第17話:決闘の始まり!
待ち望んだ激突が、やっと始まる!
決戦当日が、ついにやってきた!
朝日が昇り、決闘の大闘技場を黄金色に染めていた。貴族や騎士たちのざわめきが空気を震わせ、静かな熱気が辺りを包んでいた。
今日、俺は人生最大の試練に挑む!
相手は、俺をここまで鍛えたのに直接的にも間接的に(あの女騎士4人はこいつの命令で俺を特訓させた)も関わってきた宿敵で、時には苦しめてきたこともある、そこの騎士学院生の3年生、学院トップ1位の実力を持ってるシルヴィアーヌ・フォン・ファルケンハインだ!
この決闘の勝敗が、俺の運命を左右する。彼女との絆、そしてこの王国における俺の立場までも!
俺とシルヴィアーヌは、闘技場の対極に立っていた。
彼女はいつものその赤い制服で臨んでいて、そして俺はというと、ロザイ―に買ってもらった見栄えが良すぎる高価なコートとインナーが1セットでできてる魔除けもできる戦闘装束を身にまとい、俺の黒曜石のような肌は陽光を浴びて鈍く光り、鍛え抜かれた体は落ち着きと覚悟を滲ませている!
シルヴィアーヌはというと、あの白磁のような肌が赤い制服によく映え、手にしたレイピアは、彼女自身の延長のように鋭く光っているー!
彼女はいつになく静かだ。
構えた視線は俺をまっすぐ捉え、その奥には――敬意、挑戦、もしかすると、それ以上の何かがある。
あれだけの皮肉、あれだけの優位を見せつけてきた彼女が、今日は違う......
この戦いが、本物になることを、彼女も分かっているはず!
「では、これからはオバシ・エングジャ対シルヴィアーヌ・フォン・ファルケンハインの決闘を始める!各自、準備するように!」
審判役の男がこの決闘の行く末を採点し判定し、そして最後の勝敗の有無を確認するためそこにいる!
ピり――――――――――!!
合図が鳴った!
観客のざわめきが、息を飲むように静まり返った。
試合が開始されたのだ!
タ――――!!
俺が先に動いた。
キ――――――ン!
俺の剣撃がヤツのレイピアによって迎撃され、予測通りの最初の小手調べだった。
「せいー!はあー!」
カ――――ン!コ――――ン!
一歩一歩が無駄なく、鋭く、それでいて冷静だった!
この日のために、2週間の特訓も『彼女達』の指導の下で自分を鍛えてきたんだ!
出会った最初の頃の、初めてシルヴィアーヌの前に立った俺じゃない。
ズシュ――――――!
キ――――ン!
俺の剣は、弧を描いた美しい刃。腕と一体となったような軽やかさ。
焦らず、急がず、すべての動きに意志を込める。
コ―――――――ン!カ―――――ン!
シルヴィアーヌもまた、冷静だった。数多の戦場をくぐり抜けたその視線が、俺の全てを見透かすようだった。
だが今日の俺は、ただ彼女に仕える者として戦うのではない。
俺自身の誇りのため。俺の未来のため。
そして、かつて焔術使いだったろう昔の俺の『尊厳を取り戻す』ためだ――!
カ―――――ン!コ―――――――――ン!!
レイピアと俺の剣がぶつかり合い、鋼が鳴る!
彼女の動きは滑らかで正確だった。
年季の入ったその技には、もはや無駄など一つもない。
「ふん……自分の力で勝てると思ったのかしら? 私の方が、お前より長く訓練してきたのよ。あっという間に終わらせてあげるわ」
その言葉は、俺を揺さぶるための刃だ。
だが、俺は口元をわずかに吊り上げて微笑んだ。
「訓練期間が長いからって、すべてを『彼女達』から知ってきたり見てきたわけじゃないだろ。俺はもう、あんたが辱めたあの時の男じゃない。今の俺はもう変わったんだ。それを今すぐ、あんたに見せてやるよー」
カ――――――――――ン!!!
斬撃が交差する。
俺の斬り込みは鋭く、彼女の受け流しはまるで踊るようだった。
一歩下がる彼女に、俺は隙を狙って足元への一閃を放つ。
「はあー!」
「ふん!」
彼女は華麗に跳び、空中でひねりを加えて攻撃をかわした。
ター!
ター!
「「.......」」
戦いにおける小休憩みたいに、離れた位置で後退して着地した俺達!
「...なるほど、やるじゃない。でも……それが全部?ふん、笑わせないで。訓練の成果がそれだけなの? だったらお前もまだまだよね」
彼女の挑発に、俺の視線は鋭さを増す。
「笑わせるつもりでここに来たわけじゃない。あんたをぶっ飛ばすためにここにいるんだ。それを証明するために、ここに立ってるんだぜー?...今は言葉じゃ俺を止められないと知れー!」
「ふふ……あれで分かったつもりでいるの?まだ全力の半分も見せてない私に向かって言うー?じゃあ、自信がどこまで持つか見せてもらおうかしらー?」
「お望み通りに、そうして、やるッー!」
カ―――――――ン!!
