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能力アフター  作者: 佐藤同じ
38/55

能力アフター05話01

ターミナルタワー編

開始ですー。

6月30日深夜、スプロール スラム

アルカ工場区の地下に点在する開発が止まった、忘れられた土地、犯罪者、不法入国者の巣になっていたスラムである。


バキバキ、

メキャ、


四足歩行のカニのような、重機たちが、地下の目抜き通りの貧民街を次々と破壊していく。


パワーシャベルが、建物を崩し、ホイールローダーが残骸を運び出し、モータグレーダが、地表を削り出し、路盤材料を敷きながら地面を平らに整地していく。


思い出したように、とられる、行政の治安、綱紀粛正、強制執行である。

一般市民達への一応のポーズであるのは明白で、点在するスラムを掃除しく尽くすには、予算も労力も政治的パフォーマンスの意味も、誰も何も価値を見い出さないだろう。


しかし、スラムといえど、一つの街が消えていくのは、確かな事だった。

四六時中、工場の廃液がどこからともなく、有害な雨を降らす、鉄とサビに囲まれた空のない街。

住民達は、とうに逃げ出したか、当局に連行されたかだろう。


その雨の中、立ち尽くす、幽鬼のような影があった。

クセ毛を乱暴に後ろで止めた、長身の男。死んだような、濁った瞳が口を覆うスカーフの上で街を見つめる。

不知火あらた、ここで生涯の大半を過ごした青年である。


街の外れにある、アルマの酒場、ブルーラグーンの看板が、油圧シャベルに粉々に引き裂かれていく。

崩れた店内のカウンターもテーブルも次々と重機に踏み潰されていき、赤サビの雨に無残な残骸をさらす。

それもいっ時、すぐに綺麗に整地され、その痕跡は何も残らないだろう。


「なんとかって式典前の、大掃除じゃない。」

褐色の肌、ダークブラウンのウエーブしたロングヘア。真紅の燃えるようなバンダナの女店主、片目のアルマが言う。

あらたは、カウンター席で、無言のまま彼女の話しを聞いていた。


「今日でここは閉店。私らはフィリピンの方に渡るよ。じゃの道は蛇ってヤツさ。商売にゃ困らないよ。」


「アルマ、、、、、、」

その濁った瞳を見つめる美しい女店主。

「もう、何も言わないさ。私には無理だったが、誰かがアンタを止められたらいいね。」


その長身の青年は、何も言わずに彼女を見ていた。


「あばよ〜〜。ボウズ。人生なるようにかならないんだぜ〜ケセラセラ〜〜ってな!」

アルマの取り巻き、いつもアルコールの匂いがする太っちょが別れを告げる。


銀の短髪、褐色の肌、眼光鋭い、もう一人の取り巻きは、軽く会釈しただけだった。

最後まで無口な男だった。


彼ら三人との奇妙な、えにしがあった、ブルーラグーンはもう存在しない。


雨にたたずむ亡霊が、消える前に一言だけつぶやいた。


「さよなら、、、、、アルマ、、、、、」


空のない、止むことのないサビの雨が静かに、街のありし日の残滓たちを濡らしていた。


時間は少し戻る、


6月30日12:00

抜けるような青空に、強烈な日差しが差す東アルカ、天宮駅にて、二人の男女が、改札を抜けてホームに降りてくる。


似合わない一高の制服の大男、生徒会副会長の一人、風祭 塔也だ。

彼が持つと小さく感じるのだが、大きなボストンバックを抱えている。

もう一人は、生徒会書記補佐、凪 早苗。控え目な落ち着いた美少女だ。


大柄の彼の横に立つと身長差がかなりある。

彼女はピンクのキャリーバックを引いている。


「まったく、、、、どういう事だ。」

ふけた、武骨な表情に厳しいタテジマが寄る風祭。

「こんな時に姫と別れるなどと、、、、!守護者として、あり得ん話しだろ、凪!」


こんな時とは言うまでもなく、アルカの開設記念式典の事だ。

彼らは誰かのガードマンでもやってるのだろうか。


「本家の方で急遽、世界総会が開かれるって話しだもの。守刃が集められるのは、仕方ない事じゃない。」

涼しい顔で答える少女。


「ううむ、しかし急な話しだ。なぜ一年もスケジュールが繰り上がるのだ。」

「それはなんとも、、、行ってみればわかるでしょう。久しぶりの里帰り、楽しみじゃないですか?風祭さん。」

「凪!」

どうにも生真面目な男性だと思う凪。


「式典のおかげで、ちょっとした、サミット以上の警備体系が引かれています。かえって、治安的には安全だと思いますが?」


実際アルカの街の至る所に、警官、警備の姿が見える。それこそ関東圏全ての警察官が集まったのではないかと言った有り様だ。


「ううむ、、、そうだな。ううむぅ、、、、」

頭をひねる大男。意外と心配性なのだろうか。


電車の到着を告げるアナウンスが流れる。


「ほら!風祭さん!行きましょう!」

「お、おい!」

強引に大男を引っ張る少女。

いつの間にか、キャリーバッグに駅弁の袋が引っ掛けてある。


「買ってきたんですよ。新幹線で食べましょう。アルカ名物タップリ鳥弁当!」

彼女はなぜか楽しそうだ。


バタバタと車上の人となる二人。

幸か不幸か、二名の男女がアルカから出立する。



6月30日12:30

天宮第一学園、部活練、3階、超研部(仮)


「では!お二人の前途を祝して!

バンザーーーーーーーーーーーーーーーーイ!

バンザーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」

白衣の少年が、大喜びで万歳三唱を唱える。


パン、パパパン、

クラッカーが弾け、パチパチとまばらな拍手が部室内に響く。

那智とリンが、少年の机の前に置かれた、何処かから持ってきた教壇の上に立たされ

お祝いを受けている。


後ろの垂れ幕には、野川那智さん、冬木リンさん壮行会と書かれている。

二人は本日の主役と書かれた大きなタスキをかけて、パラパラとかかる、紙テープを浴びている。


大喜びの白衣の少年だが、他には茶髪メガネの友樹と、前髪が重い地味子さん、しずくがいるだけなので、盛り上がり方は微妙だ。


「なんっ!なのっ!この茶番っ!!もーーーーー!!」

タスキを放り投げて、フワリとしたブラウンのセミロングにかかる、クラッカーの紙テープをワタワタと取っ払う那智。


「どきなさい!」

長テーブルの左にいた少年を押し退けて、ドッカと腰掛ける那智。

無言でリンが、その隣に腰掛ける。


無表情で、変なタスキを掛けたままな絵面が中々シュールだ。

地味子さんが回り込んで彼女のプラチナショートボブにかかった紙テープを取ってあげている。

「なんでだよ〜〜〜〜せっかく、式典の警備に借り出されるってから壮行会やってやってんのによ〜〜〜〜〜風紀委員のサイコー見せ場じゃんよ〜〜〜〜〜!」


那智の手前にしゃがみ込んで、ヘラヘラと上目遣いをする、山下しん。

可愛い子がやったら、チャーミングかもしれないが、コイツがやったらただの憎ったらしい挑発行為だ。


「余計なお世話だ!このバカ!」

殴りたいのをこらえて、ソッポをむく那智。一応祝ってくれているらしいので、我慢する。


警察、民間の警備部隊、制定部隊、天宮の一高から四高までの風紀委員が総出で開催式典に集められる事になっている。

東アルカの高位能力者がほぼ集合する事になるのだ。珍しい事態と言えばそうだろう。


「でもよー開催式典って実際、何すんだよ。オレらにはカンケーないじゃん。」

茶髪メガネが昼食後のお茶を飲みながら聞く。


「ほむ〜〜おバカな友樹くんにわかるよーに説明してあげよう。」

ホワイトボードを引っ張り出してくるしん。

「なんだと!」

「友樹くん!ステイ!」

自分の席に戻ったしずくが、茶髪メガネを止める。扱いがかなりぞんざいだ。


キュキュ、

とホワイトボードに螺旋のタワーを描く少年。


「あんた、、、、絵心ないわね。」

「ハイ、那智くん私語禁止です。」

なぜかウキウキしている少年、偉そうに人に教授できるのが楽しいらしい。


「これが、アルカのほぼ中央にある、名物ターミナルタワーです。同様の設備が世界各地のアルカに存在します。その役割は、、、、ハイ!友樹くん!」

だんだん、乗ってきてるらしい。


「え〜〜〜と、、、、月のアダムと繋がるん、、、だっけ?」

「そーーですね。以前、第二理研で見た、ターミナルコアのテストベッド、あれの何倍ものものが、このターミナルタワー内に設置されています。」


輪っかが幾重にも重なった物を描く少年。

ターミナルコアらしい。


「これによる、擬似アシンブル接続によって、タイムラグほぼ0のラインが月の量子コンピュータ、アダムとできるわけです。」


「へ〜〜今まで繋がってなかったのかよ。」

だんだん飽きてきてる友樹。アクビをしている。


