能力アフター04話04
ログインできなくて
焦りました。
成田空港から関東自動車道を東アルカに向かって走る、黒いリムジンがあった。
後ろ、右の豪華な革張りシートに不機嫌な金髪、グラサンの美女、テレスティア マーレイ。
左に同じくグラサンの革ジャン、いかつい大男。アダム(人型戦闘筐体T−900)が乗っている。
でかいリムジンでも窮屈そうだ。
「冗談はやめて下さいよ。」
嫌そうに、テレスティアの前の向かい合った席に座る、ゆるくウェーブした黒い髪、切長の目が涼しい美少年。
天宮北第一学園の生徒会書記、椎名葵がイヤミを言う。
彼は本来、瀬里奈Sフィールズの執事として、ハドリアの家に従事している。
アメリカのお客のサポートはメインの仕事ではない。
瀬里奈が気になって、気もそぞろの中、このお客は入管で一悶着起こして身柄を引き取るのに一苦労している。不機嫌なのは、こっちも同じなのだ。
「とんだ時間潰しだわ。」
悪ぶれる様子もなく、悪態をつくテレスティア。
「アダム!イブの現在位置は?」
「フガ、」
グラサンから赤い立体スクリーンが投影される。
<以前、東アルカ、天宮北第一学園です。>
マンガの吹き出しのようでユーモラスだ。
「よし!急ぐわよ!!」
「フガ、」
奇妙な掛け合いだ。吹き出してしまいそうになる葵。
「、、、それ、、、言語システム、無いんですか?」
なんとか笑いを噛み殺して聞いてみる。
「と、とりあえず、イブを押さえられる戦闘力があればいいの!急だったし!ソフト面は色々後回しだったのよ!」
今ひとつ言い訳がましいテレスティアだったが、葵は聞き流す事にする。
なぜか、じょう舌になる金髪の美人博士。何かやましい事でもあるのだろうか。
「アダムのサーチによると、CIAやらKGB、人民連の情報局、はては、非合法の部隊までイブの捕獲のため動いてるっていうのよ!私たちで保護してあげなきゃ大変な事になるわ!!」
「は、はあ。」
曖昧にうなずく葵。
私たち、というのは、アメリカの国家という事だろう。
まあ。アメリカと言ってもCIAやら情報機関に拘束されるよりはマシかもしれない。
「大丈夫ですよ。イブには、制定部隊が秘密裡に身辺警護に付いています。」
今はアルファチームとイオタチームが担当しているはずだ。
そうは言っても、つい最近の失敗に思い至り、少し不安な葵だった。
「どうなってるンですか!」
息も絶え絶えに、天宮北第一学園、中等部から高等部に走る童顔、黒髪、オカッパの小柄なメガネの少女。
制定部隊、イオタチームの超心配性オペレーターの高坂ヒロミである。
彼女が着ているのは、天宮中等部の制服だった。
彼女的には、中等部に見事に馴染んでしまうのは、納得いかないだろうが、イブの身辺警護で学園に潜り込んでいたのだ。
それが、ほんの少し目を離した隙に、イブも紫煙も消えてしまっていた。
冗談ではない。
世界の人口の70パーセント以上に実施されている、ナノマシーンによる、健康維持、治療補助、生体パターンの登録、ID管理。
そのシステムがある限り、保証される自由と権利。
このナノマシーンに許可コードを打ち込む事により、個人のトレースが可能になる。
これが要人警護においての、要のファクターになっていた。
しかし、イブの反応がこつぜんと消えてしまった。
『大丈夫だって。ヒーちゃん。』
左の耳のヘッドセットにアルファチームの親友、オレンジ色のお団子を二つ、頭にくっ付けた設楽郁恵の声が聞こえる。
『なんかのトラブルだよ。今、みんなで集まってのんきに、ゲームしてるよ。』
確かに。
消失はほんの数分であった。
すぐに、高等部、部活練3階、超研部にて、イブの反応は確認される。
部室前の道路に移動した、アルファチームの戦闘ワゴンが視認にて、イブ達を確認。集音器にて、遊ぶ那智たちの声が捉えられている。
しかし、アダムの管理するシステムに、トラブルなどあるのだろうか。
妨害できるとしたら、高度な電子戦が可能な敵だろう。
