能力アフター 1話 05
あけましておめでとうございます。
数日後、放課後。超研部(仮)
目の前の長テーブルの左側、パソコンの前に突っ伏している、茶髪メガネが見える。
とても、鬱陶しい。
「あああ〜〜〜ヤダヤダヤダ!も〜〜イヤだ!」
突然頭を上げ振り回す。
「どした〜友樹。木更津。嫌になったか〜〜」
一応聞いてみる、しん。
「黙れこの変態!!この部だよ!ここ!」
両人差し指で机をタップする友樹。
「なんだよ。こんないいくつろぎ空間、ないだろ。いつだって、休みたい放題だ。」
友人を宇宙人を見るようにながめる。
「女だ!オレは女子とキャッキャウフフしたいの!」
今度はゴンゴン机にヘッドパットする友樹。
「いいか、しん!ここの状況は、青春の季節の1番まずい状態なの!」
「はあ、、、、」
青春の季節って、、、、痛々しい事を言い出す友人を憐れむ少年。
「女子と接点の無い部活なんて、なんの意味もないの!いないのに、どうやって、仲良くなるの!どうやって青い春るの!」
血を吐くような熱弁。
いや、春るって何?
「4割打者だって、打席に立てなきゃ、ヒットは打てないの!オレは打席に立ちたいんだよお〜〜〜!!」
血の涙を流す友樹。後ろに上体をひねり、両手を広げる。
野球、好きなのか?
「う〜ん。女子ならしずくがいるだろ。」
よく分からんが、聞いてみる。
「本気で言ってんのか。」
グリンと上体を戻す友樹。目がすわっている。
「いいよ。お前みたいな、ぶぁか。死んでろ!」
また、突っ伏してしまう。
「大体あの娘、天文部だろ!それに、最近、全然、遊びに来ないし!」
グチる。グチる。
「そういや、、、」
最近さっぱり、しずくの姿を見ていない。どうしたのだろう。
「ぶぁ〜〜〜〜か!人は失くしてはじめて、大切なモノがわかるのさ!ザマアミロ!」
だんだん、面倒くさくなってくる、しん。
「でもな、オレだって、まだ夢を諦めちゃ、できねーんだよおー!」
泣きの演技に入る友樹。もう、訳が分からない。
「春には桜を、夏には海を、秋には枯れ葉を、冬には雪を、いかしたあの娘とエンジョイしたいんよおーーーーーー!」
「がんばれ〜〜」
手を叩いてやる。
「黙れ変態!」
人を指差すな。と思う。
「お前みたいな変態と違って、2次元だけじゃ嫌なんだよお!オレはまだリアルに夢を見たいんだよおお!」
ブワサッ、
大きくひらめく、白衣。机を飛び越え、長テーブル、しずくの席に着地する、しん。
意外に運動能力は高い。
「ウハハハハハ!バカめ!随分、舐めた口をきくな。友樹!」
唖然とする、友樹。机のパソコンが振動で、グラグラしてる。
危ないだろ。このバカ。
「我が愛!我が希望!そして我が野望の一端を知るがいい!」
携帯のモニターを全方向モードで展開する。
おびただしい光の幕が、部室一杯に広がる。
昔の記録アーカイブで見た、ディスコのミラーボールとかいうのの光の乱舞を思い出す、友樹。
どこかの、ネイティブの人達の踊りを舞う、しん。こいつは、微妙に間違っている。
「げっ、、、」
光のピースは、画像データだった。戦慄する友樹。どれもこれも、年端もいかない幼い少女達だ。
「こぉのーーー変態!ロリコン野郎ーーーー!」
さすがにまずい。シャレになってない。炎上待ったなしだ。
「フハハハハ!ロリは否定はしないが、間違ってるぞ、友樹!この子達はオレが昔会った事がある、少女達だ。」
いや、否定しろよ。と思う、
データをよく見ると、嫁13号。嫁28号と謎のナンバリングがされている。
「気が付いたか!これぞ我が野望!出会った女子全員、嫁にしたら、素晴らしな!
