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能力アフター  作者: 佐藤同じ
55/55

能力アフター05話018

投稿します。

ヴゴアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、


壁の向こうは、地獄の釜がひっくり返った様な、灼熱地獄だった。

目の前に、半径、30メートル、直径60メートルの巨大な、円形の融合炉が暴走している。

絶縁のために、その大部分を水中に沈められた装置は、大電流によって、励起される漏れ磁場により、空気と水の境界線で、絶縁破壊を起こし、凄まじい放電の稲妻を発し、蜘蛛の巣のようにのたうち、轟音をあげている。


「全然、封じられてねーーーーじゃねーーーかあああ!!」

那智に降ろしてもらった、紫煙が大騒ぎする。

大まかにいって、核融合炉の種類は、磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式があるが、Zピンチ核融合炉は慣性閉じ込め方式だ。

中央のチャンバー内部の圧縮反応が限界を越えて、プラズマ化の膨張エネルギーが暴走していた。磁場の自己収縮が崩壊寸前なのだろう。

連鎖反応による破滅は目の前だった。


「紫煙!!」

叫ぶ那智。とにかく、のっぴきならない事態なのは、わかる。

「わーーーーってる!」

最後の力を振り絞る、紫煙。正真正銘、キャパの底、一滴残らず力の全てをかき集める。


「サーーーマルガン!ハイ フェイス トランジション(高次相転移)!!」


グオオワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、


相転移されたプラズマが、炉の中央に巨大な融合結合プラズマ球を作っていく。

暴走したエネルギーを紫煙が、吸い上げているのだ。


「どっっせえええーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

同時に、チャンバー内のプラズマ反応にも干渉していくが、これは困難を極めた。


「だ、、、だめだ!桁違いすぎんだろ!無理だああああ!」

悲鳴を上げる紫煙。

チャンバー内は20億度の熱反応を起こしている。これは、恒星の内部温度を越える超高熱だ。個人でどうこうできるわけがない。

「紫煙!がんばれ!!」

後ろから那智が励ます。

「がんばってんだろ!!」

無責任に応援すんな、と思う紫煙だが、同時に、なんで自分たちはこの状況で生きているのか、疑問が湧く。

那智の炎の三角錐の中にいるからだろうが、あらためてその異常さに気がつく。

考えられるのは、四面体の全てが爆轟だった場合だ。


しかし、デトネーションの4発同時展開など聞いた事が無いし、可能とも思えない。

しかし、そうでなければ、説明がつかない。


この女は、核爆発を至近で喰らっても、無事なのではないのだろうか。

何を想定して、こんな強固な防御形態が存在しているのか。

想像したくもない、底の知れない彼女の真価を垣間見たようで、寒気を覚える。


『紫煙〜〜炉をこわすなよ〜〜〜。』

ここで、まの抜けた白衣の少年の声が、レシーバーに流れる。

「うっっせーーーーーーーよ!やってんだろ!ぶっ殺すぞ!」

なんもかんもこいつが悪い。そう思った。

感覚としては、巨大な河川の氾濫に飛び込んで、濁流を堰き止めようとしている感じだ。

押し流されるだけだろう。

『誰も、暴走を押さえろなんて言ってねー。エネルギーを削って時間を稼げ。』


「、、、、やってるってんだろ!」

プラズマの制御、拡散に集中していく紫煙。

炉の上空の融合結合プラズマ球は直径50メートルを超えて、膨れ上がっていく。

「けど、、、長くは持たねーーぞ!」

もう、息も絶え絶えだ。

本来、力も、もう、すっからかんだったのだ。ありったけの気力を振り絞る紫煙。

『わかってる。がんばれ〜〜。』

お気楽な声がレシーバーに流れた。


ゴオオオオオアアアアアアアアアアアア、

白熱に輝いていく、炉心内部。絶縁破壊の放電が、当たりを白く、白く、染めていく。


南の波力発電所では、制定部隊、エコーからイータチーム、太っちょ安西たちが施設奪還に死闘を繰り広げる。


桂橋ジャンクションでは、朧、詩吟たち、アルファチーム、他の戦いが大詰めを迎えている。


アルカ北西部では、牧たち、特殊四課の必死の避難誘導は、今も続き、


SCADA、第一工業地帯では、日向まこ、及び、王城たまきの消耗戦は、クライマックスだ。


それぞれに命の灯火が、激しく輝き、燃え尽きようとしていた。


少年の前には、不気味に唸る、融合炉建屋がそそり立っている。

どちらにしろ、紫煙が力尽きれば、全てそこまでだろう。


気がつくと、建屋の壁に寄りかかって、座るあらたが、腕時計を見ている。

「3、2、1、、、、ふむ、、、、爆発しないな、、、、」

面白くもなさそうに、文句を言っている。


雨足は徐々に弱まり、分厚い雨雲が流れていく。


「どうだ。イブ。」

進捗を聞く少年。

「さて、主人どの。ここで質問じゃ。」

再び現れるガブくんが、面白そうに尋ねる。


「アルカの破滅と、アダムの修復。どちらを優先するかの?」

タスクの優先順位は、この場合、生死を分ける。


「当たり前だろ。両方、最優先だ。」

楽しそうに答える少年。


「生き残っても、数世紀も退行した世界で生きるなんて、願い下げだ。やってみせろ。イブ。」

彼には、自己犠牲による世界の安寧などの思想は、かけらも存在しない。ダメならダメで、一蓮托生だ。

「それでこそ、じゃ。我が、主人どの。」

パタパタと愉快そうに羽ばたく3Dのホログラム。


全てのカギを握る、その少女は、

彼女は、少年たちの反対方向にある、熱伝導コイル変電建屋に、移動デバイスとともに、周辺機器に繋がれ、座っていた。


「TFコイル、PFコイル、CSコイル、作動プログラム。修正終了しました。」

ポツリとつぶやくアンバーと呼ばれた少女。


「そーーか、、、、、」

ゆっくりと目を閉じる白衣の少年。


「磁気面シア回復します。ポロアダイル磁場、安定領域に入ります。」

アンバーが続ける。

智由が、ゆっくり顔を上げる。


「プラズマ封じ込め成功です。紫煙さん、、、那智さん、、、ありがとう、、、」

那智と紫煙のレシーバーにも彼女の声が流れる。

「あ、、、、、ああ、、、、、、」

那智が感極まり、震えている。

あたり一面を覆っていた、放電現象が消え行く。中間保存コンデンサが低い唸りを上げて、ゆっくり、鼓動する様に、青白く輝いていた。


「やっっっったあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!凄いーーーーーーーー紫煙ーーーーーーーーーー!!」

