やっぱりカミカゼだよ、君たちは
「浅はかな。これだから政治はいつまでたってもよくならん、なあライスレン」
曽我はさっきまで政治汚職について意見交わし合っていた国際政治部のティア・ライスレンに突然話を向ける。
「何の話だ?」
ライスレンは首を傾げる。曽我は電話機のハンズフリーモードを押した。会話に莉夢とライスレンを交えた。曽我がライスレンに訊ねる。
「カンボジアでもテレビタレントと政治家っつうのは境界線ないものかい?」
ライスレンは不思議そうに呟く。
「ここだけだと思ってるのかい? その二つの職業が深く繋がってること」
「万国共通か」
「政治腐敗も、著名人の不浄も、そんなの古今東西、万古不易だろ」
曽我はライスレンの瞳に映る自分の影に諭すように言った。
「安心したぜ、日本だけ狂ってるんじゃないかと思ってたんでな」
「狂ってるとしたら、アイドルが解散したぐらいで死を急ぐ女の子だろうな。あれは日本特有だ。ビートルズが解散しても、ジョン・レノンが殺されても、自殺した者は世界中誰もいない」
曽我は興味を示す。
「どう映ってるんだ我々は、世界から?」
「やっぱりカミカゼなんだな、君たちは」
狂っているのは一部だ。大半は臆病な国民だ。曽我はカミカゼと聞いて反論を試みる。
「殉教はどこにでもあるだろ?」
「死後、神に会えると信じてるからね」
「似たようなものだろ」
「するとなにかい? アイドルは神なのか?」
(神か・・・。あるいは邪神かもな)
莉夢の声がスピーカーから漏れる。
「もしもし、もしもし、曽我さん? 誰と話してるの?」
「すまん、すまん、記者仲間とね」
曽我はもう一つ莉夢にお願いごとをしなければならなかった。
「悪いがあと一個、頼みを聞いてくれないか」
「まだあるわけ?」
「そう言うな。ちゃんと追加報酬は払う」
莉夢のため息が深まる。
「で、なに?」
「ラバーズに請求して欲しいんだ」
「請求?」
「ああ、吉岡に軟禁された慰謝料と、参院選に出る情報の秘匿対価を」
「口止め料ってこと?」
「そうだ。奴らは吉岡を政界に送りたいはずだ。きっとおまえに金を寄越す」
「そんなの受け取ったら、私もただでは済まないわ」
「受け取らなくていい。奴らは足跡つく方法は取らない。現金を持ってくる。そこをうちがスクープする。民政党との癒着も暴ける」
「私をおとりにしたいわけね。つくづく怖いひとね、曽我さん、あなたって」
「腐敗したラバーズを解体する、そのための調略だ。莉夢、協力してくれ、頼む」
そのやり取りを聞いていたライスレンは神妙な顔して呟いた。
「やっぱりカミカゼだよ、君たちは」