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能力アフター  作者: 佐藤同じ
42/55

能力アフター05話05

投稿します。

同時刻、

天宮第一学園、中等部、1階、保健室、

そこは、人のうめき声と、嗚咽が途切れぬ、混乱した野戦病院のようだった。

廊下にまであふれた、簡易組み立てベッドに中学生達が、寝かされ治療を受けている。

軽傷者11人、重傷者6人、内、意識不明4人、


「ひでぇ、、、、、」

息を呑む友樹。クラスの半数以上がケガをしている。何をどうしたらこんな事になるのか、頭がグラグラする。怒りなのか、悲しみなのか、もうわからなかった。

先を行く、白衣の少年は、恐ろしく静かだった。


「おう、山下。」

白衣を着たブルージュのロングヘアの大女が彼を見つける。

廊下で女生徒の腕の包帯を替えている。


高校からアルカに来た、自分とは違い、山下しんは中2から、この学園に通っている。

知り合いの教師もいるらしい。

保健委員、教師達も必死で治療をしている。


他の生徒達は中等部の地下多目的ホールに集められている。

今頃、高等部の生徒達も、理由もわからずむこうの、地下多目的ホールに避難しているだろう。


「救急は?」

ポツリと聞く、白衣の少年。

「緊急のルートで、呼んでる。ただ、どこも酷く混乱してるらしい。遅れてるよ。」

口惜しそうにうめく校医。

この街の混乱は、かなりの規模らしい。

「おい!」

大女の保険医を無視して、室内に向かう少年。


室内はさらに混迷を極めている。所狭しと並べられた簡易ベッドで生徒達がうめき声、泣き声を上げている。


ドン、

白衣の少年の脇にわずかな衝撃が走る。

しゃくり上げている、天地が抱きついていた

彼女は彼を嫌いだ。普通ならこんな事はしないだろう。

「怖かったな。」

頭を撫でている、少年。

「よくがんばった。」

それでも、彼は進む。確認しなければならない事がある。


その彼の袖をつかむ手がある。

「ごめん、、、なさい、、、、山下くん、、、」

サイドテールの小柄な国語教諭の大西先生だ。

左腕は固定され、左肩、胸部にかけて、包帯が何重にも巻かれている。

「わた、、、しは、、、イブちゃんも、、、紫煙ちゃんも、、、助けられなかった、、、なにも、、、、」

友樹からは、しんの表情は見えない。やはり彼は静かだった。


「大西たえ先生。泣かないでくれ。」

その右手に自分の左手をそえる。

「あんたに責任はない。全部マヌケなオレのせいだ。」


天地に先生の手を渡す。

「天地。先生についていてあげてくれ。頼む。」

「う、うん!」

必死に先生の付き添いを引き受ける天地。


あぜんとしている、大西。

彼女は転校から、卒業まで、大西ちゃんだの、たえちゃんだの、この問題生徒から先生と呼ばれた事は一度も無かった。

距離ができたとか他人行儀とかそんなものではない。それは、とても温かい謝罪とぬくもりが伝わることばだった。


「行って、、、、あげて、、、、」

彼女が、奥のベッドを指さす。


無理やり14台のベッドを詰め込んだ、保健室の右奥、その奥のベッドだけ、カーテンが囲むように張られている。


喧騒の中、ゆっくりそこに進む白衣の少年。

静かにカーテンに手を伸ばし、開けていく。


灰色の窓に打ちつける、雨。

その中で静かに眠る少女。


それは、みず希紫煙のようにも見えるし、

みず希しずくのようにも見える。


また、誰でもない少女の様にも見えた。


「、、、、、、!」

絶句する友樹。白衣の肩越しに眠る彼女が見える。自分がどんな表情をしているかわからなかった。固まったまま声も出ない。


ジワリと眼前の白衣の少年が、別の何かに変貌して行くのを感じる。それは恐ろしく静かで深い奈落の闇の静けさだった。


「一応止血はしたが、もう手の打ちようが無い。」

いつの間にかさっきの、大女の保険医が女生徒の治療を終えて、隣に立っていた。


「いま生きてるのが、不思議なくらいだ。後どれくらいもつか、、、」

カッとする友樹。

何言ってる!無責任だ!なんとかしてくれと思う。

が、奇妙な事を目の前の少年がつぶやく。


「運が良かったな。」


まぎれもなく、山下しんが、だ。


「な、、、、に、、、、」

ついに、気がふれたと思う。怒りより恐怖が襲う。無理もないかもしれない。彼の思う以上に彼女、みず希しずくは彼にとって近しい存在だ。おかしくなっても不思議はないと思う。


