俺が第1の成功者になってやらあ
マッキーは若かった。若すぎた。故にその先に何が起きるかわかっていなかった。当時、『テイクプレジャー』を担当していた同じく若き駆け出しマネージャーであった飯倉は、マッキーの行きすぎた行動を諫めるのに必死だった。
ある日のこと。マッキーはラバーズ事務所との契約更改の際、とんでもないことを言い出した。それは同席した飯倉もまったく聞いていない話だった。
ラバーズ事務所を一代で築き上げてきた海堂丈太郎は、当時36歳。こちらも若き社長だった。妹のメイコは32歳。大手証券会社を辞めて移ってきたばかりの気鋭に満ちた同族幹部。マッキーは海堂丈太郎とメイコ相手に、いきなりこんなことをぶちまけた。
「俺、『テイクプレジャー』辞めます」
横に控えていた飯倉、目ん玉をひん剥いた。マネージャーとして何か言わねばと思ったが、先に丈太郎の言葉が入る。
「辞める? それはラバーズ事務所を退所するということか?」
マッキーは丈太郎とメイコ相手にも謙った態度は見せなかった。
「そうっす」
そう言った後、足を組んで踏ん反り返った。丈太郎の目が険しくなる。
「どういうつもりだ?」
するとマッキーは言った。
「USAに行こうと思って」
若造の気取った言い方に、丈太郎は同じ言葉を避けた。
「アメリカか?」
飯倉もメイコもその国名を頭の中で探るように旋回させた。丈太郎は訊ねた。
「アメリカで何をする?」
「向こうのミュージシャンと一緒にやろうって」
「誘われたのか?」
「いいえ」
飯倉が怒りを露わにした。
「バカいうんじゃない! 通用すると思ってるのか! アメリカで成功した日本人など誰もいないんだぞ」
「だったら、俺が第1の成功者になってやらあ」