、、だ、多分」
「なんだ、多分って?」
「わからん。記憶が無いんだ。だが、親に聞いたところ、オレは実際彼女らに会った事があるらしい!」
ひとり何枚かのデータがあるようだ。位置情報も記載されている。
全国津々浦々、こいつは引越しの多い奴なのか、日本くまなく網羅している。
いや、チラホラ海外まで。
そういえば、以前しずくちゃんに聞いた事がある。こいつの父は科学者で、世界中を渡り歩いているらしい。
「昔から、変な奴だったってわけか。」
なにかの、執念でもなければ、この人数はありえない。子供時代でなければ、犯罪になっていた可能性もある。
「愛だな!愛!!」
また、奇妙なポーズを決める、しん。
「今もその情熱は、我が胸に宿る!盗撮商売もその一環!被写体への愛がオレをかきたけるのだ!
彼女らは俺の嫁!!その愛を広めたい!オレは愛を伝える伝道師なのだっ!」
こいつは、ヒモかポン引きでも目指すのだろうか。こんな、社会不適合者は、ここで始末した方がいいかもしれない。
「ウハハハハハ!それでは、オレはこれから、紳士達の集会に出掛けなければならない!さらばだ!我が友よ!」
高笑いしながら、行ってしまうしん。
「帰るか、、、、」
なんの集会か知らないが、どうせろくでもない事だ。
どうでもいいが、それよりも、本当にしずくが最近ご無沙汰で、寂しい友樹だった。
学生が学区内から南下し、繁華街に向かう場合、区内を走る新都心環状線を使うのが早い。
オフィス街、行政区を横切るルートは中央、巨大なターミナルタワーを見物できる人気路線だ。
繁華街中央駅は、京急ライナー及び、リゾート区域を回る、ゆんゆんモノレールと接続する、一大観光地になる。
リゾート区域には、マリンリゾート、スパリゾート、ホテル、商業施設、レストラン、劇場、映画館、アミューズメントパークとあらゆる設備があるが、メインは、日本最大の規模を誇るカジノ施設だろう。
関東近隣はともかく、羽田、成田からの利便性の良さから、莫大な海外からの観光客の集客を誇る。
その中の、繁華街。とある、複合娯楽ビルの8階、カラオケルーム
少年が到着した時、すでに他校の変態紳士のリーダー達は全員、集まっていた。
照明を落とした室内に、はつらつと弾む女子バーレー部員。
もちろん、現実ではない。3Dホログラムだ。
スラリとした長身。跳ねるポニーテール。
彼女は天宮第二学園、人気ナンバー1。電撃使い。Aクラス
日向まこ。16才。
デバイスレスでレールガンを、ぶっ放したりはできないが、異名の雷神トールの名の通り優秀な能力者だ。
映像はもうひとつ、
鮮やかな真紅のコスチュームで躍動する、ラクロス部の少女。
天宮第三学園のエース。野川那智が登場するまでは、炎熱系最強と目されていた、16才。
王城たまき。火鞭使いだ。気位の高い、美少女お嬢様。そのムチに打たれたい、変態紳士達は後を絶たない。
「ウハハハハハ!見事だ!諸君!相変わらずのクオリティー。驚嘆の念を禁じ得ない!」
大笑いの少年を迎える、ビア樽のような男。天宮第二学園、東のビヤ樽リーダーである。
「いやいや、山下氏の伝説の水着生徒会に比べれば、とてもとても、ゼイゼイ。」
タップリついた贅肉が気管を圧迫するのか、喋るだけで苦しそうだ。とても、長生きできそうもない、太く短く人生を謳歌する変態仲間だ。
天宮第三学園、西のリーダーは、中肉中背、ボサボサ頭のアーミーコート。特徴は、常に装着しているガスマスクだ。どうやって、職質をかい潜っているのか謎の多い、各リーダーも素顔を知らない、お宝スナイパーだ。
「コーホー。」
そして、ガスマスクが持つ携帯が表示する立体映像の黒い石板。
サウンドオンリーの赤文字がオシャレな、天宮第四学園、南のリーダー、匿名希望だ。
彼にいたっては、氏素性、性別も定かではない。ボイスチェンジャーの音声は宇宙人風だ。
『全員ソロッタワネ。ソレデハ、緊急ノ懸案事項ニツイテノ、審議ニハイリマショウ。』
匿名希望がお姉言葉でミーティングを始める。
こいつは、油断すると男の映像ばかり集めてくる、困ったオカマだ。いや、性別不明なのだが。
ちなみに、オレは、北の白衣のリーダーで通っている。匿名希望がしつこく椎名葵の映像のリクエストばかりするので、少しウザい。しかし、意外と需要が多そうで、一考の価値はあるかもしれない。
てなことをやっている商業区域で、血相を変えて風紀粛正に励んでいる少女達がいた。
