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前編

挿絵(By みてみん)


ギョンチョル(경철)は、ソウルの高級住宅街に住む超富裕層の家庭に生まれ育った高校生だった。父親のチェ・ドンヒョン(최동현)は国際的に有名な大企業のCEOであり、母親のユン・ソンア(윤선아)も一流のファッションデザイナーとして活躍している。幼い頃から「男」として育てられ、家業を継ぐべき次期CEOとしての教育を受けてきたギョンチョルは、完璧な後継者としてのプライドを持って生きてきた。



挿絵(By みてみん)


ギョンチョルとハンジュン(한준)は、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあり、ギョンチョルの家に代々仕える執事の家系に生まれたハンジュンとは、まるで兄弟のように過ごしていた。二人は同じ屋敷で育ち、幼少期からテコンドーを共に学び、互いに競い合うライバルでもあった。ギョンチョルの父親が強く勧めたことから、テコンドーは彼らの日常の一部となり、毎日のように稽古に励んでいた。ギョンチョルは、男として強くなることを求められていたため、テコンドーでの勝負には誰よりも真剣に取り組んでいた。


ギョンチョルとハンジュンは、何度も競い合い、互いに成長を促してきた。ギョンチョルはハンジュンを目標にして、自分を追い込み、強くなることに全力を注いでいた。ハンジュンもまた、ギョンチョルの存在を意識しながら自分を鍛え上げていった。ハンジュンは成長するにつれて、整った顔立ちと逞しい体格を持つようになり、周囲からも一目置かれる存在になっていった。ギョンチョルも彼を誇りに思い、時にはその男らしさに憧れすら抱くようになった。しかし、その感情の奥には、自分でも説明できない何かが潜んでいることに気づいていた。


高校2年生のある日、ギョンチョルは学校で突然体調に異変を感じた。下腹部にかすかな痛みを覚え、全身に不快な感覚が広がった。これまでに感じたことのない痛みは、まるで内側から自分の体が何かを訴えているかのようだった。昼休みが近づくと、痛みは徐々に強くなり、ギョンチョルは耐えきれなくなって保健室へ向かうことにした。しかし、歩くたびに増していく違和感が彼を不安にさせ、途中でトイレに駆け込んだ。


トイレの個室に入り、震える手で制服のズボンを下ろし目に映った光景にギョンチョルは愕然した。その光景を見た瞬間、自分が何を見ているのか理解できず、しばらく動けなくなった。しかし、徐々にその意味が頭に入り込み、ギョンチョルは呟いた。


「私は……女なのか……?」


挿絵(By みてみん)



それは、彼の体が彼自身よりも先に知っていた真実だった。ギョンチョルはその場に崩れ落ち、涙が溢れてくるのを止められなかった。自分がこれまで築き上げてきたもの、父親の期待、そして男としてのプライドが、一瞬にして崩壊していく感覚に、彼は絶望と混乱の渦に飲み込まれた。


その後、ギョンチョルはハンジュンと共にテコンドーの稽古をすることになった。二人は幼い頃からテコンドーを学び、互いに競い合ってきた。稽古場では、いつものように激しいスパーリングを行い、強力なキックやパンチが交わされた。しかし、その日、ハンジュンの動きには何かが違っていた。ハンジュンはギョンチョルに対して微妙に力を抜いているように感じられ、まるで彼を傷つけないように気を遣っているかのようだった。ギョンチョルはその違和感に気づき、心の中で疑念が膨らんでいった。


「なぜだ……?ハンジュン、いつもと違う……」


挿絵(By みてみん)



ギョンチョルは内心動揺しながらも、スパーリングに集中しようとしたが、ハンジュンの態度は明らかに変わっていた。ギョンチョルが強く攻め込むと、ハンジュンは一瞬動きを止め、手加減をしているような素振りを見せた。その瞬間、ギョンチョルはすべてを悟った。ハンジュンが自分の秘密に気づいてしまったのだと。そして、それが彼の態度の変化に現れているのだと。


最初はパニックに陥ったギョンチョルだったが、時間が経つにつれ、その感情は次第に変化していった。ハンジュンの手加減を感じたことで、自分が「女」として扱われていると感じるようになり、それが彼の心に深い屈辱感をもたらした。幼い頃から「男」として生きることを求められ、テコンドーでハンジュンに負けないよう努力してきた自分のアイデンティティが、激しく揺さぶられた。