俺の突きに、彼女も突きで応える。鋭さと正確さのぶつかり合い。
「あんたからの挑戦、何でも受けて立つぞ!」
「その心意気よ、オバシ...。でもお前のその鳴いてる声はただ可愛いだけじゃないー?……それだけじゃ勝てないのよ、私に」
「初日からあんたは俺を折ろうとしてた。でも、今日も折れねえ。俺はあんたが思ってるよりも遥かに強いんだぜー?」
「そうかしら?なら、お前のそれがどれほどの物なのか、次の私の技を受けても言い続けられると思うー?」
「―!?」
空気が変わった!
シルヴィアーヌの構えが、いつもより違ってくる!刃を握るその手に、今までとは角度も違うし、異なる殺気も宿っていたんだと思う!
そしてー!
「ふぅ...」
高く掲げたレイピア――!
カ――――――――――――――――!!!
次の瞬間、空間が歪むほどの速度で彼女が動いた―――!!
ありえない角度から放たれた螺旋の斬撃――それは俺が一度も見たことのない技―!!?
常識も、教本も、何の役にも立たない!
刃は、俺の喉元すれすれで止まった―――!!
「......くッ..そぉ~」
動けなかった!
その一撃は、俺の中にあった「油断」を粉々に砕いたんだ!
「ふふふ...」
だが、彼女はそれ以上動かなかった!止めを刺す必要もない程に、今の俺じゃあいつにはまだ届かないと信じ切ってるその目で見てるから―!
そして何よりも、彼女の意志は、その刃先が語っている!
「『螺旋貫突刃』だったわよ、私の必殺技のひとつ...。これが、お前と私の差よ。あなたはここまで勇敢にも挑んで来た。だけど、それだけじゃ足りないわ」
彼女の声は静かで、冷たい威厳があった。
「そうかよー」
だが、俺は微笑んでそう返した。少しも怯んだり、後退するつもりがない事を伝えるために!
「あんたは確かにまだ若い18歳の少女であるのにも関わらず、恐らく幼少時から今まではその生涯をかけてその技だけを集中的に磨いてきたかも。...でも、俺の人生は『抗う』ためのものだ。簡単には折れないんだ」
「……まだ分かってないのねー?決闘はもう終わってるのよ、オバシ」
「俺が終わる時は、俺自身が決める。あんたじゃねえ」
そしてー!
シルヴィアーヌはレイピアを引き、ひと呼吸おいてから構え直した!
「……予想以上に芯が強いわね」
その言葉には、少しだけ――、ほんの少しだけ、本音が混じっていた!
「でも、勝てるとは思わないことね」
「勝てるかどうかは、俺が決めるだぜ?」
カ――――――ン!
再び剣を振るい、俺は突き進む。
刃が風を裂き、彼女のレイピアがそれを受け流す。
「速いけど、まだ甘いわね」
そう言いながら、彼女の突きが俺の胸を狙う―――!
ガ―――ン!
俺はそれを剣の刃で見事に正確さを保ったまま盾宜しく防ぎ切り、そして弾けさせるように彼女のレイピアを打ち払い、カウンターの一撃を叩き込もうとした!だが反応神経が俺よりも鋭いシルヴィアーヌが難なく半歩下がって避けた!
「俺を侮るなよ。ただ黙ってあんたの靴底の下で従っていく気がない!」
「まあ、しつこい男ね。でも、...しつこさだけじゃ勝てないのよ?」
「違うさー。俺にはあんたにない執念がある。それは、『絶対に勝つ意志がある』ということだ!ただ玩具と遊ぶ感覚で打ち合ってきたあんたのそれよりも断然に強いんだ」
そして、決着に向けて俺とあいつは一旦軽口と挑発し合うやり取りをやめて、戦いに集中することにした!
観客の誰もが、息を止めて見守っている!
もはやこの戦いは、単なる剣技の競い合いではない気がする!
俺の『意志』と彼女の『意思』の、明白な違いを持っている魂同士のぶつかり合いだ!
ガ――――!
シルヴィアーヌが再び攻める!
だが今度は、俺が先を読んでいた!
その剣筋を受け流し、懐に飛び込む!
カ―――――ン!
「~!?」
ギリギリで交わした彼女は素早く危機から逃れるために後ずさったー!俺からの追加攻撃の嵐がやってくることを完全に見切って予測できた動きだー!
でもなー!
「まだ終わってねえぞ、シルヴィアーヌ...。俺は、ここでは絶対に終わらねえー!」
発した俺の声には、確かな信念があったことを自覚できた。
汗が額を伝っても、視線は揺るがないんだ!
「...」
シルヴィアーヌは俺の言葉に、一瞬だけ迷いを見せた。
今までの俺とは違う何かを――!それを、彼女もついに強く感じ取っているはず。
この戦いがどう終わるにせよ、一つだけはっきりしたことがある!
――俺は、もう『あの時の男』じゃない。
あんたがいつまでも虐めらる玩具じゃない。
辱めるために振り回せる『ペット』でも『奴隷』でも『黒犬』でもねえー!
俺は、もう変わった。
それを、次の打ち合いで証明してみせるんだ―――!!