下積みが足りないから
自分では手に負えぬところまで来ていると悟り、飯倉は副社長の海堂メイコに相談した。メイコは社長海堂丈太郎の妹である。
「解散?」
飯倉の話を聞いたメイコは口を歪めた。
「冗談いわないで」
所属タレントの揉め事には慣れてはいたが、マルチタレントにまで上り詰めた彼らがよもやテレビ局で乱闘事件を起こすなどメイコは思いもよらなかった。ましてや解散など。
「私も冗談だと思いたいんです。ですが・・・」
「いつからそんな状態だったの、あの子たち?」
「悠斗曰く、はじめからだったと」
「あなたがいながら、どうしてそんなややこしいことになったのよ!」
メイコは飯倉に責任を押し付けた。飯倉は頭を下げた。
「申し訳ありません。しかし、アイドルグループというものは売れると決まって誰かが増上慢になるもので」
言外に彼が手掛けた『テイクプレジャー』と『エクストラパラダイス』の存在があった。
ラバーズ事務所からデビューしたこの2つの人気グループは1980年代から2000年にかけて人気を博したが、メンバーの中から独立を希望する者が現れ解散を余儀なくされた。独立したタレントはその後思ったようには売れなかった。自分の実力を過大評価しすぎていたのだ。これを飯倉は増上慢と断罪する。
メイコは渋い顔で頷いた。
「たしかにね。彼らの解散はメンバー同士の亀裂だった。ただ『笑門来福⤴吉日』は路線を変えてたでしょ? どうしてそんなところへ陥るわけ?」
「下積みが足りないからでしょうね」