故郷を失った一人の少年の選択。
いつか、彼も登場させたい(願望
――汝は、故郷を滅ぼした存在が憎いか。
長い長い旅の果てに。
俺は突然、そんな言葉を聞いた。
今や滅びた故郷から脱出し。
そして俺を逃がしてくれた多くの人達のためにも生き残ろうと、訪れた新世界で無我夢中で生き続けて……その果てに、力尽きた時の事だった。
「…………だ、れ……だ……?」
幻聴かもしれなかった。
だけど今の俺にとってその声は。
決して無視する事ができないモノだった。
だって、今の俺には。
俺を滅びゆく故郷から逃がしてくれた、多くの人達のためにも……その人達が、生きれなかった分も生き続けなければいけない気持ちと…………俺の生まれ故郷を滅ぼした存在を許せない気持ちがあったから。
――我の名は、■■■■■■■■。
返事が、来た。
するとその直後……俺は青ざめた。
いや、俺はもう一歩も動けなくて。
そしてそうなるほど顔色が悪いので今さらだが。
とにかく……相手が発した、その名は。
もしも、それが嘘じゃないのだとすると――。
――我は、憂いている。
俺の動揺に気付かないのか。
俺の知る、偉大なる存在と名乗る彼は話を続けた。
――汝の故郷を滅ぼした、あの存在を。
ああ、彼も見ていたのか。
俺の故郷――エタニティエルが滅んだのを。
――だがしかし、我自身は動けない。
――なぜならば、我が動けば世界そのものが滅ぶからだ。
そして、次に聞こえた内容は。
俺にとっては納得の言葉だった。
彼は、あまりにも偉大過ぎる存在。
それこそ彼の言う通り……世界が滅ぶほどに。
そしてだからこそ……俺の故郷が滅ぶのを、見ている事しかできなかったのだ。
――けれど、だからと言ってあの存在を無視する事はできない。
そして、その台詞にも納得した。
彼はそもそも、この世界を■■する存在なのだ。
だからこの世界の危機を……俺の故郷が蹂躙される様を、黙って見ているワケがない。
――故に我は、求める。
――我が力の一部を受け取り。
――我に代わりあの存在を討滅する存在を。
そして、その台詞を聞いた時。
俺の中で、期待と不安が入り混じった感情が生まれた。
話の前後からして。
そして俺に話しかけた事からして。
まさか――。
「…………俺、に…………その役目、を……?」
――そうだ。
彼は即答する。
まるで機械であるかのように淡々と。
俺という存在の未来を左右する事柄を。
――我が望むは、誰かのために戦い続けられる者。
――たとえあの存在を討滅し切る時が、遠き未来であろうと……戦い続けられる強者。
それは、俺の故郷の……彼についての伝承通りの事柄。
この世界を■■する偉大なる存在である彼は、己の手足となって動く存在を常に探している。そしてそんな存在に適した存在を見つけると、彼は……選んだ相手に契約を持ちかける……まさか、俺が……本当に、選ばれ……たのか……?
――汝には、その素質がある。
――故に、我は再び汝に問おう。
――汝は、故郷を滅ぼした存在が憎いか。
「…………あ、ああ……憎いともッ」
問われ、思わず両手に力が込められる。
倒れたまま、手元にあった砂を力の限り握り締め……今にもヒビ割れそうな爪の中にそれが入りかけるが…………そんなの関係ない。
アレは……俺の全てを奪った。
家族も友人も、俺を慕ってくれた人達も…………一番大切な人も……アレは全て奪ったんだッッッッ!!!!
だけど俺は、そんなみんなに生かされて…………俺だけが、無様にも生き残ってしまったんだッッッッ!!!!
脱出する前…………みんなは俺に、生きろと言った…………だけど、それでも俺は…………生き残ってしまった自分が許せないんだッッッッ!!!!
そして俺の大切な人達を奪ったアレも……絶対に許せないッッッッ!!!!
「もしも……もしも俺に、力があれば…………お前が……伝承通りに力をくれるのならば…………俺はたとえ、戦いの鬼になってでも……この世界に存在する全てのアレを……お前の望み通り殺し尽くしてやるッッッッ!!!!」
――…………汝、死に場所を求めるか。
相変わらず、淡々と。
彼は憎しみに囚われた俺に……そう言った。
彼に対し、すべきではない言葉遣いをした俺に。
だけど、俺は気にしない。
気にしている、場合じゃない。
それよりも、俺は。
相手が伝承通りの彼なのか…………それがまだ不安だった。
まだ、この世界の全てを。
俺の故郷の学者達は解き明かし切れていなかった。
彼を騙る、何者かがいないとは限らない。
確かに、相手は。
彼らしい返答こそしたが。
だが果たして、この声は。
本当に彼の声なのか…………俺は不安だった。
わざと、俺を怒らせて。
さらに弱っていく様を見届け楽しむ何者かの可能性だってある。
――…………その意気やよし。
そして、そんな彼は……またしても淡々と告げる。
――そのための覚悟があるのならば……汝も我の代行者としよう。
すると、次の瞬間。
俺の中で……力が湧き始めた。
ほんの数秒で、起き上がれるくらいの力が。
ま、まさか…………本当に彼なのか?
けれど、驚く暇はあまりなかった。
次の瞬間、今度は頭の中に……多くの情報が。
俺に備わった、彼由来の能力に関する情報と共に……俺の故郷を滅ぼしたアレにまつわる情報が刷り込まれて…………アレが、俺の想像以上に……この世界に蔓延している事実を知った。
それこそ、しいて言うならば…………絶望的な規模で。
――とりあえず、仮契約から始めよう。
しかし、そんな俺の事などお構いなしに。
伝承通りであった彼は……俺に改めてそう言った。
というか、仮……契約……?
――我の力は、段階的に渡さねばならない。
――そうでなければ、その肉体が壊れてしまう。
…………まさか、俺が手にする力には……俺の想像以上に……まだまだ上があるのか?
――そして汝に、改めて問おう。
――それ以上の力を持ち…………ヒトである事を捨てる勇気はあるか。
「…………俺は――」
少年。あとは勇気だけだ。