能力アフター05話11
投稿します。
同時刻、
とある研究所、司令室、
「動きがあったか。立夏。」
その、平坦な口調に、なぜか、楽しそうな雰囲気がにじむ、あらた。
「ハイ、、、、国産の黒いバンが、天宮第一学園を出発。走行ルートから予測。避難ではなさそうです。かなりの高確率で、SCADAに向かっています。」
正面モニターのアンバーTYPE01が答える。
「乗員はわかるか?」
「詳細は不明。アダムの妨害はいまだ健在です。」
アンバーは、現在アダムとアルカの通信、情報ネットワークの主導権争いの渦中だ。そこまでの探索に割くリソースがないのだろう。
「フム、どうにも、アルカの動きが予想より、早いな。」
面白くなさそうに、2列目、左のオペレーター席でジノ フィッシャーがつぶやく。
正面15面のモニターの、いくつかが、桂橋ジャンクションの泥沼の消耗戦を映している。
他にも、ターミナルタワー、波力発電所なども映っている。
「なっちゃんもタワーを出たきり、行方知らずだし、、、ねぇあらた。」
3列目、司令席のエイダ レスターが笑う。
「そう言う事だ。」
最前列、中央の不知火あらたが答える。
「一高を出た車、軽視するのは危険だな。」
それとは別に、彼には心当たりがあった。アルカの早過ぎる動き、その中に居るだろう人物。その制定部隊でさえ、隠れ蓑にする、狡猾な存在。紫煙、しずくへの、危害、イブ、瀬里奈の拉致を決して受け入れない男を。
「あんた、何してるの。こんなとこで。」
初対面の生徒会会議室で。つまならそうに自分を見ていた少年。
『残念、もう少し彼と遊んでみたかったですね。』
立夏と対等な電子戦をも演じてみせる。
那智と戦い、しずくをと共にこれに打ち勝ち、リンに殺されかけて、イブの誕生に大きく関わる。とてもマトモな人間とは思えない生活を送っている。
『気づいてる?たぶん、その子、あなたに近い人間だよ。』
エイダ レスターが以前、たわむれにそう言った。
くだらない話しだ。
しかし、最悪を想定しておかなければならないのは、事実だ。
野川那智の存在もそうだが、
総合的に考えて、一連の動きを見るなら、山下しんとアダムは、連携している可能性が高い。
非常に好ましくない話しだ。
憂いは断たなければならない。
「総力を上げて、もてなしてあげよう。とりあえず、排除しておこうか。」
もう一度あの少年を、見てみたいという興味は、自分の雑念、エラーだと思うあらた。
「なーんだ。潰しちゃうんだ。つまんなーい。」
司令席でつまならそうに、マニュキュアを見つめるエイダ。
「、、、、、、」
何も答えない、澱んだ瞳のあらた。
そう簡単に、いってくれたらいいが、と奇妙な思いにとらわれる。
少し時間は戻る、
ターミナルタワー、地下10階、地下情報センター、
「エコーからイータの全戦力を、波力発電所に回せ!ここの守りは、残りでなんとかする!」
なんとしても、アルカの4分の1を海中に沈めるわけにはいかない。
焦燥にかられる、ハドリア。
もうなりふり、構ってる場合ではない。
「二高の日向まこ。三高の王城たまき。両名に指示を!波力発電所制圧に向かってもらう。」
現状、ここの最大戦力だろう。
学生に任せるのはかなり、グレーゾーンであろうと。
「ダメです、、、、」
ひどく、バツが悪そうに答える、彼の小柄な美人秘書。
「祭、、、、、?」
思わず隣の彼女を見つめてしまう。
「両名は、かなり前に、自己判断により、アルファ、イオタチーム合流部隊と一緒に、タワーを離れています。」
風紀委員たちは、本来、ハドリアの部下でも、管轄でもない。それに文句を言うのは、お門違いだろう。
「ファッッーーーートアス!!」
