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殺された彼女たちが浮かばれん


 ラバーズ事務所を後にして小坂部と和田は民政党本部を訪ねている。そこで党内最大派閥安西派の会計責任者との面会を請うた。しかし、党本部では各派閥の事務に関して直接回答できないと断られたので、やむなく二人はアポなしで安西派の事務所を訪ねることにした。

 移動の車中、小雨が降ってきたので和田はワイパーのINTを最小に回した。フロントグラスの雨滴を硬いワイパーがキキッと嫌な音立てて埃ごと撫でた。一瞬視界は引き延ばされた雨滴と埃の混じった泥水で遮られた。

「やはりどっちも簡単には口を割りませんね」

 どっちも、というのは党本部、そしてラバーズのことだ。和田の呟きを小坂部は補聴器を入れた左耳で拾い、国会議事堂に不気味に被さる灰色の雲を睨め上げ、湿った息でフロントグラスの裏側を曇らせた。

「想定内だよ」

 表情も曇ったままだった。

「ああは言っていますが、特捜部の調べでは、これまでもラバーズは不明瞭な金銭授受を繰り返していてアイドルへの宣伝に収支報告書に書けないような巨額の金を費やしているのは間違いないと」

 身に覚えがないと言った時の海堂メイコの毒々しい口紅の色を和田は思い出していた。

「国民の人気を取りたいという点は酷似してるからな、芸能界も政界も。そりゃあ隠そうとするだろ、互いに。一旦利害が合致すればどの団体より共謀が働きやすい両者だ」

 かねてより疑いが持たれていた二つの寄り合いに小坂部はいよいよメスを入れる時が来たと思っていた。頷きつつも和田は懸念を口にする。

「しかし、安西派は認めますかね?」

「認めんだろ」

「こっちは証拠、ありますけどね」

 ラバーズ事務所側の不正は暴けていないが、民政党の不正は特捜部の調査でじつは暴いている。安西派は企業などから集めたパーティー収入を派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとして、政治資金規正法違反の疑惑がかかっている。

「あれを突き付けたらどんな顔するでしょうね」

 だが、小坂部は言った。

「そこだけだったら民政党の不始末で終わってしまう。問題はその金がラバーズ事務所から回ってきたことを突き止めんと、自殺した彼女たちが浮かばれん」


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