能力アフター05話017
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「あ、、、、ああ、、、、、、、」
口を押さえ、絶句する智由。
「チッ、、、、やっぱりだ。あのバカ、、、、、!」
かろうじて、白衣の少年のモノクロの視界にも墜落する那智が見えていた。
「うむ。ノックバックじゃ。ほぼエネルギーは相殺したが、力負けじゃ。マズイぞ!」
パタパタとあわてるガブくん。
「行くぞ!チーセンセー!紫煙!」
真っ青のプラチナショートボブの少女を見る。
「リンは残ってくれ!」
首を振る少女。表情は凍りついている。
「わかった、、、行こう。」
全員で、彼女の落下した変電所施設に向かう。
「クソッ、、、、、、、、!」
うめく少年。
あんな話の後だ。それでなくても人のいい彼女だ。意識してなくても、無意識下で力がセーブされる可能性があった。
「あのおっちょこちょい、、、、」
歯ぎしりする。
煙を上げる変電施設は、熱除去施設と冷却棟の向こうにある。結構な距離だ。
フワリと、変な浮遊感があった。
気がつくと少年は、リンにお姫様抱っこされていた。
智由と紫煙とリンが、高速機動に入る。
いや、わかるけど。
ちょっと恥ずかしいしんだった。
「、、、、、まったく、、、、」
上空で、自らの右手を眺めるあらた。
衝撃が全身を震わせている。もう少しでこちらが押し負けただろう。
厄介な相手だった。
ふと見ると、変電施設にしんたちが集まって来ている。どうやら、ジノとエイダは敗れたらしい。
「まあいい。」
那智ともども、まとめて、トドメを刺せばいい。
ゆっくりと下降していく。
瞳に赤い光点がともる。
へし折れた鉄塔の向こうに陥没したコンクリートが見えた。
あそこに引っかかってから墜落したのだろう。
砂利と破片に埋まって那智が倒れている。
「チーセンセー!回復を!」
叫ぶしん。
「わかった!」
緑光が目にともる智由。
全身打撲にあちこちの骨にヒビが見える。完璧な肉体強化のおかげだ。普通なら即死だったろう。
智由の全身の緑光が那智を包んでいく。
「紫煙!!」
絶叫する少年。
「げえっ、、、、!」
潰れたカエルのような悲鳴をあげるツインテールの少女。
グオワオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーー、
嵐の空に凄まじい力が集まっている。
あらたのデトネーションだ。
いつの間にか上空数メートルに男が近づいていた。
周辺が青白い輝きに包まれていく。
ご丁寧に、念入りに、トドメを刺すつもりらしい。情緒もへったくれもない。勤勉なやつだ。逃亡も無駄だろう。那智の回復が最優先事項だった。
「紫煙!迎え撃て!」
わめくしん。
「いや無理だって!あんなん、どーにもなんねーーーーよ!!」
力の差は歴然だ。真っ青な少女。
「大丈夫だ!なんとかする!ぶっ放せえええええええーーーーーーーーーー!!」
もう必死の少年。
『紫煙ちゃん!!』
彼女の中のしずくが叫ぶ。
「ああ、もう!わーーーったよ!!」
ドン、
紫煙の右手の上方に光の玉が生まれる。
グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、
巨大な輝きがエネルギーを増していく。1万Kの融合結合プラズマだ。
「電撃使いか、、、」
無駄なことを。
なんの感慨もなく、地上の抵抗を眺めるあらた。
ブワアアア、
それと同時に足元の白衣の少年が全身から、凄まじい煙が散布される。
目くらましのつもりだろうか、
勢いは凄いが、遮蔽性は低い。気象条件が悪いせいだろうか。運の無い男だ。
「FAEデトネーション、、、、、」
轟音とともに青い巨大な炎弾が放たれる。
「サーーーーマルガン!シューートーーーーーーーーーー!!」
ゴオアアアアアアアアアアアアアアア、
両手を組み伸ばした右人差し指、みず希紫煙、最大の射撃攻撃が炸裂する。
しかしその輝きは、青い炎と比べるとあまりに脆弱だ。
グワガアアアアアアアア、
激突する光球と青い炎。
「、、、、、、、、、、、」
豪雨が吹き飛ぶ中、あらたは奇妙な光景を見ていた。
「やった!やったぜ!しん!ふせーーーだぞ!!」
紫煙がひっくり返って喜んでいる。
「ウハハハハハーーーーーー見たか!ヒョロ長のっぽ!テメーのへっぽこ能力なんか効かねーーぞ!!」
足元の白衣の少年がガッツポーズをして高笑いをしている。
「、、、、、、、、、、」
少し考えて、結論に至るあらた。
「なるほど、、、、中和したか、、、」
恐るべき用意周到さだろう。
彼がやったのは、サーモリック兵器を中和するアクティブ防御だ。
あの煙は、粉塵爆発を抑制する、燃焼抑制剤だ。それを高速で撒いたのだろう。
しかしそんなことは、自分の燃料気化爆発の能力を事前に知っていなければとても対応はできない。
どうにも思った以上に、めんどくさい男のようだ。
「ウハハハハハ!何度だって、ふせーでやんぜ!かかってきやがれ!!」
彼が智由先生に調合を頼んだのは、重炭酸ナトリウムだ。それを高速で散布する。
出たとこ勝負だったが、からくもうまくいった。
しかし、これはブラフだ。もう、燃焼抑制剤は無いし。紫煙の能力もほぼすっからかんだろう。後が無かった。
「では、何度でも防いでもらおう。」
まるでそれを見越している様に、あらたが笑ったように見えた。
必殺の次弾が収束され始める。
バカやろう!必殺技をそー何回も気楽にポンポン撃つんじゃねーよ!迷惑なヤローだ。
頼みの綱は、おっちょこちょい炎姫様なのだが、、、、
「那智!那智、、、、!!起きて!那智!!」
智由が必死で呼びかけている。治療は終わった様だが、意識が戻らない。事態は最悪だった。
那智は夢を見ていた。
青い空、キラキラと輝く波が打ち寄せる。心地良い風が暖かい日差しの中を流れて行く。
海を望む、12階のマンションの最上階。快適な自分のベッドの中で眠りを貪っていた。
身体が重かった。泥沼のように意識が沈んでいく。
「那智、、、、!那智!!」
智由姉の声がする。
「あと、、、5分、、、」
ムニャムニャと答える。
こんなに疲れているんだ。自分には、あと5分眠る権利があって然るべきだ。姉貴には妹を労ってもらいたい。
「那智!起きて、、、、」
「那智!起きろ!このすっとこどっこい!!」
(は、、、、、?)
