自分たちは公共放送だったのか?
飯倉が止めたからではない。マッキーが心変えたわけでもない。シュンとヨシくんが降りたというわけでもない。が、この企画は潰えた。
「どういうことですか!」
マッキーはNHCの番組プロデューサー田能村から企画中止の連絡をもらった時、思わず血の気の多い昔の自分を呼び戻してしまった。
「冗談じゃねえ! そのつもりで準備してたんですよ!」
「申し訳ありません」
田能村はさしたる理由も言わず、さっきから詫びの言葉ばかりを繰り返している。
「説明してください! なんで突然なくなったのか」
「本当に申し訳ありません」
「それじゃあわかりません。なにか問題あったのですか、俺含め、出演予定者に」
「そういうわけじゃ」
「だったら、なにが理由ですか?」
田能村は黙り込む。
「俺が、ラバーズだったからですか?」
マッキーの方から踏み込んだ。
「『テイクプレジャー』を出すことにラバーズがイチャモンつけて来た、そういうことですか?」
マッキーの指摘は凡そ当たっている。
「そうだとしたら、この企画にラバーズが口を挟むのはおかしい。田能村さんのとこは公共放送なんだから」
そうだったろうか? 自分たちは公共放送だったのか? 田能村は自問する。
「教えてください、俺たちが何故再びテレビに出ちゃいけないのか」
それはご当地アイドル化したマッキーの葛藤だった。これ以上売れることはタブーだったのか? 三線を聴いてもらいたい彼の切なる望みは望外のことだったのか? 沖縄から出てはいけないのか?
すると田能村はため息の後、やるせなさそうに呟いた。
「僕だって、いかなる権力にも屈せずやりたいですよ」
その言葉に田能村にも深い葛藤があることをマッキーは悟った。
「あなたたちはもう『テイクプレジャー』じゃない。だから何の束縛も受けない。受けちゃだめなんだ」
「おっしゃるとおり」
「メディアは、常に権力に、従うべきではないんだ」
田能村の詰まりがちな声には、どうしようもない逆説がはみ出していた。マッキーは察した。
「つまり、権力に屈したということですか? NHCが?」