「これにより、東アルカは正式に世界のアルカと対等に、認められ、承認される事になります!さらには、アダム仕様権限において準批准条約国の立場に甘んじてきた、ネット後進国の我が国、日本、念願の本格批准国への昇格がなされるわけです!!」


「す、ば、ら、し〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

感極まる白衣の少年。


「え、マジ、オイシ〜〜〜」

那智

「、、、、、、」

リン

「でしょ、でしょ、」

しずく

熱弁が最高潮で万雷のスタンディングオベーションに迎えられると夢想していた少年をヨソに、女性陣はコンビニデザートのシェアを始めている。


よくよく考えてみれば、彼女たち以外でも、アルカに席を置くものなら、常識的に知っている話しだ。

当の茶髪メガネは食後のお昼寝を始めている。

なんとも実りない講座になったものだ。しずしずとホワイトボードを片付ける少年。


ひとり寂しく、垂れ幕を片付けて、床に散らかるクラッカーの紙テープを、ほうきではいているしん。


予鈴が流れる。


「しずく〜〜今度クッキー焼いてね〜」

バタバタとゴミを片付けながら、那智

彼女の作るお菓子は、悪魔的中毒性をもったオイシサを誇るのだ。


ヒラヒラと手を振るしずく。明日は式典だから、明後日だろう。


「おい、那智。」

今まで大人しく自席に戻り、パソコンをいじっていた少年がヒョイと顔を上げる。


「あによ。」

相変わらず、奇妙なヘラヘラ笑いを浮かべている彼を警戒する那智。


「正直、オレは学生を警備に参加させるってのは、どうかと思ってる。」


「どういう意味?」

にらみつける少女。


「忠告だよ。有事に際して、風紀の仕事は逃げる事だ。逃げて、逃す事、避難誘導だな。

そー徹底されてるはずだ。」


「それは、、、、そーだけど、なに?」

彼の何かに感染して苛立つ少女。


「とにかく、あれこれ考えるのは安全を確保した後でいい。いくらトンデモ能力があろーが、お前らは学生なんだ。良くも悪くもな。」


「、、、、、、、、」


無言できびすを反す那智、バカにして、とも思うが、なぜか反論ができなかった。

有事というが、こんな厳戒態勢の街で何が、起きると言うのか。


「バカらしい、、、、」


ひとりつぶやく彼女だが、

しかし、それに反して、ふと、漠然とした小さな不安の塊が胸の片すみに残った。


7月1日 7:00

川崎市七合土手 山下しん、自宅


「邪魔だからウロウロしない!」

すっかり山下家のお目付け役に定着した、地味子さん、みず希しずくが台所を仕切っている。高確率で、朝食を用意してくれるようになっていた。


今日は和食らしい。

焼き鮭に、昨日みず希家で食された煮物が付いている。

これがまた、美味しいのだ。彼女の母親も一流の料理の才に恵まれているらしい。


白衣の少年は、中等部の制服に、エプロン姿という羞恥プレイ中のしずくを、ヘラヘラと観察していたのだが、ついに台所から追い出されてしまう。


今日は、紫煙が、身体担当なのだが、彼女が料理なぞやるワケがないので、朝だけ、しずくが主導権を持っているのだ。


よって、中等部の制服姿である。とくに違和感がないのが、さすが地味子さん。


二重人格に該当する彼女だが、最近は、入れ替わりも自由に出来るようになり、しずくと紫煙、双方にコミュニケーションできるらしい。


これは、紫煙にとって恐ろしい事態であり、悪さを企もうものなら、延々と一晩中、終わる事のない地味子さんの説教を頭の中で半永久に聞かされる事になり、さしもの彼女も、白旗を上げ、しずくお姉さんに平伏するようになっていた。


