膚の下で火が走るみたいに屈辱感で全身が燃えている感覚だー!
「もっと低くなりなさい。自分が何なのか、身体で覚えるのよー」
シルヴィアーヌは足を伸ばし、ブーツの裏を俺の顔の前に突き出した――!
乾いた泥、松明の灰がついてる――!
「身の程を越えたいなら、いいでしょう。でもその前に――、私の靴底を舐めなさいー」
「.........は?」
息が詰まる。
.........
「...は? 今、......何だってー?」
「あら、聞こえなかったの? 舌を使って靴底を舐めなさい、と言ってるのよー?汚れの隅々まで綺麗にするの」
「.........」
……静寂が突き刺さる。
怒り、屈辱、信じられないって気持ちが頭の中で渦巻いた......
だけど、あいつ目は冷たすぎるブレなかった。たとえ口元が侮蔑に満ちているような冷笑を浮かべていても快楽だけのためにやらせてる訳じゃない事は分かる!
......自分の事を試してるんだ。俺の覚悟と精神力がどれ程のものかを――!
「...はい、シルヴィアーヌ...様...」
拒否することもできた。罰を受けてもいい。
だけど――この瞬間、こいつは「確認」したがってるだけー!
まだ、俺より上に立ってるって――!
……チクショウ。
俺は顔を近づけた。
「...レロ~。......れろれろ~、れろっ~(くっさいー!このアマがー!)」
臭いだけじゃなくて苦いー!
乾いた革と土の味ー!
喉が焼けるような嫌悪感ー!
「れろれろ~、れろ...」
でも手は震えなかった。
弱さじゃない。
心の中で戦ってた。
プライドが叫んでた。
でも理性が抑え込んだ。
「レロレロレロ、れろ......」
泥臭くて味がマズイー!でもー!
「...もういいわ」
ようやく、あいつはブーツを引いた!まるで何もなかったような仕草で。
「...明日も中庭へ訓練に参加してきなさい」
そう言って、くるりと背を向け、マントを翻して部屋を出ていった彼女ー!
「......くそ......」
俺は膝をついたまま、冷たい床を睨みつけてた。恥ずかしさ。怒り。混乱。
でもー!
「絶対に、お前のようなクソ女のために流す涙は一滴もないと知れー!」
毅然とした態度で胸の奥に詰まっている虚しさと、どうしようもない惨めさと絶望感、屈辱感すべてに苛まれていようとも、鋼の精神で何をされても辛く感じる悲壮感が原因で、絶対に感情に押し流されて泣く事だけはしないつもりだー!
「あんたにそんな満足感は与えねえ―!」
……けど、あの時見たあいつの目――ただの残酷さじゃない。
あれは、......怖がっていたような目だ。
...何を? ...俺にか?
......それとも――別の何かが?
.........................