那智に抱きつかれ、ヘロヘロの紫煙。

「も、、、、、だ、、、、め、、、、、」

炉心一杯に広がった、プラズマの球体が彼女のコントロールを離れ、暴発しそうになった。


グワアアアアアアアアアアアン、

「よっと、、、、」

那智が片手間に吹き飛ばす。いや、簡単に相殺すんなよ、と思う紫煙。

「なんだ、、、、それゃ、、、、」

もう、言葉も出ない。

「やった!やった!やったーーーーーーーーーーー!!」

ブラウンのセミロングの少女に抱きつかれ、ブンブン振り回される力尽きた少女。



「うむ、よくやった。立夏殿。」

ガブくんが、うなずく。

「ワクチンプログラムも完成じゃ。アダムに投薬する。」


少し間があった。


「成功じゃ。復帰までは、数分かかるが、まあ、大丈夫じゃろう。」

世界の救済。それはいとも簡単に、告げられる。


同時刻、

ターミナルタワー地下10階、地下情報センター、


正面5面の巨大モニターが次々と復帰し、アルカの状況の表示を始める。


歓喜の声が上がる、オペレータールーム。

全ては、正常に戻っている。

空調も照明も戻っていた。


ハドリアの前の、モニターの月に明滅する光が、答える。

「核融合炉、停止シークエンスに、入りました。核爆発の脅威、回避成功です。」

「アダム、、、、なのか、、、、」

我が目を、耳を、疑うハドリア。

「ウイルス除去に成功。イブのおかげです。」


「そう、、、、か、、、、、」

ズルズルと椅子からズリ落ちそうになる。


同時刻、

国際核融合炉実験施設。


雲は彼方に千切れて行き、紺色の空が微かに見え始める。夜はいつの間にか開けようとしていた。

雨は微かに降りかかるのみだった。


「あ、、、、、たす、、、かった、、、、、の?」

半信半疑の智由。ヨロヨロとフラついている。


「ったく。なんて、1日だよ。」

ボリボリと頭を掻き、ぶーたれる少年。


「、、、、助かった?、、、、私たち、、、、、、」

隣のリンが思い出したようにつぶやく。

まあ、そう言う事だ。

にっと笑う少年。


「オオオオオオオオオーーーーーーーーーー!!やったどーーーーーーーーー!!」

手近のリンを抱きしめてクルクル回るしん。

役得だろう。ノリでリンも許してくれるはずだ。多分。


「紫煙!那智!イブ!立夏!ごくろーーーーーーさん!よくやったーーーーーーーー!!」

少年に振り回されながら、ちょっと考える小柄なプラチナショートボブの少女。

「うん、、、、、しんも、、、、、ご苦労様、、、、、、、」

頭を撫でてくれた。

「オーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

大喜びの少年。


クルクルとガブくんも一緒に回っている。

「主人どの。SCADA施設の暴走ローダー群、鎮圧成功じゃ。」

経過報告に移るイブ。

「なぜか、日向まこと王城たまきが加勢に加わったらしい。し巻、リラ両名とも健在じゃ!」

「へーーそいつあ、めでたい!」

「こらあああーーーーーーそこーーーーー何やっとるかあーーーーーーーーー!!」

ここで、紫煙を抱えて、炉心から出てきた、炎姫様に見つかる。

いいところなのに。


同時刻、

SCADA施設、


「まったく、、、、途中でスコアがわからなくなってしまいましたわ。」

見事に破壊され尽くされた、建築、土木工事用ローダーのスクラップの山の前で、口をへの字に曲げる王城たまき。


「まあ、いいじゃない。」

涼しげに、長身の日向まこが笑う。

「たまき。ナイス ファイト!」

手を上げる。

「フン、、、あなたもね。ですわ!」

ハイタッチを決める二人。


「ウフフフ、、、重火器も悪くないかも、、、、」

両手で巨大なガトリング砲、二門を軽々と携える、小柄な美少女、二高の長瀬アミが笑う。


後ろに、テロリストたちのトラックがある。そこから引っ張り出してきたらしい。とても、能力者には見えないフル武装だ。

何をやっていたのやら。


後ろで、三高のしょう子がブルブル震えている。

隣のリサ ウエストコットが戦慄している。

