9話 体験入部 その1
アノのせいで今日文芸部に来る羽目になってしまったが内心ではさながら焼肉が焼けるのを待つあのもどかしさに似ていてどんなことをしているのか少しワクワクしていた。
だが、それもつかの間。
なぜなら……、
「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの!」
「ちょ、やめ、……俺はお前なんかに屈しな、はぁはぁ。お前こそ始まった時よりだいぶ弱くなってるぞ!ほら、もっと来い」
何かを叩く音と男女のプレイの声が文芸部の活動場所から外の廊下にまで聞こえていた。
「うん帰るか」
「待って、聞き間違えかもしれないのでもう少し聞いてみましょうよ。はぁはぁ」
ユリは人が変わったかのように目を見開いてドアに近づいて聞き耳を立てる。
「部室の前でずっと中をうかがってる奴は誰だー!」
「「うぎゃー!」」
長い髪の女性が出てきたかと思ったらアミとユリが変な悲鳴を上げ、ユリとアミはその場に立ちすくんでいた。
「ん~?」
女性は俺たちの方にズカズカとよってきて何か顔についてるのかくらいじっと見てくる。
見終わったかと思うと、後ろに回り込んできて部室へ連れ込まれ、
「椅子に座ってて」
「菓子です」
「今お茶いれるから」
「さあさあ、くつろいで」
さっきまでプレイをしていた男女が見事なコンビネーションであれやこれやしてきて出づらくなる雰囲気になってしまった。
俺たちは仕方なく流されるままに席に着くことにした。
「俺は、二年の長沢シュウヤ。君達、文芸部に入る気なんだろ?実は人たりなくて廃部寸前だったんだよ」
シュウヤは何かを期待するような顔で訊いてくる。
「えっと、ちょっと考えさせてください」
文芸部自体には興味があったがさっきの廊下で聞こえてきた声のせいで入ろうか入らないか迷ってしまう。
実際は100%のうち70%で入りたくないのだが。
「考える必要があるんですか?」
ユリが俺に向かってにらみつけてくる。
「こんな素晴らしい部活はどこを探してもないですよ!」
「お前今日来るの初めてな雰囲気出してたのにどこ見てそんなこと言えんだよ!?」
まあ訊かなくてもさっきの行動を見れば大体察しが付くが。
「んなこたないです!さっき廊下で聞いた」
「もういい!いいから!なぁ?」
目をキラキラさせながら妙なことを語ってきそうだったのでいったん落ち着かせる。
「私、この部活に入ります」
ユリを抑制させて静まり返った教室にアミの声がやけに響いた。
「え、なんで?」
「だって、シュン君だって聞いたでしょ?廊下で聞こえてきた」
「お前もかよ!」
アミもそっちの理由だった。
「あ、あのさっきのプレイ……、じゃなくてさっきの会話は別に彼女に屈していたわけではないぞ!」
口では強く言っているがシュウヤはもじもじさせながら顔を真っ赤にさせる。
そんなに恥ずかしいなら学校以外でやれよと思うがそこは気を使って、
「まぁ、気にしないで下さい。さっきの事はキッパリ忘れますから」
「そうだといいんだけど、忘れなさそうな人達が」
シュウヤがアミとユリに目を向けたため何となく察しが付く。
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