野川那智と冬木リンである。
風紀の巡回パトロールは学園で推奨される、アクティビティだ。
天宮の制服と風紀の腕章は、それだけで、恐るべき防犯効果、犯罪抑止力を発揮する。
彼ら、彼女らにちょっかいを出そうとするのは、モグリの馬鹿か、決死の覚悟のプロフェッショナルぐらいだ。普通はドラゴンでさえ、尻尾を巻くとされている。
「あった!あのビルの8階!見える?リン。」
ギリギリと歯ぎしりしそうな、那智。メインストリートからは多少外れているが、人で賑わう、シネコンやボーリング場を網羅する、複合商業施設の奥、ゲームセンター、フードコート、カラオケ、ビリヤードが入る小規模の古いビルがあった。
丁度この地区の巡回に来ていた那智達が、迷子の保護などをしていた時、第三高の風紀から、盗撮グループの集会の情報が入る。
最短で対応可能なのは、彼女達だけであった。急ぎ現場に急行。目標の確保を目指す。
本来、他校の援護を、待つべきなのだが、いかんせん、野川那智は頭に血が登っていた。
犯人のひとりに、小柄、白衣の容疑者がいる事は、風紀で周知の情報だ。
あのバカを助けたのを、大いに後悔する少女。吹っ飛ばして、東京湾に撒いてやる決意を胸に走る。
「確認、、、、不能。」
ポツリとリンがつぶやく。
「え、、、、、?」
これは、考えられない事態だ。
Aクラス受信テレパスの彼女が、この距離でサーチできないはずが無い。
以前、警察、特殊四課の知り合いから、超能力を阻害するキャンセラーの存在を聞いた事がある。
ESPジャマーは巨大な設備が前提で、日本では小規模なキャンセラーは最近やっと、導入されたばかりである。
そんなものを持つとしたら、相当資金が潤沢なテロ組織ぐらいだそうだ。
「上等じゃん。」
ギリ、と凄まじい笑顔を浮かべる少女。
テレパスは相性が悪いが、本来キャンセラーが制御できるのは、Bクラスまで。
もうひとつの方法を使わないとAクラスには通用しない。
さらに稀有のAAAである彼女には、力押しで軽く突破可能だ。
「行こう!リン!」
突入を開始するふたり。
8階 カラオケルーム
「それは、本当なのか?」
がくぜんとする少年。
「う、、、うん。ゼイゼイ。」
「コーホーーー。」
『本当ナノヨオ。シ〜ン♡』
各リーダー達が肯定する。
彼らの話を要約すると、こうだ。
天宮第一学園の女生徒達のR指定データーが、我らの知らぬ所で、流通していると言う。
これは由々しき事態だ。我々のスペシャルなネットワークのモットーは、モデル達のポロリやチラリズムは、徹底的に排除。流通には乗せない事をムネとしている。
(個人で楽しむのは、グレーゾーンだ。)
なぜならば、モデル達への愛!それがなければ、愛の伝道師たる資格がないからだ!
「げえ、、、、」
絶句する、しん。
見せてもらった、エロデーターはどれも、見覚えがあるものだった。
一体全体どうなってるのか。
たん的に言うと、極秘、自分のお宝映像が流失、ダダ漏れになっている。と、言う事だ。
これは不味い。いろんな意味で。出元が知れれば、各リーダー達にも叱責されるだろう。
それよりも、なによりも我が嫁達に対して、申し訳が立たない。一生の不覚だ。
「ゆぅううううるっさっっんん!誰がこんな事おおおお!」
とりあえず、自分のデーターというのは置いておいて、怒りを爆発させる少年。
そんな記録を集めるヤツが悪いのだが。
ビーーーーーー、
突如、黒い石板の映像が、けたたましいアラームみ鳴らす。
『オホホホホホ。ソレハトモカク、不味イ事ニナッタワ。』
石板、匿名希望が笑う。
他人事のようだ。こいつが、こんな時はホントに、ロクでもない事になる。
『一階、エントランスニ、風紀委員ガ侵入ヨ〜〜第一校ノ、ナッチャント、リンチャンネ〜〜。ミンナ逃ゲテ〜〜』
この南の匿名希望はかなりの、ハッキングの腕を持つ。アダムのセキュリティー以外の防犯システムなら、簡単に掌握する。防犯カメラでの監視は任せて安心だ。
とか言ってる場合ではない。
よりにもよって、最悪なのが来た。風紀の炎鬼、怪獣、野川那智の通った後は、ペンペン草も残さず廃墟、もしくは荒野になるという。
アキバで苦労して、パーツを集め、製作したキャンセラーも何の役には立つまい。
まずは、皆を逃さなければならない。
「みんな、ここはオレに任せて先に行け!」
来たーーーーーーーーーーーー!