「お、恐ろしいーーーー逸材を見つけてしまいましたーーーーデーーース!」

いや、どうでもいいが。


「おはよーーにゃ〜〜〜〜八重ーーーーー!」

首にリラが抱きついてくる。

「いててて!寝ぼけんな!ボケ!」

こっちは、半死半生なのに、相棒は、今日も元気だ。

まあ、いいだろう。


『先輩!センパイ!せんぱーーーい!大丈夫ですかーーーー!!』

那智の弾んだ声が、レシーバーに飛び込んでくる。


「どーやら、あっちも、うまくいったらしーな。」

目を細めるし巻。

雨は上がり、東の空が、うっすらと白みかかって来ていた。


同時刻、

桂橋ジャンクション、


「詩吟さーーん!朧さーーん!」

猛烈な勢いで、オレンジお団子頭の設楽郁恵が飛び込んでくる。


「うっとーーーしーーな!大袈裟なんだよ!郁恵!」

ワイシャツの朧が噛みつきそうに、うなる。

「ドウドウ、郁恵ちゃん。落ち着けーーー。」

笑いながら黒髪の麗人、詩吟。

二人とも、それでも、郁恵を抱きとめてくれる。

「うわああーーーーん!」

子供のように泣きじゃくる郁恵。

「みんな、生きてる!生きてるよおおお〜ーーーーー!」


彼女が知ったのは、アルカの消滅、及びアダム壊滅による世界崩壊からの寸でで回避された、冗談のような奇跡。


桂橋ジャンクション攻防戦は、制定部隊の鎮圧勝利に、無事終わった。


同時刻、

国際核融合炉実験施設、


「波力発電所、及び、ターミナルタワー、桂橋ジャンクション、アルカの、テロリストたちの制圧は大体終了じゃ。」

ガブくんが、パタパタと報告を終わらせる。

「おーよ。」

満足そうにうなずく少年。

「さて、、、、と」

建屋に寄りかかって、座るあらたに目を向けるしん。


ズキュウウウン、

その地面をうがつ、銃声。

クルトのライフル射撃だ。

「悪いな。しん。」

片目のアルマが、歩を進める。

「そいつは、私がもらっていくよ。」


「もらってっくって、、、」

右手の那智が、身構える。紫煙を脇に担いだままなのが、異様だ。

紫煙は、気絶したままらしい。

それを制するように、那智に照準を向ける、クルト。


「やめとけ。いくらあんたらでも、もう無理だ。」

白衣の少年が、一応、忠告する。

いくら一流のスナイパーだろうと、正面から、彼女にかかっては、どうにもならない。


「やってみるかい?」

面白そうに、アルマが笑う。サブマシンガンの銃口を持ち上げ、しん達に向ける。


「りっ、、、、、、か、、、、?」

その緊張を破ったのは、あらたの気の抜けた声だった。


融合炉建屋の向こう、クライオスタット組立建屋から、瀬里奈をお姫様抱っこした、アッシュブロンドのロングヘアの少女が現れる。


イブ、正確には、アンバーTYPE01、立夏だ。

瀬里奈は、まだ意識は無いようである。


「ふ、、、副会長さん!」

那智が叫ぶ。

暗雲は裂け、上空では、黎明の光が広大なパノラマを展開していた。


しん達には知る由もないが、瀬里奈はそこに囚われていたらしい。アンバーはわざわざ、大回りして、彼女を連れ出して来てくれたようだ。

ゆっくりと、クルトとアルマの間を抜ける。


「立夏、、、、」

アルマが低くつぶやく。

ジノの死体をよけて、しんの前に立つ少女。


「サンキューな。立夏。」

無言の少女から、瀬里奈副会長を受け取る、しん。

「チーセンセー。頼む。」

後ろの智由に渡す。

「あいよ。」

すぐに、意識の回復にかかる智由。


「山下さん、、、、」

意外なことにアンバーが少年に語りかける。


「アンバーを、、、、頼みます、、、、、、。いつか彼女が目を覚ましたら、、、、、イブちゃんと一緒に、、、、仲良くしてあげて、、、、」

「、、、、、、、、、」

そのイブではない誰かを黙って見つめる白衣の少年。


そのまま、アンバーは夢遊病の患者のように、あらたの前に歩いていく。

「、、、、、、、、」

あらたは何もできず硬直している。


「そんで、、、リン。」

面倒くさそうに白衣の少年が、左隣の少女に聞く。


「そいつは、アンバーなのか?立夏なのか?」

まるでオカルトだと思う。