智由姉が今まで聞いた事がない、罵詈雑言をまくしたて始める。
「起きろってんだ!このインチキヘッポコ能力者!!どたまかち割るぞ!ヘタレトンチキバカ女!!」
声は途中から、聞き覚えのある少年のものに代わっている。
「何だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!」
ドカン、
周囲の瓦礫を弾き飛ばして、跳ね起きるライトブラウンのセミロングの美少女。
激しく上体を起こし智由にぶつかりそうになる。
「あ、、、、起きた。」
右手にいるツインテの紫煙が言う。
左に白衣の少年。
隣に心配そうな智由姉がいる。
その向こう上空に光を集めるあらた生徒会長が浮かんでいる。
なんかとてもシュールだ。
「やっと起きたか!バカ女!とっとと立てえええ!」
どうやら、さっきからの誹謗中傷は、やっぱり、この男らしい。
ドン、
「後で、、、おぼえてろ!」
跳ね起きて、嵐の上空に舞い上がる那智。
「いーーーーか那智!お前がテー抜いて勝てる相手じゃねーーーー!舐めプすんじゃねーーー!全力で!真面目に!ちゃんとやれーーーーーーーーー!!」
足元でギャーギャー少年がわめく。
「黙れ!!そこで見てろ!!」
頭にくるったらありゃしない。散々、好きホーダイ言いやがって!
能力に関係なく、真っ赤に蒸気する炎姫様。
マックス激おこである。
ゴオオオ、
吹き荒れる嵐。
少し距離を取るあらた。
「治癒能力か、、、、面倒な、、、」
彼からしたら、倒した敵がゾンビになって起き上がって来た様な気にもなる。
しかし結果は変わらないだろう。大した問題ではない。
「FAE、、、、デトネーション、、、、!」
轟音を上げて必殺の第3弾が解き放たれる。
「アアアアアアアアアーーーーーーーーーー!!」
絶叫のような雄叫びを上げる少女。
一気に、両目にサンライトイエローの光点が輝き、山吹色に髪が燃え立つ。
「全力ーーーー!!すっごいいいいいーーーー!!デトネーーーーーーーーーーーーション!!」
なんか、間抜けな技名をわめいているが、その凄まじいエネルギー収束量、速度、効率は常の限界を軽く越えていた。
その輝きは核融合実験施設を隈なく照らし、アルカ北西部を激しく揺らして行く。
「な、、、、に、、、、、」
あらたの眼前に未知の光芒が広がって行く。
サンライトイエローのまばゆい輝きに、照らされるしん達。
「あんたは、、、その女がどんだけデタラメか知んねーーだよ。いくらハンデがあろーがカンケーねー。」
彼女の光が周囲を吹き飛ばさんばかりに広がっていく。
「ほんとーの天然モンの能力は、予測数値を軽くブチ越えて行く。」
笑う少年。
ゴアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、
激しいエネルギーの奔流の中、
那智が見る、あらたの前に再びアッシュブブロンドのロングヘアーのアンバーの幻が立ち塞がる。
「どけええええーーーー!!!立夏!!聞き分けのないブァカな男には、鉄拳制裁あるのみいいいいいーーーーーーーー!!」
ひどく全時代的な事をわめきながら突進していく那智。
逆上した彼女には、無理も道理も兄妹愛も通じはしない。
何か言いたげに立夏の幻影が消えていく。
グワガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン、
激しく激突する赤と青のデトネーション。
あらたのそれが、みるみる押し潰されて行く。
青い、エネルギーが四散し、吹き飛ばされる。
流星雨のような炎の塊が、真昼の様に建屋を照らし、散っていった。
「ガッ、、、」
凄まじい衝撃があらたを捉え吹き飛ばした。
熱除去施設に突っ込み、排熱回収ボイラーを薙ぎ倒し、配管を引きちぎり、壁面をぶち抜いて、原子炉建屋まで吹き飛ばされていた。
雨のコンクリートに突っ込みながら、彼は意識を失って行く。
立夏を失って、1ヶ月。
なぜか、アンバーTYPE01は、どこに行くにも、トコトコと彼、あらたの後をついて来る様になっていた。
生前の立夏の話によると、アンバーという少女は、快活な明るい少女だったはずだが、今の彼女は、意志を失くした、人形のようで、とてもそうは見えない。
「なんだい。あらた。その子は?」
アルマの酒場、ブルーラグーンにまでついて来た時、きみ悪そうに、アルマが聞いたものだ。
「私は、アンバーTYPE01。製造ナンバー2403。」
「りっ、、、、、か、、、、?」
やはり、アルマにも彼女に妹の面影が、見える様だった。
「ま、まあ、、、なんか作ってやるから、食べていきな。」
開店前の忙しい時間のはずなのに、めずらしい彼女のランチサービスを受けながら、食事する少女。
「ほら、ついてるよ。」
甲斐甲斐しく、少女のほおの汚れをとりながら、片目の女主人が言う。
