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能力アフター  作者: 佐藤同じ
47/55

能力アフター05話10

投稿します。

天宮第一学園、高等部、地下2階、地下会議場、


普通の制服に戻ってしまった、那智たちとリン。

智由先生とし巻とリラ。ついでにや友樹とオレ、計8人が、友樹の言う秘密基地に揃う。

白衣は先生とオレに戻っている。


「あ、これ、結構おいしーー。」

中央の長テーブル、左端で、那智が人のキープしていた、カップヌードルをウゾウゾと食べている。

「こっちも中々だよ。」

その左のテーブル、短辺の席で智由センセーが、これも人がキープしていた、カレーライスを食べている。

「野菜が野菜ジュースだけってのが、難点ね。」

この人は栄養士の資格も持っているらしく、非常食にまで文句を言っている。


カレーには、玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモまで入っているのにだ!

カレー万能食主義のオレとしては、断固反論したい。


「先生も、売店で何か買っておけばよかったんですよ。」

リンをはさんで、右隣りのしずくが、サンドイッチを頬張りながら言う。

リンとしずくは、売店で買ってきたサンドイッチとカップサラダを食べている。


野川姉妹は、二人の食べている様子を見て、お腹が空いたらしい。

なんとも、要領が悪い。

リンの前の長テーブルの上では、イリオモテヤマネコの子猫、アルが、シットリタイプの高級ペットフードをがっついている。


なんで、非常食に高級ネコ缶が混じっていたのかは謎ではあるが。


少し見ないうちに、ひとまわり大きくなっている、子猫。活発に遊び回るらしく、肥満の心配はなさそうだ。

リンが運んで来た、アルがスッポリ入るバックは、携行ネコ用折りたたみ式トイレらしい。

学園のペットホテルは休業だそうだ。緊急時は、何かと大変のようである。


ふだん、無味乾燥の地下会議所に、食べ物の匂いが立ち込め、なんともゆるい雰囲気になっているのだが、そうのんびりともしてはいられない。


「あ〜〜〜〜。食いながら聞いてくれ。」

食事の終盤を見計らって口を開く、白衣の少年。

彼は、前方4つのコンソール右から2番目の席に、そっくりかえっている。

その隣に、し巻、リラが並ぶ。


「状況に、動きがあった。」

彼が向きを変え、コンソールを操作すると、

後ろの6面の大スクリーンにアクアラインから始まって、ゲートブリッジ、京葉線、首都高湾岸線が入る、東アルカ、北西部のマップが表示される。


奇妙なのは、海岸線に沿って、赤いライン表示が点滅している点だ。


「なんだ。これは?」

こんな情報は、し巻とリラも知らない。気色ばむ、し巻。


「ご存じの通り、アルカ北西部の海岸線はおもに、川崎側の土壌で作られている。」

「そんなの知らんって。」

那智がカップラーメンをズルズルしながら、口を挟む。


「プロジェクトXXX、アルカを作った男たちを見てないのか!」

なんかの番組だろうか。見てるのが当たり前のように、憤慨する少年。

「それがどーしたのさ。」

スープを飲み干し、完食する那智。

「ごちそーさまでした。」

手を合わせている。まったく興味無さそうだ。


「あれでしょ。川崎側の土壌がもろくて、工事が難航したってヤツ。」

モクモクと、まだサンドイッチをほうばっている、しずく。


「そう!最新の地盤改良工法で、数々の困難を乗り越えていくんだ!エンドテーマは、涙、無しでは、見れないぞ!」

ひとり感動している、白衣の少年。


それは、どうでもいいが、後ろの6面スクリーンを見る限り、笑い事じゃない。

「それと、後ろのマップと、何の関係があるの?」

イヤな予感に襲われる智由。


「テロリストの連中、随分前から、ここの土壌に、小細工してたらしい。」

茶飲み話のように、サラリと言う少年。