まさか人生で、このスーパーパワーワードを使う日が来ようとは!誰が思うだろうか!いや思うまい!(反語!)
「た、倒してしまっても、いいんだぜい。ゼエゼエ。」
サムズアップして、東のビヤ樽が笑う。さすが、わかってらっしゃる。
「つ、、、使え、、、、、」
西のガスマスクがマスクを外した!
オレの身元バレの心配だろう、ビックリだ。初めて素顔を見た。
釣り上がった三白眼の中で黒目がフラフラ泳いでいる。
『根性、見セタンサイ!シン!二人ハ、私ガ誘導スルワ!グッドラック〜♡』
どこか面白がっている、匿名希望が二人を非常階段へ連れて行く。
さて、開戦だ。
「こんのおおおおお!」
建物内の階段を、駆け上がる那智とリンのふたり。
今は4階くらいか。
エレベーターが使用不能になっている。
偶然のワケがない。連中は、このビルの電気系統を掌握しているようだ。
当然、こちらに気が付いているだろう。焦りがつのる。
「なーめーるーなーーーーー!」
能力による身体加速行動に移る。
キャンセラーを使うという事は、相手に能力者はいない。そう思う。それが、僅かな油断を生む。
彼女は、階段に誘導されていたのを気付けない。
第六感というのは、観察力の賜物だ。普通とは違う異物を認識。違和感を意識表層に浮かばせる。
「那智、、、何か変、、、、」
加速しようとする少女を、懸命に止めるリン。
時すでに遅し。
バシュ、
ボ、ボ、ボゥ、
階段の所々に設置された、催涙ガスのボンベが、次々と炸裂する。
一面が一瞬にして、真っ白になる。
「な、、、あ、、、、!」
少女はなにが起きたか理解できない。出鼻を挫かれる。というヤツだ。
パニック状態になる。
かなり、炎症成分は押さえたガスのようだが、それでも、目に染みる。喉がむせる。
一面の煙は煙突効果により階段を駆け上がり、充満する。逃げ場はない。
踊り場にいたリンはともかく、一気に最上段に駆け上がった那智は、バランスをくずし、真っ逆さまに、階下に転落をする。常からの彼女らしからぬ失態だった。
(あれ〜〜なんか、やっべ〜〜〜!)
遅ればせながら思考がクロックアップ状態に突入したようだが、後の祭りだ。
視界はないは、方向感覚が滅茶苦茶だわ、もう、どうしようもない。身体強化しようが、踊り場に激突すれば、ケガの一つもするだろう。
観念して衝撃に備える。
グン、
その少女を何かの力が持ち上げる。訳の分からない身体操作が、彼女を定番のポジショニングにスッポリと収める。いわゆる、お姫さま抱っこだ。
ズドオン。
2人分の体重は結構足にくるのだろう。その白馬の王子ならぬ、白衣のガスマスクは泣きそうな声で笑う。
「ウハハハハハ!無様だな風紀委員!注意1秒、怪我、乾坤一擲。精進したまえ!また会おう!」
薔薇でも投げそうな、意味不明なセリフを残して去って行く。
「ま、、、まて!この変態!」
ごもっとも。
煙にむせる二人の少女を煙にまいて、逃亡に成功する少年。
モクモクと古い、複合娯楽ビルから立ち昇る白煙。
バラバラと逃げ出す人々。
消防車、パトカー、救急車、野次馬が集まり、あたりは、騒然として行く。
騒ぎは巨大な娯楽商業施設の、きらびやかなイベントの様に深夜まで続いた。
1週間以内に投稿するよ。