何か、聞いたことも無い雑言が目の前の男から飛び出す。
「ディッックヘッッド!マザーーフッッカアアアーーーーーー!!」
汚いスラングを撒き散らす、ハドリア。
「ハドリア様、、、、、」
何かが、切れる音がした。
「落ち着いてください!!」
総勢50人が詰める、大規模オペレーションルームに響く声。
現在の地位のハドリアを怒鳴りつける人間など、ほぼいない。
「ファ、、、、ハイ。」
目を丸くして、硬直するハドリア。
「すぐに、日向さん達に、連絡します。少し待ってください。」
なんとか、冷静に、コンソールに手を伸ばす祭。
「いや、、、、、いいよ。祭くん。」
イスに座り、口を覆うようにしながら、ひじを机に乗せるハドリア。
「彼女達の行動は、間違いではない。おおもとを叩けば結果は同じだ。そのままSCADAに、向かってもらおう。」
視線だけを彼女に向ける。
「むしろ、戦力的には、正しい配置だ、、、、、、祭くん。」
とても、言いにくそうに、ハドリア。
「すまなかった。取り乱した。」
「いえ。あなたのサポートが、私の仕事です。」
気にした風もなく頭を下げる、小柄な美人秘書。
オペレーター達が作業に戻る。
すぐ後ろで、アルカの最高司令官とその秘書の、痴話喧嘩か、夫婦漫才みたいなものを見せられて、地下情報センターに、微妙な空気が流れていた。
「ちなみに、日向くん達は、どの部隊に帯同して行ったのかな?」
ふと、興味が湧いて聞いてみる、ハドリア。
変な間がある。
「、、、、部隊、と言うか、、、」
なぜか言いずらそうな、祭。
「ヒマになっていた、ブラボーチームの、リサ ウエストコットです。
彼女が、日向さん達を運ぶのを、引き受けたそうです。」
ハドリアが、グリンと顔を向ける。
「あの、、、、、ラッキーガールか?」
「そうです、、、」
気まづそうに、顔をそむける祭。
幸運値MAXという、アルカでも数値化にサジを投げた、ナゾの裏アビリティを持つ彼女は、自由奔放、ゴーイングマイウェイ。
チームの早川サキ達が付いていない場合、コントロール不可能という、自由気ままな、厄介な、問題児である。
「大丈夫か、、、、?」
非常に、不安になるハドリアだった。
嵐の街を走る、フォルOスワーゲンT6。
ドイツの7人乗りのバンだ。ちなみに右ハンドル使用である。
「フン♪フン♪フフフン♡」
上機嫌でステアリングを握る、ムチムチの黒いショートパンツ、金髪ロングヘアの隣の女性を見ながら、ナビシートで、一抹の不安にかられる日向まこ。
「あの、、、、リサさん。前の車、見えなくなりましたけど、、、、」
キャラバンを組んで、合流ポイントに向かっていたはずなのだが、いつのまにかはぐれているようだ。
「問題ありまセーーン!私のレーシングゲームで鍛えたドライビングを、信用して下サーーイ!」
鼻歌交じりで、どこかの少年のような事を言いっている。
ブラボーチームは、壊滅寸前の被害を受けたそうだが、彼女は、オデコに絆創膏を付けただけで、軽症のようだ。
リサは、いつもは、サキ達に絶対にハンドルを握らせてもらえないので、今日はご機嫌だ。
リラックスした彼女は、口調も、どこかおかしい。手足のプロテクターは着けているが、防弾ベストも電子ゴーグルも外してしまっている。
一応、他のチームに借りたM24狙撃ライフルをカーゴスペースに放り込んである。
「私の家のクルマを呼んだほうがよかったんじゃないかしら。」
一応お嬢様の王城たまきが、まこのすぐ後ろの席で、不機嫌に言う。
「ノーグッド!危険デーーース!」
とんでもない事だ、と答えるリサ ウエストコット。
「アルカは私の庭デース!おー船に乗ったつもりでオーケーデース!」