「しかし野暮だね。あらた。アンバーTYPEなんとかって、名前じゃないだろ。」
まあ、そのとうりだ。
「何かの、実験体クローンらしい。」
やはりここのビールは炭酸がキツい。
「じゃ、あんたは今日から、立夏だ。いいね。」
少女に向かって、有無を言わさず、アルマが言う。
コクリと頷くアンバー。
「、、、、、、、、、」
まあ、どうでもいい事だった。
「ほら。ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。」
女主人に言われて、手を合わせる少女。
「お粗末様でした。」
アルマはどうしてか、日本の作法に、うるさい、外人だった。
とにかく、この日から、アンバーは立夏と呼ばれる様になっていった。
ただ、
最初、立夏と呼ばれた時、なぜか、アンバーが嬉しそうに、微かに笑った様な気がした。
地面を叩く、激しい雨音と、冷たいコンクリートの感触。口に広がる、出血は鉄の味がする。
意識が戻り、顔を上げると、まぶしいライトに照らされて、小柄な少女にお姫様抱っこされている、白衣の男が見えた。
恥ずかしくないのだろうか。
「ウハハハハハ!ザマーねーな!あらた!テメーの負けだ!」
偉そうに、リンに降ろしてもらって、大笑いしている。
「あんたねぇ、、、、」
隣で那智が呆れている。
自分は負けた様だった。
全身打撲。右腕は骨折。内臓にもダメージはありそうだ。幸い、立ち上がる事は可能だった。
「まさかの、全敗だな。恐れ入ったよ。君たちには。」
マトモに動けそうに無い。
「会長さん。融合炉を止めて、イブちゃんを解放して下さい。」
ツインテールの紫煙が言う。いや、しずくだろうか。非常にわかりにくい。
ゆっくりと、左手で携帯を取り出す。
「動かないで!」
油断なくライトブラウンのセミロングの少女が身構える。
「それは、僕のセリフだよ。動くな、那智。」
ボウ、
携帯が、立体映像を結ぶ。
それは、カプセルに眠る、金髪の美しい少女の映像だった。
「あ、、、、、、」
青くなるしん。
「瀬里奈副カイチョーさん!わ、忘れてた!」
「おい!」
すかさず突っ込む那智。
慌てても、もう遅い。
「僕の指示一つで、カプセルに、致死量の青酸ガスが充満する。まさか人質頼みになるとは、思わなかったけどね。」
フラフラと実験炉建屋に向かうあらた。
「ヒ、ヒ、ヒキョーーーーーモノ!!」
叫ぶ那智。
「もう、人質も必要ではありません。」
設備内のスピーカーから、抑揚の無い声が告げる。
「立夏、、、、アンバーか!」
悪寒に襲われるしん。
ウウウーーーーー、
研究施設にサイレンの音が響きわたる。
「準備が完了しました。ファイナルフェーズ。開始します。」
ゴゴゴ、
不気味な地鳴りのような鳴動が建屋に響いていった。
「時間切れだ。しん。」
満足そうに笑いながら、融合炉建屋の入り口に寄りかかりながら笑う、あらた。
「融合炉は暴走を始めた。あと10分もしないで、アルカは消滅する。」
ひどくアナログな黄色い非常ランプの明滅に照らされて、男が笑う。
「て、、、、てめぇ、、、、、」
雨に打たれながら、硬直する白衣の少年。
ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、
核融合炉内部では、絶望的な融合反応が加速していく。
マルクスジェネレーターにより加速され、100ナノ秒にまで圧縮されたパルス波は、ワイヤーアレイを収めた真空チャンバーに導かれ、インピーダンス変換が行われる。
容量の越えたそれは、ローレンツ力を振り切り、中心導体に戻る事なく、絶縁破壊を開始する。
そのX線出力は、400テラワット。エネルギーは3メガジュールを越え、そのスタグネーションの温度は、20億度を越えていった。
同時刻、
桂橋ジャンクション、制定部隊、
ビー、ビー、
郁恵たちに伝えられる、緊急伝達。
『い、、、、郁恵ちゃん!』
切迫したヒロミの声が飛び込んで来る。
「うん、、、、アダムのファイナル プロテクション ストラクチャーだ、、、、」
フラフラと、車から出る郁恵。
暴風雨が吹き付ける。身体が芯から冷えていくのを覚える、少女。
「詩吟さん、、、、朧さん、、、」
眼前のターミナルでは、以前、激しい戦闘が行われている。
もうすぐだったのだ。
ここの鎮圧は。
なのに、アルカで、何か、致命的な事が起こっている。
絶望的な、何かが。
豪雨の中、立ち尽くす郁恵。
同時刻、
ターミナルタワー地下10階、地下情報センター
ビー、ビー、
鳴り響く警報。
「な、なんだ!」
「特急シークエンス?」
「何が、起きてるの?」
パニックに落ちる大規模オペレーションルーム。
「ハドリアさま、、、」
低くささやく、彼の、小柄な美人秘書。
「わかっている。依然、情報の秘匿は続ける。」
アダムから、核融合炉実験施設の占拠の情報が入ってから、すぐにハドリアは、情報の封鎖を指示していた。
