第12話: 決闘の提案は贖罪と仲直りへの近道ー!?
翌日:
俺は石造りの床を見つめながら、牢の中でじっと座っていた。
ここに連れてこられてからの出来事が、まるで呪いのように脳裏にこびりついて離れない。力を奪われ、自由を奪われたこの日々。かつての俺とは別人になってしまったような気がする。
...だが、シルヴィアーヌが望んでいたような『壊れた従順なペット』にはなっていなかった――!
カー、カー、カー!
廊下に響く足音が、俺の思考を遮った。そのブーツの踏み鳴らしてるような音…間違いない。シルヴィアーヌだ!
顔を上げると、案の定、彼女が入り口に立っていた。あの貴族特有の冷たく整った表情はいつも通りだが、今日は何かが違う。沈黙の中に、妙な緊張感があった。彼女はしばらく黙ったまま、俺をじっと見つめていた.....
やがて、ようやく口を開いた。
「…決めたわ」
その一言に、俺の心臓が一瞬止まったように感じた。ここに連れて来られて以来、はじめて「運命」が形になって目の前に現れた気がした。
「お前に…機会を与えるわ」
その声には、これまでのような冷徹さだけでなく、どこか好奇心や迷いのようなものが混ざっていた――!
「決闘をしよう。二週間後に」
「……決闘?」
思わず眉をひそめて聞き返す。
「ええ、そうよ」
と彼女は断言する。
「お前が勝てば、お前に対する待遇を変えよう。もはやただの下僕ではなくなる。私の近衛として扱うわ。より良い食事、より良い衣服、...騎士に近い待遇よ。…今よりも遥かに人らしい生活ができるようにしてあげるわ」
あまりに都合が良すぎて、一瞬疑った。だが、これは『脱出』ではない――、『生活環境改善を勝ち取る』機会だ。
「もし負けたら?」
彼女の目が鋭く光った。
「その場合は…何も変わらない。お前は今のままよ、下僕としての日々を過ごしていく事になるわ。...でも、少なくとも『挑む』ことはできる。それだけでも十分でしょう?」
この提案が俺に与えた衝撃は計り知れなかった。ようやく訪れた『選択肢』ー!
俺は顔を上げ、これまで押し殺していた怒りや悔しさに代わる、新たな感情が芽生えていくのを感じた。
「……やってやるよ」
静かだが、決意のこもった声でそう返した。
シルヴィアーヌは一度だけ頷き、くるりと背を向けた。
「すぐに訓練を始めなさい。二週間しかないわ。お前を一人前の戦士に仕上げるのは…私の責任でもあるけれど、一々の訓練を決闘の相手とこれからは一緒にはできない。よって、一人でするか、誰かの指南の下で強くなって頂戴」
カー、カー、カー!
そして彼女は去っていった。俺の運命を試すその「決闘」へ向けて、すべてが動き出した瞬間だった!
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翌日から、地獄のような日々が始まった。朝一番、剣の打ち合う音が中庭から響き渡り、汗と鉄の匂いが空気を満たす!
カ――ン!キ――――ン!コ――――ン!
俺は否応なくその訓練の渦に放り込まれた。見張り役として付いたのは、シルヴィアーヌ直属の騎士たちだ。
最初に現れたのは、イゾルデ・フォン・トレル嬢。金髪と蒼い瞳と白磁のような肌を持つ、凛とした長身の女性剣士だー!
「せいー!」
カ――ン!キ――ン!
彼女は無駄な言葉を使わず、見事な剣さばきを披露してみせた。その動きはまるで舞のようで、無駄が一切ない。
「…闘志はあるようですね」
と彼女は俺を一瞥して言った。
「だが、それだけでは勝てませんね。ワタシはそれを『制御』する術を教えてあげます!」
俺は頷き、彼女のもとで基礎から叩き込まれた。
次に現れたのは、ロザリー・デュラン嬢。短く切りそろえた白金の髪と鋭い視線を持つ銃士で、冷たく計算高い性格。最初は俺の存在など気にも留めない様子だったが、根気よく訓練を重ねる俺を見て、ようやく口を開いた。
「…君は心で戦おうとし過ぎ!だが戦場では、頭で戦わねば死ぬだけだぞ。その違いを教えてやる」
「是非とも―!」
勢いよく応えた俺は彼女と模擬試合を再開する!
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毎日の訓練は、体力と精神を極限まで追い込んだ。だが、俺は諦めなかった。必ず勝って、あの屈辱から抜け出す。そのためなら、どんな痛みも耐えてみせる――!
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数日間後:
がききー
ある朝、訓練の支度をしていると、扉がきしむ音がした。
振り返らずとも、誰が来たのかは分かっていた。
「……イリスかぁー」
やっぱりいつもの、俺への監視用の毒舌黒髪メイドだ!
「ふふふ...」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら入ってきた。俺の乱れた姿を見るなり、肩をすくめた。
「そんな暗い顔しなくてもいいですよー?」
と軽く笑う。
「二週間ですよね? ちゃんと見た目も整えなきゃ。まさか、...今回も負けるつもりじゃありませんよね?召使君~?」
俺は無言で彼女を睨む!
彼女は勝手にクローゼットを開け、銀と濃紺の新しい軽装鎧を取り出した。
「まあ、これなら前のボロ雑巾みたいなチュニックよりはマシでしょ」
と言いながら、俺にそれを手渡し、着替えさせに手を出してきた―――!
彼女の視線が、俺の体を隅々まで観察するのが分かった。まるで玩具を選んでいるような目だった。
「ねぇ、こうやってメイドであるわたしがあなたの服を整えて着替えさせるのって…どんな気分かしら? 誇り高いあなたにとっては、屈辱じゃないー?」
その言葉に、またあの苦い感情が胸にこみ上げる。だが、俺は飲み込んだ。今日だけは、何も言わなかった......
「次の訓練、準備できた?」
と彼女がからかうように尋ねた。
「……ああ、準備できてる」
俺は低く返し、目に決意を宿した。
訓練が激化していく日々がずっとつつくー!
あの女との決戦の日に挑む、運命の決闘を勝つために―――!
その日も訓練は加速する一方だ!
カ―――ン!キ―――――ン!
「反応神経良くなってきましたわー!さあ、そんな調子でビシバシ行きますわよー、おほ~!」
クラリス・フォン・ヴェロナー嬢──!
寡黙で、黒い鎧に身を包んだ青い髪の女騎士が初めて現れて、俺の練習相手になる!彼女との試合や訓練は苛烈を極めた――!
「……素質はありますわよー?」
と、彼女は一度だけ口を開いた。
「ですが、制御できなければ意味がありませんの。集中して頂戴。さもなくば、本番前に倒れますわ」
「それー!モタモタすると遅れを取るぞー!」
「くッ!?」
そして、剣と銃の両方を扱うバルタザール卿の指導も受けた。巨漢の銃士でありながら、動きに無駄がなく、教えも容赦なかった。
剣と銃を同時に扱うには、信じられないほどの集中力と身体制御が必要だった。訓練の終わる頃には、俺は全身から汗を滴らせ、息も絶え絶えだった。
「はぁあ、はぁあ、はぁあ、はぁあ......」
だが、倒れるわけにはいかなかった。俺には勝たなければならない理由がある。
過去を断ち切り、尊厳を取り戻すために──!