口調がとてもおかしい。
「なら、かまいませんですわ。」
ため息するたまき。彼女も多少、この女性に不安を感じているらしい。
後列、3列目で、伊勢理しょう子と長瀬アミが、
「これは、ご丁寧に。」
「いえいえ、かまいませんよ。」
と、サラリーマンの名刺交換のように、ラインの登録をしている。
以上、風紀委員4人がリサの運転で、桂橋ジャンクションに向かっている。
人のいない、灰色の雨の街は、見ていても気が滅入るだけだ。
暇つぶしに、前の席の長身のポニーテールに話しかけてみる、たまき。
「少しよろしくて、日向さん?」
「まこでいいよ。王城さん。」
上体をひねる、まこだが、真後ろのたまきは、うまく見えない。
「じゃあ、私もたまきで、よろしくてよ。まこ。」
彼女が二高のエースに、自然に話せるのは、自分でも意外だった。
変な間があく。
「なんです?たまきさん。」
横を向いたまま、まこ。
「いえ、、、、、あなた、野川那智の事、、、どう思いまして?」
自分には、大きな壁である存在。彼女はどう捉えているのか、気になった。
「そう、、、、ね。」
座り直し、流れる雨の街を見つめる、まこ。
「あの子は、私たちとは、違うと思う。」
「違う、、、、」
その言葉を反芻するたまき。
「くらべられるとか、かなうとか、そういうレベルに、いないと思う。私たち、二人がかりでも、敵わないと思うよ。たぶん。」
恐ろしく身も蓋もない、冷静沈着な戦力分析だった。
そう言い切れるのが、彼女の強さである。それが今のたまきには、理解できた。
「面白くないですわ!」
しかし認めるものか、と思う。
クスクス笑っている、まこ。
「私は、どちらかと言えば、最近現れた一高の電撃使いに、興味があるな。」
楽しそうな、まこ。彼女が言うのは、紫煙の事だろう。確かに、この二人なら、レベルに差はない。
「どうでもいいですわ!そんなの!」
ヘソを曲げたままの、たまき。
ここで、黙って聞いていたリサ ウエストコットが口を挟む。
「くっら〜〜〜い!あなた達は、間違ってマーーーーーーーーース!」
嵐の街を、水しぶきを上げて、コーナーを抜けていく、フォルクスOーゲンT6。
一方、こちらは、アルファチームたちの尊い犠牲のもと、SCADAに一足早く向かう那智たち、グランエーOの一行。
「どんな感じ?リン。」
ナビシートでふんぞり返る、白衣の少年が、ドライバーの智由の後ろのリンに聞く。
「、、、、、不明。かなり近づかないと、分からない。」
無表情に、答えるリン。
「どんだけ、キャンセラー持ち込んでんだ。あいつら。」
ブゼンとする少年。妨害機器に弱いのがテレパスだが、彼女の能力を阻害するとなるとそうとうの規模だろう。
「まぁ、注意しててくれ。」
雨の街を眺める。しん。遊びはなしで、SCADAへのナビも、真面目にしている。
「それって能力の妨害も、するんでしょう?」
不安そうに、彼のすぐ後ろのしずくが聞いてくる。
「Aクラスのお前らには、それほど効果は無いよ。」
完全に、封じたいなら、もう一つの方法を、併用しなければならない。
それでもキャンセラーは、そうそうに、潰すのがセオリーだ。
それに厄介なのは、敵、能力者だ。
その場合、キャンセラーは、諸刃の剣になるので、無用の長物になる。
それとも、それらを利用する戦術でも、あるのだろうか。
考え込む少年。
静かな時間が、流れる車内。
「あ、そーだ!」
何かを思い出したような、しずくの隣りの那智。隣りは、リンだ。
2列目真ん中にいる彼女。
「あんた、前に言ってたわね!私たちを、良くも悪くも学生だって!」
変なことを覚えてるなと、思う少年。
「郁恵ちゃん達と違うって事でしょ?何が違うのよ!」