「なんて顔してんだ。友樹。」

面白くなさそうに振り向く山下しん。


「撃たれたのが、紫煙の時でよかったって話だ。能力による肉体強化で、致命傷をなんとか防いでいる。しずくは、身体強化系はからっきしだからな。こうはいかなかったはずだ。」


アングリ口を開ける友樹。いつもの軽い少年に戻っている。


そこに、息せき切って男の先生が駆け込んで来る。

「先生!救急隊が来ました!」

それでも、遅すぎる。

「わかった!すぐにみんなの搬送を!」

叫ぶ校医。

仕方がない事だが重傷者を優先させていく。


「山下、、、、彼女も早く、、、、お前も付き添うか?」

校医の言外の思いが伝わる。

この人はグリーフケアまで、できるらしい。


「頼みがある。白神先生。紫煙を高等部の智由先生の保健室に運んでくれ。」

ブルージュのロングヘアの彼女に告げる少年。

彼はまだ、あきらめてはいない。


「あいつのラボか?」

怪訝な顔をする白神。

この校医もあそこが、まともな保健室では無いのを理解している

「確か、、、今不在だろ。あいつ。」

そうは言うがわずかな、希望の光が表情に灯る。


「セキュリティーはなんとかする。急いでくれ。」

自信満々に請け負うしん。

「あ、、、ああ!わかった!」


そう、東アルカ最高峰のチート級、医療治療施設は、そこにある。


そこからは早かった。舞台は高等部、保健室に移る。


同時刻、

ターミナルタワー、1階、エレベーターホール、


「ど、、、っちくしょおおおめえええええーーーーーーーーーーーーーっっ!!」

激情が、一気に知覚の覚醒を呼び起こす。


朧 理世は、ばね仕掛けの人形のように瞬時に跳ね起きていた。

「お、、、おお?」

キョロキョロとあわてて、左右を見渡す。


広いエレベーターホールに、生徒達が倒れている。巨大なエレベーターのドアが破壊され、大穴を開けている。

後ろを見ると、呑気に詩吟も眠っている。


「起きろおおおおーーーーーーー!!このアマーーーーー!!」

胸ぐらを掴んで引きずり起こしバシバシとビンタを食らわす。

「う、、、うう、、、」

眉間にシワを寄せてうめく、美女。


だんだん楽しくなってくる、朧。いつも偉そーに、指図するこの女を張り倒す機会は中々に無い。

「起きろおおおおおーーーーーーーー!!」

バシバシバシ、バシバシバシ、

とりあえず、後が怖いのだが、だんだん乗ってくる。


チーーン、

とエレベーターが上がってくる。

ガリガリと破壊されたドアの破片が引っかかり異音を立てている。


「な、、、何やってるんですか!朧さん!」

アルファチームのオペレーター、オレンジ団子頭の設楽 郁恵が悲鳴を上げる。


「あ?こいつ、起こしてんだよ!」

とくに悪びれもなくシャアシャアと言ってのける朧。

「うう、、、、」

ほっぺを真っ赤に腫らしてグッタリしている詩吟。


ワラワラと武装警備部隊も降りてくる。

生徒達にも意識を取り戻す者も現れ始めた。


「みんなを、地下シェルターの医療室に運んでくださーい!」