万策尽きていた。制定部隊の全ては、動きが封じられている。時間も無かった。
避難も、何も無駄だろう。パニックを引き起こすだけだった。
最悪、ターミナルタワーの地下の施設、ここも含め、避難している要人たちは、助かるだろう。
苦渋の決断だ。
後世に残る悪行かもしれない。
しかし甘んじて、受けなければならない。
自分は、実の娘も見捨てようとしてるのだ。
「瀬里奈、、、、」
指揮台のコンソールに組んだ手に隠れる、口から思わず言葉がこぼれる。
「フェイルセーフを開始します。」
コンソールの小さなモニターに写る月面の光。
アダムが、ファイル プロテクション シークエンスに移るのを宣言する。
それは、アルカが、大規模災害、天変地異、または、核戦争、インフラ、ネットワークに最悪の攻撃を受けて、破壊された時に発動する、最後のフェイルセーフだった。
アルカ内の全ての情報、学術データ、金融データ、法人記録、政府財源、あらゆるデータが吸い上げられて、バックアップされる。
つまりは、それが、アルカの全ての知識、富の控えになるわけだ。
が、しかし、それはアダムと地上データが、完全に繋がる事を意味していた。
同時刻、
国際核融合炉実験施設、
「アダム、フェイルセーフを開始しました。」
抑揚の無い、アンバーの声がスピーカーに流れる。
「バカめ。かかったな。」
うっすら笑う、半身不随のあらた。
「立夏。ありったけのウイルスをアダムに叩きこめ。」
「了解。アダムを破壊します。」
冷たい声が、無機質に告げる。
同時刻、
ターミナルタワー、地下10階、地下情報センター、
バン、バン、バン、
けたたましい、警報の中、次々と正面、5面の巨大スクリーンがブラックアウトしていく。
オペレーターたちの悲鳴が響く。
彼ら、彼女たちの三列のオペレーター席、その個人モニターも次々と死んでいく。
異常事態だ。システムそのものが機能停止を始めていた。
「アダム、、、、、!答えろ!アダム!!」
叫ぶハドリアに応える声はない。
「やられた、、、、そういう事か、、、、、、、!」
指揮台を叩きつけるハドリア。
「ハ、ハドリアさま!?、、、一体、何が、、、、」
秘書の祭が震えている。無理もないだろう。全ての機器は機能を止め、レッドアラームと真っ赤な非常用の照明がついているのみだ。
空調も停止し、心なしか室温も上がってきている。
それどころか、いずれ酸素濃度が低下し、ここに閉じ込められたまま、酸素欠乏により皆、全滅するだろう。
「奴ら、アルカ全土に潜ませた、コンピュータウイルスをアダムに吸い上げさせたんだ。」
「そんな、、、それじゃあ、、、」
真っ青になる、祭。
「アダムは破壊される。フェイルセーフは、最重要の7層の情報さえバックアップする。つまりあっという間に、最深層まで、ウイルスに侵されるわけだ。急いで手を打たないと、、、、、」
言葉を詰まらせるハドリア。
「アダムが機能停止したら、世界中で恐ろしい被害が出るぞ!」
先進国はほぼ壊滅。人類の歴史は、数世紀、退行するだろう。
いや、人類は再び立ち直れるのだろうか。
「終わり、、、だ。」
低くつぶやく。
同時刻、
国際核融合実験施設、
「そーゆーことかよ、、、、、、、!」
嵐の中、絶句するしん。
遠く見える、アルカの街の明かりが次々と消えていく。それは、人の命の灯火がついえていくようだった。
「なに!わけわかんないよ!」
那智が、隣でブーブー文句を言う。
「しん、、、、、!」
智由が青い顔で見つめる。
「奴の目的は、アルカの破壊と、アダムの破壊だ。」
歯軋りする少年。
不気味に律動する、核融合炉建屋の前で、立ち尽くす、五人。
「フェイルセーフを引き起こすのが目的だったんだ。アルカ全土に及ぶテロの最終目的は。そこでアダムに侵入すること。」
「アダムにウイルスを、、、、、」
智由が愕然と呟く。
「そうだ。月の叡智は破壊され、アダム依存の世界は、破壊される。」
「フフ、、、、ハハハ、、、、」
楽しそうに建屋入り口に寄りかかり、笑うあらた。
「その通りだ。しん。やっと、、、、やっとだ、、、、、」
フラリと雨の中に歩み出す長身の男。
「やっと、最悪のシステムと、それの上に胡座をかくウジ虫どもを皆殺しにできるよ。」
「ふざけないで!一体、、、何万の、、、何億の人が犠牲になるか、、、、わかってるの!」
蒼白の智由が叫ぶ。
「わかってますよ。智由教諭。あなたも、あなたたちも、無自覚に、システムに依存する、悪意すら持たない、この街の腐った住人だ。」
なんの感情の持たない、濁った目が彼女を見ていた。
「、、、、!」
逆上する智由を珍しく、白衣の少年が止める。
正常な精神が、触れてはならない悪意は、確かに存在する。
「満足か、、、、お前、、、、」
ひどく、底冷えする声が男に、聞く。
「満足だよ。こんな楽しいことは、生まれて初めてさ。もう数分も楽しめないのが、唯一残念のところだな。」