納得いかない顔をしている。
「大したこっちゃねーよ。」
「説明しなさい!」
誤魔化そうったって、そうは、させじと炎姫さま。
ホントに、面白い話しでもないのだ。渋々話しだす、白衣の少年。
智由は、黙々と運転に、専念している。
「制定部隊な、あいつらの中には、殺し合いに最適化した人間が多いって事さ。」
にべも無く話す少年。
「郁恵ちゃんも、、、、そーだってゆーの!」
声を荒げる那智。
「そーじゃねーよ。ただ、その価値観を共有したグループに、属しているって話しさ」
最後列、三列目のし巻とリラも、黙って聞いている。
「それゆえに、お前たちとは、厳密には、違うんだよ。
まあ、それがいい事だって話しでもないんだ。」
不服そうな、那智。
実際、彼の話しは、かなり、偏っているだろう。
「それの最たるもんが戦争だろ。国際法があろうがなかろうが、起こる時は起こる。
政治のオプションの一つだから、当然だ。
だが個人レベルの話し、実際、人を殺して、よしとする者は、本来の人間の集団、輪から、少しずつはみ出てしまう。
たとえ合法的な行為だとしても、必然だったとしても、どんな覚悟があろうとな。意識はしてなくても、何かが犠牲になっていく。
それが人を殺してはいけませんよ、って教訓だ。」
少年の倫理観に首をふる、保険医。
「酷い理屈だこと。」
彼の話しだと、他者の命の重さとか、尊さなどの価値観が、スッポリと抜けてしまっている。
「フン。偉そうに。」
車の最後尾のし巻が、吐き捨てる
「じゃあ、お前はなんなんだ!」
それに答える少年。
「なんだっていいさ。ただこの先に、進もうってなら、理由は何にしろ、そういった覚悟がいるって事だ。」
「何かを、、、犠牲に、、、」
思わずつぶやくしずく。
はからずも、みなを見渡す少年。
「もう一度おのおの、よく考えろよ。無理ならここらで降りてくれ。」
それは、静かな選別だった。
「ホントに、、、気に入らない奴だな!私ら風紀を舐めるなよ!」
開口一番、し巻。
「八重が行くなら、私も行くにゃん。」
フワフワとリラ。
リンは、特に変わりなく窓の外を眺めている。
(しず姉!)
頭の中で紫煙がわめき立てる。
「わ、、、わ、わ、私も行きます!」
必死にしずく。
「私は、あんたらの引率だからね。付き合うよ。」
不肖不承に智由。
「覚悟、、、、犠牲?」
混乱している那智。
面白そうに、右斜め後ろの、アタフタしてる少女を眺める、しん。
「ただ、この話には、例外がある。お前は、好きにしろよ、那智。」
「?、??、」
ワケの分からない那智。
混乱する少女を乗せて、車は、第一工業地区に、入って行く。
一方、
桂橋ジャンクションに向かう、まことたまき達。
「あなた達は、間違ってマーーーース!」
なぜか、もう一度繰り返すリサ。
「何で2回?」
「強調したいのでは?」
三列目でしょう子とアミが、ヒソヒソやっている。
なぜか、もう打ち解けている、二人。
強力な相棒をフォローする、互いの苦労がよく分かるのかもしれない。
「何が間違えですの?ミス ウエストコット?」
一見冷静に見える、たまき。静かに微笑む。
まこも、ほっとしている。が、
「あ、、、マズイ、、、、」
斜め前に見える、たまきの目が笑っていないのに、気付く、しょう子。青くなる。
「フゥランクに!リサでいーーデーーース!」
まったく意に感せず、カラカラ笑うリサ。
「いーーデスか?能力の事なんか、大した事じゃありまセーーン!あなた達の未来には、もっと、もーーっと楽しい事が広がってマーーーース!」
「は、はあ、、、、」
とりあえず、あいづちをうつ、まこ。