遊び半分でできる事ではない。
息が上がる。足が上がらない。自分はデスクワークのオペレーターなのだ。
とはいえ、体力づくりの大切さを痛感しながら、部室前まで駆け上がるヒロミ。
中坊が必死の形相で駆けてくるのだから、生徒達は、みな避けて、遠巻きに眺めている。
構ってはいられない。
メガネに内蔵されたモニターをオンにする。
自分のささやかな遠視の力が、増幅され、索敵が開始される。
「やっぱり、、、、」
絶望が胸につのる。
赤外線、サーモグラフィ、マイクロ波サーチ、どの数値も、この部室の中に人間がひとりも存在しないこと示している。
いっきに、天文部準備室を通り抜け、超研部のドアを開け放つ。
「あーーーー!やられたーーーーーー!!」
のけぞる、野川那智。その周りに立つ、イブと紫煙。
「郁恵ちゃん!立体映像だよ!!」
白衣の男の映像に突っ込み、パソコンを操作するヒロミ。
映写機が3D映像の投影をやめる。
彼女一人の部室。映写機の乗った長テーブルに、手作り感、満載の小さい奇妙なオブジェがおいてある。
メガネのモニターには、それがイブの位置として表示されている。ダミーだろう。
彼女は知らなかったが、白衣の少年は、アキバの雑貨から、能力のキャンセラーもどきを造りあげてしまうかなりヘビーなマニアだ。これはその技術の産物だろう。
「対象を見失いました!全チームに招集を!広域捜査、お願いします!!」
悲痛な叫び。
自分達はまたも失敗をしたのだ。惨めな思いに歯噛みするヒロミ。
しかし、迷うのも一瞬。優先すべきはイブの安全だ。チームに合流するため走り出す。
彼女は優秀な制定部隊、イオタチームの一員だった。
その少し前、
アルカ地下、スプロールスラム、
北と南にある工業地帯の地下に点在する、開発が停まった虫食いのような空間だ。
正確な記録もなく、忘れられた土地。いつの間にかIDの無い、不法入国者、犯罪者達の巣窟になっていた。
空のない赤サビとジメジメした空気が漂う通りに、どこから来たのか定かでない、古いマイクロバスが走ってくる。
錆びた車体のディーゼルエンジンが、やっつけで電気モーターに替えられている。よくも動いているものだ。
これは、アルカの招かれざる客が、地下を伝って上陸する、非合法の路線バスだ。
見かけによらず運賃は桁違いに高い。
スプロールスラムの犯罪組織の収入源のひとつになっているのだが、その日は、ひどく場違いな集団を乗せていた。
軋みを上げて、存在しないバスストップに止まった車体から、およそまとまりの無い数名が降りてくる。
ひと組は、太った丸メガネの頭頂部が禿げ上がった男と、七三分けの黒メガネのサラリーマンコンビ。上司と部下といったふうていだ。
もう一つは、買い物袋から大根とネギをだした、太ったおばちゃんに手を引かれる赤いランドセル、おさげの女の子。
もう一つは、大きなキャリーバックをゴロゴロと引っ張る、好々爺然とした観光客っぽい老夫婦だ。アルカ観光だろうか。
計6名、日本のどこにでもいそうな、面々だが、その実、注意してよく見ると少しずつ何かがズレていた。原因はわからないが、会話も、一つ一つの所作、行動、まったくおかしくはないのだが、何かが違っている。何かが異常を示している。
バラバラの面々だが、
強いていうなら、共通しているのは、その奇妙な違和感のみだ。
ありふれた、異質な日常と言っていい奇異な6名は、古い雑居ビルのエレベーターより、地上に現れる。
そして、ヒッソリと静かにアルカの人混みに紛れて行った。
その少し後、
同じくスプロールスラムのジメジメした赤錆の匂いがする通りの終焉にある、古い酒場。ブルーラグーン。
海中の礁湖である。
「イブが消えた?」
開店の準備をしていた、片目のつぶれた女主人のアルマが手を止める。
褐色の肌、ダークブラウンのウエーブしたロングヘアに真紅のバンダナが巻かれている。
ひどく、筋肉質な長身の美しい女性だ。
