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第20話:勝利の味、そしてハチミツ

翌日:


朝日が騎士団塔の大広間に差し込み、石床の上に金の筋を描いていた。昨日、決闘には勝った。


兵士たちは歓声を上げ、貴族たちでさえ渋々ながら頷く。俺の名前は、新たな意味をもってささやかれるようになっていた。


だが、そんな中――姿を見せない一人の人物がいた。


...シルヴィアーヌだ。


昨日、あの「ふ、ふんっ!」と顔を赤らめて去ってから、ぱったり姿を消した。そして今朝、彼女からの伝言が届いた――「庭園回廊まで来い。ひとりで」とー!


言われた場所に行くと、彼女はすでに待っていた。


大理石の東屋の下で、腕を組み、足を組み替えながら小さく靴音を鳴らしていた。傍らの盆の上には、小さな木製の器が一つ。


「...シルヴィアーヌ嬢、お呼びとのことでしたが」

...一応、彼女も俺を騎士として公平に扱ってくれるという事で、俺も彼女を主人と敬うことにして、やっと敬語で接することにした。...本来は逆の展開だったけど、あ~はははは......


「こ、こほんッ!」

俺がそう言うと、彼女は軽く咳払いをして、視線を器へ、そして俺へと移した。


「……ええ。呼んだのよ」

そっけない口調。でも、どこか落ち着かない様子だった。


「少し……反省していたの...」


「何についてですか?」俺は首を少し傾げた。


彼女はゆっくりと歩み寄り、器を手に取った。


中には、まだ温もりを残す黄金色の粘液――野生のハチミツだ。この地方では滅多に手に入らない高級品。


「二週間前のことだけど……」

彼女は俺を見ずに話し出した。

「私は、お前に私のブーツを舐めるよう命じた。...靴底まで、ね...」


「覚えてますよ、あ~はははぁ......」俺は乾いた声で答えた。


彼女はピシャリと睨んできた。

「途中で口を挟まないで!」


深く息を吸って、再び言葉を紡ぐ。


「……あれは主人として、規律を徹底させるためだった。......でも……間違いとは言わないけど……少し……常識の範囲を越えていたかもしれないと、...今は思ってる(実際にこういう肌色してる外国人の従者は初めてだから、少し興奮して彼を屈辱感にまみれた顔を見たくて、ちょっとドSになっちゃってたの自覚してるし、うぅぅ...)」


「それは随分と遠回しな言い方ですね」


「口を挟むなって言ったでしょ~!」


頬を少し染めた彼女は、器に指を突っ込んでハチミツをすくい、俺の前まで歩いてきた!


「私は貴族よ」

まるで自分に言い聞かせるような声。


挿絵(By みてみん)


「貴族は……普通のやり方で謝ったりしない」


俺が何かを言おうとしたが、彼女の方が早かった。

一歩、さらに近づいてくる!


息づかいが感じられるほどに。


「だから……」

彼女の声が微かに震える。

「せめてもの償いとして……あなたの“穢された舌”を、...癒してあげるわ!」


挿絵(By みてみん)


その瞬間、彼女のハチミツまみれの指が、そっと俺の下唇に触れた――!


「...口を開けなさいィ...」

その声は、普段の命令口調とは違って――どこか、憂いと心配が混じってるような『命令口調らしきもので』何故か声色の響きがちょっと優しかったって感じる。


俺は一瞬きょとんとしたが、逆らう理由もない。


ゆっくりと口を開くと、彼女はまるで儀式でもするかのように丁寧に、ハチミツを俺の舌の中央へ落とした―――!?


「……これでよし」彼女は言った。

「泥や革の味ではなく、これがお前の舌に残るべきだった味よ。これは……補償と思いなさい」


俺は舌で甘みを転がしながら、微笑んだ。


「……美味いですね。少なくとも泥よりは」


彼女はくるりと背を向けた。顔を真っ赤にして。


「べ、別に愛情でやってるわけじゃないわよ!? お前が決闘に勝ったから、その報酬としてよ! それだけ感謝しなさい! これでも私は、かなり個人的な施しをしてあげてるのよっ!」


「はい、レディ・シルヴィアーヌ。とても光栄です」


「そ、それにっ!」

彼女はくるりと振り返り、指を突きつけてきた。


「勘違いしないでよねっ! あなたを対等だなんて思ってないし、好意なんてこれっぽっちもないんだから! あなたは部下よ! 『優秀』だけど、あくまで私の下での『優秀な側づかい騎士』よー!」


俺は少しだけ顔を近づけ、わざと低く、からかうように囁いた。


「もちろんです。あくまで部下――、今では手ずから餌付けまでしてくれる、...ね?」


「な、な、なっ……!」


彼女は足をバンッと踏み鳴らし、ついに声が裏返った。


「調子に乗るなぁーっ! ふ、ふんっ!」


「ぷ~!あははははは~!」

その反応があまりにも可笑しくて、俺はつい笑ってしまった。

声が石柱に響く。


柱の陰から、小さなささやき声が聞こえてくる。


「完全に手懐けてるじゃない……」

アデルの囁き。


「それとも……恋してるのかもね」

ロザリー嬢がにやりと笑う。


シルヴィアーヌに戻ると、シルヴィアーヌ嬢はまるで石像のように固まっていた。顔を赤くしながら、腕を組み、最後の威厳を必死に保とうとしていた。


「……次は……スプーンを使うんだからね……」


「はい、...お嬢様」

俺もつられて、初めてこの可愛い貴族令嬢に向かって、好感が持てるような感情を露わにしながら彼女に向かって心の底から主人と認めてやるための対等な騎士からの恭しいお辞儀をした!

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