自由奔放な少年たち
飯倉のタレントマネジメントスキルはラバーズでも高く評価されていた。だから彼はトップアイドルを任される。『テイクプレジャー』に続いて、当時ラバーズ一の人気グループ『エクストラパラダイス』を任された彼は、自由奔放な少年たちの扱いに手を焼いていた。
『テイクプレジャー』も厄介だったが、彼らは不良だった故、こそこそと悪さをしなかった。むしろ大胆に牙を剥き出す馬鹿正直さが、大人からすれば可愛くも映った。
しかし、『エクストラパラダイス』はちょっと違った。彼らは『テイクプレジャー』の粗雑さを嫌って、スポーティでクリーンな若者を演じた(そう事務所が仕向けた)。一見すると『エクストラパラダイス』の方が社会受けは良さそうだった。だが、飯倉は彼らの二面性にどう対処すればよいかわからなくなっていた。とりわけグループトップの赤星駿太には困らされた。
「駿太、昨日はどこ行ってた?」
某局の歌謡番組収録後、メンバー全員で持ち歌のリハをすることになっていた。来年計画されている全国ドームツアーコンサートに向けての準備だった。だが、これに赤星駿太は来なかったのだ。
「すみません、急に胃がキリキリ痛みはじめて」
「胃が?」
「ええ、吐きそうだったんで」
「医者に見てもらったのか?」
「いえ、薬買いに」
「だったら、そう言え! みんな事務所で待ってたんだぞ」
「言いませんでしたか? 体調思わしくないんで、次合わせよって」
「そんなこと言っとらん!」
「あれ? 俺言いましたよね、あの後」
「どの後だ! 誰も聞いとらん、そんなこと!」
「飯倉さんに言わなかったかな? じゃ誰に言ったっけ・・・」
「駿太、いい加減にしろ! グループ活動なんだ。自分勝手な行動するな」
反発せず、赤星はただすまなそうに頭を下げた。
「すみません、以後気をつけます」
そして、つぎのリハも赤星は来なかった。理由はまた胃痛だった。当然に飯倉は赤星を叱った。しかし、赤星は殊勝な態度で、必ず今度からは改めますと恭しく平身低頭した。反抗的な態度を取らない赤星に、飯倉はそれ以上厳しい言葉を控えざるを得なかった。
しかし、何度言っても赤星のルーズさは直らなかった。赤星の悪影響を受けてか、他のメンバーも次第にルーズになっていった。そこでついに飯倉は赤星に言った。
「そんな態度を取り続けるなら、やめちまえ!」
すると赤星は開き直って言う。
「いいんですか、俺が辞めても」
この時は妙に挑戦的だった。
「社長からお咎めうけませんか? 飯倉さんが」
「なんだとぉ」
「言いますよ、飯倉さんから退所しろって言われたって、社長に」