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第14話: 強さの解放は絆によるもの

二日後の朝の稽古:


ター!

夜明けの光がまだ弱く空を染める頃、俺は訓練場に足を踏み入れた。


冷たい朝の空気が肌を刺し、思わず肩をすくめる。数日間に亘っての厳しい稽古で全身が悲鳴を上げていたが、俺の中にはそれを押し切るだけの熱があった。


シルヴィアーヌとの決闘まで、後9日間!絶対に負けられない!


今日は、これまでと違う。到着してすぐ、いつもは厳格な騎士たちとして指南してくれたが、今日は少し砕けた雰囲気で稽古をすると言ってきた。


型にはまった技術ではなく、反応速度、持久力、そして互いの戦い方への適応を重視した内容だ。


そして何より驚いたのは、先日は共に服屋に行って俺の服を選んで親切にも何着か新しい豪華なチュニックとスーツとタキシードを買ってくれた銀髪令嬢のロザリーが他の子よりも真っ先に俺の方に近づいてきて、稽古や1対1の模擬試合に招いてくれたことだ!


てっきり、何かを伝えたりする時はイソルデが先に引き受ける事だと思ったんだな。しかも、真っ先に俺と戦いたいと言ってきたなんて......


カチ――――!

なんか緊張感と嬉しさが入り混じった気持ちで、俺は剣の柄を握り直した。


イゾルデ、クラリス、ロザリーが少し離れたところに立ち、こちらを見つめていた。


彼女たちは、この数日間ずっと俺を鍛え上げてきた。そして今、どれだけ成長したかを見極めようとしている。


痛む筋肉に鞭を打って剣を構えると、ロザリー嬢と視線がぶつかった。彼女は小さく笑みを浮かべながら、ゆっくりと剣を抜いた。


「覚悟はできているな、オバシ?」


「いつでも来いよ」

と俺は言い、柄をさらに強く握りしめた。


稽古の時間――、は剣と剣同士と会話でもあるー!


カ―――ン!キ――――ン!コ――――ン!

キ――――ンコ――――ン!カ―――ン!


.................................


稽古は何時間も続いた。剣がぶつかる音、息を切らす声。まるで戦場のようだった!


「それー!」

「ぬッ!?」

カ――――ン!

俺の動きは明らかに以前より鋭くなっていた!反応も良くなっていたし、斬撃の精度も上がっていた!


でも、それでも――!シルヴィアーヌの強さにはまだ届かないはず!


キ――――ン!コ――――ン!カ―――ン!


「いいぞ、それ!じゃ、ボクはもう満足したから、次は誰が代わるー?」


ロザリー嬢との稽古が終わった頃には100回の打ち合いに60敗40勝を収めた俺と違って、彼女は60勝40敗だ!

(~~ん、確かにまだシルヴィアーヌの強さまでには程遠い!ロザリー嬢より上の点数を勝ち取らない限り―!)


「次はわたくしですわ。お手柔らかにお願いしますわ、オバシ様...」


青髪のクラリスだ!


「こっちこそ手加減してこなくていいぞー?その代わり―」

ズ―――――!!

「~まあー?」

「俺はあんたの言う、『手柔らかい』って仕方が分からないから、全力で行くぜ―――!」


.......................................


................


とまあ、堂々と生意気なことを宣言してしまった俺はまたも結局負けたー!


今回は20回の打ち合いの中に13敗7勝でー!

「ふふふ、豪語した割には口ほどでもありませんでしたわ、オバシ様~」


クラリスとの一騎打ちを終えたとき、俺はふらつきながら汗を拭った。彼女のカウンター技術は見事だった。だからいつも打ち合いの時は惑わされ対策が取れなかった―!


カチャ―、カチャ―

次に、他の騎士たちが無言でこちらを見ている中、イゾルデが一歩前に出てきた。鎧を鳴らしながら真っ直ぐに!


彼女の透き通るような瞳が、まっすぐ俺を射抜く。


「成長してきましたね」

と彼女は言った後、少し間を置いて訊いてきた。

「でも……一つだけ聞いてもいいんですか? その……お肌のこと。どう感じてますか?」


質問は率直だった。でも、...悪意は感じなかった。


俺は肩をすくめて答えた。

「わからない。ただ、これが産まれ持った俺と、俺と民族や人種を同じにしている『アシェンダル人』の外見的特徴だからな。昔からずっと、これなんだ......」


「ふふ」

今度、クラリスが小さく頷き、口元に微笑を浮かべる。

「威圧感ありますわね。闇に溶け込む影みたい。夜に戦うことになりましたら、誰もがオバシ様相手は最悪ですわよ~?」


その目が俺をじっと見つめていた。騎士としての洞察――、それが感じられた!


「うん、確かにね」

ロザリーも口を挟む。

「真夜中に出くわしたら、誰でもびっくりするよー。逆に狩られる側になりそうだから、ボクは君を狩る側にはなりたくないけどねー!あ~はははは...」


「ワタシなら……、怖くないと思います」

イゾルデが珍しく意見をはっきり述べてくれた。


「むしろ、格好いいと思いますよー?まるで昔の、御伽噺で聞いたことある南国からの救国の英雄になった戦士みたいに。......影の中から現れて、敵を打ち倒す……そんな強さを感じますね」

(~~~!?)

