ご当地アイドル?
マッキーは折れそうな声で囁いた。
「どこも拾ってくんないんじゃ・・・」
日本での復帰を望んだ彼は在日芸能事務所に片っ端から電話をかけたがどの事務所も彼を受け入れてくれなかった。興味を示してくれる事務所はいくつかあったが、ラバーズの名が出ると途端に、巻き添え食いたくないと逃げられた。言ったとおりだった、海堂丈太郎の。日本で同じ仕事がもう二度とできないとはこのことだったのだ。
(戻れないのか? 俺は?)
路頭に迷う彼を絶対に復帰させまいとラバーズ事務所が戦線を張っている。どの事務所もマッキーに手を出さない。
「どうしたらいいんだ、俺、飯倉さん?」
飯倉は答えに窮した。3年も空けば元のように活動をすることは不可能だからだ。
「一からやり直したいんだよ」
その言葉の真意を問うた。
「本当にそう思ってるか?」
「思ってる」
「だったら、泥臭くやれるか?」
「泥臭く?」
「ああそうだ。事務所に所属するのは無理だ。しかしおまえならひとりで芸能活動してもあるいは出演させてくれるところがあるかもしれん。それまで個人で活動してはどうか?」
言外にさきほどゆいレール駅で遭遇した女性たちの反応に飯倉はマッキーの可能性を見ていた。彼はまだ売れる。かつての彼でなければ。
「そんなことできんのかよ?」
飯倉は怖い目でマッキーを睨みつけた。
「できるかどうかなんて聞くな! やるしかないだろ!」
マッキーは飯倉の勢いに圧された。
「わるかった飯倉さん。俺やるよ。で、どうすれば?」
飯倉は言った。
「三線か胡弓か琉球笛、いずれかをマスターしろ」
「ん? 琉球楽器を?」
「そうだ」
「ギターじゃダメなのかよ」
「ありふれてる」
「そんなの覚えてどうすんだ?」
「もちろん演奏するんだ。沖縄中心にライブハウスで」
「ラ、ライブハウス?」
怯むマッキーに飯倉はなおも要求した。
「言っとくが、アイドル時代の楽曲は使えんぞ。自分で曲を作って歌うんだ。つまり・・・ご当地アイドルをめざすんだ」