立夏という少女は、とうの昔に亡くなっているハズなのだ。


わずかにうなずく、プラチナショートボブの少女。

その薄い虹彩の瞳が輝き始める。


月のイブから立夏のちからはエンパス能力だと聞いている。リンのテレパスはそれの完全上位互換の能力だ。

しんは、最悪の場合、立夏を見つけ出して、リンに能力を解除してもらって、イブを解放し、融合炉を止めるつもりだった。

時間はかかるだろうが。


「その子は、、、、不知火 立夏、、、、」

「は?」

思わず間の抜けた声をあげてしまう少年。


「な、な、、、なんで!オバケか!」

そんなバカな。と思う。アルカでは、もっともらしく、残留思念などと呼んでいるが、不確かで、科学的根拠もクソもない話だ。


「正確には、、、、繋がっている、、、、」

過去、現在、未来、全ての事象を、人間の本質を見通す、テレパスの最上位、神の眼、プロビデンス サーチ。

その超常が、静かに、アンバーと呼ばれる少女の内部を照らしていった。


「彼女は、、、、、夢の中、、、、、最後の時を迎えている。その走馬灯の中、私たちを見ている、、、、、」

ゆっくりと、そのありえない事実を告げるリン。


「なるほどのお、、、」

ガブくんが、ポツリとつぶやく。

「ようやく合点がいった。立夏殿の内部に観測された、量子もつれは、そのためだったのじゃな。立夏を観測していたのは、過去の立夏殿であったか。」

「量子もつれって、、、」

絶句する少年。


そりゃー量子情報理論によっては、訳のわからない、同時観測の情報伝達とか、あんだろーが、量子テレポートが、時間軸を越えるなんて話は聞いたことがない。

いや、でも、未来予知なんて、とんでも能力は、そこらへんに理論があるのかも知れない。


「彼女にとって、、、膨大で、悠久の時間の流れも、瞬く一時の夢、、、、」

リンがポツリとポツリと話していく。

時間の流れもへったくれもないわけだ。さすが量子力学、ハンパねー。


「、、、、、、、、、」

もう、あらたは、本当に、アンバーの前で、固まってしまっている。


「う〜〜〜〜〜〜。」

那智が不機嫌に横から突っついて来る。


「アンバーは、過去の立夏と繋がってるらしい。」

しょーがなく話すしん。

「そーなの?テレパシーとか?」

那智が目をパチクリさせている。

「まあ、そんなよーなもんだ。」

説明を省く少年。彼自身、説明できそうにない。

ただ、できることはある。


「リン。立夏とちゃんと繋げる事は、できるか。」

彼女の見ているのは、走馬灯だという。

本当に、夢遊病患者のようなもんだったのだ。では、覚醒した意識と繋げる事は、可能だろうか。

コクリと無言でうなずくリン。

彼女の淡いトビ色の瞳が、再び輝き始める。


過去、

白い、集中治療室で、その少女は、一人、長い夢を見ていた。

その中で、彼女の兄は、人を殺め続けて、どうしようもない過ちを、続けながら、その挙句に、崩れた壁に寄りかかって、死にそうに、こちらを見ていた。


現在、

その少女は、座る、あらたの前にゆっくりと片膝をつけて、彼の空洞のような、瞳を見ていた。

「お兄ちゃん。最後に逢えてよかった。」

それは、生前の明るい妹の声だった。

しかし、

彼女は知っていたはずだ。

自分が彼女の事を、わずらわしく思っていた事を。


過去、

目の前の兄は、どうしようもなく、こわばった救いのない顔をしている。

やっぱり、不器用で、困った、人だ。


現在、

「あのね、兄妹だもん。互いに、ケンカする事だってあるの。」

少し不服そうに、ブロンドの妖精のような少女が頬を膨らませる。


「私だって、バカ兄貴ーって思うから、、、」

ひたいを合わせる少女。

「もっと、もっと、いっぱいケンカとかも、、、したかったね。」

それはもう、叶わぬ願い。


過去、現在、


「今まで、ありがとう。」


「一緒にいてくれて。」


「守ってくれて。」


「そばに居てくれて。」


「大好きだよ。」


「お兄ちゃん。」


「どうか、、、、幸せになってください。」


「さよなら、、、、お兄ちゃん、、、、、、」


過去、


(さよなら、、、、、、)


