第18話:炎と氷の対決:目覚めるオバシの真の力!
試合が続いてきて20分も経つと:
「ううおおおおお――――――――――――!!いいぞあの二人―!」
「『氷の最速剣女』のシルヴィアーヌ嬢とあそこまで長く戦えた男は初めて見たー!」
「もっとやれー!オバシ―――!!」
「シルヴィアーヌ嬢も負けないで下さいまし―!きゃああああ――――――――!!」
「そうよ~!あんな変な石炭みたいな肌してる外国人なんてやっちゃってください、シルヴィアーヌ様~!」
観客の歓声が、耳をつんざくほどの轟音となってアリーナを包んでいた!
貴族たちも騎士たちも立ち上がり、息を呑んで見守る中、俺とシルヴィアーヌは再び対峙した。
「「はぁあー、はぁあー、はぁあー、はぁあー、...」」
幾度となく交わしてきた剣戟の後、お互いに息も絶え絶え。...でも、どちらも膝をつこうとはしなかった!
「まだだわ!」
張り詰めた空気が、炎のように熱を帯びて揺れている。
シルヴィアーヌが細身のレイピアを高々と掲げた。茶髪が風になびき、鋭い氷のような視線が俺を貫く。
「粘るわね、オバシ!...本当に、初めてお前に対して感心することになったわ。でも──!」
彼女は息を整え、口元に笑みを浮かべた。
「...まだまだ本当の私の全力を見てないでしょー?」
「―!?」
その言葉と共に一歩下がった瞬間──空気が凍りついた!
びゅう―――――――――――!!!
吹きすさぶ冷風。彼女の足元から白い霜が伸びていき、死の花のように舞台を飾っていく!
「見せてあげるわ、オバシ。私の奥義──《氷棘の円舞》をよー!」
パチ――――――!
レイピアが輝いた!
刀身が青白い魔力に包まれ、氷の棘のように鋭く煌めいたかと思うと──!
タ――――――――――――――――!!
彼女が跳ねた!
氷の残滓を残しながら疾走し、レイピアを振るたびに氷の槍が地面から噴き上がる。
カチャ―――――――――――――!!
「ー!?」
一発目、俺は当たらないように後ろへ飛び退いた――!
カチッ―――――――――――――!!
「くそ!」
二発目、後方から飛び出す氷柱を転がって避ける。卑怯だぞー!後ろからなんて!
「ふふ、踊りは得意なのね~?」
冷たい吐息を漏らしながら、彼女は余裕を見せる。
「でもこの舞台はもう私のものよ。お前はただの客人か、手の中に踊るマリオネットだけだわ──!そのうち氷に呑まれて終わりよー?」
「うぅ...ぐッ!」
息が白く凍る。筋肉は動きづらくなり、肺が冷気に焼かれる。
...俺の周囲を氷が包囲していく!
逃げ道はない──!
「...畜生...」
氷で挑んでくるなら──!炎で切り拓くしかない―――!
あの時の夢の記憶も鮮明に思い出せるんだからな!
ドクンドクンー!
心臓がドクンと鳴った。
あの夢が脳裏をよぎる。焼け焦げた灰の大地。燃え上がる森。そして──炎をまとった女が、俺に囁いた。
『お前の中の火は、もう眠ってなどいない。使うか──焼き尽くされるかのどっちかだ』
「なにー!?」
俺は手を見つめた。震えていたが、その奥に熱を感じた。
意識を集中する──脈が、何か深い力と共鳴する。
血が、熱くなる。
──そして!
ボッ!
右手から炎が噴き出した。足元の氷が蒸発する。体が再び自由に動く!
今まさに、夢の中に見ていたあの瞬間がー!現実世界のここでも再現されるー!
俺の手に右手によって!
