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お疲れなんじゃないですか?


「飯倉さん、もう食べないんですか?」

 一緒に入ったいつもの定食屋。飯倉が親子丼を半分も食べないうちから箸を置いたのを見て、梶は心配になった。

「お疲れなんじゃないですか? 昨日あたりからなんだか元気ないみたいだし・・・」

 気にかけてくれる梶を飯倉は笑顔で制した。

「大丈夫だよ。歳のせいか胃袋も縮んできてんだよ」

「そうですか、それならいいですけど」

 気丈に振る舞う飯倉の笑顔と裏腹に吹き出している額の汗に、梶は不安が押し寄せてきた。

「一度健康診断受けたほうがいいんじゃないですか?」

 二人で立ち上げた芸能事務所は登記上有限会社であるがそういった労働安全衛生面において不十分だった。所属タレントには健康診断を義務付けているものの、自分たち事業者はその義務から逃れられると思い込んでいた。

「そのうちな」

 飯倉は取り合わなかった。

「それより・・・」

 話を仕事に戻した。

「予想より遥かに効き目あっただろ。まったく最強の切り札だよ、あいつは。期待はしていたが、あそこまでとは、恐れ入る」

 先日のマッキーの雅樹と拓海への説得工作のことを言っている。梶はデザートで付いてきたわらび餅を一気に口に放り込み訊ねた。

「もう戻ったんですか、沖縄に?」

「昨日な。東京には猛毒を持ったマムシがいるし、住みづらいからと言ってさっさと帰っていきやがった」

「ああ、それが原因だ。飯倉さんが元気なくなったの。寂しいんでしょ?」

「バカやろう」

 からかわれて飯倉は顔を顰めた。半分図星ではあったが・・・。

「それにしてもたった2日で、我々が手を焼いていた雅樹と拓海をあっさり説得してしまうなんてね、飯倉さんも鼻が高いでしょ、産みの親としては」

 見つけたのは自分かもしれないが、育てた覚えはなかった。確かに幾度も叱ったことはあるが。

「あいつは何度も生まれ変わっている。もう昔のあいつじゃないよ」

「すると、いまのマッキーは何者なんでしょうね?」

「曰く、究極のアイドルだとよ」

「そう言ったんですか? マッキーが? 自分で?」

「いや、雅樹と拓海がな」

 冷めたお茶でわらび餅を喉に流し込んでから梶は呟いた。

「これであと悠斗だけになりましたね」



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