そこへ行く。どこだ?
その時、飯倉は自宅にいた。すべてのタレントからマネージャー業を外されて飯倉自身もラバーズ事務所から干された状態になっていた。社長に盾ついたのだから覚悟の上であったが、いざこうして干されてみるとラバーズ事務所、いや海堂丈太郎の怖さがわかる。
創業者海堂丈太郎が築き上げたラバーズ事務所は、丈太郎ひとりの好悪の感情で所属員の処遇が決まった。
飯倉は肘掛け椅子の背もたれに体を投げ出し呟いた。
「俺も終わりだな」
あの日、丈太郎が言い放った「やつらは使い終わったんだ」には自分も含まれていたのだと知る。
彼の視線の先には昨晩書いた辞表がある。シュンとヨシくんの退所で決心した。自分も辞めなければと。『テイクプレジャー』を解散させた罪は自分にある。自分だけのうのうと残るわけにはいかない。飯倉はいまからこれを丈太郎に持っていくつもりだった。
そんな矢先に掛かってきた電話は、ビジネスホンでなく家の固定電話だった。ここに掛けてくる相手は限られる。仕事先の人間でなく、プライベートで親交のある人間だけだった。例えば昔から彼をよく知る者であったり・・・。
「もしもし」
出処進退の話に出かける直前で面倒臭いと思ったが、この電話が鳴ったとなれば取らざるを得なかった。
「もしもし」
聞こえて来た声は若い男性。
「飯倉ですが」
「飯倉さん・・・」
マッキーだった。
「どうした急に?」
飯倉には急であるが、マッキーにとってはさんざん迷った末でのコールだった。
「俺、どうしたらいい?」
突然のことに飯倉は暫し言葉を見つけられなかった。
「もう、行くとこなくなっちまったよ」
「アメリカにいるんじゃないのか?」
「あんたの言ったとおりさ、全然通用しねえ。アーティストとしても、人間としても。そんなことあんたにはわかってたんだよな」
「いまどこにいるんだ?」
会わねばならないと思った。
「・・・」
沈黙があった。
「そこへ行く。どこだ?」
マッキーの囁きが耳元でこだまする。
「あんたと出会った場所」