「今のあなた達は、視野せまーーーいデス!こんな、ちょっとデーーース!」
指でゼスチャーする、リサ。
「、、、、、、!」
身を乗り出そうとする、たまきを後ろから必死に押さえる、しょう子。
まこもあわてて、たまきを押さえる。
後ろでガタガタやってるのをまるで気にせず、鼻歌交じりでステアリングを操作するリサ。
「いーデスか?いつか、社会に出たら、あなた達の未来は、無限に広がっていきマーーーース!」
とても、楽しそうだ。
後ろは修羅場だが。
「そうしたら、楽しいこと見つけて、1番楽しんだ人が1番デーーース!他はかんけーありまセーーン!」
多分この人は、そうして来たのだろうと思う、まこ。
「いたっ!」
バリ、とたまきに腕を引っかかれる。
「自由に好きなように生きましょーーー!ライフ イズ ワンダフゥーーーーー♪デーーース!」
歌い出しそうだ。
「そのために、私たちガンバリマーーーース!あなた達の未来は必ず守ってあげマーーーース!」
動きが止まる、赤毛のカーリーウェーブヘア。
「そりゃね、、、」
組み付くまこが、ため息をつき、何か言っている。
「多分この人達は、そのために常に生と死の狭間で戦っているんだ。」
ほんの少しの差で、ブラボーチームは、全滅しただろう。
ただそれだけの、厳たる事実。
「この人がどんなに脳天気に見えようと、、、」
「まこ、、、」
言い淀んでしまう、たまき。
「どーしました?あなた達?」
2列目で絡まってる4人に気がつくリサ。
「な、、、なんでもありませんわ!」
バツが悪そうに、目を背けるたまき。
みなを振り払って言う。
「行きましてよ!リサ!」
渋々、彼女を認めたらしい。
「オーケーたまき!レッツ フリーーーダム!」
我が意を得たり、とご機嫌なリサ。
こう言った変な制定部隊もいるのだ。歪みまくった白衣の少年が言うのも、一面の事実であろうと全てにあてはめるには、はばかられる人間もいる。
とは言え彼女の人生観に即して、自由気ままにしていいものでもあるまい。
幸運度MAXという特殊な、人生なのだ。当てはまる人はそういない。
人には、その人に合った生き方が、それぞれある。
世に溢れる、生き方のハウツー本が、殆ど用を成さないのは、そういう理由からだろう。
それに、いくら幸運値が高かろうが、それで、もの事、全て上手く行くものでもない。
ザザザー、ザップーーーーーーン、
「海デーーース!」
まことリサの前に、千葉に面した嵐の夜の海が広がる。
アルカ、最東端に辿り着いたらしい。
「海デス、、、、って、、、、」
さしものまこも、ダッシュボードに突っ伏してしまった。
もちろん、桂橋ジャンクションとは、見当違いの方向だし、ターミナルタワーより離れてしまったと、言っていい。
「どーーーーーーすんのですわ!ウエストコット!ここ何処ですわ!」
わめくたまき。日本語がおかしくなっている。
「オオーーー!ミステーーーク!人生、山アリ海アリデーーース!」
ほがらかに笑うリサ。
アルカ重要戦力である、彼女達は、迷走していた。
いや、笑い事ではないのだが。
一方、第一工業地区に入った、那智たち、グランエーO、バンの一行。
「お前は、好きにしろって言ってんだ。」
面白そうに笑う、白衣の少年。
「なに、、、それ?」
理解できない、からかわれていると思う那智。
「今までの色んな理屈もな、実はお前には、当てはまらないんだ。」
楽しそうに流れて行く街を眺める少年。
「自由に、君臨し、蹂躙し、叩きのめせばいい。何が相手でも、な。」
「あんた、、、、そこはかとなく、私、バカにしてるでしょ?」
よく分からず頭に血が昇っていく、少女。
なぜか、クスクス笑っている、斜め前の智由。
「智由姉!何がおかしーーの!」