地味子さんを怒らすと地味に怖いのだ。

お気の毒に。


「お前さーイブとしずく、どっちが怖い?」

以前、試しに紫煙に聞いた事がある。


「、、、、、、どっちも、、、、」

蚊の鳴くような声で落ち込む紫煙は、中々の見ものだった。


さて、人が思考するには、大脳の前頭葉の前頭前野が必要なわけだが、しずくと紫煙は、この部分を共用しているのか、それとも分割して、分けて使っているのか、ぜひ脳波計で調べてみたいところだが、そんな事を頼めば、しずくには怒られるだろうし、紫煙には、電撃を喰らう事になるだろう。

しかし、しずくにはない、機械いじり全般の専門知識を持っている紫煙だ。

それは記憶を司る海馬の部分は、二人は共有はしていないという事だろうか。


では、紫煙のパーソナリティの元は、そこにあったのか?


もちろん二重人格の原因はそんなものでは無い。


しずくの突然の能力開花による、ストレスが、紫煙誕生の理由とされている。


だがしかし、

往々にして、自身にない知識を持った第二、第三人格が存在するのは確認されているようだが、それでも紫煙のそれは、全く別次元の物だ。


それに単純に比べると彼女のIQは、人間のそれを遥かに凌駕している。


とにかく、みず希紫煙という少女は、かなり不可思議な存在だった。


IQうんぬん言うのなら、イブも紫煙に比肩している。

学習能力も恐ろしく高いのだが、いまだにハシの使い方は苦手らしく、鮭の切り身相手に四苦八苦している。


隣に座ったしずくが、器用に取り分けてあげている。

「すまぬ。しずく殿!」

嬉しそうに箸を進めるイブは年相応の少女に見える。


この家のヒエラルキーの頂点に、君臨している地味子さんだが、奇妙な顔でコチラを見ていた。


「しん、なんか変だよ。君。」

「な、何が?」


そうそうにおかわりも平らげ、お茶を飲んでいた、白衣の少年がわざとらしく新聞を広げだす。


ここ最近、誰も気付いてはないようだが、山下しんは、つねに、ヒリヒリと苛立ちを見せている。


これは、しずくにしか分からない、微妙な変化で多分本人すら、自覚していないかもしれない。

「昨日も、、、なぜ那智さんに、あんな事言ったの?」

まるで何か起こるような口ぶりだった。


「何が心配なの?説明して。」

新聞の向こうを見つめる彼女は、真剣だ。

「うんんん〜〜」

しずくの圧力に、うなるしん。

何が始まったのかと、二人を交互に見やるイブ。


渋々、新聞をたたみ、話し始める白衣の少年。

「学園に大穴を開けた奴らな、全く正体不明なんだ。アダムにも情報が無いのはおかしい。」


ため息しながら、手前のイブの煮物をつまむ。

「な、何をするか!わらわのじゃぞ!!」

騒ぐイブを無視してお茶をすする少年。


「アルカ周辺で、変な陸運、海運の動きもあんだが、痕跡を追ってもこれも途中で、消えちまう。」

再び手前のおかずを狙う彼を、威嚇するイブ。


「この世界のシステムは、思ったより複雑なんかもしんないなー」

ため息して、腕を組む。


「ふーん。そーなんだ。」

ようやくしずくは理解する。


彼は不安なのだ。と。

杞憂に終わるか、どうか。それは彼女には分からないが、とりあえず納得はする。


「イブちゃんも早く食べなさい。遅刻するわよ。」

立ち上がり片付けを始めるしずく。もう、すっかり気持ちを切り替えているようだ。

「う、うむ!」

ご飯をかき込み出すイブ。


「なんか、最近、街中ものものしいもんね。早く落ち着くといいね。」

「そーだな。」

キッチンに向かう笑顔の彼女を見ながら、うわの空で答える少年。


今日、7月1日

第17回国際アルカフォーラムがついに、始まろうとしていた。

また、来週。

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