顔が少し熱くなった。


そんな風に褒められるのは、あまり慣れてない。


ましてや、...自分自身の肌の色を「強さ」だなんて言われるなんて~!


「うぅ...」

でも、この訓練場の真ん中で、彼女たちに囲まれて……少しだけ、自分のこの場違いに感じられる姿を肯定してもらえた気がした...


(親切な子達が俺を認めてくれるなら、......白い肌の人達と一緒にこれからの人生を過ごしてみても......)

と、そんな柄にもない恋愛脳な男になってしまいそうだった!


.....................................


昼食の時:


訓練が終わったあと、俺たちは町の酒場に向かい、軽く昼飯を取ることにした。


最近は彼女たちと一緒にいることにも慣れてきたが、テーブルに座った最初の数分は、少しぎこちない沈黙が流れた。


「「「「.........」」」」

カチャ―、カチャ―

皿の音、マグの音。それらが静けさを埋めていた。


そんな中、ロザリー嬢がふと俺の方を見て口を開いた。


「ねぇ、オバシ。正直に聞くけど……シルヴィアーヌに勝てると思うー?」


「...それは......」

俺は肉を噛みながら答えを考えていた。


勝つこと――、それは単に力の問題じゃない。


自分の恐れと向き合うこと、負け続ける現実を受け入れ、それでも進むことだ!


「正直……わからない」

と俺は言った。

「でも、何があっても戦い続けるんだ!...たとえ負けても、彼女に何かを考えさせてやりたいんだ」


クラリスが、無表情のまま首を傾げる。

「力だけじゃありませんわ。信念を曲げないことも自由ですの。それが一番難しくて、一番大切なことですわよ」


イゾルデも頷く。

「そう。あなたには……もっと大きな可能性があると思います」


................................


その後:


昼食後の訓練を終えた俺たちは、街を少し歩いた。


俺の身体を縛る魔術の呪縛も、心が軽くなったせいか、少し和らいでいるように感じた。


その時、最近の、仲間に加わった新参者の騎士見習い――、アデル・フォーサイス嬢と並んで歩くことになった。赤い髪の毛を持っている彼女はウェブ型で後ろでポニテ―ルとして一つに結い上げて束ねている天真爛漫そうな若い少女だ。見た目からして絶対にあの女より若いはず!


立場上、シルヴィアーヌも騎士見習いではあるが、騎士学院の3年生だし、成績も騎士学院生の中にトップクラスの1位と聞いて、現役騎士である彼女の直属騎士の、俺と訓練をしてくれる3人の女騎士のお嬢さんたちよりも強いと言われてるので、この一年生のアデル嬢が俺のために何も教えることができないというのも事実だが......


で、アデル嬢は見た目こそ儚げな美しさを持っているが、その声には苦労を乗り越えた者だけが持つ芯の強さがあった。


「オバシおじさん、~だっけぇー?お姉様たちとの訓練を通して強くなったと聞いたけど、もしかしてあたしにも技とかコツの一つでも教えてくれないぃ~?」

と彼女は俺の腕に自分の手を絡ませてきて言ってきた。市場の喧騒の中でも、彼女の声はよく通るー!


挿絵(By みてみん)


「俺が習得した今の実力を高く買ってくれてサンキュー。でも、俺はまだ多くを学ばなきゃならないことがあるんだ。今の俺じゃ、お前に教えられることは何もない......」

実際、アデル嬢にはあの女みたいな先輩も、あの女の下に仕えてるイソルデ、ロザリーやクラリスもいるので、俺より彼女たちに頼んだ方がもっと色々学べるはずだ......


「にししし~」

アデルは小悪魔っぽく歯を見せて小さく微笑んだ。その瞳には、少しだけ哀しさがあった。


「おじさんにはもう、色々学んだはずよぉー?あたしの剣の師匠になってもいいぐらい、ちゃんとした騎士になってると思うよぉ、えへへへへ~~」

お茶目っ気にそう言ったアデル嬢だけど、それからは一言も発せなくなる思案顔になってる様子だ!


「.......」

数秒の沈黙のあと、彼女は続けた。


「シルヴィアーヌ先輩との決闘、噂になってるよぉー?...簡単じゃないと思うけどぉ……勝てると思うぅ~。もし、自分を見失わなければねぇー」


俺は苦笑しながらうなずいた。

「……誰かを失望させなければいいんだけどなー」


呪縛の痛みも決意によって軽くなったし!


.............................................



日が沈み始めた頃、俺の訓練計画について皆で話し合った。体は限界に近い。でも、心はまだ折れていない。


それに、ここから逃げたいと一瞬でも思えば、頭の奥に響く痛みがそれを打ち砕く。


自由に町を歩けるとはいえ、あの呪いが消えたわけじゃない。ここが檻であることに変わりはない。


それでも、今は戦うと決めたんだ。

それ以外のこと、考えられるかよー!

あと九日間――、それまでに、俺はすべてを賭ける!

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