「どうゆう事にゃ?」

とても、雲行きが怪しいと思うリラ。


「セメント除去剤や、硬化体分離液を大量に海岸線の土地に、加え続けたんだな。

おかげで流動化処理土や、地盤は、ゆるゆるだな。」

面白そうに説明する少年。

「加えて地下水を、バカみたいに汲み上げて、その緩い地層に加え続けた。」


「それで、、、どうなる!」

持って回った言い方に苛立つ、し巻。


「地盤沈下と液状化現象が起きる、、、、下手したら海岸部は、海に沈むね。」

智由がつぶやく。

「な、、、なにそれ!智由姉!」

顔色が変わる那智。


「アダムのシミュレーションが出てる。」

しんが、コンソールを操作する。

北西部の地図の海岸線の赤ラインが、膨らんでいく。

「この、豪雨が、後5時間も続いた場合、防波堤も限界を迎えて、こうなる。」


「ひ、、、、酷い、、、」

口をおさえるしずく。どれほどの被害が出るか、想像も出来ない。


「さらに、奴らは波力発電所を押さえている。大量の海中フロートで、水量をコントロールできるんだ。」

まだ、続きがある。後を続ける、少年。


「で、5時間後、ここに、最大の津波を起こし、ぶつけた場合、、、」

マップの赤い点滅が、みるみる広がっていく。

東アルカ北西部の地図が、ほぼ覆われてしまう。


天宮第一学園、天宮第三学園も、エリア内だ。

「そんな、、、、、、」

絶句するしずく。


「東アルカの4分の1が、水没する。」

静まりかえる室内に、白衣の少年の声がうつろに、響く。


「まあ、、、最悪を想定したシミュレーションだ。こんな事、起こらない可能性もある。」

取って付けたように加える少年。

アダムのシミュレーションに、間違いなどあるわけは、無いのだが。


「対策は、、、どうなってるの?」

なんとか、声を絞り出す、智由。


「警察、民間警備会社、制定部隊、総出で避難誘導に、かかっている。」

制定部隊は、波力発電所、奪還にも、動いているだろう。

戦力が分散している今、苦戦は、必至だろう。

間に合えばいいのだが。


続ける、しん。

「天宮第一学園の生徒たちも、すぐに第二学園への避難が、始まるだろうな。三高は、四高へ、だな。」

ため息する、しん。

「わからねーのは、やつら、バカみたいに手間ひまかけて、こんな事やって、何の意味があんのか、だ。ありがちなテロの声明もないしな。」

まるで他人事のような言い方をする。


「そんな事、言ってる場合か!!」

激昂する炎熱の少女。

「あいつらをやっつければいいんでしょ!すぐに行こう!!」

ガタガタと立ち上がり、そのまま、飛び出して行きそうな、那智。


「ま、、、待って那智!」

オドオドした、地味子さんが、彼女を止める。

「しずく?」

意外そうに、立ち止まる那智。


いつものリボンがない、髪留めで留めただけの、即席のポニーテールの彼女が、真っ直ぐに白衣の少年を見つめる。

「しん、、、、何で黙ってるの、、、?」

前髪でよくわからないのだが、なぜか、固い決意が伝わってくる。


「チッ。」

ゲンナリするようにソッポを向く少年。

(やっぱり気付きやがったか、、、、)

最悪だと思う。


「私なら、この嵐を止められる。そうしたら、みんな、助かるでしょ?」

AA天候操作能力者。

敵、エイダ レスターの水流操作能力の多分、完全上位互換の力を持つみず希しずくなら、この、人工嵐を消し去る事は可能だろう。


「そ、そーーだ!しずく!」

彼女と戦った事のある那智には、その凄まじい能力がよく分かる。

100キロ四方から収束される、スーパーセルを自在に操る彼女が、負けるワケがないと思う。


「待て!敵が何の対策も、してないと思うのかよ!」

怒鳴る少年。

「面倒な事になるだけだ!やめとけ!」

恐ろしい剣幕だ。

「そんなの、、、、そんなのやってみなきゃわからないじゃない!」

必死に反論するしずく。


(ああ、、、、やっぱり、、、、、、)