イオタチームの高坂ヒロミも上がってきたらしい。


「郁恵ちゃ〜〜ん。ほっぺが痛いの〜〜〜。私、重症かも〜〜〜。」

詩吟に肩をかす郁恵が途方にくれる。

向こうで朧が、実に楽しそうに笑っている。

あとで、つげ口しようと思った。


ドカン、

大理石のロビーが大穴を開ける。

「お嬢さま、、、、、!!」

葵が意識を取り戻したらしい。素手で床を抉っている。


「お、落ちつてください!葵さん、、、ですね?」

アワアワと声をかけるヒロミ。


「瀬里奈さんは敵に連れ去られ、現在行方を探っています。那智さんと智由さんリンさんも現在行方不明です。」

復旧を急いでいるが、タワーのセキュリティーの大半がダウンされていた。しばらくは目隠しされた状態だ。


「すみません、、、地下情報センターに入れてもらえますか。なんとしてもお嬢さまの行方をつかまないと、、、」

「ハイ。わかりました!」

大した自制心と言える。あっという間に平常を取り戻している。耐える美男子はとても尊い。思わずときめいてしまうヒロミ。


「オイ!郁恵!情報をよこせ!」

こっちは本能のおもむくままの狂犬だ。

「オレは防衛に回るぞ!奴ら全員ぶち殺してやる!」

目を爛々と輝かせる朧。こうなったら、誰にも止められない。


「ハイハイ。現在南口が押され気味です。そちらの加勢に向かってください。」

苦笑しながら、郁恵。


「ヒロミさん。私たちのサポートもお願いできますか?」

向こうで二高のポニテの長身の女の子が聞いている。

戸惑っているヒロミ。いくら、風紀委員と言っても危険なのは変わりがない。


「いや、逃げ遅れた人たちの避難誘導に回りたいんだ。」

彼女の懸念を読み取って微笑む日向まこ。


「ハ、ハイ!それならお願いします!」

ペコリと頭を下げるヒロミ。

彼女も確か高位能力者のはずだ。Aクラスでもマトモな人はいるんだと、これはこれでカッコイイとまた、ときめいてしまうヒロミ。


それぞれの思いを抱え散っていく一同。

事態はゆっくりと推移していく。


同時刻、

ターミナルタワー、北口攻防戦、


「オーーーーーホッホッホッ!」

車線の向こうに、赤髪の女生徒が、高笑いしている。


バシン、とライフルのバッテリーを装填する黒髪ロングの目つきの悪い戸畑。

「あのバカ女、、、、、殺す。」

「わあああ!!待った!待った!戸畑ちゃん!あれは味方!風紀の子を撃ったらダメだって!」

茶髪のチャラ男が必死に止める。

「だって、、、邪魔、、、、」

するどい眼光がウルウルしだす。


「それに、、、私の安西を吹き飛ばした!」

恋する乙女が炸裂する。

いや、どーでもいーよ!と思うチャラ男。


なんでも以前、あのオッサンに助けられた彼女が秘かに思いを寄せるようになったそうだ。

しかし、その熱い視線も、生来の眼光の鋭さから、ガン付けられてようにしか思われず、あのにぶいオッサンは彼女に怯え続け、気持ちは伝わらず、想いはこんがらがって、コジレまくっている。

