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アイドルは変わった。年齢じゃない


 東京に戻った飯倉に待っていた仕事は、ラバーズ事務所から放たれた所属タレントたちの夢の継続だった。廃業したラバーズ事務所にはすでにデビューしていたタレントが12名、そして48名の養成中のジュニアがいた。彼らの受け皿を飯倉たちは用意しなければならなかった。一緒に会社整理を手伝ってくれた吉岡雅樹の元マネージャー梶晴郎とともに、飯倉は新しい事務所を立ち上げる計画を持っていた。

 緒沢謙次郎逮捕後、ラバーズ事務所元社長海堂丈太郎と元副社長の海堂メイコの二人も、不当な金銭授受とタレントへのパワーハラスメントの罪で起訴され有罪が確定した。いまや芸能界からラバーズ事務所の呪縛は一掃されつつあるといってよい。

 だが、かつてラバーズ事務所に所属していたタレントたち、および訓練中だった少年たちは呪縛の余波を受けて、行き場を失っていた。彼らの救済が飯倉と梶に残された仕事だった。

 競売物件となっている旧ラバーズ事務所のビルは使えないので、彼らは都内外れの古い貸しビルと契約し、登記上ここを新たな芸能事務所とした。

「スペース的にかなりきついですね・・・」

 せせこましいフロアに佇み、梶が呟く。

「なあに、一時避難場所にはなるさ」

 明滅している埃っぽい蛍光灯を見上げ飯倉も呟く。

「やっぱり、全員うちで?」

 梶は不安だった。この事務所にラバーズから溢れたタレントたち全員入所すれば、窮屈なだけでなく、資金面で枯渇する。飯倉は言った。

「ジュニアたちは折を見て移籍先を探してやらねばならんだろうな」

 梶は小さなため息をついた。

「なるほど、一時避難ですね」

 やや間を置いてから飯倉はポツリと呟いた。

「問題は奴らだ」

 飯倉が触れたその問題はラバーズ事務所が残した最大の遺産。すなわち解散した『笑門来福⤴吉日』だった。

「まさか、飯倉さん、彼らをまた、うちでなんて・・・」

「ああ、考えてる」

 明滅している蛍光灯を梶は不安げに見上げた。

「できますかね・・・そんなこと」

 全メンバーがいまは別々に活動している。彼らをひと所に集めるのは一から売るより難しい。

「詩郎、剛士、慎之介はまだしも、雅樹と拓海はだいぶイメージ損ないましたよ。それに悠斗はもう民間人です」

 笑原拓海の粗暴な振る舞いや吉岡雅樹のセクハラ紛いの行動が障壁になると梶は考えていたのである。しかし、飯倉はそれを押しても『笑門来福⤴吉日』を再結成させたかった。その最たる理由は・・・

「苦い過去があるからこそ、真のアイドルに近づける」

 だが、梶はあくまでも懐疑的だった。

「彼らもう50ですよ」

 デビューから30有余年。『笑門来福⤴吉日』のメンバーは吉岡雅樹と笑原拓海の52歳を最長に、門川慎之介以外皆50歳を超えていた。

 飯倉は言った。

「アイドルは、いまや年齢じゃない」

 彼の脳裏に沖縄で見てきたポストアイドルの姿があった。




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