奴らが後ろで糸を引いてたのか・・・
「それはいいんですけどね・・・」
梶の表情が曇る。
「どうした? まさかまた仲介に変なのがいるんじゃないだろうな?」
やっと払い退けた闇のブローカーのことを飯倉は危惧した。
「そっちは安心してください。NHCが持っていた物件ですから。ただね」
「ただ?」
飯倉の表情に不安が残る。
「田能村さん曰く、NHCには、緒沢の影がまだ残っているみたいだと」
政治資金規正法違反で逮捕された元民政党の緒沢謙次郎は、保釈金を払い獄から脱していた。議員こそ辞めていたが野にあって彼はまた悪影響を及ぼそうと企んでいた。
「緒沢の影だと?」
「ええ、鶴岡がこのところよくNHCに出入りしてるらしいって」
「鶴岡? 緒沢の私設秘書だったあいつのことか?」
「そうです。いまは別の議員秘書してますが」
「奴はいったいなにを?」
「田能村さんの推測に拠れば、会長と会ってるんじゃないかって、緒沢氏に代わって」
NHCの会長と言えば立石健三氏である。彼は緒沢の幼なじみだった。
「会長と? 何のために?」
「雅樹と拓海を落とすために」
「なにぃ!」
「雅樹は紅白の司会で、拓海は大河の主役で、口利きしてくれた立石会長には頭が上がらない」
「つまり、会長を通じて民政党が二人に何かを要求していると?」
「ええ、あの頃と違って雅樹も拓海も人気取り戻してますから」
「まさか!?」
「田能村さん曰く、二人の事務所に内々に打診がいってるんじゃないかって。つぎの国政選挙に出てほしいと、民政党から」
「バカな! この後に及んでまだそんなことを!」
「いまなら当選する確率高いですからね」
「信用できるのかその話?」
「あるそうですよ女子アナの情報交換会みたいなのが、他局交えて、OGも。そこにたまに来るそうです、あの女狐が・・・」
(女狐・・・?)
はたと思い出し、飯倉は囁いた。
「雅樹を陥れたあいつか? たしか、なんとか莉夢、とか言ったな」
「朝比奈莉夢です。元K放送局の女子アナ、しかしいまはアジアンニュースJPの社員」
「するとなにか、うちを攻撃したあの芸能メディアがここでも絡んでるのか!」
神妙な顔して梶は頷く。
「その会合に来てた女子アナから田能村さん聞いたそうです。女狐が鶴岡と局内でヒソヒソ話してたって」
飯倉の顔が青ざめる。
(奴らが後ろで糸を引いてたのか・・・)