集中治療室の全ての機器が、少女の生命活動の停止を告げていく。

彼女の、長い、長い夢は、静かに終わりを迎えた。


現在、


「ウワアアア、、、、、ウオオオオオオアアアアアアアアア!!」

地面に突っ伏し、身も世もなく慟哭するあらた。


「あらた、、、殿、、、、」

彼の前の少女は、もう立夏では無かった。


静かに立ち上がる、イブ。

暁光の輝きが、厚い雨雲の間の空を群青に染め始める。


「そうか、、、、さよなら、立夏、、、」

アルマは、その懐かしい名を静かに呼んだ。

もう、アンバーだった少女は彼女たちとは、縁遠い者であろう。


ゴウゴウと吹く風が、黒い雨雲を吹き払って行く。

遠く、東のオレンジ色の光が、広大な、核融合炉研究施設を暖かく、照らしていく。

建屋の向こうに広がる広い海に、朝の光が満ちて行った。


「チッ、、、、」

舌打ちする白衣の少年。

考えを改める必要があるかもしれない。

一連の出来事を見る限り、イブが、立夏を隠していたわけではない。

立夏がイブを見逃していた可能性もある。


イブと立夏は、それほどに、理解不能な、常識外れな状態だったわけだ。


それに、立夏の願いは、無下にしたくは無かった。

たとえ、あらたがどうしようもない重罪なテロリストだとしても。


彼は、彼女の想いを優先することにした。

少年は、身勝手で、自己中なのは、やはり変わりは無かった。


「アルマ!とっととそのバカを連れてけ!そろそろ、うるせーのが集まってくんぞ!」

朝日に目を細める、しん。

「フ、、、、、」

片目の美しい女性が笑う。


「な、、、な、な、、、、、!何言ってんの!しん!!」

目を白黒させている、炎姫さま。

「いーじゃん。那智。バカな下っ端の一人ぐらい見逃せよ。立夏は、イブの恩人かも知んねーしな。」

「うぐぐぐぐ、、、、、、」

不承不承、それでも矛を収めてくれる那智。さすが炎姫様。いー女!