「なんでもー。」
とぼける保険の先生。
(それじゃ、我が妹には、伝わらないよ。しん。)
意外に不器用な少年が、おかしい智由だった。
「いて!」
すぐ後ろの、しずくが、手を伸ばして来て、腕をつねる。
「なんだよ!しずく!」
「別に。」
ソッポを向くしずく。
多分、彼は彼女に、それら、難題を越えて、真っ直ぐに進む、強さと実力。それがあると思っているのだろう。
それでなくても、わかるのは、自分たちには、ついに向けられななかったものが、彼女には、存在しているという事。
ただ一人だけに向けられる、確かな信頼を。
口惜しく思うしずくだが、彼の考えは、また、正しい、という事も無い。
しんは後に、野川那智を特別視することを、制定部隊の詩吟に戒められる事になる。
流れる街が、住居、研究所から、倉庫や、パイプの絡まる工場に、変わっていく。
眼前に、水かさの増した、黒くうねる、広大な夜の第二荒川が開けて行く。
溢れる水流は、不気味に、SCADAに向かう2月橋を、飲み込みそうに、橋げたに打ちつけ、乱れ、流れて行く。
黒く乱立する、工場のクレーンがあちこちから、そそり立ち、墓標のように、一行を迎える。
対岸に広がる、ライトアップされた、夜の工場は、悪魔の魔城のように、幻想的で美しい。
「敵が、、、、、いる。」
リンの琥珀色の瞳が、淡く輝く。
「さて、と。どうする?しん。」
智由がゆっくりと、橋の前の道路の端に、黒いバンを停止させていく。
戦術補佐役のような少年に聞く保険医。
奇妙なほどテロに、詳しいのは、事実だし、あのし巻風紀委員長が、好きにさせてるのだ。
指揮官然としている、彼を一応立てておく。
「ここで、、、か。」
つぶやく少年。
「リン。能力者はいるか?」
首を振る、小柄なプラチナ、ショートボブの少女。
「気に入らねーな。」
敵の本陣は、目の前のはずだ。なぜ奴らは出てこない?
(しかし、どちらにせよ、)
「ここを、突破しないと、始まらなねーな。八重。リラ。いけるか?」
「たりめーだろ!そのために来たんだ!」
しずくと、リンがそれぞれ、サイドドアをスライドさせる。
外の暴風雨が、再び吹き込んで来た。
那智も素早く、道路に降り立つ。
「、、、って、馴れ馴れしいんだよ!お前!」
スルーせずに突っ込んでくる、し巻。呼び捨ては承伏できないのだろう。
八重ちゃん、子供の頃は、特に気にしてなかったはずだが、寂しい話だ。
「任せるにゃ。でも、先輩を付けるにゃよ。このデコスケにゃん。」
同様に出て行くリラ。
いや、おれは、鉄Oじゃないけど。頭の生え際も後退してないけど!リラ先輩!
ところで、アキバのネコ耳メイドに、にゃーにゃー言うココアちゃんはいるけど、リラの口ぐせの理由は、よくわからない。
誰も突っ込まないので、スルーしているが、いつか、わかるのだろうか。
「紫煙、橋をサーチしろ。」
車内で、踏ん反り、借りた左耳の風紀の備品のレシーバーに、しゃべる少年。
これは、かなり広範囲に使え防水、防塵機能付き。基本は、オープンチャンネルだが、個別通話もできる。環境に即して、自動で音量調整もしてくれる、優れものだ。
「あいよ。」
しずくの前髪が、なびき、凶悪な目つきが、現れる。
パチパチと小さな放電が、少女を包む。
彼女から広がるパルス波が、隈なく眼前の全長805メートル、4車線、中央に2連の緩やかなアーチがかかる、2月橋を索敵して行く。
『あったよ。しん。IEDが山ほど仕掛けられてる。』
風雨の音をノイズキャンセルした、明瞭な声が聞こえる。
「無線式か?」
『多分ね。』
「よし。EPMを、仕掛けろ。」
『アイア〜〜イ。』
再び、しずく(紫煙)の瞳が輝く。