言い争う二人を見て、まったく別な事に、思い至る、那智。


彼はしずくが心配なんだと思う。


瀬里奈副会長を利用しようとした、二高の人とは、やはり違う。

矢面に立つ人の安全を考えられるのだと思う。

それは、嬉しいような、いい事だと思うのだが、なぜか胸が小さく痛んだ。


その理由は、今の彼女にはわからなかった。


地下から出るスロープを上がって、校舎に入り正面、昇降口に出る。

ひとり、通路の先の階段を降りて、嵐の中のグランドの中央に向かう、しずく。

それを、昇降口で見送る7人。


「本当に、、、いいの?」

智由が小さく、少年に、聞く。


「本人が、やるってんだ。しょーがねー。」

不機嫌、極まりない様子だ。

やれやれ、妙に要領がいいかと思えば、子供のような所もある。


「那智、、、、何かあったら、お願いね。」

反対側の妹に、ささやく。

「え、、、、っ?あ、、、ああ。う、うん!」

ぼーっとしていて、変な受け答えをする、那智。

「?」

こっちの様子も変だ。

ため息する智由。大丈夫なのだろうか。と思う。


ゴオ、

グランド中央、小柄な少女を中心に、猛烈な暴風が集まりだす。

強烈な気圧変動が起こり始める。


キイイイイン、

「凄いわね!」

暴風と耳鳴りに、耳を押さえる智由。


ヴァオオオ、

しずくの上空にメソサイクロンが生じ、更なる気圧変動を呼ぶ。


「天雷招来!」

つぶやくしずくが、上空に登り始める。竜巻が天候の女王を、包んでいく。


グオッアアアアアッ、

気圧傾度力、遠心力、コリオリ力が近衝し、更なる暴風が収束する。

それは、ここだけに留まらない。グランド上空、広がる灰色の空の向こう、見渡す空より幾つもの漏斗雲が垂れ下がり、渦を巻いていく。


巨人の影が渦巻く、暗雲から次々と舞い降りたような、竜巻たちが、群れを成して、地平の彼方を闊歩する壮絶な光景が広がっていく。


「デタラメだな、、、、」

つぶやくし巻。

凄まじい、風が左に伸びる、校舎の窓をビリビリと揺らしている。

油断すると吹き飛ばされそうだ。


彼女の風の能力の上位互換とも言える、しずくの力は、驚異的としか言えない。人工嵐への干渉が目的で力をセーブして無ければ、どれほどの被害を地上に与えるか、想像もできないだろう。

個人で有していていい範疇を、越えた能力と言っていい。


し巻の右手前の方で、ボーッとしてる野川那智は、更に、その上のAAA認定をされている。

どれほどの底力が秘められているか、正直、予測ができない。


「頼もしい、後輩たちだな。ったくよ。」

自嘲気味につぶやいてしまう。


「あの子たちを支えるのが、ボクらの仕事にゃ。」

左隣りのリラが、ニコニコと笑う。


「フン、、、、。わかってるよ!」

つまらない、心の拘泥を見透かしたような、相棒に答える、し巻。

見栄だろうと、虚栄心だろうと、何でも使って、前を向く。それが彼女の強さなのかもしれない。


そう考えると、たいした能力もなく、彼女達にちょっかいを出す山下しんというのは、非常に奇妙な存在と言えるかもしれない。


人の縁、個々の繋がり、等々、いくらお題目を並べようが、その強大な能力は、紛れもなく彼女達の一部なのだ。


力は、憧れと同時に、憎しみも呼ぶ。

強い光には、必ず深い影が伴う。


彼は、平然とその力を、認め、平気で頼る。なぜか、偉そうに。

希代のペテン師か、詐欺師かは知らないが、いずれボロを出すだろう。

面白そうなので、しばらく様子を見る事にする、し巻。


そんな彼女の思惑など、関係なく、平常運転を続ける、白衣の少年。

「リン。周囲の警戒を頼む。」

左隣りの少女に、ささやく。


なんらかの妨害があるにしろ、即応性の高い方法は、不可能だと思う、しん。

しかし、これは誤りだった。彼はすぐに思い知る事になる。


吹き荒れる暴風に、怯えた子猫が、前足でリンの腕に巻きついて、ミーミー鳴いている。

それをなだめるプラチナ、ショートボブの少女の琥珀色の瞳が、輝いていく。


簡単なサーチの時点で異常が、感知された。

「悪意が、、、、集まっている、、、、」


「ど、、、どこに?」

血の気が引いていく少年。


スッと、上空、渦を巻く、分厚い曇天の空を指すリン。


「クソッ!!」

自分は、また、しくじるのかと思う。

(能力自体で、対応できんのか!)