エコーチーム、最大の懸案事項と言える。


「ドウドウ!大丈夫だから!ほら!オッサンも出てきたし!」

なんとかなだめる、竹本。


ボヨヨンと植林地帯から飛び出してくる、メタボ安西。


「仕方ありませんね。あの二人を援護しましょう。」

妻帯者の斉藤が余裕で、メガネを直す。

「あの少女の火力もうまく使えば役に立つでしょう。」

防水コートされたメガネはこの雨の中でも余裕の輝きを放つ。


「うっさいよ。メガネ!なんとかしろよ!あの二人!」

もちろん、安西と戸畑の事だ。

不機嫌に援護射撃を始めるチャラ男。

「イヤですよ。そんなの全然、面白くないじゃないですか!」

冷笑する、斉藤。一見、優しそうに見えて実はチーム1の外道である。


ガシャ、ガチャン、


「な、、、なに?」

悲鳴をあげる黒髪ロングの戸畑。


ここで思いもよらない事態が起きる。

後方、地下駐車場から飛び出して来た3台の黒いバンが、バリケードをこじ開けて、

敵味方入り乱れる、ハイウェイに突入していく。


「撃ってください!敵です!」

さすが、防水遮光コートのメガネ。ほぼ、黒い目隠しをされた、バンに敵の武装兵隊を確認したらしい。


「なめやがって!逃すか!!」

チャラ男と黒髪ロングが一斉射撃を始める。


ドン、

イヤな音と共に中央のバンから赤い炎が生まれる。

それは、彼らの攻撃を飲み込みすぐに眼前に迫る。

「プラズマフィールド!!」

メガネ斉藤の必死の防御シールドだが、


「え、、、、?」

悲痛に歪むメガネ。巨大な炎は何事も無かったようにすり抜ける。

あらたの、幻影弾、不知火だ。

そのカゲロウのような炎はユラユラと実存と虚無を繰り返し、死を運ぶ。


グワアアアアアアゴオオオオオッ、


「な、、、なに?みんな!?」

あぜんと立ち尽くすメタボ安西。彼の仲間が赤い炎に呑み込まれてしまった。

、かに見えたが、しかしその寸前、


「ファイアーーー メイルシュトローーーーム!」

ゴオオオオオアアアアアアッ


凄まじい炎の竜巻が赤き炎を打ち破る。


いっ時の嵐の空白が訪れる。その空白の空から舞い降りる少女。


緑の三高の制服。同じく緑の風紀の腕章。ミディアムのハーフアップの黒い濡れたような、セミロング。

三高、風紀委員、小柄な一年の落ち着いた美人さん、影の苦労人、Bクラス炎熱使い、伊勢理しょう子である。

「大丈夫ですか?みなさん。」

優しく笑う少女。


「て、、、、天使だ、、、、、結婚したい、、、、」

斉藤がつぶやく。

「あ?」

嫁持ちが、なにを血迷ってやがる。このチームはホント変人ばっかだ、と思う茶髪、竹本。


実際はギリギリだったのだ。ほんの気まぐれで放ったあらたの炎が、最大出力のしょう子の炎にかろうじて、打ち消せただけだった。

「ふう、、、」

ため息する少女。


向こうの方で高笑いする王城たまき。

「オーーーホッホッ!遅いですわよ!しょう子!何を遊んでたんですの!職務怠慢ですわ!」

うつむくしょう子。怒りがフツフツと込み上げてくる。

彼女は、フイと居なくなった、たまきを探して、探して、探し回ってやっとの事で見つけた所だった。

まさか、ホントに、こんなトコでこんな無茶を、、、、、


「バカアアアアアアアアーーーーーーーー!!戻って来なさい!!

