縛っても、出ていく者はいるでしょう
「まだあった方でしょ。幸か不幸か、あの子たちはアイドル不況の時代に生まれた」
飯倉は鼻先を掻いて苦笑いした。
「あれを下積みと言ったら笑われます。それでも彼らは1年もたたずスターになれたのですから。詩郎は言いました。売れて自分が一番偉いって勘違いしてるヤツがいるって」
「誰のことを言ってるの?」
「もちろん雅樹と拓海のことを」
「彼らは稼ぎ頭だわ。二人がいるから売れたのよ」
事務所もそうやって彼らを特別扱いする。それが他のメンバーには我慢ならなかったのだろう。
「それで、慎之介が嫉妬から拓海に手を出したってこと?」
「違うでしょうね」
「じゃあなに?」
「いわば視野狭窄でしょう」
「なにそれ?」
「近すぎる視点で互いを見てきて、欠点しか見えなくなっている」
「でも、あなたそれを見越して言ってくれてたわよね、プロである以上、互いを信頼して、常に笑顔を振りまけと」
「ええ、言いました」
「その基本忘れたの?」
「あの枠の中ではもう収まらぬほどに彼らは大きくなりすぎた。国民的アイドルってそういものでしょう」
「自惚れだわ」
「そうですね、自惚れです。ですが彼らは『笑門来福⤴吉日』から出なければそれが見えない」
「解散は認めないわ」
「縛っても、出ていく者はいるでしょう」
「出ていくなら思い知らせてやるわ、ラバーズ事務所の力を」