悪寒と後悔が胸を突く。


「那智!しずくを守れ!!」

智由の隣りの那智が、振り向く。全てがイヤにスローモーションのように、遅く感じられた。

「しずくって、、、、どこに、、、?」

焦る那智。当たり前だ。しずくは、強大な、竜巻の中だ。位置など特定できるワケが無い。


学園の竜巻を中心とした、上空の渦巻く暗雲が、所々、青白く明滅する。

意図的な電位差が拡大し、絶縁の限界値を超える。


「ちくしょおおおーーーーーーーーーーー!!!」

彼は完全に、敵の能力を過小評価していた。


グアラアアアア、バリバリバリ、

四方八方から、15億ジュールを越える滝のような、落雷の雨が、学園の竜巻を焼き尽くす。

そのエネルギーは眼前の空間を膨張させ、音速を越える衝撃波が、校舎の強化ガラスを吹き飛ばしていく。


「し、、、しずく?」

炎の盾で皆を守る那智の目の前で、グランドの竜巻が、しずくが跡形もなく吹き飛ばされていた。


同時刻

とある研究所、司令室、


「ネズミが引っかかったよ。」

楽しそうに、三列のオペレーター席の後ろ、指令席でネイルを塗りながらエイダが告げる。

「ADSジャムの人工層積雲のオプション能力か?」

2列目、左端でくつろいでいた、ジノが、エイダの能力の拡大について聞く。

人工降雪雨にリンクした彼女は、天候操作能力の真似事ができるレベルに上がっていた。


「人工嵐にチョッカイかけようとしたヤツがいるね。かなりの規模だったからすぐに感知できた。消しといたけどさ。」

満足そうにネイルに息をふきかけるエイダ。


「たぶん、、、一高のしずくちゃんだろうね。ジノ、あんた、ヘタうったね。」

楽しそうに左前のジノを見つめるエイダ。

人の失敗を追求するのが、好きそうな意地の悪い目をしている。


「あの電気使い、、、、死んでなかったのか。思ったよりやるもんだな。」

彼らもしずくと紫煙の関係性を理解している。長い事アルカの調査をしていたのは、伊達ではないらしい。


「それにしても、便利な雷だな。ついでに、邪魔者を一掃してくれると、助かるんだが。」

「じょーだん。あのサトリのバケモノじゃないんだから。嵐に干渉するヤツしかわからないよ。」

彼女が言っているのは、テレパスの冬木リンの事だろう。

実際、キャンセラーがフル稼働してる、ここの施設でなければ、リンが彼らを特定する事は可能だろう。


「気に入らないな、、、、」

最前列、中央に座るあらたが、つぶやく。


単発の動きならいいが、このタイミングだ。なにか意図がある可能性がある。

「エイダ。それの場所はどこだ。」

指令席にふんぞり返っている彼女に聞く。


「え?天宮第一学園だよ。」

取るに足らない事と思っていた彼女は、彼の興味が意外だった。


「立夏、第一学園を監視しろ。動きがあったら教えてくれ。」

正面モニターに映る、円形のマシンの中央に埋もれた、イブ、いや。アンバーTYPE01に話しかける。

「了解。」

感情の欠落した声が答える。表情は大きなゴーグルで読み取れなかった。


同時刻、

天宮第一学園、東昇降口、


突然現れた、その少女の周囲には、バチバチと青白い放電がまとわりついていた。

「しん!何やってやがる!しず姉を殺す気か!」


その少女は、しずくの、姿で増悪を撒き散らす。

彼女らしからぬ物言いいに、その場の一同が困惑する。


「しずく、、、、じゃなくて、紫煙か。お前?」

白衣の少年が、なんとか事態を理解する。

カミナリに襲われたしずくが紫煙と入れ替わり、脱出して来た。と考えた方が良さそうだ。


「よかった!無事だった!しずく〜〜〜〜!」

大喜びの那智が抱きつくが、感電してひっくり返る。

「智由姉〜〜〜ビリビリする〜〜〜」

大騒ぎだ。

「あんたね〜」

もう少し考えて行動しろ。と思う智由。


「しず姉が異変を察知したんで、私に入れ替わって逃げて来たんだ。」

無思慮な炎姫様に呆れながら、説明する紫煙。見た目がしずくのままなので、違和感が凄い。

「超電導リニアか。」

つぶやく少年。

「あったり〜。」

ブイサインの紫煙。


周囲の水流に帯電して、疑似ガイドウェイにし、自身も帯電し、高速リニア駆動により脱出したのだろう。紫煙のアクセラレーションが無ければ、竜巻の防御があるにしろ、怪我の一つもしただろう。最悪も考えられた。


「紫煙、しずくと代われ。」

吹き込んでくる風雨も構わず、続ける白衣の少年。その声はひどく冷たい。

またも破壊され尽くされた、校舎の窓をバックに、少女の雰囲気がひどく心もとない、弱々しいものに変わる。


「ご、、、、ごめんなさい、、、失敗しちゃった、、、、しん、、、」

困り果てたように、弁明する少女。そのオドオドした様子はみず希しずくで間違いはない。


「お前、、、、、」

彼女は知らない。


中等部の保健室。右奥に眠る、灰色の雨の中の彼女を前にした時の、彼の絶望を。

後悔を。怒りを。恐怖を。


「お前は、、、、」


ブン殴りたい衝動をなんとか押さえつけて、続ける。

「いいか!オレらは、警察でも、自衛隊でも、正義の味方でもなんでもねーーんだ!」

それは激情からの深奥の吐露。


「奴らをぶち殺せれば、それでいーんだ!それ以外のリスクを負うな!