みなさんの迷惑でしょおおおーーーーーーーーーーー!!」

鬼の形相でブチ切れる。


「わ、、、私の天使が、、、、」

絶望するメガネ斉藤。


「ウフフフフフ。そうも言ってられないみたいですわ。」

不敵に笑うたまき。


グオオオオッ、

二足歩行の巨人の影、

逃げていく3台のバンに変わって、見たこともない巨大な影が2つ、嵐の中に現れる。


敵の切り札だろう。攻撃が止んでいたのは、あのバンを誤射しないように、と同時にこれの到着を待っていたわけだ。


「オーーーホッホッホッ!太った制定部隊の人!第二ラウンド開始ですわ!」

哄笑するたまき。

ゴクリと息を呑むメタボ安西。


彼女の無知が羨ましかった。

パワードタンクローダー。M10エイブラハム。巨大メカの正体を知る彼は死を予感していた。こんなもの、能力者が何人いようとどうにかなるものではない。


万に1の勝機をかけた、決死の2回戦目が始まる。


同時刻、

天宮第一学園、高等部、1階、保健室、 


彼女は昔の夢を見ていた。

小さな公園で遊ぶ、二人の子供。男の子が自信満々で言う。

「違うよ!八重ちゃんは、お姉ちゃんより、いい感じだよ!」

「違う、、、?ど、どこが?」

女の子はドギマギしながら、それでも期待を込めて聞く。


「だって、ツインテールだもん!」

どうやら、その頃その少年は、ツインテールフェチだったらしい。

あまりに、表面的で、幼稚なその答えに、絶望したのを覚えている。


「かっこいいよ!八重ちゃん!」

男の子はとても幸せそうに、親指を立てる。

その少年は、なぜかダボダボの白衣を着た、、、、、、


「、、、、、、、、!!」

黄色いツインテールの、し巻八重は、絶叫しそうになりながら、目を覚ました。

あまりに、おぞましい、自分でも忘れていた記憶だ。

「起きたにゃー八重。」

隣のベッドで雑誌を読んでいる和久井リラがのんびり声をかけてくる。


二人は結局、補習をふけて、妙に豪華な高等部の保健室でサボっていた所だった。


『校内に残っている生徒は、すみやかに、地下多目的ホールに移動してください。繰り返します、、、、』

校内放送が繰り返す。

「うっせーなあ。なんの騒ぎだよ。」

寝汗がまとわりついて気持ち悪い。最悪な気分だ。


「何かにゃー。避難訓練じゃないかにゃー。ん〜〜?携帯鳴ってるよ。八重。」

「なんだ、、、、?」

見てみると、風紀の非常呼び出しだ。それは緊急のラインで、他がパンクしても繋がる、滅多に使われる回線ではなかった。

出てみると、泣きそうな後輩、風紀委員の声がする。


「、、、、、、、?」

リラが何かと見物していると、し巻は、だんだんと、悪そうな満面の笑顔になっていく。

そして、楽しそうに携帯をしまう。

「どうしたにゃ?八重??」

さすがに、上体を起こして聞く、リラ。


「アハ!アハハハハハ!ターミナルタワーでテロだ!あのアバズレ瀬里奈がさらわれたってさ!いーーーーきみだ!アハハハハハ!」

立ち上がり、大笑いしている相棒。

「あにゃまあ。」

とても、風紀委員長とは思えない発言だ。まあ、今は干されているのだが。

「それで?どうするにゃ?八重。」

上履きを履くリラ。

「知るかよ!どーにでもな、、、、」


バタン、

ガチャガチャ、

それは、雨風が吹き込むように部屋に現れる。

防水シートがかけられた、ストレッチャー。白衣の大女と、学生が二人、みんなずぶ濡れだ。

「なんだ?」

立ちつくすし巻。

「なんだじゃねー!し巻!リラ!サボりか!いいからお前らも手伝え!」

怒鳴る大女、

バサ、

シートを剥がす。そこには、全く血色の無い、真っ白の顔色の少女が寝ていた。

「、、、、しずく、、、か?」

息を呑むし巻。生命が今にも消えそうなその面影に、一年のオドオドした少女の影が重なる。


そばの白衣の学生は、風のように隣室につながる、ドアの前に置かれた端末に向かう。

「、、、、、、、、、!」

歯軋りしながらの数秒。

いとも簡単にドアのロックが外れる。

「よし!カプセルに入れるぞ!!」

白神はるみが叫ぶ。


隣室は数世紀進んだ、未来のラボラトリーのようだった。

青い光で満たされ、中央のカプセルを中心にセンサー、計測器具が明滅する。


細胞活性剤液が治療カプセルを満たし、患者のバイタルが表示されていく。

何百もの医療用ナノデバイスが、投入され、治療部位への同時処置が始まる。


白神も、考えない訳では無かった。ここの設備ならあるいはと。しかし例えこの部屋をこじ開けたとしても、この部屋の主人の許可がなければ、どんなハイテクも意味はなさないのだ。