「俺は男だ。男として強くなるために、ここまでやってきたんだ……」


ギョンチョルは自分にそう言い聞かせるように、何度も胸の中で繰り返した。しかし、ハンジュンの目に映る自分は「男」ではなく「女」だという現実が、彼の心を深く傷つけた。ハンジュンの手加減が、自分の存在そのものを否定されたように感じ始めたギョンチョルは、次第に怒りと屈辱感に支配されていった。自分が「男」として築いてきたプライドが、ハンジュンの行動によって打ち砕かれたと感じ、その思いがギョンチョルの中で増幅していった。


「俺は……俺は、男であり続けなければならないんだ……」


挿絵(By みてみん)



ギョンチョルは、強くなることを自らに誓いながら、ハンジュンに対する複雑な感情を抱え続けた。そして、その感情が次第に怒りへと変わり、彼の心を支配していった。


稽古から数日後、ギョンチョルはついにハンジュンと対峙する決意を固めた。プライベートラウンジで二人きりになったギョンチョルは、抑えきれない怒りと屈辱感を抱えながら、ハンジュンに問いかけた。


「ハンジュン、あなたは……私が『男』ではないことに気づいたの?」


ハンジュンはその問いに驚いた表情を見せたが、やがて静かに頷いた。ギョンチョルはその反応に深く傷つき、心の中で何かが壊れていくのを感じた。ハンジュンが自分の秘密を知ってしまったことで、これまでの自分のプライド、男としてのアイデンティティが脅かされる恐怖に駆られた。


「君は……何も変わらないよ、ギョンチョル。ただ、君は君のままで……」


ハンジュンはそう言い、ギョンチョルの手を取ろうとした。しかし、その瞬間、ギョンチョルはハンジュンの整った顔立ちと男らしい体に対して感じる異性としての感情が一気に爆発し、理性が吹き飛んだ。


「何を知っているっていうんだ! そんなこと……!」


挿絵(By みてみん)


ギョンチョルは叫び、近くに置いてあった短刀を手に取り、衝動的にハンジュンに突き刺した。ハンジュンは驚愕の表情を浮かべたまま、何も言わずに倒れ込んだ。


倒れたハンジュンの姿を見た瞬間、ギョンチョルは自分が何をしたのか理解し、激しい混乱と恐怖が襲ってきた。彼は震える手で血に染まった短刀を見つめながら、涙が溢れて止まらなかった。


その後、ギョンチョルは父親のドンヒョンにすべてを告白した。ギョンチョルの混乱した姿を見たドンヒョンは、深くため息をつき、彼を抱きしめながら。一家に伝わる習わしを話始めた。


「男の跡継ぎが生まれるまでは、女児を男として育てる。そうすれば男の跡継ぎが必ず生まれるというジンクスが古くから習わしとして伝わっている。」


その話を聞いてさらに狼狽しているギャンチョルをみて、ドンファンはより強く抱きしめながら話をつづけた。


「ギョンチョル……君は無理をしなくてもいい。君が女として生きたいなら、それでもいいんだ。君は私の大切な娘だ」


挿絵(By みてみん)


しかし、ギョンチョルは父の言葉に耳を貸さず、激しく首を振った。


「違う!私は……私は男として生きるしかないんです。ハンジュンを……あいつを殺してしまったのは、私が男であるためのプライドを守るためだった。私は男でなければならない……!」


涙を流しながらギョンチョルは叫んだ。ドンヒョンはその言葉を聞き、深い悲しみを感じつつも、息子の覚悟を受け入れるしかなかった。


「君が選んだ道なら、私はそれを支持する」


ドンヒョンは静かに答えた。その後、ドンヒョンは社会的な影響力を駆使し、ハンジュンの死が外部に漏れることがないよう、あらゆる手を尽くした。彼の強大な力とコネクションによって、事件はまるでなかったかのように処理され、ギョンチョルの人生がそのまま続くように手配された。


ギョンチョルは父親の言葉に頷き、自分が選んだ道が何を意味するのかを理解した。彼は女としての自分を封じ込み、男として生き続けることを決意した。しかし、その決意の背後には、彼が本当に誰でありたいのかという深い疑問が残り続けるのだった。


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