暗い瞳の男が、薄く笑う。
「まあ。地獄の道連れには不自由はしな、、、、、」
ドン、ドン、ドン、
突然の銃声が、辺りに鳴り響いた。
「、、、、、、、」
信じられないものを見るように、自らの身体に開いた穴を見つめる、あらた。
そのまま、壊れた人形のように、真横に崩れていく。
「きゃあああああ!」
見た目は紫煙だが、中身はしずくが悲鳴をあげる。
「あーーー、ダメダメ。あらた。」
楽しそうな、影。
「お前の道連れにされちゃ、困るんだよ。」
炉心建屋から、出てくる長身の影。その手には煙をあげる、ハンドガン、ジェリコM941が握られている。
「てめぇ、、、、、」
濃厚な殺意に、首をめぐらす少年。
そして、あっけに取られる。黒人のジノ フィッシャーだ。
生きてたんかい。
まあ、身体強化の達人だ。あれくらいじゃ死なないかもしれない。
「そう言うこと。ご苦労様。あらた。」
楽しそうに、黒髪ショートボブの女性も出てくる。
「あとは、私たちが引き継いであげる。」
歪んだ笑いを、浮かべている。
「エイダ レスター、、、、」
うめく紫煙の姿のしずく。
どうやら彼女の方も倒し損なったらしい。詰めの甘さは、お互い様だろう。
「ゲフ、」
雨の路面に倒れながら、血を吐くあらた。その目が疑問をジノ達に向ける。
よく生きてるものだ。銃痕は定石通り、正確に、腹部、肺、心臓と弱点をついている。これも、ギリギリの身体強化の成せる技か。
「アンバー。核融合炉の暴走を止めろ。」
ハンドガンをホルスターに仕舞いながらジノ。
アンバーに命令する。
「私たちの本当の目的を教えてあげる。おバカなあらたちゃん。」
入り口、左に寄りかかりながら、エイダが説明を始める。
雨の中に棒立ちのしん達は完全に蚊帳の外だ。
まあ、融合炉の暴走を止めてくれるそうだ。とりあえず静観する。
「大人しくしてろよ。山下しん。」
ジノがチラッと視線を向ける。
「コッチには、人質がいる。遊びはおしまいだ。」
ああ、そうですか。
ムカつく野郎だ。
「私たちの組織。そのもっと上の方ね。それは別に世界の破滅は望んでないの。」
マニュキュアを眺めながらエイダ。
「おバカな君にはわからないと思うけどね。世界はずっと戦争を続けてるのよ。でも、別に国家間同士ってわけじゃないのよ。」
謎かけのようにからかう女。
「貨幣経済をバックにした、金融資本家たち。これが私たちの親玉ね。」
左手の方の那智が、噛みつきそうになっている。
「まてって!」
小声でなんとか押さえる。まあ、なんか、気に食わないのは、わかるけど。
「一方は、国家に左右されない、独自の貨幣を持つ集団ね。」
「仮想、、、、マネー、、、、、、」
なんとか声を出すあらた。
「そう、ビットコイン、Aコイン、イーサリアムとか、暗号資産ね。その後ろ盾にもなっている、世界中のアルカや、経済産業複合体かな。」
面白くもなさそうに続けるエイダ。
「そんな制御不能な、貨幣を流通させるのも気に食わないけど、アダムが出現した現在、確立されていく、サイバーマネーを無視もできない。」
しゃがみ込み、両手に頬を乗せ、地べたのあらたを楽しそうに眺める。
「で、金融資本家たちもサイバーマネー投入に乗り出したけど、いかんせん、遅すぎた。
アルカの仮想マネーが邪魔だった。そんで、ブロックチェーンだっけ?アダムのまあ、面倒臭いセキュリティをおじゃんにして、それを壊そうと思ったわけ。」
「そう言うわけだ。あらた。」
ジノが、引き継ぐ。
「アンバーには、敵対サイバーマネーの破壊をプラグラムに組み込んでいる。それが本命だったのさ。」
地べたのあらたに、一瞥して、身を翻すジノ。
「悪く思うなよ。世の中全て、金しだい、だ。」
黒いロングコートが、バタバタと嵐に靡いている。
「ケッ、、、、、」
つばを吐くしん。聞いてみればつまらない話だった。
そんなもんのために、この街の人々は、こんな被害を被ったのか。冗談じゃない。タダで済むと思うな。
だが次の瞬間、少年は背筋が凍りつく。
あらたが、笑っていた。惨めに仲間に裏切られ、地べたに這いつくばる男が。
「立夏、、、、爆縮まで、あとどれくらいだ、、、、」
「残り、7分です。」
抑揚のない声がスピーカーから聞こえる。
立ち尽くすジノ。
「ば、バカな!アンバー何を言ってる!暴走はキャンセルだ!!」
ぶざまなもんだが、笑い事じゃない。
「アンバー!やめなさい!!なんで言う事を聞かないの!?」
慌てて立ち上がるエイダ。
何も答えない、アンバーTYPE01。
「な、、、、何をした!あらた!!」
真っ青な女。その顔は、ひどく醜い。
「お前、、、、たちが、、、、裏切るのは、、、、想定内だ、、、、とっくに立夏への命令権は奪ってある、、、、」
ゴロリと仰向けになるあらた。
「お前たちも、、、、世界と一緒に、、、、オレの道連れだ、、、、、、」