バラバラバラバラ、

風を撒き散らし、建屋の上空に、S99レイダーヘリがホバリングする。

「アネさん!乗ってくだせぇ!」

いつの間にか姿を消していた、太っちょワイズがヘリを運んでいた。

空は晴れ、ADSジャムの影響は無くなっている。


恐ろしく、身軽にヘリに取り付く、スナイパー、クルト。

「ほら、、、早く」

あらたを引き起こすアルマ。


そして、はじめて懐かしそうにしんに視線を向けた。

「じゃあな。しん。」


「アルマ!ナイス、おっぱい!」

親指を立てる少年。

「リナのバカ息子、、、、相変わらずの、変態か。」

苦笑する、女戦士。

その少年は、チビの頃から、変わり無い。リナは、教育方針を色々間違えていたのだろう。

「しん、、、、、、、」

死んだような、暗い瞳の男が、陰気そうにこっちを見ていた。


「なんだシスコン。今度見かけたら、間違いなくぶっ殺すぞ!」

爽やかに、嫌味を言う。


「何も、、、、信じるな、、、、アルカも、、、、ハドリアも、、、、」

うわごとのように、言葉を紡ぐ。

「いずれお前も絶望する、、、、俺のように、、、、な。」

それが、彼の別れの言葉。


「フン。よけーーなお世話だ!バーーーーーーーカ!バーーーーーーーーカ!バーーーーーーーーーカ!」

最後まで、陰気くさい男だ。こっちまで辛気臭くなる。


透明な蒼穹の暁に、消えていくヘリ。

風があちこちから吹き込み、潮の香りを遠く運んでくる。


大きく伸びをして、あくびをする少年。

「さて、、、、帰るか。」

完徹の馬鹿騒ぎは、やっと終わった。


と、思ったら、向こうで騒ぎがまた、起こっている。

目を覚ました瀬里奈お嬢様が、あれやこれや、皆に質問攻めしているらしい。


「あ、いー事思いついた!」

いそいそと彼女の元に向かうしん。


「と、言うわけで、みんなを勇ましく指揮して、アルカを救ったのは、テロリストの虎口から辛くも、逃れた、瀬里奈様って事でよろ〜〜〜〜!」

ヘラヘラと笑う、白衣の少年。


「ちょ、、、、、ちょっと待ちなさい!しん!」

悲鳴を上げる瀬里奈。正直、訳がわからない。彼の性格からして、自分の手柄を最高、最大限に吹聴し、大笑いしそうなものだ。


その認識は、間違っていないし、普通ならそうだろう。

単に、彼は、めんどくさくなっていただけだった。


ついでに言うと、今回の発端は、彼の仲間を傷つけ、誘拐までやらかした、敵への報復が第一目標だった。

それが大方、はたされたので、少年は、だいたい、満足していた。


「いーーーーじゃん。実際、働いたのは、風紀委員たちや、制定部隊だろ。オレはあまりカンケーないし。」

悲しいかな、それは一面の事実でもあった。


「フクカイチョ〜〜〜、あんた、最初から最後まで、寝てただけなんだから、事後処理ぐらいやってよ。」

これが、本音である。


「好きで寝てたんじゃありませんですわ!!」

真っ赤になり逆上する、瀬里奈。

怒ってもこれだけ、容姿が整ってると、見惚れてしまうのだから、恐ろしい存在である。


プイと横を向いて、イブを見つけるしん。

「おーーーー!!イブ!」

「ただいまじゃ!主人どの!」

嬉しそうに、小さく手を振る、イブ。


「で、、、、、?お前、、、、本物、、、だよな?」

疑惑の目を向ける、少年。


「ぶ〜〜〜〜〜〜〜!正真正銘!愛しのイブちゃんなのじゃあああ〜〜〜〜〜!!」

泣きそうな少女。シャレになってない。

「ジョーダンだって。」

ヨシヨシと頭を撫でてやると、特に抵抗もなく、嬉しそうにしている。