それが今、全てが完全に彼女、白神にイニシャライズされ、逐一AIの助言とサポートを可能としてくれている。

ハッキングとか生やさしい話ではない。アダムのセキュリティーを根底から覆さなければ、こんな奇跡は起こらない。彼女は、あらためて、山下しんという少年に戦慄していた。

しかし、それで一人の少女が死の淵から舞い戻るなら、すべて瑣末な事だろう。


医療用カプセルをサーチしていた活性リングが上下動を止める。

「血圧、脈拍、呼吸速度、体温、みな正常値、、、だ。」

思わず視界がゆがむ。

「処置は成功した!もう大丈夫だ!」


人間は簡単に死ぬ。少しでも医療に携わったものなら、その抗えぬ定めに無力感に何度も打ちのめされるだろう。だからこの繋ぎ止められた若い命がいかに尊いものなのか、いかに大切なものか、彼女は知っている。理解している。

だから、泣いている場合じゃない。

「ありがとう。しん。みんな。」

目頭を押さえてなんとか笑ってみせる。


向こうの壁際でズルズルと座り込む、白衣の少年。

「おおおお〜〜〜〜おおおお〜〜〜!」

それにくっ付いてオンオン泣き出す茶髪メガネ


泣くなバカ。

もうぐちゃぐちゃだと思う白神。

どちらにしろ、まぁいいか。雨で化粧も流れてしまったから。



嵐は衰える事なく、窓を叩き続ける。

乱暴にカーテンを閉めるし巻。

「鬱陶しいねぇ、、、、」

保健室にて、し巻たちと少年たち、


「なるほどね。ついにやりやがったか。あのヤクザ生徒会長。」

タオルで頭を拭きながら吐き捨てるしん。


白神先生には中等部に戻ってもらい、向こうの事を任す。

そして、彼らは紫煙の事、イブの事、ターミナルタワーの事、など情報の交換をしていた。

紫煙は医療カプセルで、細胞活性化処置を進める。すぐ動けるというものではない。


「なに?何か知ってたのか?お前。」

にらむし巻。

「あんたら何も気付かなかったのか?異常だったぞ、あんなのが、生徒会ゴッコの中に混じってるなんてよ。」

心底呆れたように、白衣の少年。 

「うぐ、、、、」

いいよどむ、し巻。確かに不知火あらたには、不気味なものを感じてはいたのだ。今となってはあとの祭りだが。


「うにゃにゃにゃにゃ。」

フワフワのブラウンのウエーブロングヘアの和久井リラが二人の間に入る。

「それで、君はこれからどうするつもりかにゃ?」

なぜかとても、楽しそうだ。


友樹が悪寒を覚える。室温が数度下がったようだった。


「奴ら全員、1人残らず鼻から脳髄引きずり出して、ブチ殺してやる。」

タオルの下から人外の目が、爛々と輝く。


彼が許す訳が無い。もっとも身近なあの少女を傷つけた者たちを。

もっとも大切なイブをさらった者たちを。

ひとり残らず殺して、殺して、殺し尽くしても収まらない。それは、そんな言葉だった。


「にゃはははは。だってよ八重。」

イキル少年を全く意に介さず明るく笑うリラ。


「フン。まぁいいさ。その前に情報収集だ。いいとこに案内してやるよ。山下。」

彼女が、彼を誘ったのは、ほんの気まぐれだった。


風紀に上がって来る情報に、山下しんの異常なサーチ能力はあった。

何かに使えると思ったに過ぎない。

自分の深層心理など気付くものではない。


「ついて来な。」

ライトイエローのツインテールが、きびすをかえす。


同時刻、

ターミナルタワー、地下3階、ガス消火施設、

「どーーーーしよーーーー!ぜんぜん繋がらないよおーーーー!」

大騒ぎしている那智。


風紀の先輩たちに連絡しているが、誰とも繋がらないらしい。

「非常回線も使ってるんだよ!ど〜して〜〜!」

「落ち着け。那智。単純にみんな忙しくてそれどころじゃないんじゃない。」

と言いつつ、智由は、彼女にも、緊急時の連絡ルートを持つ友人があるのを思い出していた。


試しに電話してみる。

呼び出し音が、この回線が生きているのを教える。