ひどく、すがすがしい表情のあらた。激しい雨が血だらけの男を洗っていく。
いや、すごく迷惑な奴だ。
グワアア、
「おまええーーーーーーー!!」
逆上したエイダが水のヤイバをつくる。
バス、
くぐもった音が一つ、いや、超人的な聴覚を持った人間なら、二つの銃声が重なっているのが聞き取れただろう。
「、、、、、、?」
エイダの眉間にポッカリ穴が開く。
ブシャッ、
激しく後方に脳漿を撒き散らし倒れていく女。
同時に、横を向いていた、ジノの側頭部にもポッカリ穴が空いていた。
言葉を発することもなく、倒れていくジノ フィッシャー
「あ、、、ああ、、、、、」
立て続けに続く出来事に、絶句するしずく。悲鳴も出ない。
見事な、ヘッドショットだった。能力者のこの二人を相手にこんな事ができる人間は世界中探しても、そうはいない。プロ中のプロだ。
気がつくと、ポロダイル磁場コイル巻線建屋と、熱除去施設の間に、グレーのヘリコプターがホバリングしている。
二重の反転ローターを持つ、アメリカのS99レイダーだ。
静音モードで滞空する際は、2枚のローターで逆位相の音を出し、騒音を押さえるらしい。
そのヘリに、狙撃ライフルを構える、短髪の色黒の男が見える。
「クルト ストランド、、、、」
やっぱりだった。中東のPKOで見た事がある。殺意のかけらも無く人間を狙撃する、やりにくい方の超一流のスナイパーだ。
「ヘリコプター?」
那智が隣で目を凝らす。
その必要もなく、ヘリは降りてくる。
「アネさん!マズイですぜ!もうエンジンがもたねえ!」
太った軍服の男が大声で不平を垂れている。
「運び屋、ワイズ スタンレーか。」
「なに?知り合い?」
キョトンと那智が聞く。
「ちげーよ。見たことあるだけだ。」
ほぼ面識はない。しかし世界は狭いものだ。となると、この二人の傭兵崩れを束ねるのは、、、
「バカな子だよ。こんな連中に利用されるなんて。」
抜群にグラマラスの片目の女性が、サブマシンガン片手にヘリから降りて、あらたのそばに立つ。
「アルマ ラドクリフ、、、、」
つぶやく少年。
PKO以来、鬼軍曹の母と妙に気のあっていた、戦闘のプロだ。
赤いバンダナ、褐色の肌、カーゴパンツに、おへそがみえる絞った、赤いブラウス。
ハチキレそうなオッパイに流れる雨に、私はなりたい。
「な〜〜に、見てんのよ!」
隣で那智が白い目で見ている。
「ア、、、アルマ、、、、?」
やっと事態を把握したあらたが、声を絞り出す。
「何を、、、やってる、、、、早く、、、、逃げろ!」
瀕死のくせに、結構元気だ。
「無理だね。低空を来たけど、なんとかジェムって奴の影響で、エンジンがどうもね。」
この天候が晴れない限り、飛んでもすぐに墜落だろう。
もう誰も、助からない。
「アネさん!そりゃ〜〜〜ね〜〜〜〜ですよお〜〜〜〜!」
相変わらず泣き言ばかりの太っちょだ。
対してクルトの方は、無言のまま、周囲を警戒している。
ほんとに、不気味な男だ。
まあ、とりあえずだ。
あらたを二、三発、ぶん殴っておこうと思う少年。
そんな彼に関係なく、智由が那智を捕まえる。
「な、、、、なに?智由姉?」
目をパチクリする少女。
「いい、、、聞きなさい那智、、、、」
その表情はひどくやさしい。
「あんたは、全力でここから、逃げなさい。大丈夫。きっと爆発範囲外に逃げられる。」
「な、、、、何言ってるの?智由姉?」
唖然とする少女。ほんとに思いついてもいなかったらしい。
「お願いだから、、、、一刻も早く、、、、間に合わなくなる、、、、!」
顔を伏せ、那智を揺する智由。
「智由姉はどーするの!みんなだって!」
泣きそうな少女。
「私は、こいつらの保護者だから、、、、ここに残るよ。」
ささやく智由。
「だったら!みんな抱えて!運ぶから!私、、、」
「黙りなさい!そんなのできるわけないでしょ!わかってるでしょ!あんた一人だって間に合うかどうか!お願い!那智!あんただけでも、、、、お願い、、、だから、、、、」
もう声が詰まってしまっている智由。
「そんなの、、、、そんなの、、、、できるわけないじゃん!!」
絶望に沈む少女。
ホントにそうだろうか。車を飛ばすデタラメな女だぞ。例えば、あのヘリを飛ばすなら、もっと可能性はあるかもしれない。まあどうでもいいが。
「こいつ、、、借りるぜ。アルマ。」
倒れる、あらたを引きずり起こすしん。
クルトが無言で狙撃ライフルを向ける。それを手で制するアルマ。
「な、、、、何やってるの!しん!」
しずくが、息を呑む。
ゴキン、ゴツ、
胸ぐらを掴んで、右手で半死の男を殴りつける白衣の少年。
多分、これほど弱体化してなければ、彼があらたを殴るなど、できはしないだろう。
血反吐を吐くあらた。
打撃に関しては素人同然の彼だ。大したダメージは見込めない。
だが関係はない。黒い増悪を遠慮なく叩きつける少年。
呆然とその様子を眺めている智由と那智。