「「「「「「「ううおおおお―――――――――――!!?シルヴィアーヌ嬢の氷に対抗できる炎の魔法ー!?あの男が―――――――――!?」」」」」」」
観客から、驚きの声が上がる。
シルヴィアーヌも目を見開き、驚愕を露わにする。
「まさか……あなた、本当に焔術の魔法をー!?」
俺は静かに立ち上がる。右腕を這うように、金色の炎が揺らめいている。
「知らなかったんだ。でも今、微かだが少しは思い出したんだ。俺が何者なのかを──!」
両手を掲げ、俺は呪文を唱える。
「《炎障壁》!」
炎の幕が広がり、迫り来る氷の槍を蒸気へと変える。氷と炎が衝突し、蒸気が立ち上る!
「~!?」
シルヴィアーヌの頬が赤らむ。それは羞恥ではなく、興奮の色だった――!
「やっぱり隠してたのね……面白いじゃない~!」
面白いかどうか、俺がー!決めるッ!そこだ――――――――――!!」
俺は虚勢を張らず、剣を握りしめて素早く彼女のいるあそこへ駆けていき踏み込む!
「やってみなさいー!オバシ―――――――!!」
彼女も応じた。剣先が氷を纏い、俺の剣が紅く熱を放つ。
バチィィ―――――――――――――――――――――!!!
中心で激突!
火花が散り、霧のような蒸気が周囲を覆う!
観客にはもう戦況が見えない。だが、金属のぶつかる音だけが、戦いのリズムを奏でていた!
「強いな、シルヴィアーヌ……」
剣を交えながら、俺は言った。
俺に色んな屈辱的な命令をしてきた憎き女だったのに、こうも強いと尊敬するしかあるまい!
「でも絶対に負けられないぞ!ここまで来て──!負けるわけにはいかないんだ――――――!」
「なら来なさい!」
彼女の瞳が、氷の輝きを増す。
「お前の炎が、私の凍てつく嵐を凌げるか、見せてもらうわ!」
シルヴィアーヌが宙に舞い、天を指差す。
「《氷天槍陣:百牙の降槍》―――――!!」
空が割れ、無数の氷の槍が降り注ぐ。その一本一本が、鋼鉄すら貫く鋭さだ―――!!
「くッ~!なら俺も全力を出すまでだ――――!!」
俺は両手を掲げ、全ての力を解放した――!
「無数の氷の槍が降ってきたら──、焼き払うまでの事ー!《焔魂爆裂:インフェルノ・バースト》――――!!!」
咆哮と共に炎が塔のようにいくつも俺の周囲を囲むここら辺の地面から噴き上がる!降り注ぐ氷槍を蒸発させ、紅蓮のライオンの姿を描く──天を仰ぎ、吠えている!
バシャバシャー!すうぅぅ―――――!!
バシャバシャー!すうぅぅ―――――!!
俺の放った全ての炎の塔が、彼女の必殺技で降り注いできた全ての氷槍を蒸発させた―――!
.................
それから、俺達は幾度なくその応酬を続けていた!
彼女が氷の槍をまたも空から召喚しては降り注がせてきたのだけれど、それを俺の《焔魂爆裂》で何度も迎え撃った!
「はぁはぁ...」
「ふぅーはぁ...]
互いに限界!
汗と蒸気が肌にまとわりつき、視線が交差する。
最後の一撃で、全てを決める!
「...ふぅふぅ!...さっきの私の『螺旋貫突刃』でなにも反応できなかったようだけれど、魔力同士の衝突だけなら私にも対抗できる力を持っているのは嬉しい誤算だわ。―でもッ!」
カ――――――――――!!
シルヴィアーヌが最後の氷の魔力を刃に宿し、突進する――!!
「《氷刃突貫走嵐(アイスブレイド・トラスティング=チャージ)》――――――――!!」
「スピードではまだ私の方に分があるはずよー!」
「だから何度も言わせるなー!分があるかどうか俺自身が決めるんだってー!」
ター――――――――――!!