ハッキリ言うぞ!」

もう止まらなかった。


「オレは身内が無事なら、アルカの4分の1が沈もーが、被害がどんだけでよーが、何人くたばろーが知ったこっちゃねーーんだ!無謀な真似をすんな!このアホーが!!」

それは、不器用すぎる懇願。願い。


「この、、、考え無しが!!」

叫ぶと同時に、衝撃が来た。


バシン、

彼はしずくに平手打ちをくらっていた。

彼女は泣いているようだった。


女のビンタは、ろくな力も無いくせに、なんでこんなに痛むのだろう。尾を引くのだろう。

ボンヤリとそんな事を考えていた。


那智が、いつの間にか、しずくの前に立つ。

「あんた、、、、それ、本気で言ってんの?」


沈むうんぬんの事だろうか。殺気すら感じられる野川那智の瞳がにらむ。

どうでもよかった。


「チーセンセー。例のモン出来てる?」

相手などしてられない。

「あ、ああ、、、、できてるよ。」

意外と冷静な智由が答える。


「ギリギリセーフだな。確認したい。保健室に行こう。」

一方的に話しを終わらせ。身を翻す少年。


「ちょ、、、、ちょっと待ちなさいよ!」

激オコの那智が叫ぶ。


「20分後に出る。東昇降口に集合だ。遅れんな!」

かまわず進む。時間は限られていた。


「バカだな。あの男。」

昇降口の支柱に寄りかかり、顛末を眺めていた、し巻がつぶやく。

「青春だにゃー。」

隣のリラが嬉しそうに笑う。


「どこがだよ。アホらしい。」

つまらなそうに、行ってしまう、し巻。

「お姉さんには、ほろにが、切ないデイズにゃ〜。」

楽しそうについて行くリラ。


うす暗い下駄箱をこえて、長い廊下を行く。

隣の保険医が思い出したように言った。


「今のは、あんたが悪いよ。」

変なのは、非難めいたトーンもなく、ただの世間話のような口調だったこと。


「わかってるよ!」

怒鳴るのは、彼の甘えかもしれない。


「なら、、、いいけどね。」

彼女の影が、小さくため息したようだった。


ジャージャー、

と水が流れていく。

やたら、設備の整った学園の女子トイレは、壁面一杯のガラス張り、後ろにピンクのドアが並び、白を基調とし、入り口付近は緑のタイルで、落ち着いた雰囲気、高級感、清潔感満載だ。

鏡に映る、自分がひどく見すぼらしく見える。

いくら、洗っても、彼を叩いた感触が消えずに、手の中に残り、こびりついている。

訳もわからずに、洗い続けるしずく。


(落ちない、、、、)