リンでさえ、表情が消えてしまっている。
吹き荒ぶ嵐の中、真昼のように明るい実験施設の照明に照らされて、その地獄のような光景は終わる事なく続く。落雷が少年の狂気の代弁ように鳴り響く。
骨が骨を打つ鈍い音が、いつ終わるともなく続いていった。
「もう、、、、もう!やめて!しん!」
絶叫するしずく。
「こんなの、、、、ひどいよ、、、、!」
叫ぶ声は枯れ果てる。
「ひどすぎる、、、、、」
膝をつく少女。やさしく、そしては、芯の強いはずの少女だった。
よりどころだったはずの少年。その彼の絶望が、彼女の最後の支えを打ち砕いていった。
特に、感慨もなく、手を止める、しん。
右手が痛い。正しい打撃をもう少し覚えた方がいいかもしれない。
意外な力で、ズルズルと智由の前に男を引きずって行く。
「チーセンセー。コイツ治してくれ。このまま死んだら困る。」
本当に嫌そうに言う少年。
いや、あんた、殺しそうに殴ってたよね。
理解不能の顔をしている智由。
それでもとにかく、治療してくれる。
死なないまでも、まともに動けない状態という、抜群な、さじ加減で治療する先生。
意外とエグいかもしれない。この人。
チーセンセーの不興を買うのは、可能な限り避けた方がいいだろう。
座っているあらたの胸ぐらを掴むしん。
「マヌケが。こんなアホウどもに利用されやがって。」
困惑が見える虚ろな目。
「お前に選ばせてやる。このまま死ぬか。まともに生きてから死ぬか。オレはどちらでもいい。」
わけのわからない選択をせまる少年。
「立夏の命令権をよこせ。このままじゃアルマ達も、、、立夏も死ぬぞ。」
「悪あがきだな、、、、もう遅い、、、、」
歪んだ笑みを浮かべる。
「最後の余興だよ。楽しませてやる。」
同様に歪んだ笑みを浮かべる、少年。
しかし、よく考えてみれば、このままアダムが滅びれば、最終的に有利になるのは、
自分を裏切った、ローテクの組織上層部だろう。
あらたは、ふと思う。
それも、どうにも気に入らない話しだ。
「まあ、面白いかもな。」
だが、それは、今までの自分の半生をくつがえす言葉だ。
なぜ、、、、疑問が湧き上がる。
(残念。もう少し彼と遊んでみたかったですね。)
なぜか立夏の言葉が思い出された。
アルカは滅んでもいいだろう。世界中で何億死のうと構わない。しかし立夏が死ぬのは違うような気がする。
正直、彼には、妹とアンバーの区別ができなくなっていた。
妹を2回も失うのは、やはり耐え難いような気がする。
彼女は、もっと違った人生を送れたのではないのだろうか。そう思う。
そう願ったのは、最後の彼の人間性のカケラだった。
それが気まぐれを生んだ。
「いいだろう。しん。」
左手を上げる。
「立夏。命令権を、山下しんに与える。」
何をやっているのか。
何もかも、もう、どうでもいいような気がする。
白衣の男が、笑ったような気がした。
「アンバー。ひとつ質問だ。」
嵐の空を眺め、奇妙な事を聞く。
「お前は、このバカに死んで欲しいか?」
少しの間があった。
「、、、、いいえ。」
あり得ない答えが返ってきた。
大きく目を開く、あらた。
「見てろよ。シスコン。」
立ち上がる、しん。
さあ、正念場だ。
「、、、、、、、、、、」
豪雨の中、真っ直ぐに少年を見る那智。
やっぱりだ。
あいつは微塵も諦めてない。
まだ、終わりじゃない。
生気が少女にゆっくり戻っていく。
「立って。しずく。」
膝をつく少女を引き起こす那智。
「うん、、、、」
彼女の目にも光が戻り始めている。
絶望するには、まだ早い。誰よりも生き汚い少年を、最も、知っているのは、多分、彼女だろう。くやしーが。
折れたままのはずは無い。
いまいち釈然としないのは、何事もなかったように、彼の近くに立つリンだ。
どうにも油断ならない相棒である。
「立夏!アンチウイルスプログラムの構成を開始しろ!」
音声認識ソフトは嫌いだ。独り言を言ってる変人に見える。しかし文句を言っている場合ではない。
「了解です。アダムに対するワクチンプラグラムの構築を開始します。」
平坦なアンバー、立夏の声が応える。
「イブ!出てこい!何やってやがる!」
ポン。
電子の3Dホログラムの変なペンギンが現れる。
「ご挨拶じゃな!主人どの!こっちはアダムのウイルス除去で、おーーーーいそがしじゃ!」
実際イブの対応がなかったら、世界中の被害はもっと、壊滅的な事になっていただろう。
ライフラインは途切れるし、
飛行機はボトボト落ちるし、
核ミサイルも、誤作動で、あちこちから、打ち上がるかもしれない。
事前に作っていた立夏用、対抗プログラムも結構役立っていたという。
それでも、最深層まで蔓延するウイルスには手を焼いてるらしいが。
「立夏とウイルス情報を共有しろ。作業能率上がるぞ。」
「なんじゃ、、、、敵と協力か?なんか節操ないの。主人どの。このすけべ。」