『ち〜ゆ〜〜!ど〜したの〜〜?そっち、大丈夫〜〜〜?』

すごい雨風の音と共に、間延びした懐かしい声が聞こえる。

「牧!無事ね!そっちはどう?何か情報ある?」


暴風雨の中、怪我人の搬送は、ほぼ終了していた。

広域レスキュー車に乗り込みながら、牧は次の目的地に向かう。カッパのままだから車内は水浸しだ。

「ゲートブリッジ〜関東自動車道〜アクアライン〜アルカ全部の橋が軒並み落とされてるよ〜〜」

『何、、、、それ、、、、』

絶句する智由。被害は想像を絶するだろう。


「今ここは、陸の孤島だよ〜〜。テロの目的はサッパリ分からないけど〜〜シェルターから出ないで〜〜。何が起こるか分からないよ〜〜!」

『わかった!牧も気をつけてね!』

心配そうな、電話が切れる。


「出して〜〜!」

叫ぶ牧。

この風雨の中では、救出活動は、困難を極めるだろう。2次災害もありうる。さらなる彼女達、特殊四課のギリギリのレスキューは、続く。


「橋を落とす、、、、、」

それにどんな意味があるか、全く理解できない智由だった。

テロの目的は、ここターミナルタワーではないのだろうか。

考え込む智由をしりめに、那智は限界を迎えていた。


「リン!みんなの居場所を教えて!」

「ちょっと那智!」

焦る智由、

「みんなと合流する!それならいいでしょ!智由姉!!」

心配で居ても立っても居られなそうだ。


もう仕方ないかもしれない。

「リン、、、。お願い。」

折れる智由。

わずかに頷く、プラチナショートの少女。

「北口が、、、、危ない、、、、」

ポツリとつぶやく。

多少、能力キャンセラーが、残っていようと、本気のリンのサーチは、それらを問題にしない。


次の瞬間、リンと智由は、那智の両脇に抱えられている。高速移動にうつる気だろう。

「ま、待ちなさい!那智!」

こいつの本気の速度で、締め付けられると、胃の内容物を吐き出す事になりかねない。


「智由姉、、、重くなった?」

いらん事を言い出す妹。

「う、うるさい!リン!早く案内して!!」

もう、ヤケである。

リンのナビゲーションによる、地獄のジェットコースターが始まる。


同時刻、

東アルカ南方、外縁部、上空、


豪雨の中、自衛隊の哨戒ヘリ、SHー60Kシーホークがアルカに接近していた。

『こちらシーホーク。ホークアイ送れ。』


そのさらに上空に、背中に巨大な円形のレーダードームを持つ早期警戒機Eー2Cが飛ぶ。

『こちら、ホークアイ。

高度250 。バイスター経由でエンジェル11へ向かえ。その後、チャンネルZでダイレクト交信せよ。距離200で暴風域に入る。』


前方に雲の中にかすむ、はるか、遠方のはずの巨大なターミナルタワーの影が見える。

それを、いや、アルカ全域を包むような、異様な嵐の渦を巻く分厚い層積雲の中へ、向かう2機。

その姿は、風に舞う木の葉のように、とても小さく見える。


同時刻、

ターミナルタワー、地下10階、地下情報センター、


室内は、50名以上が詰めるオペレーションルームになっていた。

全面に、巨大な五面のモニターがあり、半円形に、オペレーター達が配置され、三列の中央奥が指令台になる。

椎名 葵を案内してくれた、二人の女の子は、階段を降り2列目の自席に戻り、ヘッドマイクを付け、それぞれの制定部隊のオペレーションに戻る。


「すみません!ハドリアさま!お嬢さまが、、、、!」

中央のハドリアの元へ向かう葵。

ハドリアは、片手で彼を制する。

「今はいい。」

葵に責任はない。

「祭。頼む。」

彼の小柄な美人秘書が、彼を案内する。

三列目の数人が、瀬里奈捜索の担当をしてくれているそうだ。


そうしている間にも、全方五面のモニターに、次々と、タワーの戦況、アルカ全域の状況の情報が入る。

関東自動車道、臨海線、モノレール、館山道、アルカを結ぶ八つのルート全てが瓦解している。

「まさか、、、、」

彼は初めてこのテロの広範囲にわたる被害を知る。


