表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/117

なんのオーラも発していなかった


 ゆいレール終点首里駅の一つ手前、儀保(ぎぼ)駅で二人は落ち合った。

 改札を出た階段手前の隅に佇んでいた彼は、あの日養成学校で見た近見真紀ではなく、なんのオーラも発していなかった。

(こいつもこうなるんだな・・・)

 あれほど過信に満ち、寄る者すべてに喧嘩腰で対峙していたマッキーがこんな姿になることを飯倉は驚きを持って眺めつつも、予期できた結果に、

(井の中の蛙だったろ、な、マッキー)

 と言ってやりたい気持ちだった。日本で売れたからと言って世界で通用する時代ではない。ましてや芸に乏しい80年代のアイドルが世界で受け入れられるはずがない。それはわかっていた。言葉なくそんな目で見つめる飯倉にマッキーは、ただ項垂れていた。

「おかえり」

 飯倉から歩み寄って彼のしょげた肩をポンと軽く叩いてやった。顔を上げたマッキーに飯倉が微笑みかけるより早く、通りがかりのOL風の一団が気づいた。

「あれ、もしかしてマッキーじゃない!」

「そうよ、マッキーよ」

「うっそお、なんでここにいるの!」

 衰えたオーラとはいえ一度は頂点を極めたアイドルである。女性たちが放っておくはずない。

「マッキーさんですよね?」

「声かけていいの!?」

「握手してもらえるのかしら?」

 興奮しながら近づいてくる彼女たちを飯倉が制した。

「すみません。今日は彼、仕事じゃないんで。ごめんなさい」

 マネージャーをしていた頃からの習性でタレントの盾になった。そして小声でマッキーに訊ねる。

「どこか安全な場所あるか?」

 すると、マッキーは親指を翳し着いてこいとゼスチャーした。


 そこは亡くなったマッキーの母親の友人が古くから営むベーカリーショップだった。ずっとマッキーを応援してくれていた。昼下がりの店には客が誰もおらず、外から見えない位置のイートイン席に店主が二人を案内してくれた。

「まさきちゃん、久しぶりなー」

 照屋美咲(てるやみさき)というその店主は幼い頃からマッキーを知っているせいか、若い女性たちと違って母親のような温かい笑顔でマッキーを迎えてくれた。

「お世話になっております」

 飯倉が美咲に頭を下げる。

「こちらこそー」

 飯倉と美咲はマッキーを介して保護者のような挨拶を交わした。

「表閉めておきますからぁー、どうぞごゆっくりー」

 そう言って美咲はテーブルにサーターアンダーギーとマンゴージュースを置いてくれた。

「すみません。お気遣いくださり」

 飯倉は美咲にもう一度深々と頭を下げた。チラリとマッキーを伺うと彼も照れ臭そうに頭を下げていた。二人っきりになってから飯倉が呟いた。

「結局、生まれ故郷だったわけだ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