「ええ、まったく、厄介な事をしてくれますよ。あの男は。」
カウンターで、死んだ魚のような目をした、長身のあらたが、炭酸の強いビールを飲みながら答える。
離れたテーブル席で飲んだくれる赤いジャケットのエイダが、笑う。
「あの子、どこへ行くつもりやら、上野方面に向かってるって。」
彼らには、イブの第二の人格、立夏によって、彼女の位置がかろうじてわかっている。
「丁度いいじゃないか。今、アルカは物騒だしなあ。」
エイダの向かいで剃り上がった黒い頭部を撫でながら、小さな丸いグラサンのジノが笑う。
彼もご機嫌だ。
「例のウワサかい。」
眉をひそめる、アルマ。
つぶやきは、かろうじて、カウンターのあらたに届く。
「フリーランスの殺戮集団が、アルカに紛れ込んでいます。」
どんよりとした瞳は、とても面倒臭そうだ。
「グール。国籍、バックいずれも不明。ただ、行く先々で死体の山を量産していく、狂人の集団です。さすがに、放置、できないでしょうね。」
「いいじゃないか、ちょうど、ブラッドもコッチに着いたワケだし、本番前の肩慣らしといこう。」
いぜん、楽しそうなジノ。
「皆殺しだ。」
スコッチを飲み干し、立ち上がる。
陽気さも酔いも、すでに消え去っている。
「けどさーあの偽神父、どこ、うろついてんのさ。」
面倒臭そうに立ち上がるエイダ。神父、と言うのはブラッドという男のことだろう。
長いくせ毛を乱暴に後ろでまとめる、ヒョロ長ノッポ、あらたもカウンター席を立つ。
「アルマ、」
酒代を適当に置きながら
思い出したように付け加える。
「早く、ここを引きはらう準備を始めてくれ。来月にはこの街は消えて無くなる。」
何も読み取れない、どんよりとした、瞳をながめるアルマ。
「ああ、わかってるよ。」
答えを聞くものはいない。
3人の姿は幻のように、店内から消えていた。
高速を走る黒いリムジン。
「イブを、、、、、見失いました、、、、」
表情が無くなっている、葵。色男が台無しである。持った携帯を落としそうだ。PMCから連絡が来たのだろう。
「そう。」
面白くなさそうなテレスティア。
意外と冷静である。
「アダム。イブに連絡を。」
「フガ。」
アダムとイブは極論すれば、ハードディスクのCドライブとDドライブの関係だ。何があっても捜査不能になる事はない。
地球の裏側にいても発見できるであろう。
消えた天空の電子の妖精は今どこに。
リムジンは関東自動車でアルカに入らず首都高速湾岸線に向かう。
「ウハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
千代田区神田一丁目、JR秋葉原駅、改札から大笑いで飛び出してくる、白衣の少年。
「あっきはばっらーーーーーーーーー!!」
テンションマックスである。
眼前に極彩色のゲーム館、両脇のビルのデスプレイには色カラフルなアニメポスターが並ぶ。
一歩踏み込めばここが日本のどこでもない、特殊な街である高揚感が全身を包む。
まあ、人によりけりかも知れないが。
「まあ、、、だよねー」
なぜか諦観を漂わす野川那智。とても嫌そうだ。
「、、、、、」
いつも通り無表情なリンからは何の感情も読み取れない。
輝くような美少女ふたりだ。とりあえず目立つ。
遠巻きにリュックの男達がざわつき始める。
「な、、、、ナチ、リンだ!」
「再現度たけ〜〜〜〜〜!神レイヤーだ!!」
「のほほ〜〜〜〜〜!たまりませんな〜〜〜〜!!」
バトルゲームの影響で、那智とリンの存在は、一部で有名になっている。
どうやら、マニアックなコスプレイヤーと思われているらしい。こんなトコまで一高の制服と緑の風紀腕章をしてたら、まあ、そうなるだろう。
ススス、
と男達に接近するしん。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん。写メしちゃあきませんで〜わてらも商売でんがら〜〜」