「アダム!陸自の動きは?」

日本における、アダムの初仕事が、テロ対策とは、と苦々しく思いながらハドリアが聞く。


指令台の4つのモニターのひとつが、ミケランジェロのアダム像やら、日本のアニメの葉っぱ一枚のアダム象を現しながら、答える。

天空の叡智の奇妙なユーモアらしい。


「陸自の中央即応集団隷下の、中央特殊武器防護隊が出動準備にかかっています。現在先行して、横須賀から、ホークアイ及びシーホークがアルカの哨戒任務に着いています。」

テロによる情報妨害の中、正確な情報を伝えるアダム。


学術都市の意味合いの強い、東アルカに、軍施設は、存在しない。

制定部隊というハドリアの私設部隊はあるが、ここまでの広域テロは、手に余るようだ。

「裏目にでたか、、、」

つぶやくハドリア。


「しかしハドリア、すぐ退避勧告を推奨します。」

天空の叡智が、変なこと事を付け加える。


「なぜだ?アダム。」

イヤな予感を感じながら聞くハドリア。

「タワー上層部センサーが、ついさっき層積雲の内部に確認されていた、ナノマシンの分析を終了させました。」

人工嵐、これも、テログループの仕業であるらしい。

悪寒が強くなる。


「ADSジャムです。」

アダムが信じられない真実を告げる。


「バカな、、、、!」

硬直するハドリア。

「すぐに全チャンネルで退避勧告を!急げ‼︎」

指令台のモニターが、アルカ南外縁部のライブモニターの画像を映し出す。


そこには、嵐の中、失速する哨戒ヘリが見えた。

ハドリアのヘッドセットには、その上空のEー2Cの通信が、途切れ途切れに聞こえる。


『メーデー!メーデー!メーデー!こちらホークアイ021、、、!位置は北緯35度25分、東経139、、、、、!機体、計器類に異常、、、、、!墜落の可能性大!、、、、、』


ザーーー、


それを最後に、通信を途絶する2機。最後まで市街地への墜落を避ける事に尽力、海上への移動を成功。その後消息を断つ。


「クソ、、、、、ッ!!」

指令台を殴り付けるハドリア。


ADSジャムというのは、

電磁波指向性エネルギーを持つナノマシンを広域散布させ、兵器類、精密機器を破壊する兵器だ。

しかし必要単位密度が、非常に高く、空気中に、散布した場合、拡散、分離して兵器としての利用は、不可能、実用を断念されていたはずである。


「なぜだ、、、、、!」

存在するはずのない兵器が犠牲者を出す。理不尽に憤るハドリア。

感情の感じられないアダムの声が答える。


「おそらくテロリストたちは、ジャムを人工の層積雲に対流、遅滞させる事で必要密度を確保しそれでアルカ上空を覆い封鎖するつもりでしょう。」


「ハドリアさま、、、、?」

いつのまにか戻っている、彼の小柄な美人秘書が、心配そうに隣に立つ。


「やられた、、、制空権を奪われた、、、、」


うめくハドリア。陸路も塞がれ、嵐の海だ。海路もほぼ封じられたようなものだろう。

人口1千万をこえるメガフロートシティが封鎖されたのだ。


「東アルカは、現在、完全に孤立している、、、、」


なすすべもなく、テログループの予定通りに進行していく事態。

そうそうに、彼らの目的を見つけて手を打たねば、取り返しのつかない事になるだろう。


「祭くん。アルカ都議会、関係省庁に、緊急事態宣言の要請を。」

「わかりました。」

素早く動き出す、小柄な美人秘書。

「周辺住民のタワーからの避難を。しかし、アルカから出ることは、避けるよう。」

当然だろう。陸路は、断たれている。

「広域避難所への避難を優先。各シェルターへの誘導を。」

指示を出しながら、忙しく考えるハドリア。


「奴らの目的はなんだ、、、、」

つぶやくハドリア。


暗雲、立ち込める事態にまだ、光明は見えなかった。


また来週。

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