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プロローグ:大理石の間の屈辱感...

『死が目前に迫る時、人生が走馬灯のように駆け巡る』と言うけれど......

あれは、嘘だ。


俺の視界に映っていたのは、喉元に突きつけられたレイピアだけだった。


その研ぎ澄まされた刃が、宮殿の廊下に揺らめく金色の松明の光を反射しながら、震えることなく構えられている!


『彼女』の手は、微塵も揺れていなかった。

冷静で、致命的で、鍛え抜かれていた。


その細剣は、今にも襲いかかる蛇の牙のように鈍く光り、俺は悟った!

(一瞬でも気を抜けば、この刃はためらいなく俺の喉を貫くだろうとー!)


俺は片膝をついた。


そうしたかったわけじゃない。

ただ、脚がもう俺の体を支えてくれなかっただけだ。


死は——現実で、冷たくて、容赦がなかったから!


そしてそれは、目の前に立つ十八歳の貴族の娘の姿をしていた。

黒いタイツと手袋、革性のハイヒールブーツ......

赤い色の制服っぽい騎士用の服装と帽子を着ている彼女が持つのは雪のように白い肌。

そして、栗のように冷たい茶色の瞳と長い茶髪。


そしてその眼差しには、一欠片の慈悲も宿っていなかった――!


「跪いて」


挿絵(By みてみん)


彼女はそう言った。命令ではない。ただの事実のように。

風が吹くように。星が燃えるように。


「くっ...」

喉が詰まった。


俺の体は、内側から燃えるように熱かった。

体内に残っていた炎の残滓が、まだ骨を舐めていた。

逃げるべきだった。戦うべきだった。


俺はフレイムキャスター——炎を操る者になる運命に、戦士の血を引く者のはず!

...けれど、今の俺の両手の自由は魔力によって封じられ、誇りは冷たくて硬い大理石の床に触れさせられてる自分の膝によって傷つかれる!


それでも——!俺は、額だけは床に擦るつけなかった。


困った顔しながら、俺は彼女の目を真っ直ぐに見返した。

彼女は、鋭い目つきを浮かべるだけで瞬きひとつしなかった。


俺は彼女を憎んだ。


貴族のようなあの傲慢な蔑むような表情を......

一度も汚れたことのない黒い手袋を......

冷たく響くあのブーツの音を......


そして何より、...生まれながらに絶大な力を持つ彼女をー!


俺が海を越えて、鎖につながれたままここに連れてこられたというのに。


カー、カー、カー!

彼女は一歩、近づいてきた!


「...アシェンダリのオバシ...」

俺の名を、汚物でも見ているかのような冷たい目になりながら口にした。


「アイゼンハート公爵家の監獄から逃げ出そうとして失敗し、さらには——、この私に逆らった罪。すべて、お前に問われている」


彼女のブーツが俺の頭を押し、さらに低く屈まされ、床に額を擦り付けられてる――!


跪かされる。犬のように――!


「...うぐっ」

俺は歯を食いしばって言った。

「殺せばいいだろう。どうせ貴族ってのは、それが得意なんだろー?」

どうにか屈辱感に耐えて床に唇を押し付けられてもどうにか声を振り絞りながら漏らせた俺に、


「ふんー」

その瞬間——わずかに、彼女の口元が動いた。

かすかな、ほんのかすかな笑み。


「...かもね」

再び剣を構えながら、彼女は言った。

「でも今日は、殺さないわ...」


鋼の刃は、首の後ろの手前で止まった。

そして足も退かれ、両手と両脚の自由がないままの俺は何とかやっと頭を上げることができた!


そして——運命を変える一言が告げられた。


「生きたければ、私に仕えなさい。命のすべてを使って、私の『従者』となるの」


...............................

その静寂は、鞭よりも痛かった。


彼女の瞳は冷たく、空気すら凍るようだった。

それは遊び半分の残酷さではない。計算された冷酷さだった。

癇癪を起こす子どもじゃない。

人を駒として扱うべく育てられた『支配者』のような風貌だー!


...彼女の手にある『レイピア』こそが、この国の『法』そのものだったー!


そして今日、彼女が示した選択肢は——!

『慈悲』の仮面を被った『隷属』だった...


……それでも。

彼女の言葉の奥には、何かが燃えていた。


挑発。試練。そして、破壊ではなく『利用』の意志。


俺は彼女の顔に唾を吐きかけたかった。


でも——それ以上に、生きたかった。


自分のためじゃない。

まだ鎖につながれているかもしれない仲間たちのために......


妹のために......

故郷のために......


俺は俯きながら、胃の奥で憎しみが燻るのを感じた。

言葉が喉を震わせながら、後戻りできない誓いを吐き出した。


「……かしこまりました、ファルケンハイン様」


彼女のレイピアが下ろされた。

「シルヴィアーヌで結構よ。様づけを忘れずにね」


そして、喉を裂かれかけた氷のような貴族の娘に仕える、新たな人生が——始まった!


だが、俺がその日、頭を垂れた瞬間、心の奥で密かに誓った言葉があった。

誰にも聞こえないほど小さく。だが、内に宿る炎だけには届くように。


——いつか必ず、俺は立ち上がる――!

そしてお前は見ることになるだろう。


シルヴィアーヌ・フォン・ファルケンハイン。


俺をただの従者ではなく、対等な存在として――!


たとえ、それが俺たちを——焼き尽くす事になろうとしても――!

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