第16話:決闘前日の仲間との掛け替えのない思いで...
いよいよ決闘の前日になった!
その朝はやけに静かで、まるで嵐の前の静寂ってやつだ。
汗だくになって剣を振るわけでもなく、厳しい訓練に耐える必要もない、久々の『自由な一日』って感じだ。
…そう、決闘前の最後の休息!
俺は剣を部屋に置き、仲間たちと街へ出かけることにした。
一応、この2週間ではあの女からのねっとりした嫌がらせのような命令から一時的に解放されたけど、俺はまだ下僕扱いなので、自由に街へ出ながら帯剣することは許されてないため、常に鞘に納めたままの状態で腰に提げる事はできない......
(正式に騎士として認めてもらわなくちゃ!そのために、...絶対にあの女に勝たないと―!)
いつも訓練漬けだった女騎士たちも、今日は完全オフモード!
笑って、はしゃいで、俺を街へ出かけるよう誘ってくれた。
(...なんか最近、みんなの態度が変わった気がする)
最初は『外の者』扱いだったけど、今は…違う。
尊敬っていうより、もっとあったかい何かがある.....
本気で仲間として認められた――!そう、そういう空気だ。
............
街で:
石畳の道、賑やかな市場、空の色まで鮮やかに感じた。
こんな『普通の風景』が、こんなにも眩しく感じるなんてな。
クラリス嬢が軽やかに先頭を歩きながら、こっちに振り向いて微笑んできた。
「今日はね、ただ楽しむ日ですわ。訓練も剣もなし。オバシ様が頑張ったご褒美ですわね~♪」
…ああ、マジで夢みたいな時間だな~
いつもの鋭い目つきじゃなくて、無邪気な笑顔~
クラリス嬢ーって、確かに普段も優し気な言動もしてるし、そういう雰囲気も出すけど、こんなに幼い少女のようにはしゃぐ表情もできるなんて、ちょっとドキッとした!
横を歩いてたイゾルデ嬢が、肘で俺を軽くつついてきた。
「ふふっ、最近ちょっと表情柔らかくなったんじゃないですかー?オバシ...。やっぱりワタシたちの影響からなのかしら?♪」
「だよねー!」
ってロザリーが元気に笑う。
「もうすっかり仲間同士なのよぉ~!あたしら全員倒したし、文句なしっしょー!」
アデルが屈託なく笑いながら、歌うような声で言った。
「…その、強いし、優しいし…すごく尊敬してるよぉ、オバシおじさん…。えへへ…今日、おじさんも皆もあたしと一緒にいられてうれしいィ!」
アデルのその言葉に、心がじんわり熱くなった。
変わりゆく俺達の関係が、ほんのりと暖かい何かを俺の内側へ吹き込んできたような感じだ!
…そういえば、最近、みんなとの距離が異様に近いね。
ただの騎士仲間ってだけじゃなくて――!
いや、それ以上の何かが芽生えてる気がする......
街を歩いてたとき、ロザリーの手が一瞬、俺の腕に触れた。
その時、頬をほんのり赤く染めて、こう聞いてきた。
「この街、気に入ってる?努力のご褒美だぞ?...たくさん見ていってくださいね~♪」
…やばい、ドキっとする。男口調でもあんな声色と綺麗な顔してたら、たとえボクっ子でも心臓を奪われるほどにー!
「あ~はははは....ちょっと羽目を伸ばし過ぎな感じもしたけどね...」
笑って返すけど、内心じゃ落ち着かなくて。
でも、こうして自然に笑い合えるのが、たまらなく嬉しかった!
カフェで休憩してた時、アデルが俺の隣に座って、そっと肩に手を置いた。
「友達になれて良かったねぇ、おじさん~!今日は…魔法も剣も忘れて、ただお話できて、すごく楽しいィ~!」
…その手の温もりが、ただの『訓練仲間』じゃないことを教えてくれた。
なんか、...俺を親友か、それ以上の......まるで実のパパ扱いな感じだ......(アデルは他の20代前半の3人の現役女騎士じゃなくて、ただの騎士学院の1年生の16歳だから、34歳の俺からすれば余計にそう思う~!)
優しさの贈り物も!
ブティックを見て回ってたら、イゾルデがにやっと笑って言った。
「新しい服、選ばないんですか?明日の決闘、勝った時に着る用とかどうでしょう?」
「俺に?服なんて、あんま気にしたことなかったけど…」
「服のコーディネートなんて当然じゃない~。もうチームの一員なんですから、見た目もバッチリ決めなきゃ、ですわ~♪」
肩をポンと押されて、クラリスがすぐにちゃちゃを入れてくる!
「絶対似合うってぇ!それにさー…もっと格好よくなっちゃったら、どうしよっかなぁ〜!えへへぇ~!」
またも元気そうな声ではしゃぐアデル!
ま、そんな言われたら、ちょっと照れるだろ普通...
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夕方、寮に戻る道すがら、ロザリーが俺の背中にそっと手を置いた。
「もし何か困った事があれば、いつでも頼ってくださいね。明日の戦いは、貴方の舞台でもありますから。でも、...ワタシたちがついていますので、絶対に勝てると思いますよ、ふふふ~。あんなお嬢様なんて、彼方まで吹き飛ばしちゃってみて下さいー!」
その言葉に、胸が熱くなった。
…本気で信じてくれてる。そう、感じた。
俺があの女に勝つ瞬間を!
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最後にクラリスと二人きりで歩いてると、彼女がぽつりと呟いた。
「…みんな、オバシ様のこと誇りに思ってますわよー。なにせ、明日は…シルヴィアーヌお嬢様をぶっ倒す新たな英雄の誕生をわたくし達全員の手で鍛えさせた結果ですから!」
まだ戦ってもいねえのに逸り過ぎだぞ、クラリス~!......フラグにならなければいいがな...
「勝っても負けても、あたしたちはぁ…ずっとおじさんの味方だからぁー」
その言葉に、俺は立ち止まった。
…真っ直ぐな瞳だった。優しくて、強くて、あったかい。
「……ありがとな、アデル」
そう返した俺の声は、少し震えてたかもしれない。
でもそれでもいい。
…だって、明日はきっと勝ってみせる。
俺がここにいる意味を――!絶対に皆に証明してみせるからー!
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