俺もまた、炎の軌跡を残しながら走る――!!
「「はああああ――――(やあああ――――)!!!」」
バコオ――――――――――――――――――――!!!!
激突──!刃と刃が――――!
俺の炎に包まれてるバスタードソードとシルヴィアーヌの氷に纏われてるレイピアが―――!!
..........................................
──静寂。
一瞬が、永遠のように伸びた。
カランッ!
シルヴィアーヌのレイピアが宙を舞い、地に落ちる――!!
「...うそ...」
彼女は驚いた顔で立ち尽くす。
肩で息をしながら、冷や汗と氷の結晶が頬を飾る様子だ......
俺の剣は、彼女の喉元には届いたんだけど──、
バタ―――!!
戦意を失ったような虚ろな目を浮かべた彼女が、声も出せずにバタっと女の子座りのように座り込んで放心した状態になってる様子なので、俺も突き付けていた剣を直ぐ静かに下ろした――!
どちらにしろ、お互いもへとへとだし魔力もどっちも残ってないので、先に戦意を失いそうな彼女ほ方が負けを認めるも同然な状態だ!
それを審判の人も分かってるらしくてー、
「9-!10-!10まで数えてもファルケンハイン選手は起き上がらずに戦う意志を示さないままだー!この決闘の勝者―!オバシ・エングジャだあ―――――!!」
観客は息を呑んで沈黙していたが──、やがて、ひとりが拍手を始めた!
パチパチ―!
次いで、もうひとり!
パチパチパチパチ――!!
そして……歓声が、アリーナを揺らした―――!!
「「「「「「「ううおおおおおおおお――――――――――――!!!ついにあの氷の令嬢を打ち破れた強者の誕生だ――――――――!!」」」」」」」
「「「そ、そんな~~!シルヴィアーヌ様が負けるわけがぁ~~!」」」
まあ、俺の勝利を祝う同性の野郎共と違って、女観客の大勢があの女のために嘆いたり悲しんだりしてるけど......
...........................................
それから......
「.........」
シルヴィアーヌはいつか放心状態から回復した後に起き上がってきて、しばらく黙って俺を見つめていた。
......やがて──、...微笑んだ――!
本当に、心からの笑顔だ!
「……よくやったわ。想像以上に、強くなったのね。...あの炎……ただの魔法じゃないわよね?」
俺は剣を納めながら、肩で息をしつつ応えた。
「...ああ。あれは……『お前に教わったすべてによるものだ』。屈辱感も絶望感も無力感も......。...全てが一つひとつのスパイスと刺激になって、どうやって俺の惨めだった境遇から這い上がれる道筋を見つけ出せるか、そのどうしようもなく猛烈な欲求こそが俺をここまで強くさせてきたんだ。そして……守りたいものもあって、結局は全部の俺の中の想いが、こういう結末へ導いてくれたんだ...」
..........................
静けさが舞台を包む。
その時、彼女が一歩近づき──冷たい手を、そっと俺の頬に添えた――――!!??
その手は優しくて、どこか切なかった―――!!
「もう、私の下僕から卒業した気になったのね...」
囁くような声だった。
「...ああ。...最初からあんたの足元にひれ伏すなんて事はしたく無かったんだ。...誇り高き『焔術使い』の過去を持っていたんだぞ、俺は...」
「......なら、今のお前は……私と対等の存在にしてもいいよ」
言葉が出ない俺を見て、彼女は小さく微笑んで。そしてー!
「そんな顔しないで。...下僕の身こそ卒業したけど、これからも私の『側づかい騎士見習い』としてビシバシ鍛えていくつもりなので、師匠の私としても手加減はしないわよ……うふふ~」
俺も、自然と笑みがこぼれた!
「その方が、いいさ......。靴底さえ舐めさせて来なければ、の話なんだがなぁ......」
彼女に聞こえないよう、小さな声でそんな事を漏らした俺だったのだ!
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