「では、初任務だ!イブ!」

「お〜〜〜〜〜!」

馬鹿騒ぎをしている、二人を、周りは生温かく眺めている。


「瀬里奈さまの大活躍を情報操作して、デッチ上げろ!」

「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


「待ちなさい!!しんーーーーーーーー!!」

冗談では無い、イブがその気になったら、ホントに嘘も真実になってしまう。

再び、叫ぶ瀬里奈。

彼女は、基本、低血圧なのだ。それが、起き抜けから、血管がブチ切れそうだった。


だが実際、瀬里奈は、その後、アルカの救世主に祭り上げられ、あらた無き一高に長きにわたって、生徒会長として、君臨する事となった。

まあ、適材適所と言えば、言えなくもない。


「し、、、しん。終わったんだよ、ね。」

いつの間にかポニテに戻った、地味子さんが、パタパタと、手を振っている。

どうやら、意識を取り戻したらしい。


「おーーーよ!帰って飯にしよーーぜ!おら、腹減ったぞ。」

ちょいちょいネタを挟む少年。しずくにはよくわからなかったが。


「いいけどさあ。あんたどうやって、家に帰るつもり?」

後ろの、智由先生が、冷たく突っ込んでくる。

「今、アルカは陸の孤島だよ。」

「へ、、、、、」

立ち止まる少年。

「あ、そーだった!」

忘れてたらしい。


「はあ、、、、」

ため息する瀬里奈。

「いいですわ。わたくしの家に招待しますわ。全員。」

しょうがないので、皆を招く瀬里奈。


「ウッソ!あの大豪邸に!!ひゃっほ〜〜〜〜い!」

大喜びのしん。さぞや、すんごい、ご馳走の山が、出迎えてくれるだろう。現金なものだ。


「はいはいはいーー!フクカイチョ〜〜〜〜!」

那智が、リンと智由の首根っこを抱えて、ピョンピョンしている。


「ハイハイ。那智たちも、歓迎しますわ。この街の恩人ですもの。」

苦笑する瀬里奈。

「やた〜〜〜〜!」

飛び跳ねる、那智。智由は若干、恥ずかしそうだ。


「ウハハハハハ!満漢全席!フルコーーーースだ!!」

大笑いするしんの隣で、冷たい目を向ける、瀬里奈。


「しんは、その前に、事細かく、細部まで、丹念に、事情を聞かせてもらいますわ。じっくりと、隅々まで、詳細を。」


「え、、、、ジョーダンだろ、、、、瀬里奈さま、、、」

青くなる、しん。

世の中、うまい話には、裏がある。と言う事らしい。


この後、彼は、コッテリとお嬢様の詰問を、かなりの時間、受ける事になる。

まあ、その甲斐あって、他の面倒ごとを全て、彼女が片付けてくれたのだから、文句は言えまい。


朝日の眩しい、東の空から、バタバタと、幾つもの影が姿を表す。

CH48大型輸送ヘリの軍団だ。二つのタンデムローターが轟音を上げている。


「なんだ、、、、あれ、、、」

目を細めるしん。

ヘリから、人影がこぼれ落ちる。


「お嬢さまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

はるか上空から、生徒会書記、超絶色男、椎名 葵が瀬里奈目掛けて一直線に飛び降りてくる。


「あらあら。まあまあ、、、、、」

隣を歩く瀬里奈が、呆れたような、嬉しそうな声をあげていた。

まあ、いいだろう。


アルカのとても長い1日が、やっと終わろうとしていた。



END。

またの機会に、

よろしくお願いします。

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