鏡の自分がまた、泣いているようだ。

なにが悲しいのか、悔しいのか、後悔しているのかわからなかった。


「どうしたにゃ?」

人がいることさえ気が付かなかった。


となりに、フワフワロングヘアの和久井リラがいた。

彼女はしずくより、少し背が高い。


「あれこれ悩む必要は無いにゃ。あれは、誰がどー見てもしんが悪いにゃ。」


怖い人だと思っていたのだが、物言いはとても、やさしかった。

「リラ先輩、、、、」

つぶやくしずく。


彼女はとても自然に、となりで手を洗っている。

「でも、、、君を心配しての事なのも、本当にゃ。」


センサーの水流が止まる。

ネコのイラストが散りばめられたハンカチで手を拭いている。


「はい、、、、」

なんとか、答えることができた。


「だったら、謝ってあげなきゃにゃ。」

嬉しそうに言う。

「手をあげたのは、仕方にゃくても、このまま気まずいのもイヤにゃにゃ?」

彼女の好意が真っ直ぐに伝わってくる。


「そう、、、、ですね。」

不思議と心が落ち着いていた。

「はい、、、、、ありがとうございます。リラ先輩。」


ニコニコしながら、手を振って、行ってしまうリラ。

もっと話してみたかった。と思いひとり残るしずく。


女子トイレを出てみると、し巻がそばの壁に腕を組んで寄りかかっている。


「お節介なヤツ、、、、今どき流行らねーぞ。」

本当につまらなそうに言う。


「なれっこにゃ。八重ほど、こじらせてにゃいもの、あの子。」

口をへの字に曲げる彼女の顔は見ものだった。


「なんだそりゃ!」

「フフ、素直な、いい子じゃにゃい。」

ホント、見習ってほしいものだ。


「フン!行くぞ!」

不機嫌にきびすを返す、黄色いツインテール。

その後を楽しそうについていく、ブラウンのフワフワロングヘアー。


柱にこすりそうになりながら、10人乗りの国産バンの向きを変える智由。

「準備はいいかい。そろそろ行くよ!」

偉そうな、このペーパードライバーにしか、運転が任せられないのは、とても怖い。


「さい先、不安な事だなぁ。」

ブツブツとナビシートに向かう白衣の少年。

「なんか言った?」

耳ざとい智由が怒鳴る。

「サーセン!チーセンセー!」

平謝りする少年の後ろから、小さな声がかかる。


「し、、、、しん、、、、」

うつむくしずくがいる。その後ろに、いまだ、激オコの那智と、し巻たちがいた。

「どーした。しずく。」

彼女から話しかけてくるとは、思っていなかった白衣の少年。


「ごめんなさい!叩いちゃって、、、、、」

ペコリと頭を下げる。

「ま、、、、、?」

なんでか、後ろの那智がビックリして、アングリと口を開け変な声を上げている。

「へぇ、、、」

ニマニマしている、智由。


「全部じゃ無いけど、、、叩いたことは謝っておきます。」

なんとも、中途半端な謝罪である。

「ふへぇ〜〜〜。まあいーや。」

正直、妥協でもなんでもコミニュケーション取ってくれただけでもみっけもんだろうう。と思う少年。

「いーかしずく!我がギョーカイに、右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せ。とゆーのがある!」

聖書か何かだろうかと、思う智由。

「どちらも、ご褒美だ、と言う事だ!ウハハハハハーーーーーー!バッチ来いだ!」

大笑いしている、白衣の少年。


違った、、、、変態の常套句だった。

「あんた、、、、そのうちバチがあたるよ。」

ため息する、智由。

「どんな、ギョーカイだ!」

憤慨する那智。

ニコニコしているリラ。


「まっ、いーか!」

何がいいのか知らないが、ひとり納得している那智。

「しずくがそーゆーなら、一時保留にしておいてあげる!」


「、、、、、」

なんでもいいが、とりあえず、被害は無さそうなので、ほっとこうと思う、しん。


「それじゃあ、、、、リン!」

なんでか偉そうにリンに右手を差し出す。


無表情に、ポケットから、緑のタバを渡すリン。

「し巻先輩!リラ先輩!」

そのうち、二つを彼女達に投げる那智。


「やっぱ、コレがなきゃはじまらないっしょ!」

自分の分の、緑の風紀の腕章をつける、少女。彼女のそれは、変態エセ神父に吹き飛ばされて無くなっていた。


「フン、、、、」

受け取ったそれを、ほんの少し見つめる、し巻

「いーのか那智。コレをつけたらハンパはねーぞ。」

凄みのある笑みを浮かべて、装着する。

「もちのろんす!」


彼女達が着替えの前に、風紀委員室に行って取って来たのは、コレだった。


揺るがない誇りと矜持の象徴。風紀委員達はこれをもって、諸悪と対峙し一歩も引く事はしない。魂の在りかとする。


「ありがとーにゃ。なっちゃん。」

本当に嬉しそうに微笑むリラ。

「ウス!」

やっぱり、二人には腕章がよく似合うと思う那智。風を切って先頭を進む彼女達は彼女の憧憬だった。その輝きはやはり、薄れる事はなく燦然と光、放つ。


ここに、天宮第一学園、鬼の風紀委員長と副委員長が完全復活する。


「さあ、行こうか。テロのクソ野郎共、一人残らずせん滅する。」

凶悪に笑うし巻。


「ほれ、バイバイ〜〜って。」

「ミ〜〜〜〜〜。」

イヤそうに茶髪メガネ、友樹に抱かれる、子猫のアルの手を振って一同を見送る、ひとり残る悪友。

友樹は、子ネコと一緒にお留守番だ。


嵐の中を滑り出す、グランOース。

ターミナルタワー襲撃から始まったアルカ全土を巻き込む広域テロ。

その最終局面が始まろうとしていた。

また、来週。

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