「ちょっと、IEDって何?」
横で聞いていた智由が、口を挟む。
彼女も一応、レシーバーを借りている。
「いわゆるブービートラップだよ。」
部室から持って来た、ノートパソコンを広げて、簡易のオペレーションのシステムを構築している少年。
「ノコノコ橋を渡っていったら、あらかじめ設置した、爆弾でボン、だ。今、紫煙に、電波妨害をさせて、起爆装置を、無力化させてる。」
「爆弾、、、、、」
アルカの全ての陸路を落とした連中だ。それくらい普通に、するだろう。
「来るぞ。」
楽しそうに、しん。
対岸の、工場区から、黒い影が、橋のたもとに集まり始める。
「紫煙。詳細は、わかるか?」
兵器索敵なら、リンよりも、紫煙のレーダーが適している。
ゴウゴウ、と音を立てて流れる濁流の向こう、視認する事も、困難な状況だ。
「アハハ。ロボット10、小型のカニ117ってとこ!すげーなこりゃ!」
呆れてる、紫煙、見かけはしずくだけど。
M10エイブラハム重パワータンクローダー10台、M9グレイハウンド軽装甲車、117台。
敵は戦争でもするつもりだろうか。よくも、これだけの戦力を集めたものだ。
「バカ野郎共、こんな所に陣取ったのが、運の尽きだ。」
凶悪に笑う少年。
「しずく!やれーーーーーーーーーー!」
橋のたもとに、吹き飛ばれそうにたたずむ、ポニーテールの少女。
「でも、、、、でも、、、被害が、、、、!」
苦しそうに、首を振る。
『安心しろ。しずく。SCADAには、もう、テロリストだけしか居ねーよ。』
少年の声が冷たく聞こえる。
「え、、、、っ、、、」
なんの事か理解できない少女。
『アダムの調べでわかっている。波力発電所も職員、一般市民は、皆殺しにされてるようだ。多分ここも同じだ。生きている一般人はいないだろう。』
「、、、、、、」
うつむき、硬直する少女。
なぜこんな事が起こるか、分からない。なぜ同じ人間がこんな事をするのか、分からない。
ただ分かるのは、こんな事をこれ以上広げていっては、ダメだ。もう、一人も死なせては、ダメだ。
「行きます、、、、、」
静かにおもてを挙げる、天候、自然災害、天変地異を統べる女王。
ブアアア、
しずくの周囲を渦巻く、暴風。ポニーテールが舞い立ち、重力が途切れたように、身体が数センチ浮き上がる。
「海乱招来、、、、!」
低くつぶやくしずく。
グオオオオオオオオオ、オオオオオオオオオオオオ、
黒い水流が、溢れんばかりの眼前の濁流に、うねり、円を描き走る。
2月橋の下、奈落へ引きずり込むような、巨大な渦巻きが生まれていく。
暴風雨がまきこまれるように、渦を巻き、弾け飛んでいく。
「暴流ーーーーーー!」
王の命のもと、怒涛の如く第二荒川の濁流が隆起し、橋のたもとの重殺戮兵器達に、襲いかかっていった。
莫大な増水された全てが加速していき、広大な河川の底面があらわになっていく。
グオオオオオオオオオ、アアアアアアアア、
一飲みで飲み込まれていく、M10エイブラハム達。いくら堅牢な防御性能を誇ろうが、災害規模の濁流には、抗いようが無い。
100を越すM9グレイハウンド達も同様だ。まとめて、荒川の藻屑と消えて行く。
巨大クレーンが、薙ぎ倒され、工場の車両が、ミニカーのように押し流され、資材を押し流し、コンテナを飲み込んで、工場を破壊していく。
濁流は、弧を描き工場区内を走り、再び河川に戻っていく。
不思議なのは、この規模の河川の氾濫にしては、堤防敷の決壊も無く、膝下の、浸水を残すのみな所だろうか。
後にはM10が1台、M9が14台が残るばかりだった。ほぼ、機甲部隊は、壊滅と言っていいだろう。