コソコソと名刺を配っている白衣の少年。まだ、昔のクセが抜けてないらしい。
ペコペコと散っていく男達。
通りを歩くと、メイドやナース。怪しげなコスプレのお姉さん達が並んでいる。
その中に一定の割合で、タチの悪い客引きが混じっている。
現在の秋葉原は、電気街、オタク、サブカルチャー、風俗、暴力団、あらゆるものが清濁併せ混ざり込んだ混沌のカオス街に昇華されていた。
どうやら、那智達はそっち系のお姉さんと思われたらしい。本人達に知られたら殺されるだろう。
「しっかし、なんで秋葉原?」
頭の後ろで手を組んでプラプラと付いてくる、友人の茶髪メガネ、只野智樹が問いかける。
「我が部活のウエ〜〜〜〜イジェンッツ!と待ち合わせ!なのだ!」
変なポージングをしながら、しん。
この街なら特に誰も気にしない。
「エージェント?」
ちゃんと話すつもりは無いらしい。メンドーなやつと思う茶髪メガネ。
チラシ配りのメイドさんと話していたと思ったら、いつの間にか、後ろの紫煙たちの方にいる白衣の少年。
「おい、紫煙!どんな案配だ?」
ヒソヒソと、とても怪しい。
「今もジャミングしてるよ。場所の特定はできないはずだけど、、、」
紫煙にしては弱気である。
「おい!なに、コソコソやっとるか!!」
絶妙のタイミングで割って入ってくる那智。
心臓に悪い。
「う、うっさい!それよか、なんでお前らまで付いて来んだよ!!」
声が上ずってしまう。
腕の腕章を引っ張る、炎熱系アジア最強を誇る少女。
「今、風紀取り締まり強化週間なんだ!問題ばっか起こすあんたから目を離すと思ってんの!」
胸を張る那智。
偉そうに言われても困るのだが。
「いいけどさ、、、、あんまり特区外で、物、壊したり、迷惑かけたり、爆破したり、暴れたりすんじゃねーぞー」
シャレにならない大惨事になるだろう。頭が痛い。
「あんたねえ、、、、、人をなんだと思ってんの?」
いかにも心外そうにのたまう、美少女。
本人に自覚が無いのがさらに、危機感をあおる。
ここでやっと、イブの後ろで見え隠れする、小さい小動物のような存在に気がつくしん。
「おい、イブ。なんだ、そのちっさいのは?」
「学友の天地理恵殿じゃ。ちっさいとは失礼じゃぞ。主どの。」
「いや、小学生だろ?」
「飛び級じゃそうじゃ。」
目を丸くする少年。
「マジもんかよ。尊い〜〜〜〜〜!よろしくね〜〜〜〜〜!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
絶叫を上げて、紫煙の方に逃げる天地。本能的に危険人物を察知するのだろう。
「イブに懐いちゃってさ。」
苦笑する紫煙。
「フーン。イブに友達か。そりゃあ、よかった。よかった。」
気にする様子もなく、行ってしまう白衣の少年だが、天地に嫌われて地味に傷ついていた。
紫煙の腰あたりにくっ付いている天地だが、クイクイと彼女を引っ張る。
「ねーねー、あれって、高校の風紀の那智さんだよね!」
小声で確認してくる。まあ、有名人だから、緊張するのだろう。
「す、、、、凄いね、、、、、綺麗〜〜〜〜〜〜。」
ウットリしている。
中坊から見ると高校生というのは、実際以上に立派に見えるものだ。小学生の天地には、さらにバフがかかるって見えている。那智がすごく大きく、
美人のお姉さんに見えて、圧倒されていた。 ユラリとカゲロウが揺れ、周囲がかすむ中に立つ、幻想的な存在のように見える。
少女の視線に気づく那智。
しゃがんで、挨拶をする。
「よろしくね。理恵ちゃん。」
彼女のこういう所は天然で、まったく屈託がない。人たらしの面目躍如である。
「は、はい、、、、!よ。よろしゅく、、、よろしくっお願いしましゅっ!」
真っ赤になって那智の手を取る少女。
カミカミだ。
上の方で笑いをこらえている紫煙。
イブも真っ赤になって顔をそらしている。
「おら〜〜〜〜〜とっとと行くぞ〜〜〜〜〜!」
ひとり面白くない白衣の少年。
大人げのない話である。
また来週。