どうもしょうもない冗談体質はイブもアダムも一緒らしい。
微妙に腹が立つ。
「うるせーーーーーーーーーーーーー!」
とか、やってる場合ではない。
「あ〜〜。」
気を取り直す。
「立夏!核融合炉の反応封じ込めプログラムを再構成しろ!イブ!立夏を手伝え!」
「了解です。」
淡々と応える立夏の声がする。
「任せるが良い。」
ガブくんが胸を張る。
ホントにコイツ、月のイブは地上のイブと同一存在なのだろうか。なんか、腹が立つ。
「無駄だ、、、もう5分も猶予はあるまい。」
ちゃっかり建屋入り口に雨を避けて、避難しているあらた。
いい度胸だ。あとでもう一回殴ってやる。
「炉心がもたないよ。」
座ってヘラヘラしているヒョロ長ノッポ。絶対殴る。
「紫煙!」
振り返る少年。
「アイ、ア〜〜〜イ。」
軽い感じで、瞬時にしずくと入れ替わり、答える紫煙。
「炉のプラズマ反応に干渉し、押さえろ!」
「は?」
簡単そうにとんでもない事を言い出す。
「で、できるわけねーーじゃん!」
『紫煙ちゃん!』
中のしずく姉が大騒ぎする。
「わ、、、、わかったって、、、、やってみる、、、、」
不承不承うなずく。紫煙だが、
「でもよ〜〜暴走する炉の近くなんて、近寄れねーだろーー。」
そう、とてもまともな話じゃない。ぶーたれる。
「那智!」
今度は、左手の方の那智を見る。
「ハ、、、ハイ!」
なんか、ビックリしている。
「紫煙を守ってくれ。炉心までのエスコートも頼む。」
「う、、、、うん!」
明るくうなずく。いつもの調子が戻ってきていた。
「は?」
コマ落としのように、瞬く間に、紫煙は那智の左脇に抱えられていた。
智由が気の毒そうに後ろで見ている。
「や、、、やめろ〜〜〜〜〜!」
ジタバタする紫煙だが、無駄なことだ。万力に掴まれたように胴体は抜けない。
「イブ!案内を頼む!」
「リョーーカイ!行くぞ!那智どの!」
ポン、
と、今度は、那智の携帯から、立体映像を結ぶ変なペンギン。
まあ、わかりやすいからいいか。音声だけで良さそうだが。
「エクスプローーーーーーーーーージョン!」
建屋、入口を吹き飛ばす那智。
ゴロゴロと入り口に避難していた、あらたがふっとばされている。ザマーみろ!
ドカン、ドカン、と一直線にかべを抜きながら、炉心を目指す那智。メチャクチャな話だ。
「ギャアアアア!」
「ウギャア〜〜〜!」
「やめて〜〜〜〜!」
少女の脇で、大騒ぎする紫煙。
轟音と、爆風と、破片が、至近をビュンビュン通り過ぎて行く。
絶対まともじゃない、この女。
たちまち、巨大な二枚扉の鋼鉄の扉の前に立つ。
黄色に、黒い三つ葉の原子炉マークが見える。
もうこの時点で、凄まじい熱気が襲ってきていた。
広い空間が、灼熱に、煮え立っている。
「死ぬーーーー!ほんと死ぬからーーーーー!!」
大騒ぎの紫煙。
「聞こえるか那智!」
携帯から少年の声がする。
彼は自分の携帯で、立夏から送られている、設備内のカメラで彼女達を見ている。
「左のパイプやら配管やら固まっている部分をぶっ壊してから、行け!頼んだぞ!」
「うん。任せて。」
嬉しそうに笑った。
「デトネーーーション!デルタ プロテクション!」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア。
炎の凄まじい、三角錐が展開する。
野川那智、最大の絶対防御だ。
「いくよ。紫煙!」
「やだーーーーー!」
オレンジの光点が両眼にともる。山吹色の燃えるような髪の少女が、微妙な顔をして上の方から見ている。
紫煙には以前、ひどい目にあわされた那智だ。色々思うところもあった。
だが、もういいだろう。関係ない。彼女は、イブを守り、エイダとも戦った。
「紫煙。お願い、、、、」
なぜか笑顔が怖い、炎姫さま。理性が怒りを押さえつけているのだろう。
『紫煙ちゃん!紫煙ちゃん!紫煙ちゃん!』
頭の中で姉貴が喚いている。
「あ〜〜〜も〜〜〜〜わーったよ!私だって死にたくねー!やってみるよ!」
プイ、
と横を向く紫煙。何に照れてるのか知らないが。
「エクスプローーーーーーーージョン!」
グワガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン、
左の設備を吹き飛ばす那智。
ブワアアア、
凄まじい、氷の嵐が吹き荒れる。
少年が破壊を指示した設備は、高温伝導の冷却施設だ。吹き出した大量の液体窒素は、一時的にしろ凄まじい冷却効果を発揮する。
「もーーーいっちょーーーー!」
ブアアアアアアアアアアアアア、
右手に炎が集まる。
「行くよ!紫煙ーーーー!」
「心の準備がーーーーーーーーーー!」
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン、
いとも簡単に強大な、鋼鉄の扉が吹き飛んでいった。
また来週。