この、しずくの能力は、那智の広域爆裂の殲滅力には、遠く及ばないが、水源に近ければ割と低燃費で展開できる能力だ。
とは言え、安易に連発は、できない。しずくの、能力キャパシティは、那智ほどデタラメではないのだ。
恐ろしいのは、飲み込まれた、M10達の運命だろう。
それらを飲み込んだ膨大な水流は、生き物のように、高速で移動を続けながら、河口から、太平洋へ、ここからなら、世界5位の深度を誇る、小笠原海峡の最深部まで殺戮兵器達を引き摺り込んでいく。
ろくな、海中装備を持たない、陸戦兵器が水深9788メートルの海の底に、来たら、どうなるかは、分かりきっている。後は押して知るべし、だ。
「やるじゃん!しずく!」
宙から降りて来る、彼女を眺めながら感心する、那智。
『いーか、那智、言った通り、お前と、しずくは、省エネ戦闘だからな!』
耳元で、白衣の少年が、がなり立てる。
事前の打ち合わせで、彼女と、しずくには、後の戦い、つまり、対あらたを想定して、力の温存を口を酸っぱくして伝えている。
「わかってるよ。うっさいなー!」
面倒臭そうに、答える那智。
それでなくても、彼女は、数時間前に、タワーで広域爆裂をぶっ放し、ブラッドエセ神父と戦っているのだ。ここでまた、広域爆裂など使われたら目も当てられない。
いくら、最強の能力者だろうと、無限にドッカンドッカン、能力を使えるわけでは無いのだ。
多少は、回復しているだろうが、限界はある。
アルカでは、それを能力キャパシティとして、数値化に励んでいる。
それは、術者の疲労度に、正確に比例して、消耗していき、ゼロに近づいた場合、力の行使は不可能になり、最悪、暴走する。
どういう理屈か、知らないが、智由先生の回復でも、全快は、不可能だそうだ。
那智のキャパが桁外れすぎるのかも知れないし、他に理由があるのかも知れない。
あらた達が出てこないのも、彼女達の消耗を待っている可能性もある。
山下しんの白衣の下から、3台の小型ドローンが、現れ、車の開けた窓から、嵐の空に飛び立って行くのを、イヤそうに、智由が見ている。
もちろん、覗き、盗撮用のハヤブサ君達だ。
現在、操作は、アダムが担当してくれている。本来のこのドローン目的を知っていたら、とても引き受けてくれないだろう。
無駄に高性能なカメラは、ノーパソに、対岸の敵の動き綿密に捉え映像を送ってくる。
驚くべき事に、おおむね100名に近い、中隊規模のテロリスト達が残りのM10、M9を中心に、態勢を整え始めている。どっから、湧いて出て来たのだろうか。
さすがに、川の氾濫は、もう効果が薄いだろう。制圧戦に移らなければならない。
とりあえず、八重先輩に、情報を伝える。
「さて、、、と。」
ゆっくりと、路面中央、追い越し車線を進む、し巻。
「うにゃにゃ〜」
隣を、意味不明な声を上げて、続くリラ
「気い抜くンじゃねーぞ。那智。」
後方の少女に声をかける。
「ウス!し巻先輩!」
沈滞なく、後に続く那智。
「さんざん、ナメた事、やってくれたモンにゃ。」
中坊たちの被害も、モニターで見るアルカの惨状も、筆舌をつくし難い。
「リラ、、、、先輩、、、、」
ゾッとするほど冷たい、リラの声に、すぐ後ろのしずくは、足を止めそうになる。
「叩き潰すぞ!!」
激昂する、し巻。撃鉄が振り降ろされさる。
高速戦闘に移る。
リラと、那智が後に続く。
「ま、ま、待ってくださ〜〜い!」
超苦手な、ブーストムーブに移るしずく。
大丈夫か、あいつ。
リンがのんびりと加速していく。彼女は、後方で、戦局を俯瞰し那智たちの第二の目となる役割を持っている。
対岸に、壮絶な爆発が次々と上がっていく。
2月橋前、SACDA攻防戦が、始まった。
また、来週。




